オーダー6
間違って別の作品に投稿してしまいました。
本当にすみません。
京都府京都市のとある喫茶店。
一見古ぼけた外見の何処にでもある個人経営の小さな喫茶店だが、そこには今年の異常気象による炎天下の影響を撥ね飛ばす程の行列が出来ていた──
──その開店前の小話。
「マスター、マスター、そう言えば昨日のニュース見たー?」
開店30分前の軽い準備として、各テーブル席を吹いて回っていたギャル店員がマスターに話し掛ける。
「ああ? 何がだ」
マスターも開店30分前の準備として、昨日夜遅くに仕込んだマスター自慢の鶏モモ肉のタレ浸け、本日のオススメ鶏の唐揚げ定食用の材料を冷蔵庫から出していく。
「なんかさー、昨日この辺りでテロが起こったらしいよー」
「……テロ?」
喫茶店オススメの店頭看板、『本日のオススメ・鶏の唐揚げ定食300円』とこれでもかと色彩鮮やかにマーカーでデコられたスタンド式の看板を表に立て掛けたマスターは不思議そうに呟いた。
「マスターも昨日あったっしょ? すんごい爆発音っていうか、ガスが爆発したみたいな?」
又は雷が落ちたような衝撃波がと語り、『本日のオススメ・鶏の唐揚げ定食300円』を『本日のオススメ・オムライス鶏の親子唐揚げ定食800円』と書き足したギャル店員がマスターに問い掛けた。
「ぐぎぎぎぎ!!」
己はまたしてもと歯を食い縛るマスターだが、『こうでもしないとまーた仕込みのお肉が余るしー』と確言をついてくるギャル店員に膝を折った。
先週の本日のオススメとして奮発したA5ランクのステーキを大量に余らせ大損害を出したばっかりに何も言えないマスター。
あの時は大敗北と共に1日のオムライス売り上げ数が過去最高数を記録しただけにマスターの傷は深い。お前ら何でオムライスやねんと。A5ランクのステーキが500円やぞと。ギャル店員は『んー、オムライスにステーキはないわー』と諦めて賄いで食べた。やっぱオムライスが1番旨いしーとはギャル店員の感想だ。
「なんか有名な評論家が言うにはアメリカの最新兵器が実験されたーとかも言ってたけどー」
それは先日から連日連夜特番が組まれる程に放送されまくったニュース番組。
《京都市で最新兵器の実験か!?》
《京都市で起こった異常気象!!》
《京都市にUFO現る!?》
《京都市付近で起こった大規模電波障害!!》
等々と、緊急速報が出る程までに大騒ぎになっていた事件である。
「あー、でも家のママが言うにはなんか気象衛星がこの辺りから狙い打ちされたって言ってたなー」
見た目はギャルなギャル店員だが、一応はこれでも国内有数の超有名お嬢様学校に通いながらも入学以降主席を維持している文武両道のハイスペック女子高生である。
そんなハイスペックギャル店員の親にして超有名政治家のスーパーハイスペックキャプテンマザーと名高い時期国務大臣候補と上げられるのがギャル店員の母親だ。
「…………」
先日の事件の色々な憶測が飛び交う中、政治家として国の中枢に最も食い込んでいるであろうギャル店員のスーパーハイスペックキャプテンマザーの御言葉は最も真実に近い真理なのだろう。
ギャル店員がここでバイトをする際、スーパーハイスペックキャプテンマザーと一対一で面談した事があるマスターは穏やかならぬ胸の内が張り裂けんとばかりに後悔していた。殺されると。
あれは最早人ではないとはマスターの経験談から語る言葉である。
あれは魔王とまで呼ばれた偉大なる女王陛下を思い起こさす人物であると。
それは過去にちょっとした大国と揉めた時の話だ。
マスターはこの国の民ではないのだから女王陛下に頭を垂れる筋合いはないと、中二病をまだ全快に患わせていたときの事。自身を囲む大軍の武装した兵士に顔を引きつらせながらも辛うじて鎮圧したマスターはその後に現れた大国の女王と呼ばれる女傑と対面しワンパンで破れたのは懐かしい思い出だ。
大軍をも鎮圧できる力は所詮はただの小細工の力、山や地形を変える程のワンパンには到底及ばない人智を超えたただの力には人は敵わないと学んだ。
「でさー、ママがちょっとマスターと話がしたいから時間取りたいんだってー」
「…………」
神は死んだ。いや、邪神処か自身を異世界に転移させた偉大なる神をも女王陛下が滅ぼしたのだから元々いないんだろう。
女王陛下こそが偉大なる神なのである。
「マスター……?」
最早この拠点を放棄し次元の狭間に逃げ隠れしょうかと悩むマスターにギャル店員が下から覗き込んでくる。
ギャルギャルした格好を除かなくても分かるその美少女と疑いようもない端正な顔立ちはギャル店員の母親と相違ない。
「……俺はオムライス作りに忙しいからな。時間はない」
天地がひっくり返るとはこの事だ。
あれほどオムライスを否定していたマスターがオムライスを肯定したのだ。
頭大丈夫かとギャル店員が心配し声を掛けるもお客様は神なのだからオムライスを作るは当然だと語るマスター。
本当に頭大丈夫かと本気で心配し声を掛けるギャル店員だったが、ここはオムライス専門店なのだから当たり前田のクラッカーとオヤジギャグを飛ばしたマスターは宙に浮いた。
「心配して損したし!!」
まるで怪獣が去っていくかの如く足音を鳴らし開店準備に戻るギャル店員。
「お、おごごご……」
そんなギャル店員にマスターは日々切れと威力を増していくギャル店員の拳に悶絶し、本気で恐怖していた。いつか防御を抜かれて殺されると。
過去の経験から、いついかなる時も己の防御力だけはガチガチに固めておくべしと提言するマスターだ。
生きていれば信頼していた仲間やヒロインに突然裏切られ後ろから刺されたりする事もあるだろう。
宿で休んでいれば夜中に闇討ちをくらい宿泊客もろとも焼き討ちにあうこともあるだろう。
だからこそマスターは今朝も起床するなり『ハイプロテクト』『ガーディアンシールド』『エレメンタルガード』『マキシムプロテクション』と重ねて唱え、常に己の防御力は最高に保ち生き延びてきた。
「マスター、早くしないと開店時間だよー」
だがしかし、最近己の最高の防御力を上回るダメージを与えてくる存在は一体何者なんだろうか。ギャル店員だ。
レベルをカンストし、異世界で大賢者とさえ敬われたマスターにダメージを与えるギャル。しかもレベルカンストしたマスターとは違い、此方は未だ成長途中の未熟者である。貴女はレベル100ですか? いいえレベル1です。悪夢だ。
本当に命の危機を感じ始めていたマスターは暫くギャル店員をおちょくるのは止めておこうと固く誓った。
「マスター、ママが来週の定休日にお邪魔するってさー」
「すまんな、今週からうちは定休日は廃止して年中無休になったんだ」
「んー、ならママがオムライス久しぶりに食べたいから普通にお客として来るってさー」
「ガッデム!!」
魔王様からは逃げられない。
そして今週からマスターの喫茶店が年中無休になった瞬間でもあった。
平日2日休みを入れたマスターの完全週休2日制が崩れたのだ。
撤回しょうにもギャル店員は母親、スーパーハイスペックキャプテンマザーにスマホで通知済みである。
その事実にマスターは絶望し、お客様一同は歓喜した。オムライス万歳と。
絶望からマスターは転移系不可思議言語を唱えようとするもギャル店員から『うっさいし! 早く開店準備するし!』とビンタを頂戴して今日もオムライス作りに励むのだった。