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1000通りの計画  作者: Terran
第七章 太陽の神子
40/99

寮から始める学院生活 2



【学院入学編】



[278]

 その日の夜、第六邸の共用ルームにて。


「お嬢様、いよいよですね!」


 ヒルデは待ちきれないと言わんばかりの興奮した様子で上機嫌にしている。


「ヒルデは英雄科合格なんて素晴らしいわ。どんな所なのか楽しみね」


 武術科を受験していたヒルデだったが、試験の成績は全体でも上位に入り、目標にしていた英雄科への入学を果たしたのだ。


「お嬢様の特訓メニューのおかげですぅ」

「ヒルデは頑張ってた。今年はレベルが高いって教師達も噂話してたし、英雄科のボーダーラインも例年よりずっと上」


 アルトの言うように、今年は受験生の人数も過去最多だった去年の更に倍近くという前代未聞の競争率で、例年なら合格基準を満たしている筈の者ですら不合格となり得る大波乱の受験戦争であった。

 出来ればそうした者にも学びのチャンスを与えたい所だが、それだけの実力があれば他の学舎への滑り止め合格をしている事だろう。


「ヒルデはよく頑張りました。アルトも上手に合格してとても良い子ですね」

「ん、あれくらいなら難しくない」


 絶妙な力加減で望んだ通りの結果を出したアルトも勿論評価に値する。


「英雄科に入れたのはとっても嬉しいです。でもアルトなら大丈夫って分かってますけど、それでもお嬢様の傍を離れるのは心配ですよぉ」

「ふふ、心配ないわ。一回生は共通の授業も多いもの。それにガーデンが始まればまたすぐに一緒に居られるようになるわ」


 ヒルデとはもうかなり長い付き合いである。

 おそらく傍に居ないという事に慣れていないだけで、新しい環境への不安感がより一層そう思わせているに過ぎない。

 子供の適応力があればいずれは慣れもするだろう。


「ヒルデは授業と訓練に集中するべき。英雄科から降格なんてなったら、それこそ問題」

「あぅ、分かってますよぉ」


 英雄科は同回生中の成績上位者からたったの数名だけ選ばれる特別選抜クラス。

 半年ごとに成績が奮わなければ降格、又は成長目覚ましい生徒を他の科から昇格という形で編入させる事がある。

 大抵の場合は昇格する生徒が年に一人か二人おり、二回生や三回生は十名程に増えているもので、逆に降格は稀なケースである。

 一度は英雄科として素質を評価して選んだ手前、多少の成績不振なら盛り返せると判断されるからだ。


 とはいえ、英雄科は学費免除に生活費も支給される特別待遇であり、魔術学院では花形クラスなのだ。

 あまり温情ばかり掛けても気の緩みを与える事に繋がるとして、努力を怠る者は英雄科には相応しくないという理由で降格させられる場合もある。

 状況次第では厳しい裁定も下されるのだ。


「ヒルデは一回生の第四席ですもの。入学式では壇上に並ぶ凛々しい姿を期待しているわ」

「ま、任せてください。予習はばっちりです!」

「勇者を倒して第一席を取れなかったのは残念。ヒルデはもっと頑張って」

「勇者様に勝つなんて畏れ多いですよぉぉ!」


 そう、今年の英雄科第一席こと新入生代表は皇国の皇子にして神子、勇者イクスである。

 当然のように他の英雄科生徒と比べても圧倒的な性能差を見せ付けた正真正銘の規格外である。


「ふふふ。そうね、もしヒルデが勇者さまに勝てたなら、何でも三つお願いを叶えてあげるわ」


 こういうのはお約束というものである。

 出来ないのは解っていても、従者のやる気喚起の為に発破を掛けるのは主としては当然の事。


「うぅ、でも勇者様に勝つなんて想像付かないですよぉ」

「ねえリヴィア様。それってボクでも有効?」

「ええ、もちろんアルトが勝ってもお願いを叶えてあげるわ」

「わ、分かりましたぁ、私も頑張ります。お願いの権利は譲れませんっ」


 アルトの煽りを受けてヒルデの闘争心に火が着いたらしい。

 ナイスアシストだ。


「どこまでが勝ちでいいのか具体的に知りたい。不意打ちとか毒物とかもありなら勝算は高い」

