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1000通りの計画  作者: Terran
第七章 太陽の神子
41/99

閑話 怠惰な公女は真実の夢を想う

ここは飛ばして掲載するつもりはありませんでしたが、学院編のメインキャラの一人である三女について、少し紹介する場面が欲しいと思い直して載せました。



[280]


◇◆◇


 ドルセーラは気付いた。

 自分を含めて壇上に上がった生徒以外の全員分の席がホールに用意されている事実に。

 それは一見すると何の矛盾もない。

 壇上で新入生代表となった勇者とその他の英雄科生徒達合わせて八名、従士科を除いた各科の成績優秀者四名、合計十二名。

 数は合っている、それが間違いだと他に何人が気付いているのだろうか。

 当然祖母は承知の上だろう、だが祖母も妹も嘘は付かない。


 なぜ妹はこの場に出席しないのか。

 今朝になって体調不良を理由に欠席した妹は、この場には居ない。

 それは仕方ない。

 生まれつき病弱な妹が公の場に出ないのは我が家では当たり前のことで、両親も祖父母も承知している。

 新入生は四百人以上も居るのだから、体調不良で欠席する生徒は珍しくもない。

 事実、ホール内の席には空席もちらほらと存在している。

 生徒が敷き詰められた中での空席は、例え少数であっても抜け落ちた穴となっていてすぐに気が付く。


 それぞれの席には名前と番号が予め割り振られていて、空席があっても繰り上げて詰めて座ることはできない。

 だから貴族科の席の中には妹の空席が無ければおかしいのだが、それは見当たらない。

 つまり、最初から席が用意されていないのだ。

 欠席が決まったのは今朝、欠席しても空席になるはず、であればなぜ席が用意されていないのか。


 貴族科一位として壇上に上がる予定だった?

 しかし、壇上の貴族科一位の席には堂々と小魔王が座っている。

 繰り上げが無いのなら、一位が妹ならその配置にはならない。

 きっと壇上の生徒に欠席があっても、空席で進めるはず。

 どこにも矛盾なく、滞りなく入学式は進行していく。

 まるで、妹だけが最初から居ない者として、透明人間として扱われているかのような錯覚を覚えるほど、違和感を与えないように配慮されたこの空間が、何だかとても気持ちが悪かった。


 妹の存在はそこまでして隠さないとならないのか。

 壇上で挨拶をする祖母の姿を眺めながら、何も出来ない暇な時間をとりとめのない思考で流されていく。


 そもそも全てが、前提からおかしい。

 最近の父は妹から距離を置いているし、逆に母はともすれば実子である私達より溺愛しようとする。

 ファナリア家の祖父母は私達とは血の繋がりは無いし、こうして入学を共にする事になるまで妹とはほとんど接点を持たせようとしなかった。

 特別扱いなのは前々から知っていたけど、それだけではないのは姉達も弟も薄々気が付いている。


 義兄ギルバートにしてもおかしな点が目立つ。

 実際に話したことは数える程しかないけど、まず言動が変、行動も変、とても大公家の養子に迎えられるような性格をしていない。

 異国の文化に精通しているという触れ込みなのに、それにしては常識に疎くて、真面目に勉学に励んでいたようにも見えない。

 父ライドラスに匹敵する大魔術師という触れ込みだけど、どうも拭えない違和感がある。


 私達姉弟は父の指導と日替わりの家庭教師によって入学前に一通りの授業を受けていて、初等学校や中等学校で学ぶこと以上の教育をされている。

 私は姉達みたいに自分のことを優秀とは思ってないけど、教える教師が優秀なら生徒の質は普通でも、ある程度のラインまで引き上げてもらえる仕組みなんだと思ってる。

 じゃないと教師という仕事が尊敬されてる理由にならないから。

 私が一般よりずっと良い成績を取れても、それは親と教師の手柄なんだと理解している。

 そうして魔術学院への入学基準は学院の卒業生に師事することで手続きが簡単になっている。


 妹の従者であるヒルデラーナの話に拠れば、魔術の教師はギルバート、武術の教師はエスクラッド、学問の教師はフランシスカ、芸術と作法の教師はディルムン伯令嬢だったという。

