旅立つ準備
俺は車を走らせ、また草原へ出る。
ではさっそくレベル上げ開始だ。
さて、まずはどいつを狩るか。
間違ってもドラゴンが飛んでるエリアは行かないようにする。見つかれば瞬殺される可能性がある。
来た道を戻って別の魔物で稼ぐとしよう。
俺は車を走らせ、1匹のポイズンバタフライが優雅に草原を飛んでるのを見つける。
いたいた。あいつから経験値を頂こう。
あの魔物はウインドカッターさえ警戒しておけば問題ない相手だ。
どれ、今のうちに例の防御魔法を張っておくか。
俺は覚えたばかりのマジックバリアを発動させると、すぐに車が白い膜で覆われる。
よし、これで魔法防御力がかなり上昇したはずだ。攻撃魔法のダメージを軽減してくれるだろう。
空を飛んでる巨大な蝶は俺に気づいたらしく、すぐこっちに向かってウインドカッターを撃って来た。
三日月型の刃が飛んでくる。
カンッ!
車に当たった刃は弾かれ、空へと跳ね返っていった。
おお! 弾き返した!
しかも車に傷がまったく付いてない! まさかのノーダメージ!
これがマジックバリアの効果か!
よしよし、これなら余裕で勝てる!
俺はお返しとばかりにサンダーを発動。空中にいた蝶に命中し、敵は粉々になった。
一発だ。やはりサンダーは破壊力がある。
俺はレベルアップを期待してその場で待機する。
だが今度はすぐにレベルは上がらなかった……。
どうやら一匹だと経験値が足りないらしい。
しょうがないのでまたポイズンバタフライを探しに行く。
どっか飛んでないかな。あのデカい蝶。
うーん。なかなか飛んでない。
あの蝶の元はポイズンインセクトだが、あの巨大な芋虫はそこまでたくさん羽化をしてるわけではないらしい。
というわけで、今度は芋虫の方を探しに行く。
いた。
2匹が固まってモゾモゾ地面を這っている。
あの芋虫のレベルは5しかない。
レベル10の俺には何も怖れる必要の無い相手だが、レベルが低いので経験値をあまり持って無さそうな相手ではある。
倒すのは楽だろうが、旨味が無い気がする。
とはいえ経験値は欲しい。やっつけよう。
二匹の芋虫に向けて範囲攻撃のトルネードを使ってみる。
芋虫たちは発生した竜巻にズルズルと引き寄せられていき、その何トンもありそうな体が宙に浮かび上がる。
宙に浮かんだ芋虫たちは竜巻の周囲をグルグル回りながら上昇すると、粉々になって遥か上空へ消えていった。
ここでもトルネードの強力なパワーを垣間見る事ができた。
だが肝心のレベルは上がらなかった。やはり経験値が少なかったのだろう。
そのあと久しぶりにファイアボールを使ったり、またサンダーを使ったりして何匹か芋虫を倒したが、結局レベルは上がることは無かった。
レベルアップに必要な経験値がかなり多くなって来てるんだろう。
しばらく芋虫を倒し、魔力が減ったら泉で補充して、また芋虫を狩ってを繰り返していると、
《レベルアップしました!》
ようやくレベルアップした。
今回はかなり時間がかかった。段々レベル上げが苦しくなって来てるな。
《軽自動車のレベルが11になりました! 軽自動車は『マジックドレイン』を覚えました! 敵から魔力を吸収できるようになりました!》
え! 魔力を吸収ッ?
それってMPを回復するって事?
だよな、きっと!
それじゃもう魔法を使い放題になるってわけじゃないか! やった!
