オーダー3
(´・ω・`)つ オムライス
京都府京都市のとある喫茶店。
一見古ぼけた外見の何処にでもある個人経営の小さな喫茶店だが、そこには今日も連日今年の異常気象による炎天下の影響を撥ね飛ばす程の行列が出来ていた。
「マスター、マスター、オーダーオムライス5つ入りましたー」
「ぐぎぎぎ!!」
相も変わらずとても飲食店の店員とは相応しいと言えない外見と軽い言葉使いのギャルが大声で注文を通す。
それをマスターは血の涙を流さんとしながらも歯を食いしばって返事を返していた。
「さっさとオムライス作るし!」
「──おごっ!?」
冷蔵庫から昨日仕込んだ鶏肉の南蛮漬けを手にしたマスターにボディブローが入る。
一瞬、いや数秒間は宙を舞っただろうマスターへのボディブローは一段と……それどころか二段三段を飛び越して気合いと殺意が込められていただろう。
本日のギャル店員はいつになく不機嫌ご機嫌斜めの天涯突破を果たしていた。
それはオムライス会計で縮地の如く目の前から消え去りマスターにボディブローを喰らわせた瞬間を一部始終見ていたお客様がよく理解していた。
お客様は震えた手で縮地の如く目の前に舞い戻ったギャル店員にお札を渡し、釣りはいらないですと喫茶店を後にする。
「ありあとしたー」
居酒屋店員のノリでありがとうございましたと口にしブンブンと振り回すギャル店員の手には、何故かブラックライトと呼ばれる蛍光ランプが握られていた。
何故にどうしてここまでギャル店員が不機嫌なのかという疑問と畏怖を抱く全お客様の視線は、厨房で鶏肉の南蛮漬けを片手にピクピクと痙攣し酷い顔面崩壊をしたマスターに向けられていた。
時は少し遡り、喫茶店が開店する30分前の事である。
「マスター、荷物届いたんだけどー」
今日は祝日であり、朝からバイトに来ていたギャル店員が配達員から荷物を受け取っていた。
「なにこれ、ペンライト?」
マスターの物は私の物、私の物は私の物とジャイアニズムにマスター宛の配達物を開封しその中身の物に首を傾げるギャル店員。
「届いたか」
遠い目をしたマスターの視線は既に開封された荷物の中身を見ていた。
「これなんなのマスター?」
チカチカと青紫色に光るペンライトを手に訪ねるギャル店員。
マスターはペンライトで遊ぶギャル店員の手からペンライトを奪い返そうしたが奪い返せず、これは『ブラックライト』だと答えた。
「そんなの見れば分かるし。てか何でそんなん買ったの?」
ブラックライトと一瞬に梱包されていた20000円と記載された領収書を手に、また入らん物を買ってからにと、それなら自分の時給を上げろと言いたいギャル店員は呆れたようにため息を吐いた。
「お前の為に買ったんだよ」
「まーたくだらな……え?」
どうせまたマスターの部屋にある大量のガラクタ、通販番組や何処ぞの祈祷師から手に入れた怪しい物体のマスターお気に入りコレクションの類いだと思ってただけに、ギャル店員は驚いて口をつぐんだ。
「……え、え? あーしに?」
なにせ、マスターと出会ってから直接自分の為にだと貰った物は給料とオムライスしかないギャル店員。
普段から突拍子もないことを仕出かすマスターはご近所でも有名な奇人変人と評判なくらいに知られているだけに、突然のサプライズプレゼントにギャル店員は混乱していた。
「ほら、貸してみろ」
「あ……う、うん……え、え? マスター? ちょっ……」
今度は奪い返す事に成功したマスターはギャル店員の肩を掴んで顔を近付けた。
「動くな、やりづらいだろうが」
「あ、うん……え? あ……ええ? あ、ふぇ?」
キョドるギャル店員の顎を持ち上げて動きを止めるマスター。
「あぅぅ……ま、マスター……」
真剣な眼差しで見詰めるマスターに思わずギャル店員の瞳が閉じられる。
2人の息づかいが間近に感じられたその時、閉じられたギャル店員の瞳にはある光が見えていた。
「……マスター?」
何時まで経っても何も起こらない事に痺れを切らして声を漏らす。
「マスター?」
チカチカとうっすら光る青紫色の輝きと共に『ちっ、天然物か……』と聞こえてきたマスターの声に閉じられた瞼を開けたギャル店員。
「……マスター、これ何してんの?」
ギャル店員の顎を持ち上げその額や鼻、唇から顎をブラックライトで照らすマスターがそこにいた。
ギャル店員からの問い掛けに若干ガッカリしたとしたマスターはブラックライトを片手に照らしながら答えた。
「シリコンはブラックライトで光るって聞いてな、試してるんだ」
その結果、全く光らないので天然物、又は噂はデマだったなと語るマスター。
「……ろす」
何か小さく聞こえた呟きを無視して次は『おっぱいなら光るか?』としたマスターがブラックライトを下乳から照らそうとした瞬間──
「──おごっ!?」
強烈な拳がブラックライトを破壊してマスターの鳩尾に突き刺さった。
「殺す、殺す殺す殺す殺す!!」
追撃で左フックがテンプルに入り、その勢いを利用して右フック、左フック、右フックと交互に連打していき最後に──
「ぜ、絶対に殺すかんね! マジで殺すし、てかマジ最低ー、本当に死ね!」
グーの拳が顔面を捉えた。
「マスター、オーダーオムライス10こ入りましたー」
「ぐぎぎぎ!!」
「……はぁ? 返事聞こえないんでけどー」
「い、いえす、まむ……!!」
「はやく作るし」
ここは京都府京都市のとある喫茶店。
一見古ぼけた外見の何処にでもある個人経営の小さな喫茶店だが、そこには今日も連日今年の異常気象による炎天下の影響を撥ね飛ばす程の行列と2人の男女の葛藤が続き営業していた。
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