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1000通りの計画  作者: Terran
第六章 クリムワイエの黄金姫
33/99

魔術学院入学試験 1



【入学試験】


[254]

 冬が明け、春の訪れを待つまでの少し冷え込む空の下。

 エストバース王国領内の端にある特別区、その中央にあるクリムワイエ魔術学院は今年も受験に訪れた大勢の子女達で賑わっていた。


 入学試験は四日間に分けて行われる。

 何故わざわざ労力を増やしてまで分けるのか、それは純粋に受験希望者が桁違いに多いからである。

 ここ数年は年々増え続けていたが、今年は去年の更に倍の受験者数となり史上最多となった。

 それもこれも先にあった人神領域での大勝が大きかったと見るべきか、魔術学院の改革以降は世界的に注目されている中での後押しとなったのは間違いない。


 受験初日は国内上級貴族と推薦組。

 二日目は人神領域の他国勢と国内貴族。

 三日目は海外からの留学組。

 四日目は一般受験組、とに分けられる。


 初日はエストバース王国の伯爵家以上の子女と、審秘官の判別によって学院卒業生の正規の魔術師達の弟子となった国内推薦組が受験する。

 どちらも予め家庭教師や師によって合格ラインを満たしていると判断されており、ここの組の実力次第でその後に受ける受験生全体の合格基準が決まると言っても過言ではない。

 去年の合格率はおよそ7割強で100名程度。

 いくら上級貴族や推薦組と言っても、必ず合格するわけではない。

 不合格となった残りの3割弱はほぼ全員が浪人生となる。


 二日目の人神領域中の国々からの受験者の多くは資金力のある王族や有力貴族や大商会の子女達で、その実力も確かな者が多い。

 魔術師としての適性だけならエストバース王国の貴族達はかなり高いが、総合的な能力では他国の者も全く引けを取らず、特に皇国や帝国からの受験生の質は高い。

 去年の合格率は他国組が5割で50名、国内貴族が2割強で50名、こちらも併せて100名程が合格した。


 三日目の別大陸からの受験者数は年々増え続けており、特に長寿な種族の子女は入学年齢制限が人間族より緩く、観光がてらに記念受験する者も多い。

 合格基準すらロクに調べもせずに受験する者も少なくないので、毎年三日目は混沌を極める。

 例年の合格率は数%だが、卒業生と遜色ない実力を持った規格外な生徒も混じっていて玉石混交。

 安定しないが大体40〜80名程が入学する。


 四日目は魔術協会所属員からの推薦を持たない自己推薦組の一般受験生が試験を受ける。

 希望者全員を受け付ける訳にも行かない為、予め各地の魔術協会支部で行う簡易試験を合格した者だけが本試験に臨む。

 簡易試験の受験者数は半分冷やかしも含めると軽く数千人を超えて、簡易試験で大部分が篩い落とされ、本試験はその1割弱が臨み、合格するのはその更に2割程度である。


 去年の総合格者数は350名強で、その2/3は何処かしらの貴族の子女であり、学院改革後も貴族の学舎のイメージは根強い。

 魔術協会調べによる簡易試験を含めた今年の総受験者数は軽く1万人を突破したらしい。

 去年の倍近い受験者数に登ったのは、先日の人神領域で発生した異境をエストバース王国主導の下で大勝した影響が大きいのだろう。

 魔術学院に限らず、王立学園の受験者数も倍とは言わないが去年以上だというデータもあった。


 聖戦終結から日が浅いため、土壇場になって急遽魔術学院への受験の舵を取った者も少なくなかったのだろう。

 特に海外からの受験には大陸間を越えなくてはならないことから、遠方からだと急ぎでも移動だけでひと月以上かかってしまう。

 合格するかも定かではない受験に月単位の時間をかけてまで訪れるのは、公務として戦勝国への訪問団に便乗して、有力者達が自分の息子や娘を同行させる許可を貰い、合格したら儲け物くらいの感覚で受けさせているのかも知れない。

 今年は、他国の最高峰の学舎を合格出来るような実力を持った子女も大勢受験するということだ。


 神子不足の現在。

 何が何でも自領域の聖戦で勝利出来る次世代の英雄を育成しようと、全世界の有力者達が自国の子女によるクリムワイエ魔術学院への入学を切望していた。

 千年以上の歴史を持つ魔術学院でも、おそらく今期の新入生の質は歴代最高となるだろう。

 実に面白いではないか。




[255]