そうなると、もう魔力の泉に縛られて行動する必要も無いのか。この世界を自由に動き回れるってわけだ。
あ。てことはもうポーションの空き瓶もいらなくなるな。魔力の回復に使えると思ったんだけど……。
でもいらないとは言え、念のため魔力の水を補充してボックスに入れておくか。何があるか分からないし。
というわけで急遽、俺は覚えたばかりのマジックドレインをさっそく検証してみる事にする。どれぐらい魔力を吸収するかちょっと見てみたい。
車を走らせるとまた巨大芋虫を見つけたので、そいつにマジックドレインを発動させてみる。
すると芋虫の体から青い湯気のようなモヤが発生し、車の方へ飛んで来た。
青いモヤは車に付着するとすぐに消えてしまった。車が青いモヤを車の内部に取り込んだみたいだ。
その後、いろいろこの巨大芋虫で検証してみて分かったが、マジックドレインは消費MPを1使い、回復量は敵の魔力に影響するみたいだった。
ちなみに巨大芋虫からは魔力は少ししか吸い取れなかった。
芋虫は魔力をあまり持っていないらしい。
今度はマジックバタフライが飛んでるのを見つけたので使ってみたところ、大幅に魔力が回復した。
たぶんこの蝶は魔法が使えるから持ってる魔力が高いのかもしれない。
さて。検証が終わったので引き続き経験値稼ぎをするとしよう。
ドラゴンに立ち向かうまであと5レベルは上げる必要がある。
俺はカーナビで草原のマップを指でスクロールしていき、赤い点を虱潰しに調べてみる。
どこかに経験値をたくさん持ってそうな魔物はいないものか。
だが草原のどこを見ても、レベルの低いスライム、バロンウルフ、ポイズンインセクトの激安メニューしかいなかった。
この辺りはもうこれしかいないらしい。
経験値が少ない相手ばっか。レベル上げにかなり時間がかかりそうだ。
これだと塔へ行くのはだいぶ先になりそうだな。できれば早く行きたいんだよな……。
もし効率を重視するならステルスポーションを作った方がいいのかもしれないな。
それが知識の塔へ入る1番手っ取り早い方法だと思う。
何せ透明になればドラゴンに見つからずに入れるわけなんだし。
よし、やっぱりステルスポーションを作るとするか。
残念ではあるが、あの妖精さんには犠牲になってもらおう。
大丈夫。羽をむしるだけだ。死ぬわけじゃない。たぶん。
幸いカーナビで見たら、近くに素材の1つであるラガス石の岩があった。どこにでも転がってんだな、この石。
俺はすぐに車で岩へ向かい、速攻でサンダーで岩を破壊。崩れ落ちたラガス石の破片を難なく入手した。
ヒカゲ草もすぐ採取できた。ラガス石があった岩の陰に雑草みたく生えていた。
名前の通り、本当に日陰にあった。
見た目も黒い色の葉っぱをしてるので日陰の中だと生えてるのが分かりにくい草だった。
これで素材は2つ手に入った。あとは妖精の羽だけだ。
気が進まないが仕方がない。採取しに泉へ向かおう。
俺は車を魔力の泉がある森へと走らせる。
森に戻った俺は車を泉の傍に止め、車から降りて水辺へ向かう。
泉の上には妖精がパタパタ羽ばたいて浮いている。
俺は妖精が見ている目の前で、水の中に右手を入れ、手首までしっかり浸ける。
「何をしてるんですか?」
妖精が尋ねてくる。
「えっと、その……ただの手洗いだけど」
「はあ」
俺は妖精に逃げられると困るので本当の目的は言わなかった。
「ごめん妖精さん。ちょっと俺がいる方に来てもらっていい?」
「え? はい。いいですよ」
妖精は言われるがまま、右手を水に浸けながら地面に座り込んでいる俺の方へフワフワ飛びながら近付いてくる。
目の前に来たので、俺は水から右手を出し、濡れた手のまま妖精の透明な羽に触れてみる。
ムニュ、とした柔らかい感触がある。
本当に羽に触れる事ができた。
「きゃ! 何をしてるんですか?」
乙女のような声を上げる妖精。
何か満員電車の痴漢みたいな気分になった。
俺は妖精の質問を無視して、そのまま羽を鷲掴みにして思い切り引っ張る。
「てい!」
「ひぎゃッ!?」
ブチッ、と千切れる音がする。
妖精は変な悲鳴を上げたあと、あっちこっちにビュンビュン飛び回る。
痛がってるんだろうか。
ドボン。
妖精が泉に落ちた。
握りしめた右手の中から光が漏れている。
俺は手を開く。
手の平に光り輝く小さな一枚の透明な羽があった。
これが妖精の羽か。
「よし! 何はともあれ素材ゲットだ! これでステルスポーションが作れるぞ!」
俺はガッツポーズをする。
「よし! じゃないですーッ! なに気持ちよくガッツポーズ決めてんですか! 鬼ですかッ!? 返してくださいよ私の羽ーッ!」
泉の水に浸かりながら、妖精が俺に文句を言っていた。




