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牙の剣で戦ってみた

 軽自動車の専用駐車場なら見たことがあるが、剣は初めて見る。

 まあ車が剣を持とうが、武器が手に入ったことには変わりは無い。装備して実際に使えるか試してみよう。せっかく作ったわけなんだし。

 そう自分に言い聞かせ、俺はさっそく剣の取り付け作業をやり始める。


 T字の横に伸びた棒の端っこの部分は、よく見たらL字に少し曲がっている。

 その曲がった部分をフロントの両サイドの角に押し込むと木を噛ますことが出来た。

 すると、車のボディーからブワッと青白い光が発生し、噛ました木を包み込んだ。光に包まれた木は、車と同化してくっ付いてしまった。

 動かそうとしても剣はビクともしなくなった。


 ちなみに剣の向きは上下が平、左右が刃になるように取り付けてある。

 横に振れば斬れるわけだ。なので縦には斬れない。突き刺す事はできそうだ。


 剣を車の前方に取り付けた姿は、北極にいるイッカククジラみたいな感じだった。

 しかも牙の剣は軽自動車の専用の武器のためか、ビッグサイズであり敵を畏怖させるような迫力がある。

 まあ手で持てるわけでは無いので使い勝手はあまり良くなさそうな感じだが、ひとまず魔法を使わないで戦えるのは大いに助かる。

 この剣があれば、当面は魔力燃料を過剰に消費せずに済む。


 さて。とりあえず物理的な攻撃手段を手に入れたから、例の魔力の泉に向かってみるか。その泉なら魔力の補充ができるかもしれないし、もしそうなら魔法は使い放題になるはずだ。

 経験値を稼いだりするのは、その魔力の補給場所を確保してからでも遅くはないだろう。

 俺は運転席に乗り、アクセルを踏んで車を走らせる。

 それにしてもボンネットの中の機械が無いのに動くのか、この車。何だか不思議な感じがするな。


 剣を装備した軽自動車で、しばらく何も無い草原を走る。どこまで走ってもだだっ広い草原が続いている。

 そう言えばスライムの姿がまったく見えなくなったな。

 まあ、いないのは良い事だ。このままどんどん進んで行こう。


 ん?

 遠くに小高い丘が見える。

 その丘の上に、4足歩行の獣を発見する。

 見た感じオオカミかな。

 灰色の毛を生やしたオオカミが、1匹だけで丘を歩いてる。

 あれが1匹オオカミか。

 しかしオオカミにしてはかなり体格がある気がする。ライオンみたいなデカさだ。

 あれはただのオオカミじゃないな。魔物かもしれない。

 もしかしたらスライムの姿が見えなくなったのは、魔物の生息域が変わったからだろうか。

 となると、この辺りはあの種類のオオカミが生息しているエリアと思われる。

 

 何かスライムよりあのオオカミの方がヤバそうな雰囲気がある。

 あの体格の魔物とやり合うのは、ちょっとリスクがありそうだな。軽自動車の薄いボディーなんか簡単に食い破って来るかもしれない。

 まあかなり高い丘の上にいるから、こっちに気づかないかもしれない。

 そしたらこのまま相手をせず通り過ぎよう。その方が無難だ。

 そう考えていたら、丘にいるオオカミはなぜか空に向かってアオーン! と遠吠えをする。

 何だろ。

 何か嫌な予感がする……。

 そう思った次の瞬間、オオカミは俺の方に向かって丘を駆け下りてきた。


 ヤバい! こっちに来る!

 考えてる暇は無い。しょうがない、やってやるか。

 俺はハンドルを回して、オオカミのいる方へ車の正面を向ける。

 作戦はこうだ。

 こっちに向かって来るオオカミに、正面から突っ込んで剣でぶっ刺す。以上!

