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知識の塔へ

 あのあと妖精にかなり怒られたが、知識の塔へ行くための素材集めに必要だと事情を説明して謝ったら何とか許してくれた。

 体は小さいが、心は大きい妖精だった。


 妖精は特に体に異常は無いらしく、羽も少し時間が経てばすぐに再生するらしい。それを聞いて安心した。

 妖精いわく、人間で例えたら髪の毛を引っこ抜かれたような感じだと言う。怪我はしないが痛いことは痛いらしい。


 とにかくこれでステルスポーションの素材は揃ったわけだ。さっそく合成してみよう。


 俺はいつもの手順で車のボンネットを開き、中に満たされている液体へ手に入れたラガス石、ヒカゲ草、妖精の羽を次々に投入していく。

 あとは蓋を閉めて待つばかり。

 いつものように車のヘッドライトが自動で光り出し、空中にアイテムを作製していく。

 数秒で光が消え、細長い瓶がポトリと地面に落ちる。俺は落ちた瓶を拾う。


 瓶の中に黒い色をした液体が入っている。

 これを車に補給すれば車が透明になり、ステルス効果を得られるらしい。乗ってる俺にもそのステルス効果はあるんだろうか。

 そう言えばもう1つ、錬金術の本には確か透明になれるのは一定時間だけとあった。

 一定時間がどの程度までかをステルスポーションを使って検証してみたかったが、中身が無くなったらまた妖精から羽をむしり取らなくてはいけなくなる。

 やめておこう。2回もむしるのはさすがに可哀想だ。1回の使用で何とかドラゴンをうまく搔い潜ろう。

 チャンスは1回だ。

 その1回のチャンスに賭けてみよう。


 俺は泉で魔力燃料を満タンにしたり空き瓶を補充したあと車のエンジンをかけ、妖精に窓から別れの挨拶をする。


「それじゃ妖精さん。俺はこれから知識の塔へ行って来るよ。いろいろ親切に教えてくれてありがとう」


 片方の羽が無くなり飛べなくなった妖精は、地面から見上げながら俺に答える。


「いえ、こちらこそ騒いでしまってすみませんでした。ススムが無事にガーディアンを見つけられる事をここから祈ってます」


 俺は軽いお辞儀をして、車のアクセルを踏む。

 車が泉から離れて行くとき、俺は車内のバックミラーをチラッと見る。

 後ろの泉で、去ろうとする俺を妖精がまだ見送っているのが見えた。

 俺はそれを見て車のハザードランプを2回点灯させてから森を抜けていった。


 草原の原っぱに車を止める。

 遠くに高い塔が小さく見える。外国の百階以上ある高層タワーみたいだ。

 塔はやはり周りを巨大なドラゴンが飛び回っている。

 ここは塔からかなり離れた場所なので、ドラゴンは俺がいる事にまだ気づいてないみたいだ。

 この離れた場所ならドラゴンに見つからずに安全にステルスポーションを給油口に使用できるので、使うならこの場所でやろう。

 だがここで2つほど問題がある。

 1つはステルスポーションを使えば車は透明な状態になるが、透明になれる時間の長さが不明な点である。

 透明になっているのは一定時間らしいが、具体的な時間が本には明記されていない。

 それともう1つは車が走行する速度についてである。

 スピードを出して一気に草原を突っ走ると、この凹凸がある草原の芝生だと車はガタガタとうるさい音が出てしまう。

 音が出ればドラゴンに存在がバレる可能性が出てくる。スピードを出して走るのは危険な気がする。

 ではスピードを出さずにゆっくり走って行くのはどうか。そうすると音はある程度は抑えられるだろう。

 だが今度は透明になっていられる時間が塔に着くまでに終わってしまうかもしれない。

 車が透明化する時間は限られている。

 その時間がどのぐらいあるのかは分からない。

 長いかもしれないし、逆に短いかもしれない。

 ここから塔まではだいぶ距離がある。もし透明になる時間が短かったら途中でドラゴンに見つかってしまう恐れがある。

