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1000通りの計画  作者: Terran
第三章 七光の魔女
13/99

七光の魔女 2



【学習の手引】


[154]

 エストバース王国には三大学舎と呼ばれる由緒正しき高等学校がある。

 基本的には平民なら初等学校卒業、下級貴族なら中等学校を卒業していれば生活に問題は無い。

 この世界での高等学校卒業とは、前世の大学卒業と同等の価値があると思われる。


・[セントルーニア聖堂院]

 新暦になってから世界宗教となった六神教会が後ろ盾となり建てられた人神教会の運営する学舎で、各地方領地が運営する初等学校を卒業した者であれば身分を問わず誰でも入学試験を受けられる。

 入学条件は満12歳〜15歳の初等学校卒業か、それに相当する学歴を持つ者。

 冬明けの時期に指定の教会で試験があり、それに合格することで晴れて聖堂院の生徒となる。

 将来教会関係の仕事に就くことを条件に無償で奨学金が出ている。

 平民出身で安定した収入と地位を得ようと思えば教会関係の要職に就くのが一番であるとされる。

 貴族達も世界的に強い発言力を持つ教会関係者と懇意にする利点が多く。

 それに伴い教会で地位を持つ者の扱いは相応に高い。

 平民で実入りの良い医師を目指すなら聖堂院にも道はあるが、狭き門であり競争率が凄まじい。

 生徒数は並程度。

 奨学金目当てもあり、国内の平民の応募数は学舎の中ではトップ。


[入試: ☆☆☆]

: 初等学校で上位に入る者なら筆記試験は通る。教会関係だけあって面接試験が厳しい。


[学費: ☆]

: 平民出身でも頑張れば工面できる額。教会から奨学金も出ている。


[学業: ☆☆☆]

: 教会関係、職能、学問なら一通りの学科はあるが、武術や魔術に関しての専門学科は無い。


[就職: ☆☆☆]

: 職種を選ばなければ卒業生全員に就職先を斡旋できるだけの求人は有る。高級職種に関しては成績上位者に限られる。


[聖戦: ☆☆]

: 武術や魔術の学科が無いことから英雄となる卒業生はとても少ない。医療に携わる者が活躍する場面はそこそこある。



・[エストバース王立学園]

 総合的に何でも取り扱っている学舎で、特に騎士や組合幹部志望の者に人気である。

 王国の出資により運営されており、王宮管理の下で官僚の天下り先でもある。

 入学条件は年齢問わず満12歳以上で、冬明け後の試験にさえ合格すれば入学できる。

 試験内容は座学、実技、面接となっている。

 洗礼の儀や成人の儀で有望なギフトを得た者は推薦を受けての試験となり、面接後に座学実技の試験か特別講習のどちらかを受けて入学する。

 特別強いギフトでなくても聖戦で活躍して名を挙げたい者達。

 冒険者になりたい者に特に人気があり、聖堂院より門戸が広く生徒の募集人数も多く最大手である。

 騎士家や低位の貴族の子女も多く通っており、魔力で劣るが力では負けないと豪語する者も多い。

 大会や公開訓練も多く、何かと人の目に触れる機会があるため、優秀な者は在学中にスカウトされて冒険者デビューしたり騎士団入りの内定を貰えたりするようだ。


[入試: ☆☆]

: 筆記試験の難易度は高くない。実技試験の評価割合が高めに設定されている。


[学費: ☆☆]

: 成績優秀者であれば学費の援助は受けられるが大抵の者は自費。年齢制限が緩いことから学費を稼いでから入学する者も少なくない。


[学業: ☆☆]

: 実技重視のため、学業は普通科と武術科なら中等学校の延長程度の水準。他の科は高等教育水準。


[就職: ☆☆☆]

: 聖戦への参戦意思が有るなら卒業後の進路に困ることは無い。特に王国騎士団の人気が高い。


[聖戦: ☆☆☆]

: 現役騎士による戦闘訓練等により卒業生には優秀な騎士を数多く排出している。



・[クリムワイエ魔術学院]