「卑怯なのはダメですよぉ」

「相手は勇者さまですもの、私達の中での勝敗よりも、周りが納得する勝利が必要なのよ。皆に認められる勝ち方なら方法は問わないわ」


 その言葉にヒルデは素直に同調し、アルトは思案して答えを導いた様だ。


「さすがはお嬢様です」

「ん、解った。上手に勝てばいいんだね」


 呑み込みが早くて助かる。

 勇者との勝敗には然程関心は無いが、目標を持って貰うのはとても有意義な事だろう。

 世界最高と言われる勇者の性能を調べる上でも二人の成長は望ましい。


「学院は国同士の競争の場になっているわ。次の時代の英雄候補を入学させて他国にお披露目しているのね。だから王国は凄いということをトフィアスさま達は見せなければならないのよ」


 書物で読んだ限り、この世界には長らく国家間の大きな戦争は無い。

 小競り合いや国境問題での争いこそあるものの、兵に大きな損耗を与える事は、例え仲の悪い隣国であっても損になる。


 例えば国境付近のダンジョンの利権争いがあったとして、それが戦争にまで発展、互いに兵を失い合ってはせっかく手に入れたダンジョンの管理に使える兵力を維持するのが難しくなる。

 簡単に済めば良いが下手に長引いてダンジョンが氾濫でも起こせば、果たしてどちらの軍がそれを収束させるのか。

 結局の所、隣国の顔色を窺いつつ力を借りながら維持する方が結果的には益となるのは明白で、それをどちらに分がある交渉に導けるかは、代理戦争にて序列を明らかにさせるのである。


 その国力を誇示する場とは即ち異境における自国の英雄達の活躍であったり、強大な魔物の討伐であったり、ダンジョンの制覇であったり。

 そして世界中から次代の聖戦を担う優秀な生徒を集めた魔術学院もまた、代理戦争の場として安全に力をお披露目するのに都合が良かった。

 どの国の誰が序列何位で卒業したのかは常に注目されている。

 そうした英雄たる器の持ち主を多く有している国は聖戦での活躍を見込まれ、世界の防衛力に多大な貢献を果たすと見做されており、各国に対する発言力も増してくる。


「あ、だからお嬢様は国同士のバランスを取るためにアルトやシャリオン様を英雄科には入れなかったんですね」

「ん、リヴィア様なら首席も余裕だけど。それだとゲームにならない」

「アルトの信頼は嬉しいけれど、私と勇者さまとでは正確に比較できるのは学業だけよ。それ以外は二人とも正解ね。派閥はなるべく均等な力関係から始めてこそ全員の実力を発揮できるもの」

「お嬢様は勇者様の本気を見たいんですね」


 ヒルデは決して頭脳に秀でている訳では無いが、勘が良く本質を見抜く力がある。

 だからこそ英雄科へ入れても、下手な小細工をせずとも素のままで上手くやれるだろう。

 真っ直ぐ正道を進む事を是とする性格ではあるが、こう見えて計算の出来る娘だ。

 愛想が良く、誰にでも明るい雰囲気で接する可愛らしい娘、に観えて意外とシビアな所がある。


「ボクは小魔王が気になる。勇者は英雄科だけど小魔王は貴族科だからリヴィア様と接する機会はこっちの方が多い」

「そうでしたぁ。やっぱり東の小魔王様も凄そうですよね」

「ふふふ。どんな方なのかしら」


 小魔王ルヴォルゼファー。

 東の魔王の子息で今期の魔王枠での留学生である。

 人間より長寿であるものの種族差が大きい魔族は入学査定基準となる年齢制限が緩く設定されている。

 そこで魔神領域の四大魔王家の内、南以外の北東西の魔王家から三年置きに順番で魔王の血族から一名の留学を受け入れるという契約をしている。


 前期のミストリア世代では北の魔王家から魔王子イスラが。

 そして今期のトフィアス世代では東の魔王家から魔王子ルヴォルゼファーが留学生として入学する事となった。

 順番で行けばアディマート世代では西の魔王家から魔王女がやって来るのだろう。


 彼等魔王子達が「小魔王」という呼び方をされるのは、魔王家では直系の子女達に課題として小領地を与えて統治させる風習があり、その経営状況は継承問題にまで影響する事から子供の時分から既に統治者として君臨している小領地の魔王代行、すなわち小魔王なのである。

