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ファイアボールの火力

 目の前に現れたステータス画面を、ざっと一通り眺める。HPとかMPとか、何かいかにもゲームっぽいステータスだな。


 そういえばガソリンが魔力燃料に変わったとか言ってたな。あれはどういう事なんだろう。EVとか水素とかは知ってるけど、魔力は初めて聞く。

 その燃料はもうすでに入ってるんだろうか。どれ、給油メーターの残量を確認してみるか。


 俺は運転席の目の前にある計器を見る。給油マークの場所に0から10までの表示が出ており、針は10を指していた。どうやら燃料は満タンみたいだ。

 いやでも変だぞ。

 この車の燃料は30リッターまで入るはずだ。10リッターに上限が減ってるのはおかしい。この10って何だ?

 もしかしてこれ、MPのことを言ってるんじゃないだろうか? 

 その可能性はあるな。MPは魔力。この車の燃料も魔力。そしてステータスにあるMPも10になっている。

 てことは、攻撃魔法と車の燃料は同じ魔力から使うってことなのか? 

 だとしたら何とも不便な仕様である。


 まあいい。それよりもこんな何も無い原っばにずっといても仕方がない。どこかで飯が食える場所を探すとしよう。

 俺は至って普通の人間だ。モンスターがいようがいまいが、食べなきゃ死ぬ。

 食べる場所と言えば人のいるとこだ。そこを探そう。

 ここがゲームっぽい世界なら、おそらくどこかに中世時代っぽい町があるはずだ。

 そこなら言葉が話せるっぽい人もいるだろうし、飲食店もきっとあるっぽいはずだ。


 てことで、まず町が無いか探そう。

 俺は車のカーナビを見る。現在地の場所を指で縮小して、今いるグリンフォール草原とやらの全体を見る。

 規模はかなり広い。指でマップをどこまでスライドしても原っぱが続いている。

 俺の住んでる県1つぐらいあるんじゃないか? いや、それ以上かもしれない。それぐらい広い草原だ。


 ん……? 

