マジックラットの剣を作ろう
俺は運転席に戻り車を前に出し、タイヤで踏んでいたマジックラットから離れる。
その後、この死んだ巨大ネズミのすぐ近くで車を止める。
さて、この地底洞窟で取れる素材を使って何か武器が作れないか調べてみよう。
いつものように助手席にある四角いボックスから錬金術の本を取り出し、運転席に座りながら分厚い本をペラペラ捲る。
このアンダール洞窟が書かれたページを捲っていると、『マジックラットの剣』という武器の作製方法が書かれていた。
あれ? これって今さっき倒したばかりのあのネズミの名前だよな。
へー。あの巨大ネズミは素材に使えるのか。
なら目の前にいるわけだから、もうすでに1つは素材を手に入れたようなもんだ。
探す手間が省けるし、この剣を作ってみるか。
しかもこのマジックラットの剣、前に作った牙の剣と違って装備するとどうやら特殊効果が得られるらしい。
何だろうな、その特殊効果って。気になる。
本を見ても特殊効果の詳細は書かれていなかった。仕方ない。完成したときのお楽しみにしておこう。
剣の作製に必要な素材を見ると、『マジックラット』と『鉱石魚』とある。
おー。2つしか素材がいらないから楽に作れそうじゃん。サクサク作ろう。サクサク。
しかし素材のマジックラットって、もしかしてあそこで倒れてる死骸を丸々1匹使うって事なんだろうか。
何か不気味に感じるな。
それにあのネズミ、冷蔵庫ぐらいのサイズがあるからボンネットの中に入るか正直ビミョーなとこなんだよな。
あと何か凄い重そうだし……。
何十キロあるか分からないけど、俺なんかに持ち上げられんのか、あれ……。
まあ、それはひとまず置いておくか。錬金術の本に書いてあるって事は、きっと合成できるって事なんだろう。
それより問題はこのもう片方の鉱石魚の方だ。この素材はどこで手に入るんだろうか?
そもそも何だろな、鉱石魚って。名前から考えると、鉱石の魚……て意味だよな?
鉱石って石だよな。魚が石になってるってことか?
意味が分からん。
石の魚がどうやって動くんだ。どんな生物なんだそれ。
鉱石魚について何か書いてないか本をよく調べてみると、概要欄の下に小さく記述してあった。
そこには鉱石魚は「マグマの中に生息している魚」と書いてあった。
マグマの中……?
マグマってあの熱いドロドロした奴だよな。火山とかにある。
そんなとこで泳いで生きていられるのか?
いやいや。ありえないだろ。どんな魚なんだよそれ。
そもそもこの洞窟にそんな場所なんかあるのか? 鉱石魚よりもまずはそのマグマ地帯を探さないといけないんじゃないか?
ちなみにこの鉱石魚は『炎の釣り竿』と言う道具があれば釣れるらしい。
釣りをしないといけないのか。面倒な話になって来たな。俺、釣りをした事なんか1度も無いんだけどな……。
てことはそうか、鉱石魚を入手するのにまずこの炎の釣り竿から作製する必要があるってわけか。何だか段々やる事が増えてきたな……。
何だろうな炎の釣り竿って。普通の釣り竿じゃだめなのかな。
マグマを泳ぐ魚を釣るんだから、そりゃそうか。普通の釣り糸を投げたら中で燃え尽きちゃうもんな。
しょうがない。それじゃまずはそっちの釣り竿の方を調べてみるか。
俺は本を捲って炎の釣り竿の作製ページを探してみる。
あった。
炎の釣り竿は「マグマの熱でも溶けない釣り竿」らしい。
なるほど。予想が当たった。
普通ならマグマに釣り糸を垂らしたら燃えて溶けちゃうが、この釣り竿だと大丈夫らしい。熱への耐久性がある何か特殊な糸を使ってるんだろうか。
さらに調べてみると、炎の釣り竿の作製に必要な素材は『ウォーク石』と『炎の糸』と書いてある。いずれもこのアンダール洞窟内にある素材らしい。
名前からしてウォーク石は岩石とかから採掘できそうだが、この炎の糸というのは何から採取すればいいんだろう。
燃えてる糸みたいだけど、そんな糸あるのかなこの洞窟に。
……。
マジックラットの剣。
過去1めんどくさい合成アイテムだった。
はあ……。
今回の素材集めはかなり手間が掛かりそうだな……。他に何か簡単に作れる武器はないのかな……。
俺は本をペラペラ捲って調べてみたが、この洞窟で作れる武器はこのマジックラットの剣だけだった。
やっぱ作るのやめようか? この剣。めんどうだし。
でもまた魔法が効かない敵が来たら厄介だしな。物理攻撃が出来る武器は持っておきたいし……。
やっぱりやるしかないか。
もしかしたら手間が掛かる分、よっぽど強い武器なんじゃないかな、この剣。
なら頑張って作るんだけど、どうなんだろな。苦労に見合った価値があればいいんだけど……。
まあいつまでもこんなトコでウダウダ言ってても仕方ない。
