( ´ ▽ ` )ノ( ´ ▽ ` )ノ( ´ ▽ ` )ノのお話
どうしようもない姉のお陰で、王太子殿下と結婚出来ました。
マリーディア・ハレリス公爵令嬢には、どうしようもないクラウディアと言う姉がいる。
何がどうしようもない姉かと言うと、何かとトラブルを起こすのだ。
ある日、いきなり。
「わたくしは聖女なのです。神からお告げがあったのですわ。」
などと言い出して、両親を困らせた。
聖女なんて古き時代の言い伝えの産物である。
今時、そんなもの存在等しない。
それなのに、声高々に、
「わたくしは聖女なのですから。敬うべきですわ。」
等と言い出したものだから、マリーディアは頭が痛くなった。
何を根拠に聖女等と?言い伝えの通り癒しの力を使えるわけでもない。
困ったのは王宮の夜会で言い触らしているという事だ。
姉は顔だけは美人である。銀の髪にエメラルドの瞳は言い寄る男性も多いのだ。
ただ、言い寄っては来るがどこの公爵家も姉に縁談を持ってこない。
ちょっと頭がおかしいのではないのか?過去でも、何かとトラブルを引き起こしてきたクラウディア。どこの貴族も敬遠して縁談を持ってこなかった。
だが、遊び相手としては丁度いい。
貴族令息達は夜会で上手い具合に話を合わせて、
「どのような力が使えるというのです?クラウディア嬢。」
「是非ともその聖女の力を見せて欲しいですな。」
クラウディアはオホホホと扇を手に笑って、
「皆様の心を癒す力ですわ。神はわたくしに皆様の心を癒す聖女になれと仰せになったのです。」
「ああ、今宵、褥で癒されたい物だ。」
「私もクラウディアと褥を共にしたい。」
マリーディアは遠くで姉の様子を見つめ、ため息をつく。
どうしようもない姉。自分も尻軽に見られたくはないと、毅然とした振る舞いをしているのだが。
姉のせいで、マリーディアまで、婚約者がいまだいない状況である。
「まったく、ハレリス公爵令嬢は人騒がせな令嬢だな。」
背後にこの国の王太子テディウス殿下が立っていて、マリーディアは慌ててカーテシーをし、挨拶をする。
「これはテディウス王太子殿下。」
「硬くならなくても良い。」
テディウス王太子はとても美男で有名である。
歳は20歳。勿論、婚約者のエレーナ・カルドイン公爵令嬢をエスコートしていた。
エレーナは眉を潜めて、
「まったく公爵令嬢の癖に下賤な。ハレリス公爵令嬢達は品がありませんわね。」
マリーディアまで品がない令嬢のように、エレーナはチラリとマリーディアを見やる。
テディウス王太子の姿を見つけたクラウディア。嬉しそうにこちらへ近づいて来て。
「王太子殿下。聖女のクラウディアでございます。心も身体も癒して差し上げたいですわ。」
マリーディアは慌てて姉に向かって、
「お姉様。無礼ですわ。本当に姉が申し訳ありません。」
慌てて、クラウディアの事をテディウス王太子殿下に謝る。
テディウス王太子はハハハと笑って、
「俺には婚約者がいるからな。遠慮しよう。」
エレーナはフンと背を向けて、
「参りましょう。王太子殿下。」
「ああ。それでは参ろうか。」
背を向けて行ってしまった。
「あああああん。王太子殿下っーーー。」
「お姉様。御無礼に当たりますから。」
本当にどっと疲れる夜会だった。
いつもいつも、この姉には困らされる。
母が公爵である父との再婚でマリーディアが生まれたのだが、クラウディアは母の連れ子で、公爵家の血は引いていないのだ。
いずれ、自分が婿を取って公爵家を継ぐにしろ、この姉については困ってしまう。
それにしても、本当にテディウス王太子はいつみても男らしくて美しい。
マリーディアはテディウス王太子に恋をしていた。
彼には婚約者がいるのだ。エレーナ・カルドイン公爵令嬢。
5年も前に婚約を結んだ、テディウス王太子の婚約者の令嬢である。
来年には二人は婚姻する事になっているのだ。
報われない恋。
テディウス王太子が剣技を披露する国の行事がある。
テディウス王太子だけでなく、腕自慢の貴族達や騎士達が剣技を披露し、
王族や貴族達がこぞって楽しみにしている行事であった。
他の令嬢達と共に勿論マリーディアも喜んで見に行った。
華麗な剣技を騎士団員達と繰り広げ、その美しき勇姿にうっとりとマリーディアは見入ったものだ。勿論、姉のクラウディアも黄色い声援をあげている一人であったが。
どうしようもなく、テディウス王太子の事が好きだ。
叶わぬ恋と解っているからこそとても苦しい。
マリーディアは辛い想いを抱えて悶々と毎日を過ごしていたのだが、
姉のせいでとんでもない事になるとはその時、思いもしなかった。
夜会で声高々に、クラウディアは他の貴族令息達に言ったのだ。
「ちょっと聞いて頂戴。この間、ゼルダス公爵令息チャーリー様とお会いする約束をしていたのに、先客がいたのよ。それが、エレーナ・カルドイン様。信じられる?」
皆、驚く。
テディウス王太子殿下の婚約者なのだ。エレーナは。
それが、チャーリーと???
