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1000通りの計画  作者: Terran
間章 海神領域 4
38/99

世界の淵



[270]



◆◆◆◇◆◆



 試験二日目の朝。

 ソレにはすぐに気が付いた、そして考えるより先に理解した。


 なるほど、支配領域に入られると直に波長を感じ取れる訳か、これは一つ勉強になった。

 先方も支配領域へ踏み込んだ事を察しただろうが、ここはそもそも人神領域、更にエストバースは神アセラの膝元にあるのだから特定には至るまい。

 囚われの海神の処置からして、現在は間接的にしか干渉出来ていないのは確認済である。

 しかし、よもや私達と同じ条件とは、これは偶然なのか、それとも必然なのか。

 ふははは、実に興味深い。


 覚えのある波長、自分がソレに近付いた感覚をヒリヒリと感じ取れる。

 旧交を温める関係でもないが、懐かしさに心の底が震える。

 まずは挨拶代わりに対策は以前のものを参考に再構築しておこうか。

 なに、少し調子が悪くなるかも知れないが、それはお互い様だろう。


『ようこそ我が支配領域、クリムワイエ特別区へ』



◇◆◇



 ドルセーラとのやり取りを終えた私は工房での作業と平行して学院に張り巡らせた監視システムを使い受験生のチェックをする。

 そして勇者の試験の様子を観る。そしてその様子に息を呑んだ。


 圧倒的、魔術学院に通う必要など皆無ではないか。

 武術では教官を圧倒する奥義を使い、魔術は上級魔術を扱う。

 私の一つ上の年齢でこれだけの完成度とは、正直想定外であった。

 まだ上級魔術は学院の教師には及ばないが、それもすぐに追い付くだろう。

 武術に関しては私は素人なので確たる事は言えないが、武術に特化した歳上のシャリオンと同格かそれに近いレベルでは無いかと思われる。

 両立が難しいのは間違い無いのだが、よもや両方を学院最高水準で揃えて来るとは、勇者とはそれ程までに規格外の存在だったのか。

 参ったと言わざるを得ないだろう、これではアルトに本気を出させても勝てる見込みは無い。

 方針替えは必須か。


 それに勇者は先方と違い転生者では無い。

 転生者ならば霊魂を観ればすぐに解るからだ。

 転生者ならばまだ納得したのだが、現地人でこの完成度の育成をさせられるとは、アルセンダルク皇国の方がエストバース王家より英才教育のノウハウは優れているのかも知れない。

 こんな事が可能なら、それは確かに世界的にも自国の神子は自国で育成するという基本方針なのも当然の選択だろう。


 なるほど、これなら私の提案は呑まれるだろう。

 勇者の力を以ってすれば三年後の最高派閥になる程度、造作も無いと判断するだろうし、それが新たな勇者の時代を告げる良い宣伝になりそうだ。

 むしろ皇国としては提案に乗っかる方がメリットが有ると考えるのではなかろうか。

 いやはや、そうかそうか。

 私は勇者を過小評価して舐めていた。

 わざわざ出来レースの提供をしてしまうとは、我ながら失態であった。

 仕方がない、せいぜい表面上だけでも他の派閥が善戦出来るように手心を加える必要が有ると判断しようではないか。

 まさか私自ら出向いて勇者を倒す訳には行かないのだから、しっかりと策を練らねば。


 勇者が勝つ事と、私が勝つ事とは両国にとっては全くの同価値であり、どちらでも【神婚】を結ぶのに反対理由が無くなる。

 別にそれでも良いのだが、折角の舞台なのだ。勇者相手にも手駒や他の一般勢力でどの程度食らいつけるのかを検証し、実験を重ねてデータを蓄えたい。

 それに純粋に興味本位なのだが、勇者と呼ばれる存在をギリギリまで追い込んでみたいのだ。

 ああ、きっととても愉しいに違いない。


 おっとイカンな、感情を優先したリヴィアの意思がだいぶ反映されてしまっている。

 だが私も同感だ、これは全面的に支持しよう。


 しかし不思議な感覚だ。

 理性では間違いなく無駄な感情だと思うのだが、どうにも勇者を観てからというもの、心の奥底から屈服させてやりたい衝動が湧き上がって来るのだ。

 産まれて初めて対等な遊び相手を見付けたからだろうか。

 しかし未来の旦那に対してそんな昏い欲求を持つとは、今からリヴィアの夫婦生活が心配になってくるではないか。




[271]