 それだけ聞けば大した教師陣である。

 何しろ全員が実力で成り上がった者、元は平民だったり嫡子じゃなかった身でありながら実力で貴族位を賜った正真正銘の栄達なのだから。

 彼等の指導であれば受けたいと思う者は大勢居るだろうと想像がつく、私は御免だけど。


 そこにも違和感がある。

 彼等の指導を受けられるなら、それこそわざわざ学院へ通う必要など無いからだ。

 壇上では続いて六神教会の司教様による祝辞とありがたいお話が始まっている。

 あ、これも暇になるやつ。


 なぜ今まで公の場へ決して出席することなく、世間へ一切披露されずに籠の鳥として育てられた妹が学院へ通う事になったのか。

 あまつさえその疑問を確実に払拭する理由を自ら放棄して、しかも王家や名だたる貴族家が次々後押ししたのだから不審に思われても仕方ない。

 勇者との円満な婚姻のために、今までどこかの勢力とか政治に使われないように隔離していたというなら、どれだけ腑に落ちた事か。


 だというのに、なぜ今になって勇者との縁談を自ら白紙に戻すような案を口にして、それを王家が、世界最良物件である勇者との縁談を切望しなければならない立場の人達が妙案として採用しようとするのか。

 その前後の流れが矛盾していて完全に理解の範疇を超えている。


 この矛盾点を消化させられる理由なんて分からないけど、あの態度から浮かび上がるはっきりした事実として、一つの可能性が浮かび上がる。

 つまり王国にとっての妹は、勇者との縁談よりも価値のある存在だと見られているということ。

 それが何なのか、傍に居る私にはヒントが視えている。

 勇者との【神婚】を断るなんて、エストバースがどれだけ大国でも地上の王家なんかでは無理だ。

 きっとこの件には六神連盟が陰ながら支持している。

 そう思うと壇上の司教様も何やら胡散臭く感じられてしまう。

 この人もこの件に一枚噛んでいるのではないかと邪推したくなる。


 これは前々から考えてきた想像だけど、妹は父の実の娘では無いのではないかと思うことがしばしばある。

 つまり、私達とは血が繋がっていない義理の妹という隠された設定だ。

 妹は本当の母親であるティアーナ様に特徴がよく似ていて父とはあまり似ていない。それは家族全員がそう思ってる。

 外見はティアーナ様に、内面は父に似た、とそう言われてしまえば納得してそれまでなんだけど。

 でも、こういう設定になると、どうしても想像を膨らませてしまうのは仕方ないと思う。

 そこに知られざるドラマがあると想像するのは、ちょっと不謹慎だと思うけど、面白い。

 

 そう、きっと父にはそれが分かっていて、妹の事になると祖父母の決定に口を挟めないのだ。

 ならば誰の子供なのか。

 ティアーナ様が母親なのは間違いないけど、父親は正体不明の『X』である。

 このXの候補となるのは、色々と考えていたけれど絞り込みは難しかった。



 >…Case.1「王族」

 父が口出しできない相手となると中級下級貴族が相手とは考えにくい。

 それ以上となると、それはもう真っ先に思い浮かぶのは王族である。

 血が濃くなり過ぎないように原則として従兄妹同士の婚姻は結ばない事になっているけど、法律上は違法にはならない。

 当時は長らく父との間に子供が出来なくて焦っていというのは身内では有名な話。

 王室から、どうしても王家の血を引く神子の子供を身内に欲しいと懇願されれば、託卵も仕方ないと踏み切った可能性もあると思う。

 それにティアーナ様はあれだけお美しいのだ。

 もし頼まれて断れる殿方がどれだけいるだろうか。

 それで産まれた子供は、形の上では父の子供として育てられた。

 ちょっと強引な気はするけど、ゼロじゃないと思う。



 >…Case.2「他国の王族」

 途中までは一緒。

 こっちは血が濃くなり過ぎないように、他国の王族との間に出来た場合。

 血の問題はクリアするけど、でも他国って何処?