他の令嬢と話をしていたチャーリー・ゼルダス公爵令息は慌てて、こちらへやって来て。
「クラウディア。このことは言ってはいけないと言っただろう?」
「だって、チャーリー。わたくし、悲しかったんですもの。貴方、エレーナが本命だったの?わたくしとの約束は?」
皆、何事かとこちらへやって来る。
クラウディアの傍で話を聞いていたマリーディアは頭が痛くなった。
でも、エレーナ・カルドイン公爵令嬢が浮気をしていたとは…
テディウス王太子と共に話をしていたエレーナ・カルドイン公爵令嬢。
皆が騒ぎ出したので、騒ぎの話を聞き出し、真っ青になる。
チャーリーに近づいて行き、思いっきり頬を引っ張だいて、
「どういうこと?チャーリー。このことは秘密にしてって言ったじゃない?」
チャーリーは慌てたように、
「俺が言ったんじゃない。クラウディアがっ。」
クラウディアは平然と、
「事実なんですもの。貴方がチャーリーとあの夜寝たのは事実でしょう。許せないわ。わたくしがチャーリーと褥を共にする夜だったのですから。」
マリーディアや他の貴族達はそっとさりげなくテディウス王太子の方へ視線を向ける。
テディウス王太子は爽やかな笑顔で、
「エレーナ。浮気をしていたんだな…この婚約、継続するべきか、考え直した方がよさそうだ。」
エレーナは青くなってテディウス王太子の足元に縋り、
「魔が差したのですわ。わたくしには貴方しか…遊びです。チャーリーとは遊びなのよ。」
「遊びだと?王家は血筋を大事にする。俺の子でない子が先々、王家を継ぐことになったらどうする?尻軽な女は必要ない。婚約は破棄されるだろう。覚悟するんだな。」
貴族達は皆、思った。
婚約破棄となれば、近隣諸国で流行っているのは卒業パーティ。
しかし、テディウス王太子は王立学園は卒業している。エレーナは去年卒業した。
それならば、王宮の夜会で堂々と宣言するだろう。
婚約破棄すると…
クラウディアはホホホと笑って、マリーディアの耳元で囁いて来た。
「これで王太子殿下はフリーになったわ。マリーディア。頑張って射止めなさいな。」
「お姉様?」
「わたくしは公爵家を欲しい訳じゃないわ。わたくしは公爵家の血を引いていなくて、継ぐ資格はないのですから。まぁ、貴方の想いを叶えてあげたくて。わたくしらしくないわね。でも、迷惑ばかりかけてきたから。さぁ、チャンスの神様は後ろ髪が禿げているというわ。頑張って王太子殿下に接近しなさい。」
姉らしからぬ応援だった。
もしかして、エレーナ様の浮気って、姉が陰で糸を引いていた?
チャーリー様を上手く焚きつけた?
