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うかうかしていられない、羽化

 広々した風通しのいい原っぱに車を止める。

 車から外に出て、両手を広げて草原の空気をたっぷり吸う。

 スーハー、スーハー。あー清々しい。

 体によさそうな草の香りに癒やされるわー。

 周りに敵もいないし、ここなら落ち着いて合成作業ができそうだ。

 よし、やるか。


 俺は車のボンネットを開ける。中はやはり青い液体で満たされていた。

 それを確認したあと、今度は車の中にしまっていた3つの素材を取り出し、それぞれを地面に置く。


 さて、まずは最初に採取したトルドの実を入れるか。

 俺は地面に置いた丸い実を右手で持ち、ボンネットの中に落とす。実は液体の中にゆっくり沈んでいく。

 まず1つ目の投入が完了。

 次は透明なラガス石を地面から拾い上げ、液体の中に落としていく。

 これで2つ目。

 最後に大きなべドロの目玉を両手で抱える。これだけは持つのに抵抗がある。

 よいしょ、と。俺は抱えた目玉を液体の中へ落とす。底なし沼に落ちるように、目玉は奥深くに落ちて見えなくなった。

 これで3つの素材全部を入れ終えた。

 投入がすべて終わったのでボンネットの蓋を閉める。

 おっと、車から離れるのを忘れずに。


 俺は車の横に立ち、合成が開始されるのを待つ。するとすぐに車のヘッドライトが光り出し、アイテムの作製が始まった。

 ヘッドライトの光によって、空中で細長いアイテムが生成される。長さは30センチぐらいの大きさだろうか。

 生成が終わったあと、細長いアイテムは地面にポトリと落ちる。俺は落ちた合成アイテムを拾いに行く。


 手に持って見てみると、それはガラス製の瓶詰めだった。

 この透明なガラス瓶の中に紫色の液体が入っているのが見える。瓶は内容物が溢れないように、ご丁寧にキャップまでしてあった。

 中身の液体は、実と目玉をミックスして作られたのだろう。見るからに毒々しい色をしている。こんなもので本当に毒への耐性効果が得られるんだろうか。


 とにかくこれで念願のポイズンポーションは手に入ったわけだ。

 さて、あとはこれを車に使用するわけだが、どう使えばいいのだろうか。

 適当に車に振りかければいいのだろうか。そういえばその辺をちゃんと調べてなかったな。

 俺は運転席に戻り助手席のボックスから錬金術の本を取り出して、ポイズンポーションが書かれているページを開く。

 そこには「ポーションは車の給油口に注いで使う」と書いてある。

 給油口か。なるほど。燃料と同じ要領で補給するわけか。

 よし、やってみよう。


 俺は運転席の下にある細長い小さなレバーを引き、まず給油口の蓋を解除する。

 次に車から降りて後方にある給油口の蓋を手で開き、さらに中にあるキャップを回して取り外す。

 あとはこの口の中にポイズンポーションを入れるだけだ。

 俺は手に持っているガラス瓶の蓋を取り外し、給油口の中へ注ぐ。

 トク、トク、トク、と流し込む音が聞こえたが少ない容量なのですぐに流し終わった。

 補給を終えた直後、例の声が聞こえてくる。


《軽自動車が『毒耐性』を覚えました!》


 おお。わざわざ告知をしてくれるとは。

 これを聞くと本当にスキルを獲得したんだと実感するから嬉しい機能だ。

 いやー、それにしてもこの毒耐性1つを得るまで長い道のりだった。もうちょっとお手軽にスキル獲得とかで覚えると楽なんだけどな。

 でもレベルアップで欲しいものがいつ与えられるか分からないよりも、自分で探して作った方がピンポイントですぐに手に入るからそっちの方が便利と言えば便利か。

 それに自分で苦労して作ったアイテムだから手間ヒマかかった分だけ感動するというのもあるし。まあスキル獲得に感動なんか求めちゃいないんだけどさ。

 とにかく、これで晴れてこの車には毒攻撃が一切通用しなくなったわけだ。

 この先に毒を持ったどんな敵が出て来ても、もう気にする必要は無いのだ。

 よーし、待ってろよポイズンインセクト!

 お前らはもう恐れる相手では無い!

 わっはっは!