 入学前に終わらせられ無かった事がある。

 囚われた海神を解放し正気に戻した後に密約を交わした際に、世界が抱えた大きな問題を一つ聞かされていた。

 それは邪神が現れて世界の行く末を歪まされた日から徐々に溜まっていった膿。

 この世界を侵す邪悪な意思が齎した代償とも言える残穢の吹き溜まりと化した深淵。

 攻め込まれて奪われた世界の礎と、それに抗い朽ち果てた神々の嘆き、邪神によって汚染された異境から流れ込んだ悪性のリソースの取り零し、滅ぼしてきた幾つもの世界の断末魔の残滓、霧散した亜空たるダンジョンの残骸が流れ着いた先。


《世界の淵》


 神々がそう呼ぶ、この世界の終焉へと誘う負債の存在が、海溝の底で口を開く。

 これもれっきとしたダンジョンであり、世界の負の面を具現化したかの様に、ただただそこで成長し続けている。

 例え世界を救えたとしても、これがある限りはいずれ崩壊は免れない。

 そして邪神すら手を付けず放置したそれは、逆に邪神へと対抗出来る可能性のある爆弾でもある。

 帰りすがら転移の為に一度は訪れたのだが、分霊による自動探索でどうにか出来る範疇に無かった。

 攻略するつもりならば、せめて双子を派遣しなければならないのだが、外での活動を割り振っている関係でどうしても後回しにしてしまっている。


 創世紀の頃より世界から生まれる不純物がゆっくりと時間を掛けて降り積もり、そこへ更に攻略されたダンジョンから霧散した世界を歪ませるリソースが徐々に海溝の底の底、世界の淵へと流れ込んだのだろう。

 流入の過程で世界へ吸収浸透して、消えずに淵まで到達した量は目減りしているだろうが、それでもざっと見積もってダンジョン百以上に相当する深度はあるだろう。

 雑に深度500m級のダンジョンを100個連結したならば深度50km。海神ダンジョンですら3km超で、書物を読み解く限りは世界最大深度のダンジョンであり、試行錯誤や他の事を多分に挟んでいたとは言え、私でも攻略には一年を要した。

 軽くその15倍、難易度は深くなる程上昇するのであればペースも落ちる事を考慮しなければならない。

 ここまで甘く見積もった所で数十年掛けても攻略には到らないではないか。

 そりゃ神々も邪神も匙を投げるだろう。

 だがそれは見向きもされていない事を裏付ける事実でもある。


 何とかして攻略の糸口を探してみたいのだが、問題は出現する魔物が魔物ですら無い得体の知れないモノなのだ。

 分霊による憑依での支配が通じない、というより成り立ちが違い過ぎてどう動かせば良いのか解らないのだ。

 生水や虫の巣に憑依しても戦えないのと同じ様に、アレに憑依した所で意味が無い。

 アレは生物を模しているが極小単位の群体が世界の悪意と呼べる概念で塊となり、あたかも個体として存在しているかの様に振る舞う矛盾した存在。

 世界の淵でしか成り立たない虚像である。


 一々表現するのも気持ちが悪いのでアレを仮に【虚獣】と呼ぶ事にする。

 虚獣に有効な対策として、まず純粋な火力。

 いくら訳の分からない存在だからと言え、実際に存在するにはエネルギーが必要だ。

 故に虚獣を構成するエネルギー量を上回る火力で滅却すれば構成を保てなくなる。


 が、これには致命的な問題が有り、世界の淵では法則すら歪められて虚獣の質量構成に対して有効と思われる量の火力では、何故か足りなくなる。

 というより火力への変換効率が淵の内と外では異なるらしく、淵の内部での法則から割り出した独自の熱量計算から必要量を捻出しなければならない。

 そしてこれが、悪意があるとしか思えない程に淵での熱量変換効率が驚くほど低いのだ。

 となればまず最初にやらなければならないのは、淵の法則を学習する事である。

 力ずくが通じないのであれば郷に入っては郷に従え、目には目を歯には歯を、淵の法則や概念には淵の法則と概念を以ってして抗うより他ない。


 エネルギーの単位が異なるのであれば、どう異なるのか、何が上位で何が下位なのか、どれが大きくてどれが小さいのか、どんな事が可能なのか、それらを解明しない事には無駄な労力を支払い続けるだけだ。