 数々の英雄や将軍を排出してきた王国だけでなく人神領域内で最高位の学舎として名を轟かす。

 卒業生達の出資や理事を務める魔導大公ファナリア家が後ろ盾となり運営されている。

 エストバース王国内外で有名な二つ名持ちや、称号持ちの多くがこの学院出身ということもあり、世界的にも有名な超一流校。

 洗礼の儀、恩寵の儀、成人の儀で特に有用なギフトを得た者を優先して卒業生に弟子入りさせて入学までのサポートをする。

 逆に推薦以外の募集人数は極端に少なく、外部受験もあるがほとんどが卒業生の弟子を推薦することでの縁故入学である。

 入学試験前の書類審査では、学院卒業生の推薦、魔術協会所属の魔術師以上の推薦、国内なら男爵家以上、国外なら子爵家相当以上の推薦。の順に効力が強い。

 当然ながら保証者の身分が高い程有効。

 推薦があっても入学試験があり、難易度は貴族の子女が家庭教師を付けてようやくというレベルで非常に厳しいことで有名。

 入試は春前頃で最も遅く、二次募集も行っておらず門戸が狭い。

 全寮制で入学前の寄付金額による寮のグレード分けがある。特待生は学費諸々免除。

 試験は書類、測定、筆記、実技、面接とあり、受験者もそのほとんどが貴族の子女である。海外からの留学生も多い。

 受験者は人間族なら満12歳〜18歳までと決まっている。これは若い内でないと魔力がよく育たないからとされており、他の種族の入学も見合った年齢基準が設定されている。

 下限を12歳としているが入試難易度やギフトの関係から、概ね15歳の成人の儀を終えてから入学試験を受けるのが一般的である。

 早期受験のメリットも無く、どの年齢であっても卒業時点の成績が生涯成績となるので上限ギリギリまで師の下で修行してから入学する方が有利と言われている。

 ここで落ちた者は滑り止めの王立学園か、浪人して師の下で再入試に備えるかを選ぶことになる。

 基礎魔術も勉強するが応用魔術に力を注いでおり、学業以外にも宮廷作法や芸術といった分野まで幅広く扱っている。

 王立学園や近隣国との合同実地訓練もあるが、他校に負けることが許されておらず、とてつもなく厳しい。

 科によって選考基準となる難易度に違いがあり、従士科、貴族科、学術科、武術科、魔術科、英雄科の6つに別けられている。

 その知名度の高さから、卒業生というだけであらゆる職種で引く手あまたである。


[入試: ☆☆☆☆☆]

: 世界的にもトップ3に名を連ねるほど高難易度。一般入試は門戸が狭く競争率は世界一高い。


[学費: ☆☆☆☆]

: とてつもなく高額だが奨学金や援助金の制度が充実しており、平民でも優秀なら在学中の生活費の心配すら要らない。


[学業: ☆☆☆☆☆]

: 一般教養から専門的な分野まで幅広く受講できる自由度の高い実力主義。教員のレベルも高い。


[就職: ☆☆☆☆☆]

: どんなに落ちこぼれでも卒業さえすれば就職先は沢山有る。入学から関門なため中退でも名を上げる者もいる。


[聖戦: ☆☆☆☆☆]

: 卒業生から多くの英雄が誕生している。特に英雄科の質は最前線でも通用する即戦力級とされる。




[155]

 セシリアとミルミアナとミストリアの三人は去年成人の儀を終えており、今年度から仲良く魔術学院へと入学を果たした。

 なんとミストリアは八席しかない英雄科の第一席での入学だというからとんでもない。

 さすがはあのルビリアの娘、と周囲もご満悦らしい。

 セシリアとミルミアナも優秀な成績で仲良く貴族科へ。

 ミストリアの所属する英雄科は成績トップ勢や特待生のみで構成された少数精鋭の超エリートクラスである。


 ちなみに大まかな科の成績順だと、

[従士科]<[貴族科]<[学術科]<[武術科]<[魔術科]<[英雄科]

となっている。

 学業以外の授業が多く、主人と行動を共にする時間を確保する必要のある従士科は他の科よりコマ数が少ないので仕方がないとはいえ。


 貴族科はほとんどお飾りで多額の寄付金で入学させて箔を着ける目的の子女が多いためか、平均的にどの成績も中途半端で他の科より総合成績は低い。

 バランス型の貴族科と本人達は言っているが、真に通用するのは貴族科上位の生徒に限られる。

 とはいえ、年頃の子女達が良い縁談を結ぶために通うのが貴族科の目的の一つなのも確かなので、それでも問題はないのだろう。


 セシリアなら武術科を選ぶかと思いきや結局学院でも一緒が良いらしく、ミルミアナも魔術科には行かずに二人して貴族科を受験したそうだ。

 容姿も実力も財力も権力も家格からしても縁談話には事欠かないはずの二人が未だに婚約を結べていないのは…いや、この話はよそう。

 良い縁談が結べることを祈るばかりである。

 ミストリアは今期の王族枠であり、セシリアとミルミアナという大公家の最強タッグが取り巻きということもあるためか、たった三ヶ月で学院カーストの頂点の一角として大派閥を形成したようだ。

 今の魔術学院に通う子女で王家+大公家x2に身分で敵う派閥は無いだろうから仕方がない。

 あの三人だと作戦が常にガンガン行きっぱなしアクセル全開の様な気もしなくもないが、誰かブレーキ役は居るのだろうか。

 学院が心配である。


「専属従者も連れて通ってるから平気よ」「ええ、二人共良い子なのよ」


 姉二人のことは心配していないのだが。

 二人の従者はレミとファラ。

 魔術の素養のある双子でギフトも全く同じだという。

 『以心伝心』という互いの状況を常に把握できる上に念話まで可能という特殊型の希少ギフト持ちだ。

 聖戦においても重宝しそうな、とんでもない逸材を拾ってきたものだ。

 私が入学する際には、私は学術科でヒルデは従士科が妥当だろうか。

 強い魔力はあまり必要とせず、知識が実力に結び付きやすい錬金術師や魔道具技師は魔術科ではなく学術科に多いらしい。


 推薦であっても試験があるのならヒルデには本格的な指導が必要になるだろう。

 一応卒業生のギルバートの弟子扱いだろうから資格としては問題無いが試験だけは問題だ。

 高学歴が一流企業の就職を有利にする材料になるのは何処の世界でも同じようだが。

 私の場合は就職の心配は要らないのだから完全に興味本位や箔を付けることだけ考えれば良さそうである。

 今度ジェラルドに魔術学院で扱わない様な他国の魔術書でも頼んでみよう。

 どうせなら魔術学院でも学べるジャンルは入学後に任せて、網羅しきれていない知識や技法を修得しておく方がよっぽど有意義というものだろう。

 それに際して、魔力以外の技術向上を優先して推し進めるべきかもしれない。

 既に氣功は呼氣だけでも身体の維持が可能な域ではあるが、可能なら更に発展させておきたい。



[156]

