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1000通りの計画  作者: Terran
第六章 クリムワイエの黄金姫
36/99

対勇者秘密会議



【対勇者秘密会議】


[262]

 勇者とは、存在そのものが奇跡である。


 アルセンダルク皇国第三王子ことイクスヴェイク・ソル・アルセンダルクは呪災を生き残った三名の神子の一人で、人神領域最後の神子。

 更に母親も神子という二代続けての奇跡の結晶。


 ただでさえ神子の産まれる確率は非常に低い上に、それが二代続けてともなると全領域で百年に一人生まれるかどうかという確率。

 そして元より強力な神子の力を更に上回る凄まじい潜在能力を秘めているという。

 この世界ではそんな二代続けて産まれた神子の事をこう呼ぶのだ。


 ―《勇者》― と。


 そして知ることとなる。

 その勇者イクスヴェイクこそが、リヴィアゼアの婚約者であるという事を。


 この世界では旧暦の頃から続く慣わしで、勇者の配偶者は必ず神子か神子の実子から選ばれる。

 世界最高の血統を残す為の【神婚】として、他のどんな事情よりも優先されてきた歴史がある。

 勿論、相手は比較的年齢の近い者や友好国から選ばれるが、適当な者が居なければ当然ながらその範囲は拡大する。

 仮に該当する候補者が居ない場合に限り、神託を受けられる聖職者から選ばれるらしい。


 つまり今回の場合は、都合良く一年違いでアルセンダルク皇国の友好国で隣国のエストバース王国に神子ティアーナの娘が産まれたとの情報を知って、当時の皇国側から打診があったというのだ。

 六神連盟からも【神婚】の要請は優先されるとして、発言力の強いファナリア大公家と言えども簡単に拒否する事は適わなかった。

 私の記憶にある婚約話は丁度その時に聞いたものなのだろう。

 それでも、いつ死んでしまうか分からないくらい虚弱体質だったことから、一度は保留にさせたらしい。


 しかし、その後の呪災による影響で状況が大きく変わる。

 全領域中からほとんどの神子の血統が失われた事により、一旦は保留にした婚約話もいよいよ現実味を帯びてしまった。

 残酷な話だが、王位継承権も持たず女児で神子ではないリヴィアゼアよりも、王位継承権が有り男児で勇者であるイクスヴェイクの方が価値が高く、事情も優先される。

 王国は唯一の神子の血統を皇国に奪われる事を何よりも恐れたのだろう。


 大公家と王室は連盟に働きかけ、早急な判断に傾かないように手を打った。

 ただでさえ神子が喪われ、僅かに生き残った血統を統合してしまうのは却って良くないのではないか。

 それよりも分家を多く作り血統を拡げるべきなのではないか。

 という意見を強めて徐々に浸透させていったのだ。

 これは得られた少ない情報と憶測を繋ぎ合わせて導き出した私なりの見解である。

 私に居るはずの婚約者の話題が出てこなかったのもそれが理由なのだろう。


 王家のルビリアは私に婚約者が居る事は承知していた筈で、それでも何度も縁談を迫って来たのは皇国が強く出られない内に婚約を取り付けて、連盟に対しては事後報告で決定を待たずに有耶無耶にしてしまおうという魂胆だったのかも知れない。

