プロローグ
初投稿です。
拙作ですが、お読みいただけますと幸いです。
「ただいま」
1人の少女が真っ暗な玄関に帰宅を告げてから、無造作にピンヒールを脱ぎ捨てる。
ぎこちなくも、少しは慣れた手つきで赤いスカートのジッパーを下ろせば、そのまま足元に落ちた。
後ろで纏めてある髪も崩してやっと一息。
「女の子って大変」
誰に向けるでもなく、自然と口から零れたその言葉に少女ははっとした。
いつの間にかすっかり女の子が板についていることに、形容し難い不安や虚しさを感じる。
自分は男であった……否、男であると、その事を忘れないようにと強く思う。
この体になってから暫くは、いつ何時も自分が男であるという強い気持ちがあった。
しかし、時が経つにつれて、徐々に気持ちは薄れていき、いつしか意識をしていなければ自分が男であるという気持ちを忘れてしまうようになっていた。
毎朝毎晩、鏡を見る度に自分は男である、という風に意識する行為がルーティーンになっていたのも仕方ないのかもしれない。
それは自分に対して、「自分は男である」と言い聞かせているのか、或いは思い続けることで元に戻るかもしれないという逃避の願望から来る思いなのか。
いずれにせよ、今この時までその意識はどこにもなく、最近では朝晩のルーティーンをしておらず、しかもそのルーティーンをしていない事さえも気付いていなかった。
それほどまでに、自分が女になってしまったという事実を受け入れてしまったのか……いや、最近は慣れない環境で忙しなく、朝晩も余裕がなかっただけだ、と都合の悪い事実からは目を背け、取り留めもないことを考えて気持ちを落ち着ける。
もし、私が……いや、俺が男のままであれば。
そう考えずにはいられないほどに、少女は精神的に参っていたのだろう。
1度、そう考えてしまうと、押し殺していた記憶や感情がふつふつと浮かんでくる。
「そもそも、どうして俺の体は女の体になってしまったんだろう。」
少女はそう呟き、少し前の日々を思い返した。
次回、過去話です。