 単純だが、相打ちになれば剣がある分、こっちが有利なはず。

 もしどうしても剣で勝てそうも無ければ、もったいないがファイアボールを使おう。

 1発撃っても計算じゃまだ燃料は残るわけだし。だがそれは、あくまで最終手段として取っておこう。さっきみたくガス欠になるのはマズい。


 俺は剣の先端を、走ってるオオカミの体の位置に合わせるため、ハンドルを動かして車の向きを微調整する。

 車を加速させるため、俺は足下のアクセルを思い切り踏み込む。

 猛スピードで走る車とオオカミ。

 両者の距離はあとわずか。


 ふ。オオカミよ。運が悪かったな。

 こっちはかなり長い剣を装備している。

 リーチ差でお前はすでに俺、いや、中古車に負けている。


「この勝負、もらったッ!」


 オオカミと車が激突する直前、危険を察知したのかオオカミは真上に空高くジャンプして、剣をギリギリでかわした。

 何いッ!? 飛んだだとッ!?

 バックミラーに、車の後ろで着地するオオカミの姿が映る。

 くそ、逃したか! 

 何つー跳躍力だ。さすが動物!


 突き刺すのを失敗したが、もう1度チャレンジするため俺は車のスピードを維持させたままハンドルを切って、原っぱで車をUターンさせる。

 ガタガタと車体が揺れまくる。

 車は原っぱで弧を描いたあと、オオカミが着地した方向に再び正面を向ける。


 しかしそこにオオカミの姿はなかった。


「あれ? どこ行った?」


 周囲をキョロキョロ見回してると、草原の小さな茂みからさっきのオオカミが突然現れる。

 飛び出したオオカミは運転席側の車のドアに前足でタックルをかまして来た。

 ドスンという重い衝撃で、車体がグラリと大きく傾く。

 しかし何とか横転するのだけは免れた。

 安心したのも束の間、さらにオオカミはノコギリのような牙を剥き出しにして、俺のいる運転席の窓に噛み付いてきた。

 目の前に大きな牙が襲って来たので、俺は一瞬仰け反る。


 オオカミは鋭い牙で窓を噛み砕こうとしている。だが幸いにも窓は割れなかった。

 グルルルルルッ! と唸り声が外から聞こえる。

 獰猛そうな目を血走らせながら、オオカミはガリガリと外側のドアを噛み続けている。

 何て攻撃的な奴なんだ。

 噛み付く度に、ガギ! ギギギ! というチカラ強い音が車内に響き渡る。


「食い破る気か? そうはさせるかッ!」


 対抗策を思いついた俺は、いったん距離を取るため車をバックさせる。

 オオカミを視界に捉えたまま、車は後ろに向かって加速する。オオカミを見ながら下がっているので、今度は敵の居場所を見失うことは無い。

 車が急に下がったのでオオカミは体勢を崩し地面にヨロけたが、去った車をまた走って追いかけて来た。

 車を後退させながら、俺はオオカミがこっちに向かって距離を縮めて来るのを狙う。

 俺が後退したのは敵を騙すためだった。

 逃げていると思わせておいて、今度は瞬時にシフトレバーをドライブに入れる。

 今だッ!

 アクセルをふかして俺は車を前進させる。


「食らいやがれえええええッ!」


 下がっていた車が急に前進したので、意表を突かれたオオカミはかわすタイミングが遅れた。


 グサッ!

 肉を貫く鈍い音。


 見れば、オオカミの腹を剣が貫通していた。どうやら臓器を突き破ったようだ。

 腹に刺さったのは、オオカミのジャンプするタイミングが少し遅れたからだ。もうコンマ何秒速ければ剣をかわしていただろう。

 オオカミは剣を突き刺しながら、フロントの前で血を流してグッタリしている。

 どうやら死んだみたいだ。

 俺は車内でフゥ、と息を吐いて安堵する。


《レベルアップしました!》


 お。レベルアップか。

 さっきはスライム5匹でレベルが1つしか上がらなくなってたから、次はさらに倒す必要があると思ってたが、早いな。

 おそらくこのオオカミは、かなり経験値を持ってたんだろう。

 

《軽自動車のレベルが4になりました! 軽自動車は『敵感知』を覚えました! 敵感知により、カーナビに敵の位置とレベル、さらに能力が表示されるようになりました!》


 敵感知か。事前に敵のことを調べられるのは助かる。

 しかも位置だけじゃなく、レベルや能力まで見れるとは至れり尽くせりな機能だな。

 ライスを頼んだら味噌汁におしんこまで付けてくれた感じだ。

 

 さらにスキル取得の告知は続いた。


《軽自動車は『回転斬り』を覚えました!》

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