 徐々に世界に神子が誕生し、数が回復して喜んでいる隙にサラッと通せば、蒸し返して一悶着起こそうとも立場を悪くするだけ、デメリットしかない。

 セコいが有効な手だ。

 とても大国の取る手ではないし、無茶苦茶に聞こえるかも知れないが、実際それでも何とかなるのだ。


 何しろ勇者の【神婚】相手は候補が居なければ既婚者でも選べるのだから、私とルビリアの息子を結婚させてから改めて勇者と結婚させれば済む話である。

 皇国からは厭な顔をされるだろうが、頼み込んで来た側の弱みに付け込んでしまえばどうとでもなる。

 まさか王族相手に離婚しろとも言えないだろう。

 法を冒してない以上、面の皮さえ厚ければ大抵の道理なら引っ込めさせるくらい可能なのだ。

 そして、国のことを憂う者なら必要に迫られればそれくらいやる覚悟はある。


 だが逆はそうも行かない。

 勇者と神婚済の配偶者に後から結婚を申し出る事は出来ない。

 つまり国益を守るという一点を優先すれば、この策は間違いなく正しい行為だと言えるだろう。

 仮に私が国王の立場なら、実行するかどうかはともかく同じ策を考える。

 皇国だってそれくらいは織り込み済みだったのだろう。結局はお互い様なのだ。

 だがそれももう遅い。

 今回の勇者入学の件で決定的なタイムリミットを迎えたのだから。


 本来ならば自国の神子は自国で教育するのが当然であり、余程の特例でも無い限りは他国で育てられる事など有り得ない。

 例え弱小国であったとしてもそれは同じで、自国の教育機関が駄目なら優秀な教師を雇い入れてでも何とかする。

 神子とは神より賜りし子供。その価値は国宝と同等以上に扱われるべき存在。

 神子保有国というだけで連盟への発言力を高められ、同時に数々の特権を得るのだ。

 それが常識であるこの世界で、神子どころか勇者を自国から出して他国の学舎に入れるなど、狂気の沙汰で無いのだとしたら理由は一つしかないだろう。


 要するに皇国は本気で【神婚】を望んでいるのだ。

 例え自国から送り出してでも必ず達成させるという強い意志を持っている。

 それも勇者がまだ未成年の内に差し向けて来たとあっては、王室も心底驚いただろう。

 だからこそ、この緊急秘密会議。


 そして極めつけがこの顔ぶれ。

 今この場に居る「トフィアス」「シャリオン」「アルヴィン」、これに「アディマート」を含めた四人こそ、勇者さえ居なければ私の婿候補となる予定だったに違いない。

 ただの会議がしたいだけなら子供達は不要。つまりそういう事だ。

 この場に居る者達で、婚約者問題の白黒を付ける前に対勇者同盟を結ぼうと言うのだろう。

 敵の敵は味方。というのは少々聞こえは悪いが、勇者側が不意打ちしてきた侵略者なのだから、表現としては間違いではなかろう。


 シャリオンはまだかろうじて気骨は有りそうだが、他の三人には荷が勝ちすぎている。

 皇子がどの程度の実力かは識らないので感覚的に判断せざるを得ないのだが、並の神子ならともかく勇者相手では流石に無理があるのでは無かろうか。

 というより私は婚約者の名前すら初めて聞いた訳なのだが、顔すら不明な勇者の何を対策しろと言うのだろうか。

 詳細な資料が秘匿されるのは当然としてもせめて姿絵とか見せて貰えませんかね。




[263]

 ルビリアが挙手した。


「ルビリア、何か案があるのですか?」

「プロシア先生、いっそリヴィアちゃんには逆ハーレムを作って貰いましょう!」

「不正解です、着席しなさい」

「だってこのままじゃみすみす皇国の勇者に取られてしまうわ。それに勇者だもの、きっとハーレムとか作るに決まってるし、リヴィアちゃんが先に逆ハーレム作ったっておあいこでしょ?」


 物凄い偏見である。

 あと理屈がおかしい。早く着席しなさい。


「プロシア様、発言をお許し願いたい」

「ゼライド、発言を許します」


 さっきから進行役として口を開こうとする副学院長の発言前にプロシアが仕切っていてタイミングを逸している。

 うむ、おそらくジェラルドもそうしている内に今のファナリア家の形に落ち着いたのだろう。


 プロシアは天空人の王室で政略結婚の為に他国の王家へ嫁ぐ事を前提とした教育を受けていたスーパーウルトラ王女である。

 どの王家へ行っても通用する様な立ち振る舞いと気品を備えており、長命種故に夫が先立つ可能性も考慮して、何なら女王として采配を振るう事すら視野に入れて帝王学をも学んでいる。