 流石は実力主義の魔神領域、長命種の強みを活かした実に優れた教育方針だと言えよう。

 貴族家の子女の通う学院と言えども、入学前から領地や爵位を持つ者はほとんど居ない。

 私や小魔王のような例はとても珍しいのだ。

 仮に私が魔王家で産まれていたら、割とすんなり馴染んでいたかも知れない。


「あとは聖女とかいう胡散臭そうなのも来てる」

「聖女様にそんな言い方したら罰が当たっちゃいますよぉ」

「教会が魔術学院に聖女を送り込むなんて前例が無いし、どう考えても怪しい」


 魔術学院に、というよりエストバース王国に、というべきだろう。

 この世界で最も信仰を集める六神教会の総本山は天神領域に在る。

 聖女とはその時代における六神教会内でも最高位の使徒であり、聖法術の扱いに秀でた聖人達の頂点。言わば教会の象徴たる重要人物である。

 聖女は血統からなる神子と違い、神からの神託によって選出される直接指名制で、およそ五十〜百年に一人ずつ選ばれる。

 基本的に聖女に任命された者は天神領域から滅多に下界へ降りる事は無く、教会内で専用の教育課程を受けるのが通例であり、天神領域内の学舎へ通ったという話も歴史上数例しか無い。

 それだって元々学生だった所を後付けで聖女認定されたケースで、ましてや他国への留学なんて話は前代未聞だ。


「勇者様と聖女様と小魔王様が一同に会するなんて歴史的瞬間ですよぉ。とんでもない時代に立ち合ってしまいました」

「そんな歴史的な世代の英雄科に選ばれたヒルデもとても凄いのよ。これからの学院生活が楽しくなりそうね」

「同時に相手にするのは分が悪い。どうにかして潰し合わせるのが得策」


 アルトはもう対策を考え始めている。

 相手が何だろうと物怖じせず現実的な解を導き出そうとするのは実に頼もしい。

 概ね個々の実力は把握しているが、勢力となれば今後の動き次第でどうなるかは判らない。

 しかし勇者以外に私へ接触しようとする者が果たしてどれだけ居るのだろうか。

 聖女にしても私の価値は学院長の孫以上では無いだろうし、小魔王にしても私は勇者の婚約者候補でしかない。

 確かに彼等にとって名前のある生徒に数えられもするだろうが、決して重要人物には当て嵌まらないだろう。


「アルトが好戦的になってますよぉ」

「それは違う。ボクは無駄な争いは嫌い」

「でももう戦う前提で話を進めてるじゃないですかっ」

「ん、それはそう。争いが嫌いだから前もって心構えだけは作っておかないと、いざという時に考えがまとまらなくなる。ヒルデとは違う」

「それだとまるで私が戦闘部族みたいじゃないですかぁ」

「でも向いてる。いつでも一瞬で臨戦態勢に切り替えられるのは凄い。たまに獣人族なんじゃないかと疑いたくなる」

「え、アルトに獣人族の疑いをかけられるのって、えぇ〜と…?」

「ボクには野生の勘とか無いから羨ましい」

「お、お嬢様、助けてくださいぃ!」

「あら、アルトは誉めているのよ」

「ん、ベタ誉め」

「そうなんですか…。う〜ん、でもやっぱり納得いかないですぅ」


 学院に関してはあまり謀に現を抜かすような真似はせずに出たとこ勝負の余地を残すつもりである。

 他の頭脳派の子女達は色々と策を練って来るだろうが、私は多少不自由を強いられる位が丁度良い。

 舞台は整えたのだ、後はそれぞれの思惑で動いて貰えれば自ずと納まるべき結果へと導かれるだろう。




[279]