 勉強の効率と能率は両立しなければならない。

 魔術は先日増えたギフト術式鑑定の影響で究める目処が立ってしまった。

 正直なところ、同時進行だと魔術の完成度が先に上がるため、後々の事を考えると全体の効率が下がってしまう懸念がある。

 脳の違う領域を使う物同士の習熟度というものは出来得る限り同等に上げていくべきなのだ。

 これは魔術や氣功だけの話ではなく、勉学にも共通して言える話である。

 同じ分野ばかり集中して勉強しても、連続していると時間と共に能率は下がる。

 例え得意分野であろうとそれは変わらない。


 違いがあるとすればこうなる。

 得意分野Aが200の学習能力だとして、並の分野Bが100、苦手分野Cが50ならば。

 時間による能率低下で習熟スピードが二割ほど下がったとしても得意分野は160あるため、並の分野と比べれば全然スピードが高いので当人は気にならないのかも知れない。

 しかし全てを1000の習熟度にするつもりなら、仮に一日に使える時間を3コマに分けて、休息や睡眠で少しだけ集中力が回復するとして。


A200+160+120、A160+120+80、A120+80。

B100+80+60、B80+60+40、B60+40+20、B40+20、B40+20、B40+20、B40+20、B40+20、B40+20、B40+20、B40+20。

C50+40+30、C40+30+20、C30+20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10、C20+10。


 という勉強法では42日掛かるが。


A200.C50+40、B100.C50、B100.C50+40、A200.C50、B100.C50+40、B100.C50、A200.C50+40、B100.C50、B100.C50+40、A200.C50、B100.C50+40、B100.C50、A200.C50+40、B100.C50、A100.C50。


 ならば15日で終わる上に終了時の集中力の疲労も残らない。

 脳の同じ箇所ばかり酷使すればそれだけ能率は下がるし疲労もする。

 疲弊したあとの回復には少し間を取るなり、そもそも酷使しないことが重要だ。

 となれば必然的に全てを最大まで引き上げるつもりならば、苦手分野を意識しつつ満遍なく鍛えるのが最も時間効率が良く余計なストレスも掛からない。

 私は今世においてはただ一つが出来れば良い等という、非効率かつ可能性を狭めて最終到達点を下げるような真似は極力しない方針である。


 私はかつて一点集中だけで何でも実現しようとする偏った才能の持ち主だった。

 故に片端な天才の利点と欠点を痛いほど知っている。しかしリヴィアはそんな凡庸な天才とはものが違う。

 その才能を本気で育むつもりならば、各分野の専門家達より高い到達点へ、特化型の天才達より早く、努力型の秀才達より効率的に、あらゆる要素を計画的に駆け上がる方法を取るより他ない。

 そうして走り続けている限りは、他者との距離において決して置いて行かれることも、追い付かれることも無いのだから。


 もっとも、未発達な全能期に可能な限り脳の全ての機能を発育させたリヴィアには得意分野と極得意分野と超越得意分野しかない。

 ならばケチケチせずにそれぞれを4000や8000、16000の習熟度を目指そうとも実現は可能である。

 これは規格外でもなんでもない。ただ誰もやろうとしていないだけで、転生者ならば誰にだって出来る可能性のある事柄なのだ。

 あくまでも努力でどうにかできる範囲、つまり常識外ではあっても規格内の到達点である。



[157]