 要するにこのクリムワイエ魔術学院は、学院改革による新体制へ移行してからはプロシア女王の統治する半独立国家と化している。

 従ってザナック副学院長という肩書きは魔術学院の教員達のNo.2ではなく、女王の家臣その一という立場が適切だろうか。


 会議を進めるにあたって前提となる学院と王国の力関係や、他国との均衡についての補足説明が始まった。

 元々ゼライドのヴァンスターク家の嫡子は代々王立学園に籍を置き、精鋭中の精鋭としての教育を受けてきた家系である。

 公に出来ない裏の家業の事も有り、身辺の者も騎士に連なる者で固めてきた為、魔術学院の派閥関係については新参なのだ。

 当然入学するにあたり下調べはしているのだろうが、相手は王立学園と違い上級貴族が多い権力の集中した学舎。一筋縄ではいかないだろう。


 学院派閥は基本的にはそのまま親の代の派閥関係に直結する傾向にあり、反目し合う貴族家同士であればその子女同士も対立する。

 さながら代理戦争の様相を呈するのだ。

 本来ならば騎士であると同時に独自裁量権のあるヴァンスターク家は王室派に入って支えるか、他にもっと位の高い者が王室派の側近をしているならば騎士派に所属して外部から諫める立場に徹するか、騎士派が不甲斐ないか対立する目上の者が既に所属済ならば自身で独立派閥を形成するという手段にも出られる。

 概ねより高位の身分の貴族が中心となって派閥は形成されるので、身分の上では侯爵位のヴァンスターク家ならば派閥を立ち上げてもおかしくはない。


 とはいえ、魔術学院では新参者なので傘下に入りたがる有力貴族家は少ないだろうから旨味は少ない。

 だが既存派閥では席を選べない新興貴族ならばメリットもあるので、一応選択肢としては有りなのだが。その話は置いておこう。

 今年は王国から王位継承権持ちが同時に二人も入学する。

 ならば中立を宣言してデメリットを負わないという道も本来ならば有るのだが、残念ながら既に片方に手綱を握られている。

 つまり私にだ。


 実は王室はこの事をつい最近知ったばかりで、ヴァンスターク家が学院に入学する事も、ファナリア大公家にではなく、個人的にリヴィアゼア配下となる契約を締結していた事も、ほとんど誰も知らなかったのである。

 私としては単に波風立たずに、誰にも邪魔されず自由に学院生活を送る為の下準備程度のつもりでやった事なのだが、周りの反応はそうではなかった。

 息抜きにお茶会に出席するようなミストリアと違い、あまり社交の場で積極的に動かなかったトフィアスは派閥形成においてやや頼りない。

 入れ違いで卒業したミストリアの派閥に居た新二回生三回生の先輩方を引き込んで勢力を維持する事も可能なので、例年の力関係ならそれで問題無かった。

 しかし今年は色々とイレギュラーが多い。




[264]

 勇者の入学により皇国派は非常に強固な物となるだろう。国の垣根を越えて傘下に加わりたいと声を上げる生徒はきっと多い。

 勇者パーティに夢見る子女は世界中に居るのだ。

 もし事前に勇者が入学することを公表していたら、今頃学院はパニックになっていただろう。


 毎年多大な寄付金と有力者を送り込む帝国派はライバル関係にある皇国に対抗しようと何か計画を立てるかも知れない。

 毎年帝国からの留学生が一番多いのだ。

 商魂逞しい帝国は手広く商売をしているので必然、派閥の規模も大きくなる。


 そしてもう一人の王位継承権持ちの私が最低年齢入学という方法で同時に学院入りしてしまった事で、勢力図の力関係を更に複雑化してしまった。

 セシリアの世代は継承権持ちはミストリア一人だったので多少強引でも派閥の一本化によって最大派閥を形成するに至ったが。

 継承権持ちが二人となると、どちらかがもう片方に属するのはおかしい。

 では派閥を分けるとどうなるだろうか。ただでさえ外国派閥が激化するのは目に見えているのだ。


 勢力図は、一言で言ってカオスである。


 ルビリアとしてはミストリアの時と同様に、王家のトフィアスに大公家からドルセーラを加えた王国タッグ計画で最大派閥を作り、問答無用に無双させられればベストだったのだ。

