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軽自動車のジャンプ斬り

 いや待て、落ち着け俺。

 見ての通り俺には毒液はかかっていない。

 かかったのは車の方だ。俺が毒で死ぬことはない。

 その証拠に紫色の毒が車全体に広がっている。おそらく車に毒が回ってるんだろう。

 え。

 回るの毒? 車に?

 俺はステータス画面を見る。


 300あった車のHPは250まで下がったあと、さらに240、230、220、と下がり続けている。

 何か10単位づつHPが下がり続けてるんだが……。

 いやこれ絶対に毒に侵されてるよ。

 軽自動車も毒状態になるんだ、この世界。

 どんな世界やねん。


 そんなことを言ってる間にもHPはどんどん減っていく。

 220あったのがもう100。

 と思ってたら90、80、70……。

 車がバキバキ音を立てて、車全体に亀裂が入り始める。


 待て待て!

 このままじゃ車がぶっ壊れる!

 そうだ! 回復! 

 さっそく覚えたヒールを使おう!


 俺はすぐに『ヒール』と書かれたハンドルのボタンを押す。

 すると車全体を暖かな金色の光が包み込んだ。

 HPを見ると300に戻っている。全回復したらしい。

 ふう……。よかった。何とか破壊は免れたみたいだ。

 ヒール1回で全回復か。かなり回復するな。これは使える。

 気になるのは消費MPだ。この回復魔法はどのぐらい使うんだろうか。

 ステータスを確認したら、消費MPは3だった。ファイアボールの9に比べて圧倒的に少ない。なかなか手頃な魔法だ。

 ただ自分としては攻撃魔法をガンガン使っていきたいんだよな。その方がこんな風に戦いに苦労することはない。

 

 あれ? 何かステータスに異変が。

 全回復したはずのHPは再び290、280、270、と落ち続けている。

 ウソ。

 もしかしてまだ毒状態ってことなのか?

 車の外側を見ると表面がまだ紫色の毒々しい色になっている。

 確かに毒に侵されてる感じだ。

 つまりヒールじゃ、毒を治療したことにはならないのか。あくまでこの魔法はHP専用の回復魔法ってわけか。

 てことは何だ。毒の回復薬が他に必要ってことか。そんなの俺は持ってないぞ。

 

 目の前にはポイズンインセクトがまるで俺をあざ笑うかのように、体を立ち上がらせてユラユラ左右に揺れてたたずんでいる。

 奴は俺が毒状態にかかっているのを知ってるらしく、HPが無くなるのを待ってるようだ。

 しかもなぜかこの2匹目の芋虫は正面からローリング攻撃を仕掛けて来ない。

 もしかしたら、さっき仲間が回転斬りでやられたのを見て警戒してるのかもしれない。

 もしそうなら、なかなか賢い虫だ。


 考えてる間にHPは150、140と、際限なく下がり続ける。止まる気配は無い。

 これ以上落ちるのは危険なので、俺はもう1度ヒールを使い全回復させる。

 現在レベル6なのでMAXのMPは30。ヒールを2回使ったので残りMPは24。

 あと8回は回復できる。だが燃料の問題がある。全部は使えない。

 それに毒を解除しなければいくら回復しても意味が無い。

 何かいい方法は無いだろうか……。


 そうだ。レベルアップすればHPもMPもすべて全回復するシステムなんだよな。

 ということは毒みたいなステータス異常もレベルアップで回復するんじゃないだろうか。

 それはあり得るな。少なくとも俺がやってたゲームはそういうのばっかだったし。

 よし、なら話は簡単だ。目の前にいる敵を倒してしまおう。経験値が高ければレベルアップするかもしれない。


 まだ目の前にいる巨大芋虫は、頭を上げて俺を見下ろしている。

 現在2発はファイアボールを撃つ余裕があるからそれで倒したいとこだが、毒のこともあるし回復用に魔力を温存しておきたい。


 そこでさっき覚えたジャンプ斬りをちょっと試してみようかと思う。剣技ならMPは使わないはずだし。

 ジャンプ斬りがどれぐらいダメージが入るのか知りたいし、もし使えそうなら、苦痛をもたらす回転斬りに代わってこっちをメインに使っていきたい。

 たぶん名前の通りジャンプして敵に斬り込んでいく技なんだろう。

 大砲で打ち上げられる感じだろうか。

 何か楽しそうだなそれ。

 だが果たしてあの高さまで届くんだろうか。頭まで7メートルぐらいの高さがあるけど。

 考えたら上昇するための推進力って何なんだろう。噴射とかすんのかな。

 何かロケットを発射するみたいで怖いな。

 あ。そんな事を考えてたらHPがかなり減って来た。ヒールヒール。

 車はまた金色の光に包まれ全回復する。

 まあ、あまり深く考えず使ってみよう。早くレベルアップしたい。

 てい! 

