魔力の泉に到着
広い草原の向こうに森が見えてくる。
森と言ってもショッピングモールぐらいの規模で、草原の中にポツンとあるわりと小さな森だ。
カーナビを見るとこの森が魔力の泉だと表示している。
森には特に入口のようなものは見当たらなかったが、木と木の間隔が広いので難なく車で中に入って行く事ができた。
森の中は鳥の囀りが聞こえていたり、どこからかチョロチョロと水が流れる音がしていた。
とても癒やされる空間だ。
地面を這う木の根っこをタイヤで踏みながら進んで行くと、目の前に池のようなものが現れた。
これが魔力の泉だろうか。
泉を囲んでいる周辺の岩から青い水が滴り落ちている。
どうやらこの岩から流れた湧き水によって、泉は作り出されているようだ。
近くに山があるわけではないので、この水がどこから湧き出ているのかは分からない。
不思議な現象である。
運転席から周りを見回しても魔物の姿が無いなので、俺は車から降りることにした。
泉のすぐそばまで歩いて行き、しゃがんで水に手を触れてみる。
冷たくて気持ちがいい。
透き通った綺麗な水だな。
水の中を見ると小魚が気持ちよさそうに泳いでいる。
「ススム。あなたをお待ちしておりました」
「え?」
声がした方を見ると、泉の上に白く輝く光が浮いていた。
光をよく見ると、それは羽の生えた女の子だった。身長は350mlのペットボトルぐらいだろうか。とても小さな女の子だ。
髪は肩まである金髪で耳は少し尖っており、服は白いワンピースを着ている。
どうやらこの子が俺に話しかけて来たらしい。
突然、この羽の生えた子はこっちに向かって飛んできて、猛スピードで俺の体にぶつかって来る。
「うわッ!」
まさかこの子は魔物だったのかッ!?
しまった油断した!
しかし女の子は俺の体を通り抜け、自分の背後に回った。
え……?
も、もしかして体を透けた……?
小さな女の子は羽をパタパタさせながら、驚いてる俺を見て空中でクスクス笑っている。
「ふふふ、ごめんなさい。ちょっと驚かそうと思ったんです。ビックリしましたか?」
何だ……そういうことか……。
「いやビックリはしたけど……、今キミ、俺の体を通り抜けなかった?」
「はい、私は透明の体をしてますから。ぶつかっても触れることはありませんので安心してください」
透明な体……?
疑問に思い、俺は尋ねてみる。
「キミは何者なの?」
「私はこの森に住む妖精です」
「妖精……」
妖精ということは魔物じゃないってことだろうか。
まさか安心させておいて急に牙を剥き出して来たりしないだろうな。
「そんなに警戒しなくても大丈夫です。私はあなたの味方です。それにこの森は結界が張られた聖域です。外の魔物はこの森の中に侵入することはできません。この森には魔物はいません」
「そ、そうなんだ……」
それを聞いて少しホッとする。
まあ確かにこの子が俺を攻撃しようとしたらさっきできたはずだし、それをしないって事はこの子の言うとおり魔物じゃないんだろう。
そうだ。そんな事よりもっと重要な事があった。
「あの、妖精さん。質問なんだけど、この水って魔力でできてたりするの?」
「はい」
「じゃあこの水で、魔法を使うMPって回復させることってできる?」
「はいできます」
「本当に?」
よかった。やっぱり思った通りだった。
これでこの泉を使っていつでも車の魔力燃料を補給できる。よし。それならしばらくこの場所を給油所として使おう。
しかしMPって単語をこの妖精が理解してる事に驚いた。わりと話が通じやすい相手みたいだな。
そうだな……。この物知りな妖精ならもしかしたら俺の知りたい事を何でも答えてくれるんじゃないだろうか。
なら聞いてみたい事が1つある。
「あのー、こんなこと聞いても妖精さんに分かるかどうかとは思うんだけど……」
「何でも聞いてください。私はこの世界を見通す神通力を持っています。大抵の事は答えられます」
「本当に? それじゃずっと気になってたんだけど、この世界ってあの世なの? 俺は車の転落事故で死んだの?」
「いえ。ススムはまだ死んではいません」