 妹の産まれる一年前くらいに他国の王族が出入りしてたら、情報を伏せようとしても完全には隠しきれないと思う。

 噂くらいには上がっているものだろうし、可能性は低いかな。

 あと考えられそうなのは、公王家。

 国内では公爵家となっているけど、元々はエストバースとは別の小国の王家で、合併して今の爵位になってるから、本来は他国の王族。

 でもお相手が公王家ならもっと我が家に近付いて行事にも参加してくると思うから、今の距離感だと微妙。



 >…Case.3「神子」

 やっぱりこれが一番設定としては盛り上がる、じゃなくて皆で示し合わせて口に出さない根拠としては強いと思う。

 次の代は勇者様を、と考えるのはたぶんどこの国でも同じ。それはきっと王室も一度は考えたはず。

 祖父母は分からない。

 国にとっては神子様として生まれて欲しいけど、親の立場だと正直神子ではない普通の子供として生まれてきて欲しいと考えるかも。

 聖戦での神子様の死亡率は結構高いし、私だったら子供が神子でも聖戦には行かせたくないと思う。

 だから逆に、立場上一度は断れずに神子同士の血の交わりは許しても、呪いを持って産まれた孫娘をみて、二度と神婚は御免だと要求を突っぱねてる、という見方もできる。

 一度無理を言って従わせた手前、二度目は六神連盟も強く言えないというのは、可能性として有り。



 >…Case.4「ロマンス」

 これは私の趣味、ではなくてあくまでも可能性の有りそうな最後の設定。

 実はティアーナ様には、父の他にも想いを寄せる殿方が居て、その殿方との間に不義の子として生まれたのが妹なのだ。という可能性。

 有りか無しかで言えば、有り寄りの有り。

 護衛の騎士、従者の少年、出入りの商人、候補は色々だけどその内の誰かなんて私には分からない。

 でももしそうなのだとしたら、きっと相手は本当に心の底からティアーナ様を愛していて、子供が出来ずに旦那との間に溝が出来て荒んでいた心を徐々に癒やしていって、そんな日々を送っていく内にティアーナ様の傷付いた御心を揺らすには十分過ぎるだけの時間が過ぎていて…っ、それで遂には絶対に赦されない禁断の恋へと……!!


 うん、それは無いかなって考えながら気付いてた。

 何が有り寄りの有りなのだろうか、完全に私好みかどうかにすり換わっている。


 それにしても司教様のお話ってどうしてこう長いのだろう。

 入学の挨拶で、神話や伝承やら神様の御言葉とか聖戦の意義に世界の情勢、初日から祝辞という名の大変ありがたい授業を始めるのはどうかと思う。

 次は新入生代表として勇者様が壇上でスピーチと、それから生徒会長の挨拶。

 うん、まだ暇な時間は続きそう。

 せめて初日くらいはと思って出席したけど、私も妹と一緒に休めば良かったと早速後悔していた。


 どこまで考えてたっけ、と再び妄想を膨らませる準備をしていく。

 勇者様のスピーチを同じ壇上で後ろから見つめる小魔王の厳つい顔をちらりと眺めて思う。


 ずっとずっと大昔、人類と敵対して世界中で戦争をしていた種族。それが魔族。

 エストバース王国は立地から国交を持っているけど、他国では多くが魔王国に懐疑的で自国への純魔族の入国を拒否している。

 魔族との混血には神子は産まれない。

 けれど上級魔族は神子と同格の力があり、長命でもある。

 魔族がその気になれば人類は簡単に命を奪われる。

 今は味方であっても、いつまた脅かされるか分からない隣人とは付き合えない、という考えが染み付いているらしい。


 過去に最も長く、最も多くの魔族と戦い、時に命を奪い、または散らされてきた血塗られた歴史を持つエストバース王国が、今や一番の親魔族国である。

 こうして毎年一名だけとはいえ、魔王国からの留学生を迎えているのも、他国ではまず考えられない待遇。


 そこでハッと閃いた。

 もしや正体不明のXは魔族だったのでは?



 >…Case.5「魔族」

 お忍びでやってきた上級魔族の官僚とふとした切っ掛けで出会ったティアーナ様は…。


 お忍びでやってくる上級魔族の官僚って何だろう、無理があり過ぎる。

 というより、上級魔族の渡航は全てチェックされてて、他国に口出しされないように完璧な体制で出迎えるからお忍びは不可能である。

 壇上の小魔王も、王都から学院まで何処にも立ち寄る余地もなく送迎(連行)されて来ている。

 設定としては面白いけど、せめてもう少しリアリティが欲しい。



 >…Case.5「魔族」

 とある高貴な魔族とのハーフである冒険者上がりの騎士は、所領地で静養されるティアーナ様の心情を慮り、他の者の目を盗んでは日々を退屈して過ごされないようにと世界各国を旅して回った冒険譚を聞かせ、いつしか護衛として以上の感情を抱き……。