 決断した俺は『ジャンプ斬り』のボタンを押す。


 ボッ! 


 何の原理か地面からロケット弾が発射したかのような噴射音が。

 軽自動車は猛烈なスピードで飛び上がり、運転席にいる俺にGが掛かる。顔の肉が後ろに引っ張られ歪む。

 高さ7メートルはあるであろう芋虫の頭より遥か上まで車の高さが一気に達する。

 予想しなかったあまりの高さに俺はビビる。

 窓から下を見ると巨大芋虫の頭部が見える。

 芋虫は意表を突かれたのか、空中にいる俺を見上げて動けないでいる。

 この高さから落ちるのは危険過ぎる。

 これじゃ崖から転落したときと大して変わらんがな。

 宙にいる車は今度は運転席側を地面に傾け、車体を横にして落下する。

 これは剣の刃の向きが下になるためだ。この体勢なら相手を斬りにいける。

 この車はそこまで計算して動いているらしい。


 空中にいる車は落ちながら、その重たい車体で巨大芋虫の頭を斧で薪を割るように真上からぶった斬る。


 ズバアアアアアアアアアッ!


 巨大芋虫が脳天から斬り裂かれる。

 キレイに上から真っ二つだ。

 よっしゃ! 2体目撃破あああッ!


 だが喜んでもいられない。

 車が高所から落下してる事には変わらないのだ。

 しかも横の姿勢のまま地面に急降下しているので、着地時はかなり危険だ。

 もう地面に激突する。ヤバい!

 と思ったら直前で、車はクルリと車体を反転し、元の角度に戻して車の姿勢を整えた。

 姿勢を整えたことによりタイヤが下側になったので、車は地面に無事に着地する。

 しかし高さがあるため着地の衝撃は凄まじく、車内にいる俺は「ごふッ!」と声を漏らし頭を天井に打ち付けた。

 ぐおおおおおお!

 頭が……頭が痛てえ……。

 あとケツが……ケツが痛い……! 

 俺は打撲を受けた頭とお尻をさする。


 くそ……想像以上の高さまで飛びやがったな、ジャンプ斬り……。

 しかしよくあの高さから落ちてよく無事だったな。痛い思いはしたが、ある意味ラッキーではある。

 思うに、斬りながら落ちていたので落下速度がダウンしたんだろう。それで衝撃がいくらか軽減されたんじゃないだろうか。

 あと落ちながら車体の向きを戻したのが大きい。

 あれはおそらく、さっき覚えたバランス補正ってスキルが発動したんだろう。あれのお陰でタイヤで着地する事ができた。

 これで分かったが、あのスキルは車が倒れても自動で車体の姿勢を戻す機能だったんだ。


《レベルアップしました!》 


 お、そして念願のレベルアップか。

 これを待っていた。


《軽自動車のレベルが7になりました! 軽自動車は『サンダー』を覚えました!》


 また何か覚えたな。サンダーか。

 サンダーって雷属性の魔法だよな。

 ようやく追加の攻撃魔法を覚えてくれたか。


 そうだ。肝心の毒はどうなったんだろ。ちゃんと回復したんだろうか。

 俺はステータスを確認する。

 HPは止まっていた。

 レベルが上がったので、350で停止していた。


 やった。読みどおりだ。

 やっぱりレベルアップは状態異常も含めてすべて全回復するみたいだ。

 よし。これでひとまず毒の脅威は退けた。

 敵も倒したことだし、先に行くとするか。

 

 だが進む方向を見ると、遠くの草原の至るところにポイズンインセクトがウジャウジャいるのが目に入る。

 しかもあの巨大芋虫たちは威嚇なのか、遠くからこっちに毒液を吐いて牽制している。

 まだ距離が遠いため、俺の方まで毒は届いてはいない。


 くそ。ちょっと数が多過ぎるな。

 あれ全部を相手してたら、必ず1発はまたあの毒液を受けるはずだ。

 ローリング攻撃もあの数で来られたら対処仕切れるか微妙だし…。

 少なくともあの毒をなんとかしないと、この巨大芋虫エリアを無事に通り抜けるのはかなり厳しい気がする。

 どうするか。

 何か突破する方法があればいいんだが……。


 そうだ。錬金術で何か作れないかな。

 車の錬金術マニュアルに、毒に対抗できるアイテムが何か書いてないか調べてみるか。

 よし。そうと決まれば、ここはひとまず撤退するか。一時休戦だ。


 俺は錬金術に取り掛かるため車をUターンさせ、来た道を引き返すことにした。

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