 が、蓋を開けてみれば勢力関係は完全に崩壊していた。


 神子の子である私は確かにエストバース王国の象徴的存在ではあるが、調べてみれば神子でも無ければギフトも無い残念スペックのお飾り姫。

 私自身もその境遇に不満は無かったのでルビリアと手を組む事には概ね賛成していたが、姉達のように傘下に入って大暴れする気は無かったので、トフィアスの控え目な性格も考慮して傘下には入らずあくまでも同盟関係を維持する形で互いに平穏無事に過ごす道を選ぶつもりだったのだ。


 予め粉を掛けた自分の派閥に入れる予定の貴族は何処の派閥にも属さない子爵家のオリナウト。

 従者にしてもファナリア大公派の貴族子女ではなく無所属騎士家の二女であるヒルデと、孤児のアルトという何の後ろ盾も無いフリー枠で、なるべく権力とかけ離れた影響力の少ない人選で固めたつもりである。

 追加したシャリオンにしても王立学園では影響力はあるだろうが、魔術学院では新参者で何処にも手を着けられていないノーマークな人材。

 ドルセーラは派閥関係は最初から私に丸投げする気満々で、勿論スタンドプレーもせず、というより何もせずに毎日暇潰しに精を出している。

 余計な事をしないのでイレギュラーは起こらないが、肩書き以外の影響力を全く持たないので戦力外である。


 比較対象となるミストリア組は本人もセシリアもミルミアナもバリバリの武闘派でイベント事も積極的に取り組み、三人が直接戦闘の最前線に参加する嵐のような派閥だったらしい。

 対抗馬は魔神領域の現役魔王の子息で最大派閥である王国同盟に迫る勢力まで拡大させ、常に王国VS魔王という戦慄の胸熱構図だったという。

 巻き込まれた他の派閥の面々には同情を禁じ得ない。

 ルビリアとしてはさぞ満足の行く活躍だったのだろう。

 そして入れ違いに入学するトフィアスには、セシリアとミルミアナの妹であるドルセーラと私が同時に入学するのだから、同じように学院を舞台にした代理戦争を掌握させたいと考えるのも道理。


 だが勇者が来た。

 勇者の対抗馬となるには王国同盟を強固にし、二大勢力として学院を真っ二つにして全面抗争の態勢を取るより他ない。

 何なら帝国と手を組むのもやぶさかではなかろう。

 他の貴族家や他国の勢力も、ここで王国に媚びを売るか、それとも勇者に与するかでどちらが得なのか将来性について値踏みする。

 会議の内容も行き着く懸念点はそこだ。

 千年以上築き続けた学院の名声や、聖戦を理想的な大勝利で飾った王国の威光を、たった一人の勇者という存在によって全て持って行かれる可能性すらあるのだ。

 勇者の影響力とは、それほどまでに大きい。


 入念な根回しをされないように、直前になるまで皇国の持つ特待生枠に誰を入れてくるのかを明かさなかった皇国のやり口に明確な意図を感じる。

 会議で話されている内容から、直前まで特待生枠を誰にするか決められなかった、と皇国からは見え透いた言い訳をされているらしいが、はっきり言っていい迷惑である。


 ルビリアはひたすらに王国の利益と不利益とを考えて、王室と自分の名声と権威の為に皇国を牽制して勇者をどうにかしたい。

 事前に分かっていれば勇者の入学を拒否したかったのが本音だろう。


 プロシアは私を守りたいが、学院長という立場から公正さを求められており自分の代わりに協力してくれる者を見繕いたいが、それは難しいと判断してルビリアの同盟話をどうにかして不利にならない様に締結したい、その為にゼライドを巻き込んだ。


 ゼライドは先日の一件で私に借りを作ってしまったのが、よもやここまで拗れた話に巻き込まれるとは予想だにしていなかったのだろう。

 私だってここまで大事に巻き込む気は無かったので気の毒だとは思うが、今更後には退けない。


 セレノアはアルヴィンをトフィアスとの学友とするべく同時に入学するようにと、ルビリアと予め音頭を取りあっていたらしい。

 父親の爵位こそシャリオンの方が高いが、嫁いだとは言え第一王女の長子であるアルヴィンは、今年の王国組ではトフィアスやドルセーラと私に継いでNo.4の立場にある。

 旧貴族は結束が固く、滅多な事では派閥の鞍替えをしないので仲間に引き込むには十分過ぎるリターンを見込める。


 ここに集まった面々は王国組同士の四貴族同盟そのものには概ね賛同しているが、その論議の様子を観ている私にはそれが最善策だとは思えなかった。

 彼等は勇者の影響力を認めこそすれ、自分達の立場をまだ認められないらしい。

 強国故の弱点とは、どの世界でも同じということか。




[265]