 速く走れば音が出る。ゆっくり走れば時間がかかる。どちらを取るのがベストだろうか。

 俺は運転席で腕を組んで考える。

 なかなか難しい選択だな。どちらも捨てがたい方法だ。

 そうだ。両方の良いところを取ってみるのはどうだろうか。

 途中までは音を出さずにゆっくりと徐行で走り、塔までの距離を縮めておく。

 そして透明になれる時間が終わったら、そこから一気にスピードを出して残りの距離を突っ走る。

 もしその瞬間にドラゴンに気づかれたとしてもドラゴンは空中を飛んでいるので、こっちに向かって来るまでに多少の遅れがあるはずだ。

 塔までの距離を縮めておけばドラゴンから攻撃を受ける前に塔の中へ滑り込むことができるかもしれない。

 この作戦が上手く行くかは、すべてステルスポーションの持続時間に掛かっている。

 もし塔に着くまで効果がずっと続けば簡単に中に入れるわけだ。

 だがもしすぐに効果が切れてしまったら、ドラゴンの猛攻が待ち受けているだろう。危険な賭けではある。

 もしドラゴンに見つかったらどうするか……。サンダーがあるな。そうだ、あれをドラゴンに食らわしてやろう。

 レベル差があるから自分が受けるダメージばかり警戒してたが、岩を砕くサンダーだ。もしかしたらドラゴンも破壊できるんじゃないだろうか。

 まあ、あくまでそれは隠密行動が失敗に終わった場合の最終手段にしておこう。基本的には見つからない事に越したことはない。


 俺は自分を落ち着かせるため、深呼吸をする。

 ふう……。よし、行こう。

 

 俺はまずカーナビで周辺に魔物がいない事を確認する。

 いない事を確認すると、ステルスポーションの瓶を手に持ち、車を降りて予め開けておいた給油口の中にポーションを流し込む。


 一瞬で車が消えた。


 透明というよりも、消失したと言った方が適切な表現だと思う。

 完全に目の前から車が消えて無くなってしまった。

 俺は1人ポツンと草原に残される。

 透明と言っても少しは薄っすら見えるだろうと思ったが、まさかここまで綺麗に消えてしまうとは思わなかった。

 車が見えなくなったのはいいが、もしかしたら本当に消えてしまったのではと思い始め、焦った俺は車があるか確かめるため目の前の何も無いところに手を伸ばしてみる。

 あった。車に触れた。

 パッと見は何も無いように見えるが、車はまださっきと同じ位置に止まっていた。

 俺はホッとしたが、安心してる場合じゃない。このステルス効果があるうちに早く塔へ向かわないと。

 俺は手探りで自分の運転席に戻る。驚くことに車内に入ると俺まで透明になった。

 車も自分も消えてしまい、辺りには芝生しか見えなくなった。

 そんな状況でも何とか俺は感覚だけを頼りにシフトレバーを探してそれをドライブに倒し、右足を動かしてアクセルの位置を確かめて静かに踏む。

 まだポーションは使ったばかりだ。大 丈夫。時間はあるはずだ。焦らず行こう。

 俺は作戦通り車を徐行させながら、草原をノロノロしたスピードでゆっくり走っていく。音は静かだ。


 車は順調に前へ進んで行く。

 原っぱのど真ん中を堂々と走っているのに上空を飛んでるドラゴンはまだ俺の存在に気づいて無いみたいだ。

 凄いなステルスポーション。

 効果はバッチリだ。

 これなら行けるかもしれない。


 しばらくゆっくりと徐行運転を続ける。

 時間はかかったがそろそろ3分の1ぐらいの距離まで来た。あと3分の2だ。

 まだ透明化は続いているわけだが、何だか薄っすらと車体が見え始めてきた気がする。

 おいおい。まだ半分以上も距離が残ってるんだぞ。

 ここでバレるのは早過ぎる。頼むからやめてくれ……!

 と思ったらやっぱり無理だった。

 車は姿を現し、透明状態が終わってしまった。


「グオオオオオオオオオオオッ!!」


 塔の真上を飛んでいたドラゴンが気づいたらしく、こちらを見て咆哮を上げる。

 くそ、気づかれたか!

