侵略的宇宙人はヒップホップが好き
慣れない場所、慣れないメンツで飲んだせいか
昨晩の記憶は曖昧なまま
バーのソファで寝たもんだから背中が痛い。
寝てるマスターの枕元に昨日の会計を置いて店の外に出た。
今日も一日が始まった。
二日酔いながらも電車を乗り継ぎ
世田谷帰りから最寄り駅の東高円寺で降りた。
着くやいなや、今日のラジオ体操に遅刻しただろうと怒られた。
これが点で全くの人違い。やれやれ。
耄碌はしたくないな。
それから歩いて、道端の中華料理店に入った。
客は俺の他に一組、餃子をつまみにVSOPを飲み
インチキフランス語を話す老夫婦だけだ。
汚れた扇風機の音と重なってテレビから緊急放送が聴こえる。
どうやら、高層ビルが揺れ、ガラスが割れるほどの
大音量のヒップホップを武器にした侵略的宇宙人たちが
今まさに侵略してきたらしい。
全くどこで覚えたのか。宇宙船でBillboardTOP40でも受信したのか??
モニターに映るリポーターは侵略者に釘付け。
リポートそっちのけで、背中に隠した左手は明らかにリズムを裏で取っていたし、少し肩もゆれてた。
ゆっくりビールと定食をたいらげ、タバコでも吸うかと外へ出ると
ランドセルの肩紐を両手でギュッと握ったあの小学生がまた立っていた。
「またお前かぁ、次は何だ」
コイツは弁当箱がダサいせいでバカにされたと言うのだ。
こんな時にと思いながらも
「じゃあな、次にバカにされたときにはこう言うんだ『お前はガキだから分かってないだろうけど、本当に大事なのは外見じゃない、中身だ!』って今一番好きな子に聞こえるように言ってやれ」
俺はコイツに教えてあげた。
なんだか腑に落ちない顔で帰って行ったけど、オレは知ってる。アイツはいつもやる男だ。
また通りを歩いていると、昔の女と偶然会った。
バカやってはしゃいでいた頃のスキンヘッドはいまや綺麗なロングヘア
見慣れないけど、なかなか似合っているよと褒めてみたら
なんだか照れ臭そうだ。
すぐ顔赤くなるところ、昔から変わってないな。
この前に観たターミネーターという映画に出てくるサラコナーが言うには。
いまや未来は先の見えない夜のハイウェイ
我々は未知の領域に踏み込む。
それでもレキシを私たちが創っていくんだ
私の服の下に知らぬ間に付いていた銀色の矯正器具のようなものは誰にも見せないが
今になっては言いふらかしたい一番の自慢だ。
だからもし、理不尽に身包み剥がされて、パンツ一枚で道端に放り出されても、誇らしい顔で私は歩いて家に帰れるんだ。
気持ちは天高く天高く上を向いている。
おっと。また、昔を思い出してしまった。
通りの道端で子供が怯えて泣いている、同時に降ってきたにわか雨。
もちろん傘なんて持ち合わせてないからそっと寄り添って
「この雨が止むまで少し奥の木陰で目を伏せて待っていて」
そう言ってすぐ俺は通りに戻った。
すぐに振り返り、空を見上げて独り言。
「さてと、あの馬鹿でかいヒップホップ好きな侵略的宇宙人と寿司でも食える仲になってやるか」