 顔に出したつもりはないが、プロシアとルビリアには私の纏う空気が察せられてしまったようだ。


「リヴィア、思った事があるなら言いなさい。その為に貴女を同席させているのです」

「そうそう、私も当事者のリヴィアちゃんの意見は聞いておくべきだと思うのよ」


 いや、他の子供達の意見も聞いてやって欲しいのだが、何故皆して私に注目する。

 この場にいる子女を含めても最年少なのですがね。


「同盟自体は構いませんが、知られないようにするべきですね。他の勢力への牽制のための宣伝などはもっての外です」


 ドルセーラがそろそろ限界そうなので駆け引きは無しで済ませてしまおうか。

 私は姉兄には甘いのだ。


「同盟って普通牽制が目的でしょ、何か有効な策があるのかしら」

「リヴィア、続けなさい」


 なまじ力を有しているから相手を自分の定めた枠に収めたがる。

 それが強国の考え方なのは解るが、それだけでは逆境に風穴を空けるには足りない。


「お祖母さま、確認ですがもし私が拒否すれば勇者さまとの婚姻の解消は可能ですか」

「貴女に限らず、ここに居る者の総意があっても覆すのは不可能でしょう」

「ですが、一度はそれがうやむやになりかけたのですよね」


 プロシアとルビリアは顔を見合わせる。


「プロシア先生が話したのかしら」

「いえ、私からは一度も婚約者の話をした事は有りません」


 された記憶は無い。

 プロシアどころか家族の誰からも、だ。


「出来れば王国としても無かった事にしたいのよ。でも皇国は絶対に認めないわね」

「ふふふ。けれど皇国側はそのことを認識しているからこその、今回の勇者さまのご入学なのではありませんか」

「ダメ押しって感じよね。入学には驚いたけど、皇国が何らかの行動をするのは納得してるわ。むしろここまで静観してたのが不思議なくらいよ」

「最初から、そのつもりだったのではありませんか」


 その場に居た保護者全員が私を意識した目をしている。

 いやいや、ここまでは集まったご婦人方ならその辺の事情は全員解っている事でしょうに。


「私もその様に思いますわ。事前に内々の連絡も無しに皇国らしくない少々強引なやり方を選ぶなんて、どこか不自然ですもの。ルビリアは何かご存知ではありませんの?」

「私はこの件は何も知らないわよ。陛下なら何か知ってるかもしれないけど、聞かされてないんだから知る必要が無いのよ。

確実に言えるのは、皇国は絶対にリヴィアちゃんと勇者の神婚を望んでいるってことよね。呪災で状況が変わったんだし、方針を変えてくれれば良かったんだけど」


 知る必要が無い。

 その一言で周りも追及する気は失せたようだ。

 これは私にも、その話題はこれ以上突くなという意味である。


「…それで、貴女の考える対策案について聞きましょう」


 皇国は神婚を絶対に推し進めたいが、王国は神子の家系を自国に残したい。

 今のルビリアとセレノアの反応からしてこの推測は正しいのだろう。


「お祖母さま、学院に通う子女には身分の枠組みに囚われず公平であるべきだと聞いております。

それは皇国の皇子であっても、それが例え勇者であっても平等であるべきですよね」

「ええ、理念としてはそう掲げています」

「実際には身分差はどうしようもない程の開きと待遇に違いがあるのよね。一応国家も緩和措置は努力してるんだけど、入学費と授業料が高いのだって仕方ないじゃない。魔術ってお金掛かるのよ」