 夏が終わり秋。

 リンデノート領大公邸の敷地内にある私専用の工房で、空いた時間を有効活用して魔導具の研究に明け暮れていた。


「町二つの往復ですか」

「ヒルデは私と一緒に魔術学院へ行くのでしょう」

「わ、わっかりましたぁぁ」


 最近ではギルバートの魔術訓練の他に一日置きにお使いを出し、空いた一日はエスクラッドの武術訓練に充てさせている。

 6年間みっちり体力筋力精神力体幹柔軟判断力を鍛えつつ、前世の記憶にある整体の技術を本から得た知識と言って伝授してある。

 ヒルデは実力で成り上がった騎士家の娘だけあってなかなか良い素体である。

 必要な栄養素も睡眠も十分に与えているし、私の特訓メニューを毎日こなしているせいか、文武問わず飲み込みも格段に良くなっていた。

 この世界の人間族の成長データ取りで始めたが、なかなかどうして見所がある。


 もちろん燃焼効率ばかり上げない様に気を遣って育成してある。

 燃焼効率を上げすぎると身体に脂肪が付いても運動さればすぐに燃焼してしまうクセがつく。

 筋力を上げたり体力を手っ取り早く付けさせるには確かに効率は良いが、だからといって身体を絞りきったスポーツ選手を育てたいのではない。

 ある程度の脂肪は残した状態で、余分は燃焼するが、そこから先は別の燃料へと切り替わる設計にしている。


 私の理想とする育成計画の完成形は、女性らしさを失わせず一流アスリート並の身体能力との両立である。

 これを実現するのは並大抵の事ではない。

 可能なら前世の女性アスリートの大部分はそれを実現させようとしたはずだ。

 だが他のアスリートに差をつけるには、どうしてもそこは捨てざるを得なかった。

 更にやり過ぎれば健康美すら失わせる程の過酷な体つきにも成りかねない。

 実に悩ましき問題である。


 これを解決するには、まず身体に覚えさせなければならない。

 ここから先は蓄えたエネルギーを消費する段階へと切り替わるタイミングを、何度も反復して馴染ませる必要がある。

 これを独力で掴むのは難しい。

 長らくこの道に携わっていれば自ずと感覚が掴めるものだが、年端も行かぬ娘がその領域を知るにはそれこそ相当過酷に追い込まないとならない。

 そしてもちろん、その先にあるのは過度なトレーニングの弊害でホルモンバランスを崩し女性らしさを失った身体が完成する。

 それでは本末転倒だ。


 それを解決するのに必要なのが身体の管理を担当する専属トレーナーの存在である。

 的確なタイミングで栄養補給させたり、使った筋肉とは別の部位を使うように切り替えさせたりするだけでも大きく違う。

 この世界には魔力もあるのだから、体内燃料切り替えのタイミングで魔力消費により体力消費をカバーする方法も使える。


 ヒルデには私が付いている。

 私がヒルデに一流の身体能力と一流の女性としての美を両立させてしんぜようではないか。

 そしてこれは、リヴィア自身を鍛えるに当たっても流用出来る知識と技術なのだ。俄然やる気も出るというもの。

 そうして何年もの間、大量かつ必要な栄養と密かな微調整や燃焼切り替えを仕込んだ結果。

 同年代の他の女子と比べても、明らかに健康的で良い身体付きへと成長させることに成功した。


 まあ、私個人の主観や好みとしてはもっと丸みのある脂肪を蓄えた感じが望ましいのだが。

 ヒルデ自身の素材の味を活かすなら健康美+αをテーマにした作品として完成させるのが相応しい。

 途中経過としては上々ではなかろうか。


 私は常々ヒルデに美しさは育てるものであることを吹き込んでいる。

 走りのフォームから、髪肌爪歯の管理まで徹底して教え込んでいる。

 男女により好む美は多少違ってくるが、恰好良さのためにボディラインには極力気を使っている。

 運動能力や身体能力、力の強さとは直接的に関係しないが、周囲を見た目で圧倒する際には必要な要素となる。

 スタイルのために肌着も私が考案し開発したものを着用させている。

 筋肉を付け過ぎないということは相手を上回る圧倒的なパワーを得られない事を意味する。

 多少不便をかけることにもなるだろうが、そこは魔力を使った身体能力強化である程度なら補えるだろう。


 貴族の社会においては、美しい見た目で威圧することは殊更に有利に働く。

 例え身分で劣っても見目の立派さはそれを補うのだ。

 つまりそこに実力まで加えれば、身分差だけなら簡単にひっくり返せるだろう。

 世の中の評価は意外と単純かつ脆弱で原始的な心理に起因している。

 今はまだその意味を理解していなくても良い。

 それは貴族の子女だらけの魔術学院においても、必ずやヒルデの武器となり盾となるだろう。


 まあ、あの性格だから余計な敵も作らないかもしれないが、そこはそれ念には念を入れておくのが私のスタンス。

 同じ実力の英雄なら、より見目の美しい者の方が有り難がられるのが世の真理。

 特にここエストバース王国では美しさは強さすら凌駕する評価対象となるのだから。



[158]

 魔導具の話をしよう。

 この世界には魔力が当たり前にある。

 転生前に在るという説明を受けていたのですぐに受け入れられたが、魔力というものは実に不思議なエネルギーである。

 光や電気や音と似たようなものなのか、時間や引力の様なものなのか、それとも物質的なものなのか。

 長年それを調べていて解ったのは、どうもそれらのエネルギーへと変換しやすい様に意図的に加工されたか生み出されたか、我々にとって都合の良い万能の性質をしているということだ。


 前の世界にも在ったのかどうかは定かではないが、もしかしたら知覚出来なかっただけで存在していたという可能性も考えられる。

 今更なので悪魔の証明問題にしかならないが。

 純粋なエネルギー体でありながら質量ある物質的な性質も併せ持つ。

 不思議と言えば霊力も気も同類で特殊なものだが、この世界にはそういった捉えどころのない要素が満ちている。

 最近は念力についても研究していた。

 霊体からの派生で副産物として糸口を掴んだものだが。

 あれは発生器官の関係で手付かずのままにしてある。


 そんな不思議エネルギーの代表格である魔力を原動力として動かすカラクリ道具の事を魔導具と呼ぶ。

 この世界にも時計はあるが、ゼンマイでもなければ電気でもなく、一般的には魔力で動く魔導時計のことを指す。

 これも魔導具に分類されるのだ。

 つまり、科学的な叡智の粋を集めて新しい発明品を造ろうとすれば、それは必然的に魔力を原動力とした魔導具となるわけである。


 特に分かり易いのは魔導車だろうか。

 前世の知識にある旧式自動車を魔改造したようなフォルムなのだが、一般の魔力エンジンを搭載してもせいぜいが30馬力程の車である。

 世話が要らず餌も不要で魔力のみを原動力としているため、その程度の性能でも王都ではそこそこ売れているらしい。

 とはいえ舗装された道路で走ることを想定された造りなので、他領へ出るなら主流は未だに馬である。

 他国や地方では馬の代わりに走竜や恐鳥なんかも居るらしい。


 現在の魔導車は燃費も悪いらしく魔導具のバッテリーを気軽に購入できる者でないと扱える代物ではない。

 一応は魔力蓄積可能な充電式と魔石を用いた消耗型の電池式の二つがある。

 電池式の方は取り替えるだけで済むので楽らしい。

 また、充電式の魔導具だと魔力供給するのは当然使用人の仕事。

 何とも優しくない仕様である。

 普及するにはまだまだ時間が必要そうだが、それでも魔力という再生可能エネルギーを利用した文明の利器。

 文明の発展レベルとして大したものではなかろうか。


 魔導具が利用されている物には街灯もある。

 昔は光属性の付与された魔鉱石を利用していたらしいが、現在は専用の魔導具により耐久性が増し取り替え周期の大幅な改善とコスト削減に繋がったという。

 灯りに関する魔導具開発は日進月歩で、年々耐用日数の増加や光量の改善が為されている。

 他にも魔導具は幅広く活用されており、魔導具関連の仕事に就ければ安泰と言われるほど市場が繁盛している様だ。


 斯くいう私の周りにも魔導具は溢れている。

 リンデノートへ移り住んでから愛用していた魔導椅子なんかは、魔力を通せば温風を出す仕掛けがされており、日が落ちて冷えてきても身体を冷やさずに過ごせるとして主に貴族界隈では密かな人気商品。


