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カチャリと音を立てながら鍵を閉める。
寝台の横のテーブルには頼んでいた品々が散らばっている。
(これは貴重なものなのに…)
あまりにも不用心な置かれ方に苛立ちを覚えつつ近付いてそっと手に取り状態を確認する。
状態は良好。それどころか最上級だ。
(仮に無くなってもまた入手できるということ?)
いくつかある小瓶の1つを手に取り暖炉に放り込む。
暖炉の緑色の炎は青紫に燃え上がった。
「いずれにせよ、目的は変わらない。もう繰り返させない。」
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「おはようございますルイ様!朝です………なんだもう起きていらっしゃるのですね」
壁から生えたレオーネが鍋とお玉を持ってがっかりした目で見てくる。
「言ったでしょう。俺は農民だって。朝は別に弱くないんですよ。」
「昨日の今日で期待したんですけど残念です…ところで何を作っているんですか?」
近付いてきて横から覗き込む。
「朝食」
「そんなことわかります。猿でもわかります。具体的な品名を尋ねているんです。というか、食材ってどこから調達したんですか?」
「元々俺は王都に買い物に来てたんですよ。そのまま王宮に連れていかれたので食材があるんですよ。」
あのときは大変だった。突然厳つい人がやってきて周りを取り囲んだのだ。本当に怖かった。
「それは災難でしたねぇ。まあでもそのお陰であなたはみんなの憧れの勇者様になれたわけですし良かったんじゃないですか?」
「まさか。確かに小さいときは人並みに憧れましたが。今は死と隣り合わせな生活なんて嫌ですよ。俺には平穏な田舎暮らしの方が性に合ってる。」
「そうですか。私は王宮から出られたし貴方にも会えたので嬉しいですよ。」
「それはどーも。料理出来たので早く食べましょう。」
「ルイ様って料理上手なんですねぇ」
二人で出来立ての料理を食べながら和やかに会話する。
「俺はレオーネが野菜の下処理をできることに驚きましたよ」
それも難しく、中々知られていないやり方の下処理だ。
農民や一部の物好きな料理人なら出来ることもあり得るが、まさか箱入り娘が知っていて尚且つぺらぺら喋りながらやってのけるとは思わなかった。
わけありといえども王女だ。料理など自分でやる機会はなかったはずなのに。
「昔人から教わったんですよ!凄いでしょう?」
得意げな顔でパンを千切って食べる。このパンは先程レオーネが調達したものだ。
中々に美味しい。何だか食べているとほわほわした気持ちになってくる味だ。是非とも作り方を教わってみたい。
「いいですよ!謁見を終えたら交渉して作り方を教わりましょう。
それにしても本当にルイ様って料理が上手なんですねぇ。毎日食べたいくらいです!」
上機嫌でレオーネがいう。ここまで褒められるとは思っていなかったから少し恥ずかしいが嬉しい。
「まあそんなにいうなら旅の間はなるべく毎日俺が料理しますよ。」
それを聞くと嬉しそうに笑った。初めてまともに顔を見た気がする。少なくとも面と向き合っては見ていなかったはずだ。
俺の方が早く食べ終わったので手持ち無沙汰にレオーネを観察する。
体躯は普通。少し華奢な方かもしれない。
俺と対照的な白く長い髪は、手伝いをしていたため高く結ばれている。髪は先程自分で結べていたのを見る限り随分な待遇を受けたのだろうと思われる。
「観察は終わりました?じろじろと女性の顔を見るなんて不躾な方ですねぇ」
食べ終わったレオーネがむすっとしながら言う。
「すみません、つい。」
「まあ許してあげますよ。私も食べ終わりましたのでこれからの話をしましょうか。部屋に来ていただけます?」