 だからこそ寄付金額の大きい貴族家には相応の待遇が求められてしまい、それが身分差を明確化してしまっている。

 だが、慈善事業では無いのだから高度な教育と採算とのバランスを考えた運営では仕方がない部分でもある。


「ふふふ。資金面のお話ではありません。あくまでも教育内容にまで差を設けないという理念が大事なのですからね。だから王侯貴族であっても成績に色は着けないでしょう」

「はい、誓ってその様な真似はさせません」

「昔はあったけどね、プロシア先生が理事になってからそういった不正は徹底的にお掃除したみたいよ」


 当然起こり得る話であるが、天空人のプロシアの前で不正を行うのは不可能に近いだろう。

 それに学院改革で明確な不正ではないグレーゾーン部分の膿の排除も済んでいる。

 賄賂を受け取る教員なんてものは、今は昔の話である。


「ええ、素晴らしいです。ならきっと私の提案も簡単に実現できますね」

「……ッ」

「!!!」

「……っ!」


 こちらが折角嬉しそうな笑顔と声色でサービスしているのに、何故一同皆黙ってしまうのか。

 そうやって感情に警戒色を出さなくても別段悪い提案をするつもりはないのだが。


「ふふふ。なら公平に、勇者さまには物語の勇者さまのようにどこまでも正々堂々と、私にプロポーズをする権利を獲得していただきましょう」

「…リヴィアちゃん、何をさせるつもりなの?」


 勇者は清廉潔白、誰もが憧れる存在で無ければならない。

 有耶無耶な状況の打破の為に圧力を掛けるなんて、勇者らしくないやり方だ。

 正確には皇国がやってるだけで勇者は直接関与してないのかも知れないが、それでもだ。


「簡単なことです。

三年後、私の卒業の時点で、学院で最も優秀な成績を収めていた派閥には『婚約者候補』を立てる権利を与えましょう」




[266]

 その言葉に一同は静まり返り、その後全員が何かとてつもなく恐ろしいモノと遭遇したかの様な目でこちらを見ている、気がした。

 失敬な、ベストな提案だろうに。


「リヴィア、撤回しなさい。貴女は自分の言っている事の意味を解っているのですか、それは自分自身を賞品に、物として扱うと宣言するという事です!」

「さすがはリヴィアちゃん、本当に最高!

良いじゃないですかプロシア先生、いくら同盟を結んだところで皇国からの申し出は断れないんだし、だったら王国側にもチャンスがある方が私としては断然いいわ。

あはははっ。公平、平等ね、素晴らしいじゃない!」

「ルビリアは口を挟まないで下さい。これは家族の問題です」

「あらあら、面白いではないですかプロシア先生。

それに勇者であれば誰もが認める正道でお姫様に婚約の申し入れをするのも道理ですわ。これは皇国であっても断れないですわね。

いえ、この宣言後なら皇国一つが何を言ったところで世界中の民が許さないわ」

「セレノア、貴女まで…」

「申し訳ないですが、私も姫様の提案に賛成です。いえ、勿論プロシア様のお気持ちは分かりますが、これは誰が聞いても納得できる名分です。

少なくとも三年間は、婚約者候補の居ない状態でも誰も抜け駆け出来ない状況を作り出せます。その間に他の手を打つ時間と猶予が得られると思えば、これより優れた提案は出て来ないのでありませんか?」


 次々に追従する面々。完全に置いてけぼりを受ける子供達。

 おかしいな、解決するのが難しい問題をほぐすために解り易く簡潔にしたつもりなのだが。


「リヴィア。貴女はそれで良いのですか、当時は力足りず皇国からの婚約の申し出を断れなかったのは事実ですが、そのやり方では万が一があれば、勇者との婚約を解消出来たとしても、何処の誰とも知れない者の申し出を受けなければならなくなる可能性もあるのですよ?」