 それらを調べるにはまず手持ちの札を探りながら試し、足りなければ全く新しい要素を探し生み出すしかあるまい。

 既に仮説はいくつか考えている。

 そして必要とされる要素の糸口も。


 確証を得るには淵の研究を進ませなければならないが、おそらくは当たらずとも遠からず、現状においては限りなく正答に近いだろうと思われる。

 前々から考えていた事の繰り返しになるが、私はこの世界に産まれてから、思い付く限りの力や要素を仮説から組み立てて身に着けて来た。


 魔力、氣、霊力、神力、超能力、理法、異法。


 この中で唯一、神力だけは自力での修得ではなく、いつの間にか備わっていた要素で、憶測なのだが前世の世界の神から授けられた力だと思われる。

 神力は単体では特に何の使い道も無いのだが、別の力へと変換出来るという特性がある。

 おそらく虚弱体質で生きるのすら難しかった赤子の私が命を繋げられたのは、今にして思えば無意識に神力を生命力や体力へと変換していたのだろう。

 魔力が枯渇すれば神力を魔力へと、分霊を生成するにも神力を霊力へ、氣を体外へ放出しても神力で補い、常に私は神力と共に生きてきたと言える。

 神力は予備タンクであり、それ以上の使い方が出来る様になったのは欠損神や弱った神々への譲渡が出来る様になってからだ。


 が、ここへ来て私は新たな使い方を開発しようとしている。

 理論上は可能だが具体的なイメージを持つための糸口が掴めず、お蔵入りしていた神力の有効活用方法。

 未知のエネルギーへの変換である。


 今までも幾度となく挑戦したい欲求はあったが、一つのミスが致命的な結果をも齎し兼ねない。

 例えば原子力を知らぬ者が、新エネルギー開発として神力で核熱エネルギーを生み出せば、その時点で致死量の被爆をするだろう。

 この例えは極端だが、それだけ未知のエネルギーを生み出すというのは常に危険が付き纏うのだ。

 故に具体的なイメージが持てる、よく識っている力か仮説が立証出来る類のエネルギーでないとリスクが大き過ぎておいそれと扱えない。


 余談だが核熱エネルギーはこの世界では大して強くはなかった。

 海神領域はフリーなので水爆実験モドキをしてみたが、核熱エネルギーは大きいは大きいが最上級魔術と大差ない火力で、そもそも放射線自体が生体に与える影響も前世のそれと比べると格段に低いのだ。

 原子や電子のパラメータに違いでもあるのだろうか。


 ともあれ、新エネルギー開発をする上でリスクを回避する為に必須となるのが、具体的な性質の把握、データの収集に他ならない。

 闇雲に手当たり次第に実験して開発をするのではなく、結論から逆算して仮説エネルギーの概要を掴む事が出来ればそれが最も理想的である。

 そして今回の場合、それが淵という特殊な環境に対応出来るエネルギーで無ければならない。


 結論として淵で通用する様にするにはどんなエネルギーであれば良いのか、候補はいくつかあるが、それを考察していく所から始めよう。




[272]

 試験が終わってから入学までの期間中も、私は密かに淵の攻略に専念していた。

 まだ完全には確立していないが、どうすれば良いのかの検討は付いたのだ。

 いやはや、薄々気が付いていたがこうも結果を簡単に出せると疑う余地の無い事実として受け止めざるを得ない。


 リヴィアはおそらく、前世の私を上回る知能を持っている。

 私の知る限り、ここまでの知能の持ち主は知識にある歴史上にも存在していない。

 天才という言葉では言い表すには不足だろう。

 新しい事を思い付くのが私なのかリヴィアなのか、その境目も曖昧で、主人格も既にリヴィアに私が溶けたものなのかも知れない。

 まあ、どちらにしろやる事は変わらないので構わないが。

 ともかく、淵攻略の為に新たに着眼したのは三つの要素である。


一つ目は「魔核」。

 この世界に生きる物は強弱の差こそあれ須く神々の加護を受けて生きている。

 だが淵の虚獣はおそらく加護を受けていない。

 というのも魔物もそうなのだが、異界の要素と融合して生まれた異境の原生生物が異境の崩壊と共に門から世界へと流出した際に変質した魔物には、加護ではなく異空の構成要素が核を形成しており、その魔核が加護を必要としない生命として機能させている。