チャチャっと素材集めを終わらせるか。チャチャっと。
無心だ。こういう時は無心でやるのだ。
俺は無理やりやる気を引き出し、素材の採取に取り掛かることにする。
さてまずは何から手を付けるか。
ウォーク石にするか。何かこれが1番見つけやすそうだし。
前に採取したラガス石と同じで、たぶん岩にサンダーを撃って破壊すれば楽に入手できるはずだ。
俺は素材の場所を探すため、カーナビで素材の位置を検索する。
お。
何だ、すぐ近くに反応があるじゃん。
この先の洞窟で緑色の点が表示してある。これは素材を表示する色だ。
んじゃ、さっそくそこへ向かってみよう。
俺はアクセルを踏み車を走らせる。
道幅が狭い洞窟になり、そこをしばらく進んで行くと、素材のあるエリアに到着した。
そこには、歩く岩がいた。
丸いゴツゴツした黒い岩からスラッとした長い足が2本生えている。その足も岩で出来ている。
岩はその長い2本足で、洞窟内をスタスタと歩いていた。
何だあれ……。
どう見ても素材じゃないじゃん。絶対に魔物だろあれ。
いや、逆か。もしかしたら素材が歩いてるだけなのかもしれない。歩く素材だ。そうに違いない。
採取しに行く前にあれが何なのか調べておく必要があると思い、俺はカーナビの緑の点を押す。
ウォーク石 レベル10
スキル/前蹴り、回し蹴り、かかと落とし
氷耐性、風耐性、雷耐性
普通に魔物だった。
しかも蹴りを主体とするキックの鬼だった。それに何かいろいろ耐性も持ってるみたいだし。
でもレベルは低いみたいだな。経験値は期待できないかもしれないが、まあ倒しやすい相手だとは思う。
ウォーク石は洞窟の奥の方へスタスタ歩いてその場から去って行く。
あー、行っちゃうな。面倒だからさっさとサンダーで破壊しちゃうか。
あ、くそ。ダメだ。相手は雷耐性を持ってるんだ。たぶんこいつにはサンダーが効かないはずだ。
サンダーが効かないって事はあの岩は魔法では破壊できないってわけだ。
参ったな……。予定が狂った。
さてどうするか。
下手に接近したら蹴りが飛んで来るかもしれない。とりあえず離れていよう。
俺はウォーク石に見つからないよう車をバックさせる。
車がバックする時のピー、ピー、と言う音で気づかれるんじゃないかと冷や冷やしたが、まだ大丈夫そうだった。
そのまま後ろの岩影に車を隠し、身を潜める。
あ、魔物がこっちに戻って来る。
さっきの音でバレたか……?
ウォーク石はこっちの手前まで来るとグルリと方向転換し、また奥の方へ戻って行った。
お、まだ魔物はこっちに気づいてないみたいだ。よしよし。ここなら見つからないみたいだな。
さて。もう少しここからあの魔物を観察するか。何か弱点が見つかるかもしれない。
しばらく待ってると、奥の洞窟へ行ったウォーク石が数分でまたこっちに歩いて戻って来た。そしてまたグルリと方向転換して奥へと去って行く。
ふむ。どうやら同じ場所を行ったり来たりしてるみたいだな。あの魔物はこの辺りを警備しているだけみたいだ。
あの魔物の歩いてる進路に罠でも仕掛けられるといいんだがな……。
あ、そう言えばマジックマインって覚えてたよな、確か。火属性の地雷魔法って言ってた気がする。
ウォーク石の耐性には火の耐性が無いみたいだし、その地雷を仕掛ければ破壊できるんじゃないかな。
うん。何か行けそうな気がする。やってみるか。
俺はウォーク石がいない隙に岩陰から出て、魔物が歩く進路にマジックマインを使ってみる。
すると地面に円形の魔法陣が敷かれる。
魔法陣は真っ赤に光っていたが、すぐにその光を弱めていき、やがて消えてしまった。
これだとパッと見、地面と同化して見えないのでここに魔法陣が敷かれているとは分かりにくい。いかにも罠っぽい魔法だ。
さて、それじゃまたさっきの岩陰に隠れよう。そろそろ魔物が来るはずだ。
俺は再び車をバックさせ、後ろの岩陰に戻って息を潜める。
隠れること数分、奥の方から2本足の岩がこっちに戻って来る。
どうやら魔物は魔法陣に気づかなかったらしく、その長い足で足元にある地雷を踏んだ。
ヴァゴオオオオオオオオッ!
大爆発が起きた。
木っ端微塵になる長い美脚。
体を破壊されたウォーク石はガラガラと崩れ落ちる。
吹き飛ばされたウォーク石の欠片が地面のあちこちに散らばっている。
俺は車から降りて地面に落ちているウォーク石の石ころに近づく。
フットボールみたいなサイズのゴツゴツした石だ。持ってみたらめちゃくちゃ硬い。
だが重さは凄く軽かった。これなら持っていても苦にならない。
そうか、だからこの軽い石を釣り竿に使うのか。
よし! と言うわけでまずはウォーク石をゲットだ! これで炎の釣り竿の片方の素材が手に入った!
次はもう片方の素材『炎の糸』を採取しに行こう!