 試験の内容は筆記四教科と実技三教科、その後は面接となる。

 希望する学科によって試験内容は多少違っており、採点で重要視される比率も異なる。


 例えば学術科では筆記試験の採点が重要視され、武術科なら武術の実技、魔術科なら魔術の実技といった具合で、比重の大きい試験結果が合否に響く。

 貴族科は少々特殊で面接試験の比重が大きく、保護者も面接対象となる。

 ここでの礼儀作法も採点基準に厳しく加えられる等、他の科とは扱いが大きく異なる。

 これは一見厳しいように観えるが、実際の所はその逆。一芸に秀でなくとも礼儀作法や保護者の態度で加点が貰えるのだから、多少の実力不足をここで補えるのである。


 転生者視点で観れば実力不足の貴族をそこまでして入学させる意味は寄付金に拠るのだと揶揄するだろうが、それは20点の解答である。

 この学院出身の英雄候補達を従えるのは貴族なのだから、同じ学舎で面識を得たり実力を知る事は必須と言えよう。

 必ずしも貴族が強く無ければならない理由は無い。

 才覚ある者を従える事こそ上に立つ者に必要な教養なのである。

 故に面接で貴族としての教育をどの程度受けているのかを重要視するのも当然で、多少実技や筆記で遅れを取っても埋め合わせとしては十分と判断されるのだ。


 そして特殊なのは従士科も同じで、こちらは逆に面接は簡単なものだけ、筆記も実技も他の科と違い比重の大きい科目は無いが、後ろ盾となる主人の面接の結果が影響する。

 本人より主人とその実家の実力が大事なのだ。

 この従士科は、貴族科を希望する受験生は同時に専属使用人枠を一つ獲得し、これを適用した従士が試験に臨む事となる。

 しかし他国の貴族の学舎と違うのは主人の合否とは別に合否判定が有るという、実力主義な点だろうか。

 勿論、不合格でも専属使用人として身の回りの世話をする為に出入りは可能だが当然生徒ではない。

 このシステムが入学後に大きな影響力を持つのだが、それはまた別の話。


 筆記試験は語学、算術、史学、魔術の四科目。

 語学は共通語の語彙力や文法問題といった基礎部分だけなので、共通語の本を読んでいる者なら別段難しくはない。

 算術は四則演算がメインで他は多少の文章問題がある程度、扱う数字が大きいだけで私の前世基準なら算数である。

 歴史は世界史の年表問題や偉人や大事件の名前問題といった大雑把な物で、こちらも学んでさえいれば難しくはない。

 魔術は初級と下級魔術の術式問題や魔力関連の知識問題や間違い探しといった基礎で、師匠から学んでいればどうという事は無い。


 転生者からしてみれば拍子抜けだろうが、手応えある二枚目や三枚目の試験問題があり、こちらは満点を取らせる気が毛頭ない。

 三枚目はおそらく学院の在校生でも苦戦するだろう。




[256]