 淵の攻略で分霊による憑依が出来なかった事で有用性が無いものと思っていたが、本当に着目すべきはそこではなかった。

 分霊は攻撃手段こそ脆弱だが、淵の中でも行動そのものは出来る。

 私の分霊の特徴として特筆すべきは魔物と同様に魔核を有している部分だろう。


 非実体のゴースト系統の魔核を霊体で直接採取する事で、世間的には存在しないとされる霊体の魔核を獲得し、それを錬成して造り上げた特製の複合魔核は肉体という殻を持たない分霊を維持するのに最適である。

 この複合魔核という概念に、極小の群体で構成された虚獣の成り立ちに似たものを感じ、ある仮説を導き出すきっかけとなった。


 つまり虚獣は粒状の魔核の様な概念生物であり、それが群れて一塊になる事で擬似魔物として存在しているのではないか。

 霧散したダンジョンや魔物の構成要素が淀みながら流れて淵へと溜まって行ったというのであれば、魔物にまで成り切れない魔核のなり損ないが大量に積もったと考えるのも自然では無かろうか。


 ドロドロに混ぜ合わせられた概念の溜まり汁である淵ダンジョンでは、無数のダンジョンから産まれる魔物の要素を小さな単位で無数に湧き上がらせてしまい、似たような要素同士が結合しあって確たる個では成立せず、群体として魔物のなり損ないの形状を取る。