 まだ塔までの距離はちょっとあるが、こうなったら仕方がない! 構わず強行突破だ!

 俺はアクセルを思い切り踏み込み、車を加速させる。

 塔の上から巨大ドラゴンが急降下して来るのが見える。

 遠くでバッサバッサと翼を羽ばたかせながらこっちに向かって来る巨大ドラゴン。

 草原を低空飛行で飛びながら敵は正面から接近して来る。

 車とドラゴンの距離はもうほとんど無い。

このままだと正面衝突は必死。

 

「ゴガァアアアアアアアアアアッ!!」


 叫びながら、運転席のフロントガラス全体を覆い尽くすようなドラゴンの巨大な口が迫って来る。

 俺の軽自動車よりも大きな口だ。

 口の中はホオジロザメみたいな巨大な牙をしている。噛まれたら即死ものだ。 

 ドラゴンに食われる直前、俺はサンダーを撃つ。

 ヘッドライトから放たれた稲妻がズドンと轟音を立て、ドラゴンの口の中にヒットした。

 サンダーを食らったドラゴンは顔をひるませ、飛んでいる姿勢を一瞬グラつかせる。

 俺はサンダーを撃った直後、ドラゴンと正面衝突する寸前でハンドルを切ってドラゴンをかわす。

 一瞬、山でダンプとぶつかりそうになった記憶が蘇る。だが今回は車の先に崖は無い。

 回避した車は右へ左へ振られながら、何とか転倒を免れバランスを整える。

 ドラゴンが後ろへ消えたので俺は車を加速させたまま塔へと突っ走る。

 広い草原を軽自動車が爆走する。

 凹凸のある地面を猛スピードで走っているので、車体がガタガタ、ガリガリ言わせている。

 運転席の横にあるサイドミラーから後ろを見る。

 ミラーにはドラゴンが空中で旋回して向きを直し、こちらに再び飛んで来るのが見える。

 さすがレベル16だ。サンダーぐらいじゃ死んではくれない。

 目の前の速度メーターを見ると時速はすでに100キロを超えている。後ろのドラゴンとはかなり距離が開いたはずだ。

 頼む、間に合ってくれ!

 車は塔にどんどん近付いている。

 近い! もうすぐそこだ! 行ける!

 だが塔に入れると思いきや、ここで俺に大きな誤算があった。

 何と塔の扉が閉じられているのだ。

 扉は鉄板で作られており、見るからに頑丈そうだった。

 くそ! 誰だ閉めたのはッ! 

 余計なマネしやがって!

 そう言えば妖精さんは、この塔は俺が作り出したって言ってたな。

 じゃあ俺か! 閉めたのは!

 見た感じ、扉の縦横の長さは5〜6メートルはありそうだった。小さい軽自動車が通るには充分な幅がある。

 だが肝心の扉が閉まっていては中へは入れない。車から降りて開けようかと思ったが、後ろからドラゴンが迫って来ている。そんな暇は無い。

 となれば魔法で壊すしかないな。

 俺は車を走らせながら迷わずサンダーを扉にぶち込む。

 鉄板で出来た扉は1発では破壊できず、ひん曲がっただけだった。

 ならばと続けざまにサンダーをもう1発撃ち込む。

 扉は奥へぶっ飛んでいった。

 バックミラーを見ると、後ろからドラゴンが接近して来ている。


「ガアアアアアアアアアアッ!」


 ドラゴンは大きな口を開き、口から炎を吐き出した。

 ファイアブレスだ!

 巨大な灼熱の火炎が後ろから迫って来る。

 俺は構わずアクセルを踏み続け、塔の中に突っ込んでいく。

 入った直後、後ろでドゴォッ! と衝撃音が。

 振り返ると、ドラゴンが外のドア枠に激突していた。

 ドラゴンの体はサイズがデカ過ぎるので、どうやらドアを通り抜ける事ができなかったようだ。


 俺はブレーキを踏み込みキキキッ! と車を一気に減速させ、車を塔の中で停止させた。

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