 マップに小さく『魔力の泉』と表示してあるのを見つける。

 もしかしてこの泉は、名前の通り魔力の水が湧いてる泉なんだろうか。

 もしそうなら、車のMPが無くなりそうな時にそこの水を補給すれば、MPを回復できるんじゃないだろうか。つまり魔力版のガソリンスタンドだ。

 だとしたらかなり利用価値のありそうな泉だな。それに水があるなら、飲み水にもなるんじゃないだろうか。生きるにはまず水分補給が必要だし。

 よし、行ってみるか。魔力の泉。

 距離はここからだいぶあるが、まあ車なら何てことはない。運転席に座ってればいいだけなんだし。


 俺は鍵穴にぶら下がっていた車のキーを回し、エンジンをかけ車を走らせる。

 妙だな。

 いつもより静かにエンジンがかかった。何でだろ。

 まあいいか。車のことはよく分からん。

 車体をガタガタ言わせながら広大な野原を走る軽自動車。


 空は真っ青。いい天気だ。

 いい天気だけどさっきからやたらとガタガタ言ってるのが不快だ。

 この草原は地面がデコボコしてるので車がやたら揺れる。乗り心地はよくない。

 舗装された道に早く出たいが、どこにも見つからない。あるのは遠くまで続く広大な原っぱのみ。あまり面白みのない単調な景色がずっと続いている。

 本当に町なんかあるんだろうか。


 車で草原を長い時間走らせる。10キロは走っただろうか。

 給油メーターを見ると、残量は9になっていた。

 1減ったか。

 しかしこれで判明した。魔力燃料というのは、どうやら10キロで魔力を1使うらしい。

 てことは満タンで100キロ移動できるのか。まあまあ走るんじゃないかな。それだけ走れば誰か歩いてる人に遭遇するかもしれないな。


 そのとき車の前方にスライムの集団が立ち塞がった。

 驚いた俺は急ブレーキをかけ、近づき過ぎないよう車を止める。

 またスライムか。

 しかし今回は状況が違うみたいだ。

 スライムは集団で横一列になって飛び跳ねながらこっちに近づいて来ている。

 俺は運転席からスライムの数を数えてみる。いち、にー、さん……、5匹か。

 ちょっと多いな。

 1匹に苦戦したのに、それが5倍。今度ばかりは降りて戦うべきではなさそうだ。

 しかもスライムは横一列に並んでいるため、車でかわすのも難しそうだ。1匹ぐらいはこっちに体当たりして来てもおかしくない。

 バックミラーを見ると後ろからもスライムが3匹ほど近づいて来ていた。

 マズいな……。挟み撃ちか。

 スライムにしては利口な奴らだ。


 よし。ここらでいっちょ、覚えたファイアボールを使ってみるか。どれぐらいの威力なのか見てみたいのもあるし。

 でもどうやって使うんだろう。

 ステータス画面の表示と同じで、魔法を発動させるボタンがあるんだろうか。

 俺は目の前のハンドルを見てみる。すると、隅っこの方に小さく『ファイアボール』と書かれた1センチぐらいの小さな押しボタンがあった。

 やっぱりあった。

 にしても分かりづら!

 しかし魔法を発動するのってボタン式なんだな。なんか魔法というより科学的な感じ。


 俺はファイアボールと書かれたハンドルのボタンを指で押してみる。

 カチッという音がする。

 押したあと、フロントの2本のヘッドライトが光りだした。これが魔法発動の合図らしい。

 光るヘッドライトのすぐ目の前に、小さな火の玉が空中に作り出される。どうやらヘッドライトの光が火の玉を精製しているようである。

 火の玉はまるで線香花火のようにパチパチと火花を散らしていたが、やがて風船みたいにその体積を膨らませていき、どんどん巨大化していく。


 その大きさ、推定3メートル弱。

 あまりの火の玉のデカさに言葉を失う。

 しかも熱い。

 車内にいても火の玉の熱さが伝わってくる。サウナ風呂にいるかのようだ。俺の額にじわりと汗が滲む。


 巨大な火の玉はその大きさが完成されると、勝手にスライムの集団がいる前方に向かって飛んでいった。

 しかも綺麗にど真ん中に命中。自動追尾型のファイアボールだった。


 火の玉が着弾して炎が一気に原っぱに拡散される。それにより5匹のスライムはまとめて焼き払われた。

 灼熱の炎に焼かれたスライムたちは次々に溶けていく。

 瞬殺である。


 さらに火の勢いは止まらず、辺り一面がどんどん焼け野原になっていく。

 後方にいるスライムたちは広がってくる火に驚いて逃げ出している。

 魔物も恐怖を抱くんだな。まあ、ザコモンスターなんてこんなもんか。


 見たかスライムよ! 

 これがケーのチカラだ!

 もうお前らは俺の敵ではない!

 はっはっは!


 スゴいなファイアボール。まさか1発でこの威力とは。この魔法があれば無敵だな。これからガンガン使っていくか。

 ピコン、ピコン、ピコン。

 え。何この音。

 俺は音がしている車の計器に目を向ける。

 給油メーターの警告ランプがピコピコ点滅していた。

 何これ。どゆこと。

 メーターを確認すると針は0を指しており、空っぽを意味する『EMPTY』が表示されていた。


 まさか……。


 俺はアクセルを踏んでみる。

 動かない。

 何回踏んでも動かない。

 ……ガス欠だ。マジすか。

 あーあ、やっちまった。てことは、魔法も使えなくなったのか?

 俺はハンドルのボタンを押してみる。


 カチッ、カチッ、カチッ。


 やっぱりファイアボールも出ない。俺の予想した通りだ。

 魔法と車の燃料はやはり共有していたらしい。何てこった。

 これで分かったが、どうやらファイアボールは1発使うとMPを9も消費するらしい。

 いやいや……。

 初級魔法だよな、ファイアボールって。

 ちょっと消費し過ぎじゃないか? 