しかし、このチャンス逃してなるものか。
マリーディアはテディウス王太子殿下を射止めて見せると燃え上がるのであった。
尻軽令嬢の妹だから、テディウス王太子の印象はあまりよくないに違いない。
しかし、マリーディアは王立学園を去年卒業し、学業は優秀であった。
背も高く美しさもそれなりに自信がある。
金髪碧眼で品があった。
姉の事さえ無ければ、引く手数多だったのだ。
テディウス王太子はモテる。
公爵家の令嬢達はフリーになった今こそチャンスと目の色を変えているだろう。
マリーディアはテディウス王太子に手紙を書いた。
それも、長文の手紙である。
この国の国政について思う所がある意見から始まり、自分自身の事、王太子殿下の事、
そして、熱の籠ったラブレターを書いたのだ。
すると、テディウス王太子から是非、一度、お茶をしたいと言う返事が来た。
興味を持って貰えた。
マリーディアはやったわとばかり、拳を握り締めた。
王宮のテラスでとある晴れた日、マリーディアはついにテディウス王太子と共にお茶をした。
テディウス王太子はマリーディアに、
「お前は姉と違うようだな。貰った手紙、面白かった。もっと色々と話をしたいと思った。」
「まぁ光栄ですわ。わたくしの手紙に興味を持って頂けたなんて。」
「時間はたっぷりある。じっくりと互いの事を話そうじゃないか。」
テディウス王太子とマリーディアは互いの事を楽しく話した。
時間が経つのも忘れて、他にも色々な事を話し合った。
マリーディアは幸せだった。
憧れていたテディウス王太子殿下が、目の前にいる。
楽しそうに自分と話してくれる。
日が傾いた頃、テディウス王太子はマリーディアの手の甲に口づけを落としながら、
「又、マリーディアと話がしたい。良いだろうか?」
「ええ。わたくしも、お話がしたいですわ。」
印象はよかったようだ。
マリーディアは心から幸せを感じ家に帰ったのだが、
姉が置手紙を残して家を出てしまったと、父と母に聞いて驚いた。
- わたくしはわたくしを愛する人の元へ参ります。今までご迷惑をおかけしてごめんなさい。さようなら。-
どうしようもない姉だったけれども、マリーディアは両親に向かって、
「お姉様を探しましょう。連れ戻しましょう。」
母は優しい眼差しでマリーディアに、
「クラウディアはマリーディアの為を思って家を出たのです。ですから、探す必要はないわ。
クラウディアは心配ありません。強かな娘ですから。」
父であるハレリス公爵も、
「そうだな。マリーディアは今は大事な時、王太子妃になれるかもしれないのだ。
クラウディアの事は放って置け。」
「放ってはおけないわ。どうしようもない姉でもわたくしのお姉様ですもの。」
色々と手を尽くして探させた。
しかし、クラウディアの行方は知れなかった。
マリーディアは努力の末、テディウス王太子に気に入られ、新たに婚約者になる事が出来た。
そして、短い婚約期間を経て、結婚と言う運びになった。
よく晴れた春の日。
教会で結婚式を行った後、王宮のバルコニーから、国民を大勢集めて、お披露目をする。
大勢の国民が王宮の広場に集まって、新しい王太子と新たに王太子妃になった二人の結婚を祝福した。
テラスで愛しいテディウス王太子と共に手を振るマリーディア。
幸せだった。皆が祝福してくれる。
ふと、群衆の中に姉の姿を見たような気がした。
遠くて確かでない。だが、その女性は姉に似ていて、こちらに向かって手を振っている。
笑っているようだ。隣には恰幅のよい男性と共にいて。
近くに行って確認したい。姉ならば、抱きしめたい。
でも…この群衆を掻き分けて、あの姉らしき人物の傍に行くのは無理な気がした。
テディウス王太子が群衆に手を振りながら、尋ねてくる。
「どうした?何か気になる事でも?」
「お姉様があそこに…遠くて解らなくて。」
テディウス王太子が叫ぶ。
「馬を連れて来い。騎士団。俺に続け。」
マリーディアがお姫様抱っこされた。
白馬に乗るとマリーディアを前に乗せ、群衆の中を進む。
しっかりと騎士達が左右に展開して、二人を守りながら、ゆっくりと。
もうすぐ姉に会える。マリーディアは姉らしき人物がいたらしき場所へ近づいて行った。
「お姉様?」
ふっくらと前より太った姉クラウディアが、ニコニコ笑って男性と腕を組んで立っていた。
「人違いでございます。王太子妃様。ご結婚おめでとうございます。」
間違いなく姉である。でも、姉は名乗る気はないのだろう。
マリーディアは姉に向かって、
「貴方は今、幸せですの?」
姉は微笑みながら、
「ええ、幸せでございます。貴方様のお姉様に似ているのですか?わたくしが。」
「そっくりだわ。」
「それならば、お姉様も、貴方様の幸せな姿を見て喜んでいらっしゃると思いますよ。」
「有難う。」
姉はとても幸せそうに隣の男性に甘えていた。
テディウス王太子に感謝をする。
「ありがとうございます。わたくし、心残りが無くなりましたわ。」
「それは良かった。」
愛しい人と結ばれて、姉にも祝福された。
何て幸せな日なのだろうか…
国民皆が歓声を上げる。
鳩が飛び立ち、目出度い春の日の出来事であった。
後に、テディウス王太子と結婚をしたマリーディア。
子を沢山産んで、国王陛下と王妃を喜ばせた。
王妃に即位してからも、生涯テディウス国王陛下に愛されて幸せに過ごしたと言う。
「憎い妹。でも愛しい妹。わたくしは妹の為にひと肌脱ぎますわ。」姉視点のお話書きました。