3
「わーい!上手く行きましたねぇ!」
検問を無事通り抜け、変装を解き、道の開けたところで馬車を片付けながらレオーネがはしゃぐ。可哀想な検問官はこれからレンコンを見るたびに涙目だろう。
「さて、ここから先はすぐですよ!準備するのでこちらは見ずにそこらで素振りでもしていてくださいねぇ。あっ、聖剣は振り回すと危ないのでそのへんに転がっている木の枝でも使ってください。」
言われたとおりに枝を振っているとレオーネが話しかけてくる。
「ルイ様には守りたい大切なものがありますか?」
「何ですか突然そんなことを聞いて…」
「いいじゃないですかぁ、教えてくださいよ!」
一体こういうときどう答えるべきなのだろうか。あまりそれについてほいほい語る気にもなれないが無視をするわけにもいかない。それなら勇者という役職から考えて1番無難な答えは…
「この国…ですね。」
「……あっ準備できたので行きましょう。」
こちらをものすごい目で見たあと、目をそらされてしまった。
若干傷つきながらレオーネの視線の先をたどると一本だけ光り輝く木が生えていた。根本にはなんだかよくわからないものもたくさん置かれている。
「えっ?さっきまでこんなのありました?」
俺の記憶が正しければこんな怪しげなものはなかったはずだ。
「すごいでしょう?行き先がかなり遠いのでいつものお手軽通路じゃ駄目なんですよ。」
「かなり遠いって…どこに行くつもりなんですか」
これから俺はひたすら歩いて歩いて歩き続けて魔物たちの元へ行くのだと思っていたし、レオーネもそれを仄めかすような話をしていた。確か移動手段に一切の魔法を使わないつもりだとかなんだとか。
混乱する俺を横目にレオーネが輝く木に片手をかざす。
「それは色んなものを引きずり出すための演技ですよぉ。それこそ私達を追っていた不届き者とか。私達が向かうのはここからずっと遠い、魔王城です。さ、私の前に立ってくださいな。」
「…え?ちょ、俺まだ心の準備がああああ」
「つべこべ言わずに行きますよ!」
後ろから押されて木にぶつかるその瞬間視界が暗転した。
…
「久しぶり、また来たの?これで何回目かしら。」
…
「貴方って本当に可哀想ね。あんなに嫌がってたのにまた来るなんて」
…
「うふふでも自業自得なのよ。いつまでも悔いて苦しみ続けるがいいわ」
不意に沈んでいた意識が浮かび上がってくる。
「あっ、やっと起きました?呑気ですねぇ。」
随分とおかしな姿勢で横たわる俺をレオーネが見下ろしてくる。
「うっ……ここは?」
「魔王城の城下町にある宿ですよぉ。ここから私達はお城に向かうんです。ここはもう安全だから色々聞いてくださいねぇ。」
取り敢えず状況を把握しようと身動いだ途端、節々から激痛がはしる。
「あらぁ大変そうですねぇ。何せルイ様は半日もずっとその姿勢で寝ていらっしゃったのですものね。」
「は、半日…?」
目線だけレオーネに向けたまま問いかける。
「ええ。おかげで予定が狂ってしまいましたよぉ。」
ぷんぷんと口で言いながらレオーネが俺を軽く突っ突く。その刺激に全身がまた悲鳴をあげる。
というかこの王女さまは半日もの間俺をこの姿勢のまま放置して眺めていたのだろうか。
「はい!どんな飛び出し方をしたらこんな姿勢になるのか考えていたんですよ。これから練習していきましょうねぇ。
さて、今日はもう遅いのでここに泊まります。部屋は私の隣です。何かあったら呼んでくださいねぇ。」
レオーネが手をぱんっと叩くと身体が軽くなり先程までの痛みが嘘のように無くなった。きっと魔法を使ったのだろう。礼を述べ先を歩くレオーネのあとを俺はついて行った。
「……。」