 お茶のポット置きにも魔導具が使われており、保温性を高めている。

 もっとも湯沸器程の性能はないので冷めにくくする程度なのだが。

 一応湯沸器もあるようだが、古くなったり汚れたりすると出火の原因になるので危ない。

 まだまだ改良の余地がある。


 風呂は魔導具で保温性を高めるのみで、沸かすのは魔術を使うのが一般的である。

 もちろん貴族や大商人でもないと魔術の扱える使用人を雇えないので、市民は温水で拭くなり大衆浴場を利用している。


 携帯できる簡易式トランシーバーの様な通信魔導具もあるが、距離はせいぜい50m辺りが限度。

 携帯するには大き過ぎるがバックパック型の軍用通信魔導具でも1km程度が限界である。

 どうやら魔力通信は別の魔力と干渉し合うため、宙空の魔力の影響であまり遠くまでの無線通信するには向いていないと思われる。


 電気技術や石油類は考案された例こそあるものの、探せば少し古い書籍に載ってはいるのだが、どうも受け入れられた様子はない。

 既に魔力で簡単に灯りを手にしているのに、わざわざコスパの悪い未開の電気技術へ期待を持つ者が少ないのだろう。

 投資する者が居なければ発展が進まないのも当然である。

 転生者の多くも電気技術を浸透させることに失敗していると予想できる。

 雷属性の適性者が少ないのも原因かもしれないが。


 洗濯機や乾燥機、掃除機といった家電製品を魔導具で再現しようとした夢の跡も王都の魔導具店で見かけた。

 どれも高額過ぎたり大きすぎたり壊れやすくて耐用日数の問題等の課題が山積みだ。

 アイロンの様な単純な構造の物は実用に耐えうる出来なのだが、結局コスパはあまり良くない。


 現状私の知る限り、人間族の扱う魔導具のレベルはせいぜいこの程度である。

 問題箇所を鑑みるに、ここから劇的に進歩するとも思えないので世の魔導具職人も頭を抱えていることだろう。

 むしろ下手に新技術に手を出して資金繰りに追われている者が後を絶たないとも聞く。

 逆に既存の製品を効率良く生産する技術を開発する者は資金面で潤っているらしい。


 多くの転生者達がこの世界へと流入させた発想や技術は初期の頃こそ重宝されたが、今や過渡期も終わりに差し掛かり、専門家でない者では成果を出しにくい土壌にまで発展してしまったのだろう。

 新しい技術に挑戦すると損を見るとは、何とも夢のない話ではないか。



[159]

 私の魔導具開発はというと。

 専ら自分の為だけに開発している。

 転生者ならば誰もが問題となる部分であるはずの資金調達の必要もなければ生活の質にも不満が無いからである。

 本来ならばそう易々と見ることの適わない貴重な魔導具の資料すら、父や祖父母の関係を当たれば見放題なのだ。

 つまり先人の研究資料を用いれば確認しなければならない試行錯誤も大幅に省略可能で、余計な仕事も労力も体力も交渉も人間関係の構築も不要。

 ひたすらに興味の赴くままに探求できる環境にある。


 当然書物から構造や理論を読み解く能力にかけては何ら問題にもならない。

 前世の頃からこの手の分野は得意中の得意でもあるし、何より術式鑑定の存在がトドメである。

 このギフトを所持しているおかげで研究が格段にやりやすくなった。

 むろん能力による直接の恩恵ではない。

 術式鑑定を持っている。という免罪符を手に入れたから、ある程度のレベルでの研究や開発を堂々とやれるようになったのだ。

 これは大きい。


 つまり1%の実力しか発揮してはならないという自分が課した制限を、一気に10%まで引き上げたとしても己の考える個人の能力として許容範囲内になったのだ。

 実に有り難い話ではないか。

 ギフト無しでも他の術式鑑定を有してる者以上の理解力は備わっていたが、それを自重無く行使しては明らかな規格外であり周囲に違和感や疑念を抱かせかねない。

 そうした理由から本来の実力を発揮することが適わなかった私としては、制限を緩める大義名分を得た感動もひとしおである。


 素晴らしい当たりギフトを引き当てたものだ。

 このおかげで違和感無いように手加減して、一つずつ段階を踏む様を周囲に見せながら研究しなければならなかった手間が削減され、一足飛びに無駄を省いた研究や開発に入れるのだから大幅な時間の節約になる。