 魔術学院の敷地内にある一区画、外来客をもてなすホールや会議室、応接室等を各階に配置した理事塔の上階に私は居る。

 最新の魔導昇降機(エレベーター)が三台設置されており、中世の西洋式の内装とは裏腹に、建築物としては塔よりビルに近いと思われる。

 魔導車もそうだが、この世界では所々で技術力の高さが覗える。


「私も受験生に混じらなくていいのかしら」


 ここは学院長室、部屋に居るのは受験生の私と学院長である祖母プロシアの二人だけ。


「その事ですが、今年は受験者数が想定を大きく上回る人数となり、一部の受験生には別枠での試験を執り行う事となりました。

その中には貴女も含まれていますよ」


 口ぶりからして、一週間前か十日前か、直前になって急遽便宜を図るべき受験生だけ隔離受験する決定がなされたのだろう。

 もっと早い段階で決定していれば別の日に前もってVIP子女のみで試験を受けさせれば済んだ話である。


「ふふ。このままだと三日目と四日目の警備兵や試験官が足りなくなりそうね」

「王国軍に応援要請を出しましたが、試験官に関しては一朝一夕ではどうにもなりません。

協会員への増員の手配はしましたが、全体のカバーには至りませんね。当日は予定の試験時間を大きく超えてしまうでしょう」


 元々王国軍にも応援要請をして、魔術協会員からも派遣で人数を増やしていてなお、捌き切れない規模で人員不足に陥っているのだ。

 呼びかけに応える気のある者は予め確保していたのだ。

 その上で直前になってからの追加の応援要請では動員人数は大して増えないだろうし、倍に増えた受験生に対応するには全く足らないのは明白である。


 例年なら予め願書の受付時点でおおよその人数は把握しているが、今年は冬の聖戦直後に志望者が一気に増えたのだ。

 具体的な人数が分かってからでは対処出来ない程の圧倒的な物量で押し潰されようとしていた。


 しかし、しかしだ。

 彼等を受験させる為に送り込む他国が必死になるのも、結局のところ人神領域での聖戦で大勝し過ぎたのが原因である。

 つまり私的な理由で聖戦の勝敗を左右する対策を講じさせた私にも、若干の責任があると捉えられなくも無い、かも知れない。


「お姉さま達に協力を要請してみてはどうでしょうか」

「セシリアやミルミアナにですか。それは、どういう意図ですか?」

「春休み中でも学院に残っている来期の四回生と五回生を動かして試験官の補佐をしてもらうのです。

今期の卒業生でも年度明けまでは徽章の信号が有効ですから、動員しても管理は容易です。

それに改革後の試験内容に関しては協会員よりずっと詳しいですもの」


 どうにも大貴族というものは責任者として働く事には抵抗は無いが、人数としての役割を充てがうという発想からは外される。

 てっきり四回生や五回生は受験会場の手伝いはするものだと思っていたが、そういう雰囲気は全く無かった。

 これほど現場に適した人材を抱えておきながら使わないのは非合理極まりないと思うのだが。


「大胆な発想ですが、貴女の言いたい事は解りました。

名のある貴族家の子女にさせる様な仕事では有りませんが、それが最も合理的なのは事実。なのですが、おそらくセシリアとミルミアナだけでは不足でしょう。体面もありますからね、実行するのであればミストリアにも要請します」


 ここエストバース王国の王太子の娘であるミストリアなら在校生への呼びかけ役としては適任だろう。

 最も身分の高い者が率先して応援要請を受ける、という構図なら他貴族家の子女も動かしやすい。


「…リヴィア。最初からミストリアを巻き込むつもりで提案しましたね」

「直前なのですから、連絡は早い方がいいですよ」


 プロシアは連絡の為に内線の受話器を取る。

 私の言った事はもっと前から提案出来る内容だが、助けを求められない限りはこちらから申し出るつもりは無かった。

 あくまでも私は、今になって大混雑の危機を知ったに過ぎないのだから、その条件下で最善案を出せばそれで良い。

 もちろん使えるのであればこの国の姫だろうが国王だろうが顎で使う事に躊躇いは無いが。


◇◆◇


 私の試験は既に終わっており、その場で採点して合格と判定されていた。

 試験会場にも行かず、他の受験生と顔を合わすこともなく、実に味気無いが。どうやらプロシアは極力他の受験生と接触する機会を減らしたいらしい。

 理由はいくつか挙げていたが、個別試験で実力を正確に測りたかったのが一つ、不特定多数の人々の傍に護衛も無しに置いておけないというのが一つ、武術試験免除での受験という特別措置を晒せないというのも一つ。

 それらは建前で、外来の父兄に私の姿を見せる事そのものを回避したかったというのが一番の理由なのだろう。

 過保護だとは思っていたが、時折どうにも行き過ぎな気がしてならない。


 ちなみに受けていない武術の採点はゼロだが、受験の採点に関しては非公開なので問題無いとのこと。

 まあ、貴族科志望なら成績なんて文字通り飾りでしかないのだから、一教科程度どんな点数だろうと構いやしないのかも知れないが。


 ヒルデとアルトは他の受験生に混じって受験している。

 一応アルトには模擬試験で一緒になった者達と遭遇する確率を下げる為に従士科の試験を受けて貰っている。

 とはいえ専属使用人枠が使えるのは原則一つ、ヒルデには名目上はギルバートの弟子として推薦枠で受験へと臨んでいる。

 プロシアからは専属使用人二人でも良いと言われたがそれは断った、というのもヒルデには敢えて目立って貰いたかったからだ。

 この件に関しては内々に本人の了承は得ている。


 私がヒルデに提案したのは、従者の仕事は最低限で学院生活を優先して良い事、持ちうる力の限り実力を試して良い事、好きな学科を選んで良い事、その全てを私が支援する事だ。

 流石に最初は戸惑っていたが、英雄科を狙っても良いという事に気が付いて満更でも無くなった様子で、従士科ではそれが難しいという事からも同意してくれた。

 ヒルデには私の代理として学院生活で実力を発揮して過ごし、学院に居るであろう他の転生者達や英雄候補生との力量差という物を推し測る目安として働いて貰う。





《あとがき》


新編突入しました。


学院編開幕だというのに、主人公は相変わらず試験をまともに受けずにゆったりとVIPルームですね。


ちゃんと目立たず安定の運営サイドをやってくれています。


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