 このハイテンションのまますぐに芋虫の討伐に向かおうと思ったが、その前に念のため現在のステータスを確認しておく。



軽自動車 レベル7

HP 314/350

MP 25/35

物理攻撃/14

物理防御/56

魔力/35

魔法防御/21

スキル/魔力燃料、車体硬化、錬金術

    素材感知、回転斬り、敵感知

    ジャンプ斬り、バランス補正

    毒耐性

魔法/ファイアボール、ヒール、サンダー


 こうしてちゃんと見ると結構いろんなものを覚えたんだな。

 戦闘時に使うものと非戦闘時に使うものと、バランスよく覚えてるんじゃないだろうか。

 HPが減ってるがさっきのベロでひっぱたかれた時のダメージだろう。

 MPも少し減ってしまったのが気になるが、まだ余裕だとは思う。サンダーだけならあと5発も撃てる。

 ただ回復と燃料を考えると、実際に使える回数は4発ぐらいだろうか。

 消費MPゼロの回転斬りとジャンプ斬りのスキルは牙の剣が折れてしまったから今は使えない。

 また作ろうか悩むところだが、素材となるスライムの牙は最初に作ったときに全部ボンネットの中に投げ込んでしまった。

 もしまた作るならスライムのいるところまで引き返さないとならない。

 ここから戻るには距離が多少あるし、ちょっと面倒だな。

 それよりこのままどんどん先に進んで行けばスライムの牙よりもっといい素材が手に入るかもしれない。

 サンダーもまだ少し使えるわけだし、すぐ先に魔力の泉という謎のお楽しみスポットもある。

 もしその泉で魔力を補給できるとしたら、そこを拠点にして魔法を中心にした立ち回りで経験値を楽に稼いでいけるはずだ。

 むしろそうなって来ると、剣のような物理攻撃にそこまで固執する必要は無くなっていくんじゃないだろうか。

 それに回転斬りもジャンプ斬りも、使うと頭を打ったり目が回ったり乗ってる俺の方にダメージが蓄積される一方だし。そこまでしたって別に労災がおりるわけでもない。

 できれば魔法だけ使って、怪我をしないで安全に旅をしたいのが本音だ。

 というワケでスライムのとこへ戻るのはやめよう。時間の無駄だ。


 俺は車を走らせ、ポイズンインセクトのいた草原へと向かう。

 あの芋虫エリアを超えれば目的の魔力の泉はすぐそこだ。あんな芋虫さっさと通り抜けて早く泉に到着しよう。

 俺はアクセルを強く踏み込み、だだっ広い草原を爆走する。


 運転しながら、フロントガラス越しに遠くの原っぱを見る。

 いた。ポイズンインセクトだ。地面に体を伸ばして寝そべっている。

 改めて見るとやはりデカい。さっきの巨大なべドロが小さく感じる。

 よくこんなデカい相手に回転斬りで立ち向かったな。今考えるとかなり危険なやり方だった気がする。

 さっきはそれしか手段が無かったから仕方がなかったが、今はあの時と違いサンダーがある。それに毒を無効化する毒耐性もある。

 今なら遠距離から安全に攻撃できる。

 俺はサンダーを使うため、指をボタンに近づける。

 さらばだ。ポイズンインセクトよ。

 ……ん? 

 あれ、待てよ。

 何か様子がおかしい気がする。

 巨大芋虫は地面で伸びたまま動く気配がまったく無い。まるで死んだように微塵も動かない。

 ……何で? 

 さっきはあんなにウネウネ動いてたのに。

 俺は不審に思い、芋虫の近くまで車を走らせてみる。


 近い距離でよく見ると、巨大芋虫の胴体がパカッと割れている事に気づく。

 見た感じだと、芋虫の体の中身はカラッぽで空洞になっていた。

 まるで中にいたものが腹を割いて出ていったような感じだ。

 そういえばポイズンインセクトはスキルに『羽化』というのがあった。

 もしかしたら巨大芋虫は脱皮して、何か別の姿へと進化したのかもしれない。その可能性はありそうだな。

 もしそうだとしたら、その進化した奴はどこに行ったんだろう?

 そうだ、こんなときこそカーナビだ。

 俺はカーナビで現在地のエリアを確認する。

 あった。赤い点が近くにある。

 これか? 出て行った中身は。

 俺はこの赤い点が何なのか情報を得るため、指で押して調べる。



ポイズンバタフライ レベル7

スキル/毒吹雪

魔法/ウインドカッター



 ポイズンバタフライ。

 直訳すると毒の蝶か。

 名前からして、あの巨大芋虫の進化版に違いない。

 持ってるスキルも『毒吹雪』に変化している。これは何だろう。

 毒の吹雪、すなわち毒性の風を出して来るんだろうか。まあ毒の攻撃なら恐れる必要はもう無い。こっちには毒耐性がある。効かないはずだ。

 それよりもウインドカッターの方が気になる。この能力はスキルでは無く魔法のカテゴリーに入っている。名前からして、たぶん風系の攻撃魔法と思われる。

 今までずっと物理攻撃ばかり受けていたから、攻撃魔法のダメージがどのぐらい受けるのかちょっと想像しづらい。

 俺のステータスを見ると物理防御に比べて魔法防御は若干劣る。

 この魔物との戦いで警戒するとしたらこのウインドカッターだな。ダメージもそうだし、魔法の出し方も分からない以上、対応が難しそうだ。

 なので作戦としては、敵が何かして来る前に遠距離からサンダーを撃って、出鼻を挫いて何もさせない事だ。

 わざわざ相手がスキルを使って来るのを待つ必要は無い。先手必勝。出会ってすぐにありったけのサンダーを撃ちまくって、何もさせずに倒してしまおう。

 ここに来て初の攻撃魔法の撃ち合いになるのか。

 相手の攻撃魔法が上か、俺の攻撃魔法が上か。ぶつかってみないと何とも言えないところだな。


 しかし攻撃魔法の撃ち合いになると1つ懸念する事がある。

 それは今のMPの残量だとサンダーがあと4発しか使えない事だ。

 1匹なら倒せるだろうが、複数の敵に同時に襲われたら苦しい展開が予想されるだろう。

 4発しかないので倒せる敵の数はどうしても限られて来る。5匹以上の敵が来たらアウトだ。

 だが逆に考えれば、こちらは4発も使えるわけだ。

 岩を砕くサンダーが4発もあれば、同じレベルの敵ならきっと楽に倒せるはずだ。

 もし倒せたら、さっきのべドロの経験値と合わせてレベルアップがするはずだ。そうすればすぐにMPは全回復できる。

 それなら魔法を連発しても何とか行けそうじゃないだろうか。

 よし、ポイズンバタフライと対峙したらこの作戦で行こう。


 そんな事を考えてると、遠くの空に何か飛んでるのが見える。

 何か恐ろしく巨大な物体がヒラヒラ飛びながらこっちに向かって来ている。

 俺は運転席から、その近づいて来る物体を遠くから凝視する。

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