 二度も私にとっては当たりのギフトを獲得したのは幸運だと思っている。

 もしかしなくてもリヴィアは幸運のパラメータが非常に高いのではなかろうか。

 この地味で目立たず、一見すると当たりでも外れでも無いギフトでありながら、行動の制限を緩める免罪符の鍵足り得る絶妙な力加減が、リヴィアの引きの強さを実感させる。


 ともかく、こうして私は今までのお遊び開発ではなく、堂々と真の魔導具開発を進められるようになったのである。

 興味が尽きない。

 造りたい物のリストが一気に脳内に溢れる。

 しかしいきなり大量に造ってしまうのは不自然か。

 いや、ギフトで大幅に守備範囲が拡がったがために調子に乗って精力的に多めに造ってしまった、という設定は使えるはずだ。

 これなら今後も何かきっかけさえあれば量産をしても違和感がない人物ということになるだろう。


 だが加減も必要だ。

 物作りは労働者の仕事であり貴族の仕事ではない。

 残念ながら私と付き合いのある親戚や縁者に一般的な魔導具製作者は居ないのだ。

 そんな理由で正確に一般的な魔導具製作者の製造過程に必要な時間やペース配分を計測したことが無い以上、あまりにも逸脱したスピードにならない程度に収めつつ、最大値が何処にあるのかを見極めてボーダーラインの設定をする必要がある。

 まずは既存の魔導具の構造や完成度から大まかな開発期間や製造時間を逆算してみよう。

 それらの情報を集め照らし合わせて精査すれば、おおよその時間や期間を割り出すことは可能。

 謂わばテストの内容を事前の授業や教師の性格、教科書の要点や教授したいセンテンスから完全に近い形で予想するのと似ている。

 これなら多少賢い学生なら誰にでも出来る程度のこと。


 では改めて。

 何から造り、どこまで創ろうか。



[160]

 さて、どうしたものか。

 何はともあれと、まずは現在の自分の実力を確かめるべく、簡単な魔導具を一つ全力で製作してから参考となる基準点にしようと考えた。

 それで一時間ほどかけて造ったのは宝珠である。


 効果は単純だ。

 これには術者が使用可能な術式を書き込める。

 あとはこの宝珠を経由して必要な魔力と設定したコマンドキーで出力すると書き込んだ魔術が発動するだけの簡単な仕掛けである。

 大きさは大人の親指サイズで、書き込める術式は私の知り得る限りのギルバートの授業や魔術書に出てきた程度のものだけでは容量の一割にも満たないので、一般的な魔術師なら全て込めても容量に問題はなさそうである。

 使えば強力な力を得るでもなく。使えなかった術式が行使出来る様になるでもなく。

 コマンドを呟いて魔力を込めると対応した魔術が出るというだけの魔導トークンである。


 元々自分に出来ることを少し怠けて発動できるだけのお役立ちアイテム。

 テレビのチャンネルを手動操作からリモコン式に変更しただけ。

 些細な物だが、こうしたちょっと便利なアイテムというのは得てして一般大衆にはウケるものである。

 そして一度この便利さを知ったら、もう前の状態には戻りたくなくなるのだ。

 このコマンドオーブ(仮)もその性質を多分に秘めているはず。

 試作品だが私には純粋な計算力による完全予測能力がある。

 暇疵になりそうな点や今後必要になるであろう改善点も向こう二十年は無いと言える完成度まで予測して造り上げた。


 色は何となく王族の瞳の色と同じ、ロイヤルカラーをイメージした緑柱石である。

 基礎素材はBe3Al2Si6O18(エメラルド)。

 錬金術に分類される術式を一度編み上げてから即時構築術式を解析解体して、その後は魔力操作のみで再構築する。

 微粒魔力を使ったミクロサイズの慎重な構成なので、本来ならば真空状態を作りエーテルを流した中で構築作業をする必要がある。

 要は逆算して混じり気無しの宝石を造るのだ。

 自然界には存在しない純度100%の結晶物。

 これを段階に分け、仮想構築と錬成を交互に繰り返しながら編み込み上げる。

 分子配列の構成と魔導具としての機能とを連動させているので、宝石化と魔導具としての完成は同時である。

 あくまでも自分の技術力を確認するために作製するので敢えて難しい手法を選んでいる。

 全ての行程を終えれば最後は魔鉱石に変化させる。

 魔鉱石は魔導具に使われる魔力を帯びた鉱石なのだが、その正体は既存の鉱石に長年に渡り魔素を蓄積して外的圧力や熱量を受けて変質しただけの鉱物に過ぎない。

 つまりは地中の宝石と成り立ちとしては似ている。

 宝石を魔術の媒体として利用するのも魔力に親和性があるためだ。

 もちろん魔術的な要素等もあるのだろうが、そちらはオマケである。

 天然石はその点、刻んだ歴史から概念的な付録が付いていてより格が高くなるそうだが、私のは完全に人工物。

 曰くある歴史も経た年月も無い。


 とはいえ、純粋な存在としての品質は天然石と比べようが無い程の高純度なので、付録が無かろうと理論上では素材としてなら桁違いに優秀である。

 刻んだ歴史に浪漫を感じる鉱石マニアならともかく、素材の良さや性能だけを求めるならば天然物よりこうした完成物質の方が良い。

 もっとも、実際に造れるならばの話ではあるが。


 そうして試作完成させたエメラルドコマンドオーブ(仮)は、私の今の技術力を反映させた自信作だ。

 エメラルドで造った理由は、ただ単に丈夫に造る構成が難しいからである。

 天然物では決して有り得ない強度を持ったエメラルドの実現という、作り手としての技術力の高さの証明をしたかっただけの芸術家特有の病の表れ。

 叩いても割れないようにしておきながら敢えて強度を落とし兼ねないのを絶妙な配列でカバーして微細な隙間を結晶内に作ってあるのは私なりの拘りで、光を当てると輝いて見える特殊製法である。

