表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/26

初めてのレベルアップ

俺はビニール傘を車から持ち出す。そして傘を閉じたままの状態で両手で握りしめ、剣を持つように構える。

 スライムを見るともう目の前まで接近している。

 やるしかない。


「おりゃああああああッ!」


 俺はスライムめがけてビニール傘を打ち下ろした。

 しかしスライムは大きく口を開け、俺のビニール傘に噛みついてくる。

 牙がビニールの部分に深く食い込み、傘が動かせなくなる。


「くそ! しまった! こいつ、離せッ!」


 俺は必死に振払おうと傘を思い切り引っ張るが、それでもスライムは傘を離そうとしない。

 そこで俺は機転を利かせる。


「うおおおおおおおおッ!」


 俺は全力を振り絞り、噛みついてるスライムごと傘を上に持ち上げる。

 くそ、メチャクチャ重い。だがこうなりゃこっちのもんだ。


「どりゃああああああッ!」


 持ち上げたスライムを、今度は地面にオモクソ叩きつける。

 ブヨブヨした体に効果があるとは思えないが、今の俺にはこれしか方法は考えつかなかった。今さらだが、やっぱ車で轢くべきだったか。

 だがそれは考え過ぎだったようだ。

 地面に叩きつけた瞬間、スライムの体はドロリと溶け始める。

 溶けた体はビニール傘をズルズルと滑り落ちていく。

 足元にゼリー状のプルプルした液体が地面に広がり水溜まりを作る。その水溜りの中には鋭い2本の牙が浮かんでいる。

 ビニール傘を噛んでた牙だ。

 それを見て、俺はスライムが死んだと確信する。


「はあ……はあ……、やった! 倒した! どうだ! 参ったか……ッ! 残業と、休日出勤で培った工場作業員の筋力を侮るんじゃねえ!」


 そのとき俺の頭の上から軽快な音声が聞こえてくる。


《レベルアップしました!》


 お。来た来た。これだよこれ。この告知を待ってたんだよ。

 やっぱり敵を倒すと経験値が入る仕組みだったんだな。

 さあ言ってくれ。俺の得た能力を。

 俺は魔法を覚えるのか? 

 それとも隠密スキルか? 

 何でも構わんぞ。この世界を生き抜くために強くなれるのなら、贅沢は言わない。


《軽自動車のレベルが2になりました!》


 いよっしゃ! ……え? 

 あれ。いま軽自動車って言った?

 いや、聞き間違いか……。

 

《軽自動車が『ファイアボール』を覚えました!》


 ふぁッ!? 

 軽自動車がファイアボールッ!? 

 いや、俺は? 何で俺に使わせてくれないのファイアボール!?

 スライム倒したの俺だよ俺!


《軽自動車が『魔力燃料』を覚えました! 入ってるレギュラーガソリンが消えて、燃料が魔力に変化しました!》


 魔力燃料……? 

 何だそれ。初めて聞く燃料だな。

 リッター辺りどれぐらい走るんだろうか。貧乏人はそれだけが気になる。

 それよりその入ってたレギュラーガソリン、俺が昨日スタンドで満タンにしたやつなんだよね。どこ行っちゃったのそれ。

 使った3千円返して。泣きそうだから。


《軽自動車が『車体硬化』を覚えました!》


 車体硬化……。また聞いたこと無い能力を覚えたな。

 硬化って、硬くなるってことだよな?

 それは単純に車の耐久性能が上がったということでいいんだろうか。

 まあ車が頑丈になれば、敵に攻撃されても壊れにくくなりそうだよな。そんなに悪くない能力だと思う。ありがたく頂戴しておく。

 でもあまり硬いと廃車するときに困るな。


 待てよ。ここまでいろんなスキルや魔法を取得したって事は、そろそろアレが来るんじゃないか?


 ステータス確認。


 そう、言葉を発する事で自身のステータスが見れる定番スキルだ。

 ステータスオープン! 

 あれが言ってみたい。

 前から異世界に行ったら1度でいいからあのセリフを実際に言ってみたかったんだ。

 もしかしたらその夢が、今この瞬間に叶うかもしれない。

 さあ言ってくれ、「ステータス確認のスキルを覚えました」と。

 お前が期待を裏切らないと、俺は信じる。


《軽自動車に『ステータスの確認ボタン』が追加されました!》


 え! ウッソ! 

 ステータスを見るためにわざわざ確認用のボタンを付けてくれたの? 俺の車に?

 やったー! って、なるか!

 ステータスオープン! 

 言わせろ俺に!

 何でボタン機能にした? 

 それだと「せーの、ポチッとな」て言うしかなくなるだろ! ボタンだと!

 いらんわ……ボタン付きの車なんて……。

 車に乗ってボタン押してる奴なんて、トイザ●スの車に乗ってる赤ん坊ぐらいだろ。


 今のを最後に、レベルアップの告知は終わってしまった。

 何か俺のことは完全無視の告知だったのであまり嬉しくなかった。

 何だろう。俺に話しては来るけど目は合わせてくれない感じのレベルアップやめてもらっていいですか。


 しかし今のではっきり分かった。

 どうやらこの世界はレベルの概念があるらしい。しかもそれは敵を倒すことで上がる仕組みのようだ。

 まあRPGの熱い王道システムだ。

 でもレベルを上げてもテンションは下がるのはなぜだろう。それホント不思議。


 そういえば今の告知の中に、車にボタンが付いたとかって言ってたな。いったい何のことだろうか?

 運転席に座りながら、車内の機械をざっと見回す。

 すると、ハンドルの中央に購入時には無かった楕円形の小さな押しボタンが追加されている。

 よく見るとボタンには名称が刻まれていた。そこには『ステータス』と書かれていた。

 コレか、言ってたのは。このボタンを押せばステータス画面を開けるわけだな。

 しゃーない、試しに押してみるか。

 気になるのは、これは果たしてどっちのステータスが見れる機能なのかと言うことだ。

 俺か、車か。

 まあ今の流れからして、だいたい予想はつくけど。


 俺はボタンを押してみる。

 すると目の前に、宙に浮く透明な真四角の板状の表示画面が現れた。



軽自動車 レベル2

HP 100/100

MP 10/10

物理攻撃/4

物理防御/16

魔力/10

魔法防御/6

スキル/魔力燃料、車体硬化

魔法/ファイアボール



 やっぱり車かい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