 うん、無理だ。ティアーナ様ならきっと

「どうして攻撃される前にドラゴンを斃さなかったのかしら」

 とか無茶を言って冒険譚を台無しにしてしまう。

 それに冒険者嫌いの祖父がどこの馬の骨とも知れない混血魔族の元冒険者騎士を娘の傍に置いたりしない。

 設定に無理があり過ぎる。



 >…Case.5「魔族」

 実は薄く魔族の血を引く孤児院出身の雑種の下男は、小領地で静養するティアーナ様を支えるべく、日夜甲斐甲斐しく世話を焼いていた。

 周囲からの期待に反して不妊が続き、そんな中でも過酷な聖戦に臨み、世界に希望を齎す一方で、精神が擦り切れていたティアーナ様は、朴訥な下男に徐々に心を開き、いつしか互いに惹かれ合い……。


 無理やりこじつけてご都合主義展開になっている。

 もうXに魔族の血さえ入ってる設定なら何でも良いみたいな流れになりつつある。

 下男って、ティアーナ様の傍に男を置くとかそもそも設定が変。

 甲斐甲斐しく世話を焼くのは侍女の役目なので男性の使用人の入り込む余地は無いと思う。



 そうこうしている内に、生徒会長の歓迎の挨拶は終わっていた。

 ようやく終わるのかと思い、そろそろ妄想の海から浮上しようとして、次々に壇上に上がる学院の各施設の責任者らしき人々や、組合長の数を見て、スーッと自我の扉を閉じることにした。

 うん、これは長くなるやつだ。


◇◆◇


 学院に入ったら書こうと思っていた物語のネタのために、身近な話を陰謀論めいた改変してフィクション化しようと思ったけど、中々上手く行かない。


 真面目に勉強してきた訳ではないけど、私だって大公家の娘として国家の裏事情に無知ではない。

 だから、父が妹と距離を置くようになった本当の理由は知っているし、母がティアーナ様に執着しているのは昔からで、その対象がリヴィアに移っただけだ。

 妹が成人すれば祖父から父に預けられていた家督は継承される。


 それは祖父母の血を引くのは妹ただ一人だからであり、ティアーナ様が亡くなった時点で入婿の父は本来ならばお役目御免になるはずだった。

 けれど妹の容態次第では、保険として次世代に家督を継げる家系を維持する必要があったから、成人するまでの期間限定で父は代理襲名したのだ。

 名のある貴族家ならこれくらいは普通に聞く話。

 妹が成人して大公家の当主となってお役目御免になって世帯が分離しても、父は新たな貴族家の一代目となる。

 身分はたぶん侯爵家。


 家督を預かっている間に、父の養子で私の義兄であるギルバートが人神領域の地元エストバース王国に出現した異境を大勝利で飾ったり、父自身も近い将来王国の宮廷魔術師長になって、十二賢者にも任命されるらしいから、新侯爵家として叙爵されるのに反対できる人なんて居ないと思う。

 大公家当主代理として公務を行った経験もあるから実務も問題無いのは証明済。

 父は元々侯爵家の次男で、母も今の国王陛下の姪で血筋も身分相応。

 領地も世帯に入っていた間に増えた部分を分譲されて、国からも何処か適当な所を貰える。

 大公家から外されても立場が弱くなったりもしないし肩書きが少し変わるだけなのだ。

 それに私は学院を卒業して少ししたら婚約者の下へ嫁ぐだろうし、侯爵家の一員として過ごす時間なんてほとんど無いからあまり関係ない。


 という理由から妹とは世帯が分かれることになるので、親子であることは変わらなくても父は少し距離を取らざるを得なくなり、学院入学はその良い転機となった。

 勇者の件にしても、妹には他にも祖父母から継承しなければならない物や背負わなければならない責任なんかも多いから、他国の横槍が入る余地が出来ることを嫌ってるのが反対理由なんだと思う。

 内情を知ってれば謎も何もあったものじゃないけど、対外的には不思議に感じる部分は多いだろうからネタになるかと思って色々妄想したものの、もしティアーナ様や妹をモデルにして物語を書いたりしたら後で何を言われるか分かったものじゃない。


 触らぬ神に祟りなし。世は並べてこともなし。

 うん、やめておこう。





《あとがき》


ごめんなさい、書いてます。


せっかくなのでパラメータも記載。


[ドルセーラ]

【筋力】: 38

【耐久】: 38

【技量】: 64

【敏捷】: 46

【精神】: 42


【生命】: 374

【魔力】: 594

【体力】: 304


あくまでも基礎能力値。

この値は成長制限ラインや上達の補正にかかる数字で、実行値は訓練の度合いによって変わってきます。


こうして観ると素質の上では体力以外の全項目でヒルデを上回っていますが、訓練によって引き上げられた現在値となると、ヒルデやアルトは理論値に近い値まで育成されています。



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