 こちら側からの攻撃が有効打にならないのも、魔核同士の間に生じた矛盾した干渉に阻まれているのかも知れない。

 生物どころか、起こる現象との境界も曖昧なのだろう。

 炎で燃やしても、現象として燃やされたのか、燃えている生物として確立しているのかどちらとも付かず曖昧になるのだ。


 理屈に合わない場所と言ってしまえばそれまでなのだが、これでは何をしても大してダメージにならず効果が今一つはっきりしないのも説明出来る。

 憑依にしたって、言ってみれば構成する細胞一つに乗り移ってる様な物だ。

 費用対効果は最低である。

 ならばどうすればまともに効果を及ぼせるのか、その答えは簡単だ。

 虚獣を正式に魔物化させてしまえば良い。


 一応は似たような要素同士で結合する特性がある虚獣の性質を利用し、淵では中心核となる物が発生しないならこちらで造って与えれば良い。

 要するに曖昧ではない魔物を形成するに足る大きさの魔核を投げ込めば、それに群がって新たに魔物が誕生するだろう。

 安定させてさえしまえば理論上は通常の魔物と同じである。

 虚獣毎に構成している群体に共通する概念を毎回読み解く必要はあるが、対処としては至って正攻法だ。

 暫く試してみて淵の探索と情報収集に努める。



◇◆◇



 実験から暫くして。

 この方法では副産物として、飲み込ませた魔核が安定すれば二回りは大きい魔核が再形成され、上手く解体すれば高密度かつ大ぶりの魔核が採取出来た。

 欠点はその都度手間と時間が掛かる事で、高品質の魔核養殖場としては素晴らしいが、歩みとしては遅々として進まず攻略には向かない。

 それでも直接出向かずとも半自動でじっくりと探索する事を可能とし、新たな考察する為の情報を得られた。

 通用し辛い攻撃を繰り返させるより格段に進歩したと言えるだろう。


 再構成された魔核はかなり癖の強い物で、淵の濃密なリソースが染み込んでいる為に中心核用の核石としての機能は持たせられない。

 あくまでも虚獣の中心核に適しているのは、品質こそ中程度でも中身が薄くて癖の無い魔核に限られる。

 癖があると抽象的な共通した概念からは外れてしまい、群体が上手く取り込まないのだ。


 属性的な相性もあるのでどの個体にも有効で一番無難なのは無属性の魔核である。

 最も安価な無属性魔核ならば大量に買い付けるのも不可能では無いのだが、何に使うのか変に勘ぐられるかも知れない。

 名義は匿名の魔導具技師とはいえ、商品化しない素材を大量に買い付けるのも限度がある。

 【七光】を名乗らなくてもライセンスさえあれば魔術協会を通じて素材を入荷する事自体は出来るのだ。

 名乗った方が割引も利くのだが、資金面は全く心配の必要が無いので多めに税を協会へ落としても構わなかろう。

 当然アルバートに相談すれば大量に用意する事は容易いのだが、贔屓の商会はあくまでも表の顔で使う為のもの、裏の活動では利用しないのが私なりのルールである。



◇◆◇



 一つ目の要素による成果と検証結果を踏まえて、二つ目の要素を実行に移すとしよう。

 次に検証するのは人造魔核についてだ。


 この場合の人造魔核とは、物質としての核石の事ではなく魔核の機能や概念そのものを現象として起こせないかというものだ。

 例えるなら火で直接鉄鍋を炙って食材に火を通さずとも、電磁調理器で食材に熱を通そうとするようなもの。

 私は鍋を焼きたいのではない、食材に熱を通して調理したいのだ。


 間を飛ばして事実だけを並べるなら、魔核があれば虚獣の存在を安定化して魔物と同じ様に倒せる、という単純な図式だ。

 ならば魔核と同じ現象を人為的に引き起こして安定化した虚獣を倒せるなら、わざわざ魔核を使う必要など無い。

 一つ目の要素で狩りを続けたのは、偏に安定化の作用を探る実験であり、最初から次のステップを上がる為に仕掛けた前哨戦に過ぎない。

 続けて行く内に魔核と虚獣の性質と作用は大体解った。

 後は必要な力を割り出して再現するだけだが、ここで最初の話に戻る。

 逆説的に魔物で無い者がこの世界で生物として成り立つには加護や祝福が必要なのだろう。


 加護ならば私にも扱える。

 つまり神力で加護を創造すれば良いのだ。

 より戦闘に則した、異空間であっても存在を安定化させられる形質を持たせた、「対魔物、対虚獣、対深淵、対神」に適した力を、今までの情報から洗い出す。

 新エネルギーは、存在を成り立たせる要素で構成する。

 魔物やダンジョンや異境を安定化させる核の性質ならば十分に理解した。

 最後のピースは虚獣と淵のお陰で埋められた。


 久々にフォーカスで自己に集中する。

 【神力】、【生命魔法】、【次元魔法】、【創造魔法】、【加護の付与】から必要な要素を蒐集館へアクセスして検索。

 既に必要な情報も知識も揃っている。

 検索して出てきた要素を組み合わせて構成を始める。

 より存在を強固に育める新しい加護の形として、身体を覆う色の無い揺らぎの様な力を形成し収束させていく。

 まだ完成には程遠く研究も訓練も必要だろうが、これで方向性は確定した。

 加護と魔核の両方の性質を持つ、久々の新要素の修得となった。




[273]