《レベルアップしました!》


 ビクッとする。

 いきなり話しかけるな。心臓に悪い。

 どうやらもう次のレベルになったらしい。

 早いな。

 スライムを5体も倒したから、一気にまとまった経験値が手に入ったのだろうか。

 しかし燃料が枯渇してショックを受けている俺にはまったく喜ぶことはできない。

 まあ俺じゃなくて軽自動車がレベルアップしてることがそもそも喜んでないんだけどさ。


《軽自動車のレベルが3になりました! 軽自動車が『錬金術』を覚えました!》


 錬金術?

 そんな事もできるのか、俺の車って。

 そう言うのって錬金釜とか専用のアトリエとか必要なんじゃなかったっけ。まあ某ゲームの受け売りだけど。


《車に『錬金術マニュアルの本』が追加されました!》


 錬金術マニュアル? 何だそれ。

 説明書の事だろうか。


《軽自動車が『素材感知』を覚えました! カーナビに素材の位置が表示されるようになりました!》


 素材の位置を表示か。素材というのはたぶん錬金術に使うものだろう。

 確かに錬金術は素材が無いと始まらない。それを採取する場所が前もって分かるのは探す手間が省けてとても助かる。

 しかしカーナビで素材を表示するっていうのは、人工衛星から電波を受け取って位置を表示してるってワケなんだよな。

 ファンタジー世界に人工衛星があるのは奇妙な気がするが、どういう仕組みなんだろう。


 今回の告知はそれだけだった。

 終わってみれば、レベル3はすべて錬金術に関係する能力ばかりだった。

 まあレベル的にはまだまだ序盤だし、旅に必要になる能力を早めにくれたんだろう。


 だが錬金術は嬉しいが、これは俺が今すぐ欲しいような能力ではない。

 車の魔力燃料がカラなのである。

 今は兎にも角にも、この魔力がカツカツの状態なのを何とかしたい。これじゃ移動するのも戦うのも、何もできやしない。

 まあせっかくレベルアップしたんだ。せめてステータス画面だけでも拝んどくか。

 レベルが上がるとどれぐらい能力値が上がるのか知っておきたいし。

 俺はステータスを開く。


軽自動車 レベル3

HP 150/150

MP 15/15

物理攻撃/6

物理防御/24

魔力/15

魔法防御/9

スキル/魔力燃料、車体硬化、錬金術

    素材感知

魔法/ファイアボール


 あ! MPが増えてる! 

 減ったのがぜんぶ回復してるじゃん! 

 でも何で……? 


 もしかしてレベルが上がると完全回復してくれるってことなんだろうか? 

 確かにゲームにあるよな、そういうの。レベルアップで全快しちゃうやつ。俺がやってるRPGとかはそういうのが多い。

 いやー、それにしても魔力が回復して助かった。もう詰んだかと思ったわ。

 そうか、レベルアップすると全回復するのか。これは覚えておこう。


 そうだ。考えたら錬金術は必要だ。

 錬金術なら何かサバイバルに必要な道具を作れるかもしれない。武器とか回復アイテムとか。

 カーナビで調べたところ、この周辺には町らしい場所が1つも無い。あるのは広大な原っぱだけ。

 となると、俺はしばらくこの魔物がいる草原を走らないといけない。なのに武器になるのはファイアボールしかない。しかもごっそりMPを消費するやつ。それしか攻撃手段が無いとなると、ちょっと不安が残る。


 錬金術で何か俺の装備品とか作りたいな。せっかく異世界に来たんだから、剣とか盾を装備して敵と戦ってみたい。夢だよな、やっぱそう言うの。

 よし、ここは錬金術で何か武器が作れないか調べてみるか。剣でも斧でも弓でも、何でもいい。使えそうな道具をたくさん作ってみたい。

 さっき告知は、車の中に錬金術マニュアルって本を入れたと言っていた。

 どこに入れたんだろうか。その本。

 もしかして助手席にあるボックスの中かな。免許証を入れたときは何も入って無かったけど……。

 俺は助手席の正面にある四角いボックスの蓋を開ける。

 何と中には『錬金術マニュアル』と書かれた、何百ページにも及ぶ分厚い本が入っていた。

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