塔の周りを飛ぶ魔物
何だ今のは?
遠い場所から聞こえた気がする。
今まで会った魔物にあんな大きな咆哮を上げる奴はいない。
察するに、かなり大型の魔物なんじゃないだろうか。
体のサイズは分からないにしろ、鳴き声の迫力からして弱い魔物では無さそうだ。
もしかして例のガーディアンとか言う魔物だろうか?
何とも言えない。
そもそもガーディアンがどんな魔物なのか知らない。
そう言えばあの妖精は姿については何も話してくれなかったな。
もしあれがガーディアンの声だとしたら、そいつがどんな姿をしてるのかはちょっと気になる。
そうだ敵感知があった。あれを使えばマップに反応があるはずだ。調べてみよう。
俺はカーナビで魔物を表示する赤い点が周辺に無いか探す。
この辺りは芋虫の魔物ばかりが表示されるな。もう少し遠くを探そう。
お、ここから少し離れたとこに妖精が言ってた『知識の塔』と書かれた場所がある。
そこを赤い点がグルグルと回っている。
俺は指で押して、この赤い点の正体を調べる。
ドラゴン レベル16
スキル/噛みつき、ファイアブレス
まさかのドラゴンだった。道理でデカい鳴き声なはずだ。
レベルはこっちよりかなり高い。いま戦っても勝つ見込みは無さそうな気がする。
しかし状況だけは確認しておきたい。
よし、ちょっくら森の外へ見に行ってみるか。
俺は地面を這う木の根をタイヤで踏みながら車を森の外へと走らせた。
再び広大な草原に出る。
妖精が言った通り、遥か遠くの地平線までずーっと草原だ。まさかこれが無限に続いてるとは思わなかったな。
だがその地平線をザッと見渡しても、それっぽい魔物の姿はない。
もう少し先にいるのかもしれない。
俺はカーナビを見ながら反応があった方向へ車を走らせる。
すると草原のずっと向こうの方に背の高い塔が見えて来る。
たぶんあれが知識の塔だろう。
その塔の近くを尻尾の長い巨大なドラゴンが羽をバタバタさせて空中を飛んでいるのが見える。
あれがそうか。
俺はドラゴンに見つからないよう、できるだけ遠い距離を維持したままでその様子を観察する。
知識の塔の付近を回り続けるドラゴン。
その様子はまるで塔の周辺を巡回しているようにも見える。
巡回か。もしそうなら意図は何だろう。
ひょっとして塔に入る者を見張っているんだろうか。
そうだ。きっとあのドラゴンは俺が知識の塔に入るのを警戒してるのかもしれない。
知識の塔はガーディアンの隠れた場所を教えてくれる建物だ。
つまりあの知識の塔にはガーディアンにとってかなりマズいものがあるはずだろう。
となれば、塔に入らせないようにドラゴンが塔を守っていても不思議ではない。
何れにしてもやはりあの知識の塔に入ってみる必要がありそうだ。すべてそれで明らかになるはずだ。
だがどうするか。あの格上のドラゴンがいる以上、中に入る事はおろかあそこに近づく事さえ躊躇われる。
ここはひとまずいい案が浮かぶまで対策を練るとしようか。
それにあいつとやり会うならもう少しレベルを上げる必要がありそうだし。
16レベルの相手に10レベルの奴が挑んでもまず勝ち目は無いだろう。
俺はドラゴンに見つからないよう車をUターンさせる。
また魔力の泉の付近に戻る。
気になってたので調べてみたが、さっき使ったトルネードの消費MPは10で、ポーションの空き瓶1本はMPを全回復させる事などが分かった。
かなり使えそうだな、あの空き瓶。
万が一魔力が尽きた時のために中身を補充して車に携帯していこう。
さて、あのレベルの高いドラゴンにどう立ち向かうか。
地道にレベル上げするべきだろうけど、時間が凄くかかりそうな気がする。
そうだ。こんな時こそ錬金術だ。
何か使えそうなアイテムが作れないか探してみるか。
俺は助手席のボックスを開け、錬金術の本を取り出して運転席に座りながら本をペラペラ捲る。
……ん?
俺はユニークな名前の合成アイテムが書かれたページを見つけ、手を止める。
そこには『ステルスポーション』と書かれていた。
説明書きには「このアイテムを使用すると車が透明になり、一定時間の間だけ敵に見つからなくなる」と書いてある。
つまり隠密行動ができるようになるアイテムらしい。
敵に見つからない、という言葉で俺はすぐに使い道を思いついた。
このアイテムがあれば、あの巡回してるドラゴンに見つからずに知識の塔へ入れるんじゃないだろうか。
だがステルス効果は一定時間とある。
ポイズンポーションのように永続的効果が付与されるわけではないらしい。
この一定時間というのがどの程度かよく分からない。
とりあえず俺は合成に必要な素材を調べる。
ふむふむ。どうやら必要な素材はまた3つらしい。
1つは『ラガス石』、もう1つは『ヒカゲ草』、最後の1つは『妖精の羽』と書いてある。
妖精の羽……。
どこかで聞いたことがある名前だな。
て、おいおい。この妖精というのはもしかして泉にいる妖精の事を指してるんじゃないか?
まさかあの子が素材としてカウントされてるとは思わなかった。
あの妖精さんにはいろいろアドバイスをもらった恩がある。素材に使うなんて事は俺にはできない……。
でも待てよ。書いてあるのは羽だ。
羽と言うのは一部の事だ。妖精を丸ごとボンネットに放り込めと書いてあるわけではない。
羽だけを使うなら妖精は別に死ぬわけではない。
それならほんのちょっぴり羽を拝借させて頂いても大丈夫なんじゃないだろうか。
いや待てよ。拝借するとしても問題がある。
妖精は透明な体をしていた。
見た感じ、あの妖精には触れる事はできそうにない。光を掴み取れと言ってるようなものだ。
じゃあ、あの透明な羽は一体どうやって採取すればいいんだろうか……。
あ。
でもページをよく見たら下の欄に小さく採取方法が書いてある。
また見落とすとこだった。何で大事な事はいつも小さく書いてるんだ。
俺は書いてある字を見てみる。
(※妖精の羽は、魔力の水に手を浸け、手を濡らした状態だと妖精からむしり取れます)
……。
むしり取る、か。
なかなかワイルドな採取方法だな。
なるほど。魔力の水を手に浸けると透明な妖精にも触れるようになるのか。手に魔法がかけられるんだろうか。
兎に角これで素材が手に入る事は分かったわけだが、できれば妖精には危害を加えたくない。
だがステルスポーションが無いと巡回しているドラゴンを突破できるか分からない。
俺はジレンマに陥る。
うーん。妖精を犠牲にしないで済む何かいい方法が他に無いものか。
そうだ。
ここは一旦レベル上げをしてみるか。
要はドラゴンに勝てばいいんだ。あいつに勝てるならステルスなんかする必要は無いんだし、そうすれば素材なんかも集めなくて済む。単純な話だ。
だがドラゴンのレベルは16。かなり高い。
そこまですぐに上げられるだろうか?