 私はこの力を【神氣】と名付ける事にした。

 入学までの僅かな期間、ひたすらに神氣の修得と鍛錬に集中し、完全に安定した頃には月が替わっていた。

 神氣の性質を検証した所、以下の事が判明し驚愕する事になる。


・『魔核の吸収効果』

 魔核に内包されたエネルギーを吸収して神氣へ還元する事で、より情報圧と存在力が強固になり成長していく。

 魔核の内容量によって獲得出来る存在力に違いが有り、特に虚獣の中心核にした魔核は非常に大きな栄養素となった。

 おそらく濃度は重要な要素なのだ。


・『超人化』

 神氣を纏うと寒暖差やエネルギーの衝突に対して大きな耐性が得られる他、生命力や魔力や体力面が大幅に改善し向上する。

 更に筋力は純粋な筋肉量に依らないパワーを発揮し、さしずめ目に見えない人工筋肉を外付けしているかの様に作用する。

 身体能力は完全に超人のそれだ。

 心肺機能も向上し、三十分間無呼吸でも目眩すら起こらない。知覚範囲の向上や反応速度の上昇、毒物への耐性まで付いた。


・『存在強制力』

 不安定の筈の虚獣にも当てるつもりで神氣で触れると存在係数が確定して、通常通りに魔術や物理的な攻撃が入る。

 遠隔であっても神氣を纏わせた武器や魔術を当てれば存在係数を確定させられる。

 次元魔法で補足した全ての虚獣の存在を直接攻撃すれば距離に左右されず、霧散させる事なく全てのリソースを吸収出来る事が解り、効率は格段に跳ね上がった。

 制御と負担がかなり大きいので慣れるまでは他の事と平行するのは難しいだろう。



◇◆◇



 正直ここまでの効果があるとは、想像を遥かに超えていた。

 神氣は間接的に世界の淵を浄化する働きが期待出来るのだろう。

 私にとっては好都合、浄化は目的ではないが世界救済の為に使わせて貰おう。

 各魔物の魔核毎に吸収出来るリソースの量や、強制力の向上についてのデータ取りをして、神氣の成長の傾向と効率的な育成手順を導き出したい。

 それは追々やるとして、次は第三の要素にも着手しよう。


 三つ目の要素は領域だ。

 神と似た力を持つのであれば、六大神の様に自らの領域を持つ事も理論上可能であると考えられる。

 淵が世界とは異なる法則で成り立っているのであれば、ここは神々の定める理の通じ難い領域外なのだろう。

 異境がこの世界の神の力と異神の力との均衡によって象られるように、淵も異境と素材は同じなのだから領域を創りしている筈で、おそらくは混沌の領域となっているのだ。


 色々混ざり過ぎている関係で、ここで新たに領域を創り出すのは難しいかも知れないが、それならば領域自体の単位を小さくすればどうだろう。

 全体をどうにかしようと言うのでは無く、圧力を上げて局所的な領域を展開するだけならば、この混沌の領域内でも維持出来るのではないかという仮説を立てた。

 人神領域の聖戦の終わり際に抜き取った異境のリソースを用いれば領域の展開自体は可能だろう。

 制御に関しては【トクトラの鍵】の亜空間で実験と検証を繰り返してある程度は身に着けている。

 もしこの試みが成功すれば探索スピードは格段に増すだろう。


 リソースの無駄遣いは避けたいので、まずは未踏破の海神領域のダンジョンで予行練習をする事にした。

 2600m級の深海ダンジョン(仮)ならば参考になるデータが取れるだろう。

 神氣の鍛錬にもなるし一石二鳥と言える。

 問題があるとすれば、学院入学までの期間的な猶予がほとんど無い事である。

 これはどうやら、学業と平行して進めるしか無さそうだ。




[274]

 深海ダンジョンの攻略には、オリジナルの【トクトラの鍵】に保存されていた遺体から去年の内に再誕させていた眷属達を使う事にした。

 鍵があればダンジョン内に居てもいつでも安全エリアで休む事が出来る。

 暫くは双子を淵に張り付かせる予定なので探索の指揮を執る代役としてかつて海神領域の王族だった彼等に代行を任せる。

 水精族という事で、この特殊な環境のダンジョンでも適性は高い。

 私自ら加護とギフトを与え、武具も錬成して揃えてあるのだ。ちょっとやそっとでは危機には陥るまい。


 再誕させた従者は海王の子女5名とその側近である2名を加えた7名。

 ダンジョンを攻略させるのは交代制にして、無理をせず頑張って貰いたい。


長男「ガスフィーク」

長女「マリナルーサ」

二女「シェリエラ」

二男「バルタック」

三女「ファルアリーサ」

側近「エギル」

側近「パルナ」


 先代の海王は状況の芳しくない海王国を守る為に海獣と戦い若くして亡くなり、彼等の父王は頼る者も無い中で国を建て直そうと奮闘した。

 苦しい中でも他領域の聖戦にも各国へ船を出し、参戦の援助を続け、海神領域の聖戦への助力を確約させていった。

 しかし海神領域の最後の聖戦では救援が同時多発的に現れた魔物に襲われて僅かな手勢しか到着しないという不運に見舞われ聖戦では大敗。

 遂には魔物の氾濫によっていよいよ滅亡を迎える国から子供達を逃がす為に、国宝の神遺物【トクトラの鍵】の空間に避難させて船を出したが、突然予想外の魔物の大軍勢に阻まれて海王国と運命を共にした。