 これは技術力確認のための魅せ造物なのだ。

 構造上の矛盾や無駄、大変結構。


 やはり術式を使わない手動魔力操作による錬成の方が完成度も桁違いに良いことが確認出来た。

 これは公式を使わず四則演算のみで難解な問題を解くようなものなので、慣れていない者がやろうとすれば術式を使用した場合に比べて下手すれば数千倍の時間と数百倍の精度と、それを完成させるまで維持する集中力と魔力と体力を相応に必要となるのでお勧めはしない。


 しかし完成したこれはどうするべきか。

 出来れば実証データが欲しいので適当な者に使わせて観察してみたいのだが。

 散々自画自賛しておいて何だが、製法技術こそ高いが物としては所詮は玩具の範囲内なのだ。

 使わせるなら口の硬い信用出来る者が良い。


 ギルバートは論外。

 必ず遊ぶだろうし、何より私に気付く可能性がある。

 そんな面倒なことはお断りである。

 ヒルデは実証データが取れてからにしたい。

 信用はするが魔術初心者ではデータを取るのに相応しくない。

 魔術に造詣が深くなければ。


 となれば、コレについて積極的に私と同等以上にどうするべきかを判断してくれる者か。

 いや、良い機会かもしれない。

 そろそろ利害を共有できる味方を作るべき頃合いだろう。



[161]