「そんな方なら少なくとも、勇者さまより優秀な殿方ではありませんか。

ふふふ。そう動揺しなくても本当に伝説通りの勇者さまならきっと勝ち上がって来るのでしょう。

あくまでも、皇国でも王国でもなく他の誰でもない、私に最終決定権があることを皇国にもう一度再認識してもらうための方便なのです」


 そう、皆の求める勇者像。その確たる証明もせずに政治と強硬手段で私のリヴィアを攫おうなど許すつもりは毛頭無い。

 特に王国に勝って欲しいとも思っていない。

 ただチャンスは平等に、学院長の孫娘が学院の理念を有言実行するだけだ。

 ちゃんとしている。筋が通っている。

 半ば有耶無耶になりかけた案件に再び正当性を持たせたいのなら、君達もせめて筋は通して欲しい。

 学院に通う皆に勇者はここに在りと示して欲しい。

 人々に希望の光を灯して見せて欲しい。

 それは勇者を名乗る者の、義務だ。

 義務を果たしてから、権利を主張したまえよ。


 それにこの方法なら、この世界で個として最強の存在である勇者の真の実力を推し測る事が出来る。

 他の英雄科の生徒との実力差は、転生者との比較は、それを一々学院生徒をけしかけて測るより、勝手に抗争をしてデータを大量に放出して貰える事を強く望む。

 それに私としては勇者が勝って貰っても一向に構わないのだ。何しろ最高戦力を手の内に引き込める訳で、皇国の持つ影響力を同時に手に入れらるのは大きい。

 王国側主導で勇者を引き込めずとも、新たな貴族家として独立する様に誘導するのも良いのかも知れない。

 幸い私の個人資産があれば生活にも計画にも支障をきたさない。

 結局どちらに転ぼうが私には利しか無いのだ。


「この件は一度持ち帰ってから再検討します。事は身内間で済む内容では有りませんので、ジェラルドや国王陛下にも話を通す必要が有ると判断します」

「大丈夫よ、必ずOK貰って来るわ。クリムワイエのお姫様争奪戦なんて、燃えるじゃない!」

「実行するのであれば外堀から埋めなければなりませんな」

「やだわ、夫にはなんて説明しようかしら。出来れば私もまた学院に通いたいくらいですもの」

「では皆様、試験終了後に改めて日程を通達致しますのでご希望があれば仰って下さい」


 こうして事前の秘密会議は終了した。

 次回はドルセーラ達が呼ばれる事は無いだろう。


◇◆◇


「リヴィア、厄介な面倒事に巻き込んでくれたわね。

でも自分達が頑張らなくても他所で勝手に争ってくれるなら楽でいいわ」

「ふふ。これが通れば私達は中立を宣言できますので、ドルセーラお姉さまも一緒に高みの見物をしましょう」

「私はそれでも良いけど、リヴィアは渦中で政治をしている方が似合いそうよね」

「あら、私は平穏な学院生活を望んでいますよ」

「あんな提案しておいて、説得力が無いわよ…」


 それは誤解である。

 例え周りがどれだけ殺伐とした争いを繰り広げていても、私とその周囲が余裕を持って無事に過ごせるのなら、それは平穏なのだ。

 大貴族の娘に生まれた以上は婚約も政略結婚も含まれるのは必然で、自分と国の為に最大限有効に活用してこそ実力ある貴族の子女としての嗜みと言えるだろう。


 今回やった事と言えば、内々の紹介販売から競売形式に変更しただけである。

 それに先ほどは口に出さなかったがこの形式なら、気に入らなければ自分で競り落とすという選択肢も有るのだ。

 プロシアには後でその事を伝える。

 意気込んでいるルビリアには申し訳無いが、公平なルールという物は当然ながら自分自身にも適用されるものなのだよ。

 最終的に私が私を競り落としても、ルールには抵触しない。


 せっかく魔術学院歴代最高品質の生徒達が入学する年なのだ。

 勇者も、王族も、貴族も、商人も、平民も、別け隔てなく学院生活を励んで欲しい。

 そして互いをライバルとして切磋琢磨して貰いたい。

 意欲こそが、人類を前へと進ませる。


 私の学院における計画はここに始まる。






《あとがき》


大人達だけが盛り上がって子供達が置いてけぼりの図。


当事者にさせられるので強制参加の上、自分達の頭越しに行く末を勝手に決められていく、これぞ父兄、これぞ貴族、これぞ会議。


大人顔負けの頭脳って、実際に目の当たりにすると恐ろしいものです。


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