 不運がそうも続くのはどう聞いても作為的な物を感じる。

 囚われた海神の説明からも邪神が何かしたのは間違いないだろう。

 当然だが邪神が何もしない本来の運命ならば海神領域と王家の滅亡は回避出来たと思われる。


 しかし邪神もただでは済まなかった。

 海神を無力化する事には成功したが手痛い代償を支払い、神核が傷付き力を大きく削がれた。

 それからは自らの手で直接世界へ干渉するリスクを再認識してやり方を変えたのだろう。

 再誕させた彼等には私の手札の一枚を見せて協力を取り付け契約している。


 三女のファルアリーサと従者パルナには一般枠で四日目の受験を受けて貰っている。

 年齢的に丁度良かったのと、私との一見接点の無い者に外側から協力者の視点で見張らせる役を必要としたからだ。

 他の五人にも普段はそれぞれ役目を与えて活動して貰っている。


 私の生命魔法はあくまでも生命の力、生命力を向上させたり寿命を伸ばしたりは可能だが、死者蘇生は出来ないのだ。

 私が彼等にしたのは新しい生命の誕生を創造魔法を用いた錬成と掛け合わせる事で応用した再誕であって蘇生ではない。

 彼等の状況はかなり特殊で、外界と完全に隔絶され輪廻の輪からすら外れて密室となった亜空間に収容されていたが為に、本来ならば霧散して世界に溶け込む筈の霊魂も魔力も残留思念も、損壊の少ない遺体を含めて個人を構成する要素の全てが保存されていた。


 生前の人格や特色を色濃く反映している為に一見すると本人の蘇生に成功している様に見えるが、構成要素と情報を使い故人を素材にして創っただけの、よく出来た模造品である。

 記憶も遺伝情報も構成要素の全てに本人の物を利用していても、理論上は別人なのだ。

 記憶が継続しているのだから再誕よりも転生のイメージが近いのかも知れないが、一度魂まで喪っているのだから転生にも該当しないだろう。

 まあ、それを判断するのは本人やそれを観た者達の主観によるというのならば、わざわざ私が口を挟む様な問題ではないが。


 ともあれ、百年前の真実を知る者から生の情報や知識を得られたのは私にとっても実に有意義だった。

 年中魔物との抗争を繰り返していた海神領域の王族だけあって基礎はしっかりと躾けられており、訓練すれば即戦力足り得る素養があったのは私にとっては好都合である。

 転写を使って現代の世界情勢を共有させ、各大陸へと派遣し海神領域の末裔として市民に紛れて生活させている。

 これからも諜報に使うつもりだが、いざという時の為にもダンジョンでの鍛錬と探索指揮を執って貰おう。


 どこまでの自由意志が有るのかは不明だが、いずれは独り立ちする可能性も考慮して給金や自由時間は設定しておく。

 実質的には主人と使い魔の様な関係性なので、魔術師界隈では一般的に使い魔へそういった配慮をするものでは無いのだが、さすがに人の人格を持った存在として誕生させた以上は、相応の扱いをしておくべきだろう。

 見方によっては、現在は国交も断絶して久しい利害関係の無い亡国の難民を雇い入れている、という体裁が近いだろうか。

 流石にジェラルドやプロシアに相談出来る内容では無いので全て自己判断で勝手にさせて貰うが。


 魔法使いが他に居ないのであれば前例も無かろう。

 蘇生と転生と再誕と錬成では、同じ人物を対象としても扱いに如何ほどの違いが出るのだろうか。

 そうした魔法と法律の境界線について哲学や道徳や神学的な魂の観念ではどういった解釈が為されるのか、その当事者たる一人の転生者として気になる所ではある。

 かと言って誰かに相談出来る類の物では無い。

 いや、いっそ論文にして全ての魔術師へ問い掛けてみるのも良いかも知れない。

 これは他の転生者達にとっても他人事では無いのだから。






《あとがき》


遂に主人公はやってしまいました。


こうして世界に、全く新しい人類が一つ加わりました。


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