 クリムワイエ魔術学院。

 世界三大学府の一つに数えられる、エストバース王国の王都より西に位置する特別区にある学舎。

 歴史と格式、古き伝統と伝承を後世へと継ぎ重ねてきた由緒正しき学院。


 そこへ通う事が許されるのは国内外からの大貴族の子女と、英雄候補となる者。

 中小貴族の子女や審秘眼によって判別されたギフト持ちの子供達は、競争率の高い受験を経て映えある学院生の席を勝ち取らなければならない。

 今日は新年度の入学式。

 厳しい受験戦争を勝ち抜いたエリート達が一堂に会する記念すべき日。


 学院の敷地は広大で、生徒達は寮と校舎間を大型魔導車によって送迎される。

 入寮の際は家具の搬入等を王都からの馬車で運び込んでいたが、学院内での移動はこの魔導バスを利用する。

 魔導車は未だ燃費問題を抱えており、一般の普及には魔力の低い者への負担が大きい為、今暫くは技術の進歩を要するだろう。

 しかしながら馬の世話が要らず、臭い問題や衛生面を考えれば、魔力の扱いに長けた魔術学院内においては魔導車を利用するメリットが上回っているのだ。

 もっとも、精霊族や森人族といった魔力に敏感な種族は排気魔力に酔ってしまう者も居るので、本数は絞って運用されている。


 排気魔力には私も小さい頃は悩まされたが、公害問題に関しては口出しをするつもりは無い。

 こういう物は世界が自力で解決すべき事案だと思われる。

 必要であろうタネに関しては既に魔術協会へ提出済なのだ、後は気付いた者や解決を望む者がそれを読んで勝手に進めれば良い。

 当然ながら六邸しかない白金寮でも魔導バスによる送迎は行われている。

 使用人を多く連れているなら自前で魔導車を運転手付きで雇っており、白金寮に住むような家柄なら常識と言わんばかりに他の五邸では魔導バスを利用する者が居らず、我がファナリア家だけが申し込む事で貸切となった。

 私とドルセーラに従者三名というたった五人の送迎の為に魔導バスを走らせるのだからご苦労様である。


 入学式を執り行うセレモニーホールには今頃大勢の新入生で賑わっているのだろう。

 新入生代表は対外的にも最も都合の良い英雄科第一席の勇者がするらしいが、これは伝統としてその年の序列一位の生徒が担当するものである。

 やりたがる者が居るとも思えないハズレくじだが、押し付けた先が勇者というならば周りも納得の人選と言えるだろう。

 何事も経験だと思って受け入れて欲しい。


 入試の成績上位内の生徒は壇上で入学式に参加するという形で衆人環視に晒される。

 学院側が用意した十二の席に英雄科の八名と武術科、魔術科、学術科、貴族科から各一位がそれぞれ座り、生徒と教員達にその姿を印象付ける。

 今日出席する新入生達の席は壇上に居る生徒を除いた全員分が用意されている。

 故に余程の疑り深い探偵でも無い限り気付く者は居ないだろうし、例年通り十二の席が埋まりきっている事で唯一の矛盾点は消える。

 プロシアには気分が優れない為に欠席する旨を、使い魔を通して伝えてある。


 実際、大人数に一斉に鑑定をされたら非常に不快な気分になるだろう。

 あの表皮を撫でるか撫でないかギリギリの距離で産毛だけを触られるような感覚は慣れる物ではない。

 全て弾いてやる事は容易いが、それはしないと決めている。

 弱者で居続けるのも楽ではない。

 まあ、生徒も教員も生勇者見たさに集まっているのだろうし、私の欠席に気付いた者が居たとしても大して気にすることなく、すぐに忘れるだろう。


 今日は新一回生の入学式ということで二回生と三回生の授業は休講となっている。

 あくまでも教員の大半が式に出席している関係で授業が無いだけで学院の施設が閉じている訳ではなく、研究室や訓練場は在校生が利用しているのだろう。

 となると今こそ人目をあまり気にせず敷地内を回るチャンスである。

 体調不良を理由に休ませて貰ったが、暫くしたら何食わぬ顔で人目に付かないルートを使って外出するとしようか。



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