オーダー9
完結!!
ここは京都府京都市のとある喫茶店。
一見古ぼけた外見の何処にでもある個人経営の小さな喫茶店だが、そこには本日も今年の異常気象による炎天下の影響を撥ね飛ばす程の行列が出来ていた──
「マスター、マスター、オーダーオムライス9つ注文入りましたー」
「ぐぎぎぎ!!」
今日もとても飲食店の店員とは相応しいと言えない外見と軽い言葉使いのギャル店員が大声で注文を通す。
それをマスターは血の涙を流さんとしながらも歯を食いしばって返事を返していた。
「何故だ!! 何故こうなった!?」
今日も厨房でオムライスを作るオムライスマシーンと化したマスターが叫ぶ。
本日は何時にもまして忙しい。
ひょっとするとあの日、A5ランク牛肉駄々余り事件の過去最高のオムライス売り上げ記録を更新するかのような勢いだ。
「だからあーしは言ったのに……」
最早完全に縮地を極めたと言ってもおかしくないギャル店員がオムライスを手に運びながら苦笑した。
今日の開店時間前、マスターが良い事を思い付いたとドヤ顔で朝一で出勤したギャル店員に進言した1つの案。
それはオムライスオムライスと馬鹿の1つ覚えのように叫ぶお客様達にちょっとした意図返しのつもりで実行したマスター渾身の策である。勿論、それを聞いたギャル店員は『あー、止めといた方がいいよ? マスター絶対後で後悔すると思うし』と、哀れみを含んだ目でマスターをそれとなく説得したのだが無駄に終わって現在に至る。
「すみませーん。会計お願いしまーす」
「はいはーい」
お客様からの声にギャル店員はオムライスを運び颯爽とオムライス会計へと向かう。
「あー、本日のおすすめオムライス2つで合計は――8000円になりますねー」
まさかまさかのつけ爪ネイルデコりまくりの指でレジ打ちをするギャル店員の口から出た衝撃の言葉は『本日のおすすめオムライス』。
それはマスターが喫茶店開店当初から否定してきた裏のメニューの名前であるオムライス。
それが裏メニューから表に出て来る事になったのはやはりマスターの自業自得の悲しいまでの1つの案でもある策のお陰だった。
「10000円からお願いします」
「10000円札入りましたー、お釣り2000円のお返しでーす」
オムライス2つで8000円。
それすなわち1つ4000円のオムライスという原価100円も掛からない卵とご飯オンリーのとんでもないまでのボッタクリ価格。
しかし当のお客様の大変満足気な表情で万札を出してはギャル店員にこう口にした。
『ついにマスターがオムライスが認めたのね』と。
そして安堵したと続けて語る。
『やっとオムライスが表メニューに出るのね』と。
お客様のお言葉に何とも言えない顔で言葉に詰まるギャル店員と厨房で血の涙を流すマスター。
ギャル店員の視線は今朝マスターがオムライスオムライスと口にする馬鹿なお客様に意図返しとした嫌がらせを込めて書いた喫茶店おすすめの店頭看板にあった。
【オムライス始めました。本日のおすすめオムライス 4000円】
完全にボッタクリ価格だ。
マスターのくたばれお客様と日頃の感謝の意味を込めた価格だ。
通常時の裏メニュー、マスターは絶対に認めないと否定するこの店目玉のオムライスの価格はギャル店員が勝手に決めたワンコイン500円。それを遥かに超えた値段のオムライス。中身も味も変わらないそのオムライス。完全にボッタクリだしと語るのはギャル店員。
「ありあとしたー」
カランと鈍い音を鳴らし扉からオムライス会計を済ませ出ていくお客様を見送るギャル店員。
そして同時に新たな3人の男性が入って来てはこう言った。
「本日のおすすめ、オムライス3つで」
「かしこまりー」
このクソ暑い炎天下の中、スーツをきっちりと着込んだサラリーマン風のお客様の注文を受けマスターへと通すギャル店員。
「ぐぎぎぎ!!」
そして何故だと言わんばかりに憤怒しながらもオムライスを黙々と作り続けるしかないのはやはりマスターの自業自得である。
こうなったらとオムライスの値段に0を追加しようとするもギャル店員に『見苦しいから止めるし!!』からと宙に浮かんだ。
「どっちみち、あーしは無駄だと思うけど……」
マスターの本来の策であれば、毎度毎度オムライスを注文する馬鹿なお客様方を牽制し注文を止めさせる為に悩み考え出した苦肉なまでの最高の一手。
――オムライスを表メニューに上げる。
――それも頼むのもアホらしい程のボッタクリ価格で。
それはマスターがオムライスオムライスと裏メニューだと注文するお客様方に『お前ら本当バカなの?』『マジ許すマジ』とした日頃の意図返し。
本来であれば、普通の喫茶店と呼ばれる一般の店舗であれば確実に成功したであろうと思われる策。
しかし言わずもながらマスターの喫茶店は普通ではなかった。オムライスである。
古参を含めた常連のお客様方は喫茶店おすすめの店頭看板を見て納得して頷く。
『うむ、オムライスだ』と。
マスターからしたら意味不明なキチガイ野郎だと思うオムライスだが、ギャル店員を含めたお客様方は納得のオムライスだ。
「あーあ。マスター、あーしは知らないかんねー」
ギャル店員の言葉に『何がだよ!?』と半ギレのマスター。
「これ絶対明日からみんな毎日遠慮なくオムライス頼んでくるよー」
これまでの常連のお客様方は嫌がるマスターに遠慮してか、断腸の思いでオムライスは3日に1度と密かに暗黙のルールを作っていた。
マスターのストレスが天元突破を超えるとオムライスが食せなくなるのだ。
それならば胸が張り裂けそうな思いだが身を切られる思いでもあるのだが割り切れない感情でも何とか皆が納得して暗黙のルールに了解した。オムライスの為だと。オムライスオムライス。
そして今日、今宵暗黙ルールが破られたと話すギャル店員。
マスターが正式にオムライスを認め表メニューに上げた。
それはまさしく、オムライスが頼み放題の食べ放題の無法地帯が始まると言うこと。
「もう無駄だし諦めるしっ!!」
「――おごっ!?」
ギャル店員の言葉に急いで喫茶店おすすめの店頭看板を破壊しょうと走るマスターを沈めるギャル店員。
どのみち、マスターにとって地獄の道は開かれたのだから意味はないと話すのはギャル店員だ。
それならば本当の地獄を皆に見せてやると闇の召喚不可思議言語を唱えるマスターをギャル店員は往復ビンタで黙らせた。
「ほら、はやくオムライス作るし!!」
綺麗な紅葉が咲き誇るマスターを起こし上げ、止まる事のないお客様の足とオムライスを作れとするギャル店員。
「ぐぎぎぎぎぎ!!」
そしてこの喫茶店開店当初からの売り上げ記録を大幅超える今日1日のオムライス。数も値段も売り上げも過去最高を記録したのは言うまでもない。
「どうしてこうなった!?」
「マスターの自業自得だし」
上からマスターとギャル店員の言葉だ。
憤怒するマスターとそれを嗜めるギャル店員は今日も2人、オムライスオムライスと口にし途切れる事のないお客様方を相手に奮闘するのであった。
次の日、喫茶店おすすめの店頭看板にはこう書かれていた。
『オムライス止めました』
読んでくれてありがとうございました!
勢いで書いたのにも関わらず完結までいけました。
ちなみに良かったら下の此方もどうぞ!
《リッチ(金持ち)を願ったらリッチ(アンデッド)にされたんだが?》
https://ncode.syosetu.com/n2322hd/