 母ティアーナの生誕日。

 神子の落日、痛ましい呪災のあった日は世界中で国をあげての記念日となっている。

 そしてその二ヶ月後に毎年エストバースの王都では神子ティアーナの生誕日に追悼式典が催されている。

 王国においてファナリア大公家はその第一の被害者であるため、主賓として毎年王都での式典に参加している。

 なぜ二ヶ月後か、それはファナリア家の都合によって無理やりそうなっている。


 記念日は私の誕生日なのだ。

 ジェラルドにしてみれば式典の日を後ろにずらす理由はそれだけで十分である。

 神子ティアーナの現役時代は毎年生誕祭が行われていたので、その日を呪災被害者を偲ぶ日とするのは王国民にも受け入れやすかった。

 通年であれば私は一人で使用人達とリンデノートで大人しく過ごしているが、今年は祖母が訪れて一緒に過ごすことになった。

 黙祷を捧げ、ひそやかに食事を一緒に取る。

 プロシアはギルバートから家庭教師の授業の進捗を報告させ、使用人達一人一人から近況の報告を聞き取る。

 そして私の番である。


「リヴィア。今日は話し合いをしなければなりません」


 人払いをして防音の結界を張ってからそう切り出した。


「先日の贈り物についてです。リヴィア、正直に答えなさい。これは貴女が創ったのですか」


 そう、私が先日試作した魔導具を贈ったのは祖母プロシアである。


「はい。自信作ができたら最初はお祖母さまにと決めていたの」


 これは本心である。

 贈り物をするとしたら家族、その中でも初の自分用ではない錬金術の作品であれば現役の賢者にして教師であるプロシアに見せるのが最も適切である。


「貴女が魔導具に興味を持ち、離れで夢中になって勉強していたことは使用人達からも聞いています。

聞いていましたが…」


 おそらくプロシアは子供の自由研究程度の物なのだろうと考えていたのだろう。

 幼くして母を喪い、父も義母も王都からなかなか離れられず、祖父母もいつも忙しい。

 一人にさせている事を悔いつつも政治や私の価値を知る者達からも距離を取って自由を与える。

 そんな中でも熱中するものが出来たのなら、せめて寂しさを紛らわせられるなら、と必要なものには糸目を付けずに買い与えられてきた。


「リヴィア。本当に貴女がこれを創ったのだとしたら。私は貴女に選択を迫らなければなりません」


 魔導具の効果は大したことはない。

 だが技術力の高さが問題なのだろう。

 うむ、出来栄えは素晴らしいだろう。解っているとも。

 この才能をこのまま埋もれさせるのか、それとも伸ばすべきなのか。

 きっとそこを悩んでいるに違いない。

 少なくとも私なら才能を伸ばす選択をするが。


「リヴィア。今一度聞きます。

貴女は自分が何を創ったのか解っていますか」

「はい。私が造ったのは魔術の発動を手助けする魔導具です」


 事実である。

 これは元々使える魔術の発動を助けるだけのものである。

 もちろんこの場面で問うているのは製法技術の方なのは分かっているが、そちらに関してはしらばっくれる所存である。


「違いますよリヴィア」


 技術に関することは既に言い訳を考えてある。後は最終的な着地点をどうするか。

 その部分である。


「これは神遺物(ゴッズレガリア)です。

これを創れるのは神だけなのですよ」


 ん、おや。

 おっとおっと思ったより製造技術に対する理解が深過ぎた様だ。

 しかし出来栄えが神とは流石に言い過ぎである。

 神が創ったと言うのであれば、正確には私の造った人工物より天然石のエメラルド方を指すべきであろう。大自然が生み出した造形美こそ神が創りし奇跡の産物。

 いや、自信作を褒められるのは案外悪くない気分なのだがね。


「ふふ。お祖母さまに気に入ってもらえるように頑張りました」

「…解っていませんね、これは」


 深い溜息をするプロシア。

 やたらと大袈裟に勿体つける。

 どうやら孫娘の才能にいたく衝撃を受けたらしい。いやいや誇っても良い。

 リヴィアは紛れもなく非凡な天才である。

 と、心の中で娘を自慢する親の心境でドヤっている。


「これはベルンの瞳。

ベルノス帝国にある国宝、古神ベルンから賜った神遺物と同じ物です」


 ほほう…、実物あったんだこれ。

 えっと、つまり私は知らず知らずの内に神遺物をパクっていた。

 アーティファクトの贋作を造っていたのか。

 いやいやいや、それは無い。実に拙いだろう。

 これ帝国から著作権とかで訴えられたりしかねないのでは。

 いや創ったのは神だって話だから違うか。

 重要文化盗用的なものだろうか。

 それとも神権侵害とか、国宝を貶めてるから不敬罪も適用されて、全部ひっくるめて無期懲役。

 まさか絞首刑とかになったりしないだろうか。

 え、それ拙くない。ちょっと待とう。

 これは商業目的で造った訳では無いから、あくまでも趣味の延長で…。


「リヴィア。目が泳いでますよ」


 おっと柄にもなく取り乱してしまっていたようだ。それくらい想定外だった。

 呼氣を整えよう、魔力を循環させよう、霊力を抑えよう、神力で体力を充填してリフレッシュしよう。

 OKOK私は正常だ。


「えっと、私悪いことしたの?」

「いいえ、悪いことではありません。ありませんが、その様子だと本当に貴女が創ったようですね」


 少し整理しよう。

 ベルンの瞳というくらいだから、オリジナルはあの知恵と技術の神ベルンが創ったのか。

 いやしかし、私の造ったのは製造技術が高度すぎるというだけで性能はお遊び、ガワの凄さのみなのだからそこまで大袈裟にする必要もないと思うのだが。


「確認ですが、これは自身の知る全ての魔術を集積して、術式展開の行程を省いて魔力のみ流し込めば発動が可能になる効果で間違いないですね」


 ふむ。問いかけが製造技術からではなく、魔導具の性能の方の確認からということは、製造技術さえ隠蔽すれば隠し通せると踏んでいるからだろうか。

 なるほど、要は落とし所が欲しいのだ。

 であれば乗っかるのが正解だろう。


「そうです。子供でも一々複雑な術式を展開しなくても、予め書き込んでおけば魔力だけで使えるようになるちょっと便利な魔導具です」

「それを神遺物というのです」


 ふむふむ。あれれ、おっかしいな。

 この言い方だと製造技術ではなく、まるで効果の方を言及しているようではないか。


「便利な魔導具のことは、世間では神遺物と呼ぶのですか…?」

「普通は呼びません。ですがこれは別です」


 ああ、なるほど。

 これは本気のやつですね。

 霊魂パターンからも大真面目なのが見て取れる。ということは間違いなく効果が拙かったらしい。

 そんな筈はないのだが。


「良いですかリヴィア。

集積した魔術を魔力だけで無制限に何度でも詠唱もせずに一定の効力を発揮して無挙動で絶え間なく使うことが出来ることの意味が分かりませんか」


 確かに、そういう言い方をされると普通の魔術師では勝て無さそうな気はするが。

 それは普通の魔術師を相手にした想定であって、元からそれが可能な者同士の戦いであれば何ら不思議はないのでは無かろうか。


「でも使える魔術を少し早く使うだけだから、他の方も同じ事が出来たら有利にはならないわ」

「それは下級魔術の場合の話です。リヴィア、これは最上級魔術でも追加の代償すら無く魔力だけで即座に使用出来たのですよ」

「ふふふ。詠唱とか展開に時間の掛かる魔術にこそ使えないと意味ないもの」

「リヴィア聞きなさい。

いいですか、帝国に実在する実物のベルンの瞳では中級魔術までしか登録出来ないのですよ」


 はい?何だその欠陥品は。

 それこそ子供騙しの玩具ではないか。


「でもそれじゃ魔導具を使う意味がないわ」

「リヴィア待ちなさい。たった今別の確認が必要になったわ」


 どうしてこんなに慌てているのだろうか。

 いや、もしそんな欠陥品が本当に国宝級魔導具なのだとしたら。

 確かに私が造ったのは凄いのかもしれないが、少々中毒性のある便利な魔導具というだけである。

 どうも話が噛み合わない。

 何か前提が間違っているのだろうか。


「リヴィア。

術式を使わずに魔力だけで魔術を発動させる時の注意点を述べなさい」


 ここで常識問題とは。

 何を確認したいのだろうか。


「宙空の魔力の掌握と操作の並列化、それから」

「貴女という子は…」


 おっと何か間違っていただろうか。

 あまり長々と説明するのも悪いと思い、出来る限り簡潔に答えたのだが。


「これは私が一から教えなければなりませんね。

ギルバートは何を教えていたのですか」


 ここでギルバートのダメ出し。

 やはりギルバートの授業が悪かったのか。

 なら仕方がない。


「リヴィア。魔術は術式無しでは発動しません。

それに自然魔力(マナ)を直接用いた技術は、少なくとも新暦以降に実現した者は居ません」


 ああ、なるほど。そういうことね。

 完全に前提が間違っていた。

 どうやら私が幼児期に修得した技術は、この世界では規格外だったらしい。

 幼児の技術が何千年もの歴史で積み上げてきた技術になど、到底及ぶべくも無いと考えていたがそれは間違っていたのか。

 私はこの世界の魔術師を過大評価していたようだ。

 これは大幅な認知の修正が必要である。






《余録》


名前の挙がったエストバースの三大学舎は高等教育です。


各領地で開かれている初等学校は最低6歳頃から、最高で12歳頃まで通えます。

入学の年齢はまちまちで、卒業までの課程を終えるのも生徒によってバラつきがあります。


平民でも優秀な成績なら領主である貴族の推薦を受けたり、援助を受けて更に上の学舎へ進学することも可能です。

とはいえ、働き手の必要な平民では学業の時間も、進学に他領へ向かうのも難しく、それなりに裕福な家庭でないと現実的ではない模様。



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