「え、死んでない? それじゃ俺がいるこの世界は一体……?」
「この世界はラストフォリア、『生と死のはざま』の世界です」
「生と死のはざま……?」
「はい。ここはいわゆる、ススムの精神世界です。ススムは車の事故のあと意識を失い、元の世界とは次元の異なるこの世界に導かれました」
「はあ……」
とりあえず相槌を打ったが、意味がよく分からなかった。
「その、何か精神世界と言われてもいまいち良くわからないんだけど……。えっと、俺が死んで無いなら、元の世界にいる俺は今どういう状況にあるんだ? まだ葬式とかで焼かれたりしてないって事?」
「おそらくあなたの肉体は今、昏睡状態にあると思います。生死を彷徨っているのです。完全に息を引き取っていれば、この世界に来ることはありませんから」
ふーん、なるほど。死んでたらこの世界にはいないのか。
そうか。俺はまだ完全に死んだわけじゃなかったのか。何かそれを聞いて安心した。
買ったばかりのゲームが家にあるんだ。早く帰ってやりたいんだよな。
「しかしこの世界の魔物たちはススム、あなたの息の根を止めようとしています。魔物たちはこの世界を彷徨うあなたを殺し、あの世へ連れ去ろうとしているのです」
「え、あの世へ? 何で俺を連れ去ろうとするんだ?」
「あの魔物たちは、死神だからです」
「死神……? それって黒いローブを着て大きな鎌を持った骸骨の、あの死神?」
「はい。ただここはススム、あなたの世界です。相手は死神ではありますが、姿カタチはススムが生み出したものになっているはずです」
「俺が生み出した?」
「はい。ススムの頭の中にあるものが、この世界を作り出しているのです」
頭の中……。
そういえば俺は仕事が休みになると家で何時間もファンタジー系のゲームばかりやっていた。それこそスライムやら狼やらが出てくる剣と魔法の世界のものだ。
なるほど。それで自分の頭の中を反映して、この世界がファンタジー世界のように見えているというわけか。何か俺のイメージとかなり違う死神だな。
しかしあの魔物たちの正体が死神だったとすると、色々と納得する事がある。
出会った魔物たちは俺を見るなりすぐに俺を殺そうと向かって来ていた。
やたらと好戦的だったもんな、あいつら。
思えば最初のスライムなんかもやたらと攻撃的だった気がする。集団で俺を挟み撃ちしたときなんか、俺を殺す気満々な感じだったし。
次のバロンウルフも最後のポイズンバタフライも、みんな俺を見るなりすぐに攻撃しに来ていた。
それもこれも、あいつらが死神なら納得する。
そうか、俺をあの世へ送るのが奴らの使命だったのか。
精霊は続ける。
「彼ら魔物たちは、倒しても時間が経てば再び再生して現れます。この草原に滞在している限り、ススムは彼らから逃れる事はできません」
「え、そうなんだ……。それはちょっと厄介だな。ならすぐにでもこの草原から出た方がよさそうだな」
「そうすべきですが、残念ながらススムはこの草原から出ることはできません」
「え、草原から出れない? 何で?」
「この草原は封印されているからです」
「封印?」
「はい。ススム、あなたも見たはずです。この草原がどこまでも続いていることを」
「え……どこまでも? ああ、まあ確かに、カーナビで少し見たけど……」
「それを見て、不思議に思いませんでしたか?」
「不思議と言うか、かなり広い草原だなと思うぐらいで……」
「そうですか……。実はこの草原は、無限に続いています。どこまで行っても、果てしなく草原しかありません」
「え、そんな……! 無限って、そんなことあるのか?」
「この世界では普通に存在する現象です」
「そ、そうなんだ……。しかし無限ってことは、じゃあつまり、俺はこの草原から一生出れないって事になるってわけか?」
「はい」
「はいって、そんなあっさり……! それじゃ、俺はどうすれば……!」
「大丈夫です。草原から抜け出す方法が、実は1つだけあります」
「え、何その方法って?」
妖精は答える。
「この草原を封印した『ガーディアン』を倒すのです」




