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翌朝、色んな人に見送られた俺とレオーネは馬車に揺られていた。
「ルイ様、まずはこの馬車で国境を抜けるんですが多分国境付近でひと悶着あるので頑張りましょうねぇ。ちなみに国境を越えればすぐですよ。」
ひと悶着というのは俺に恨みを持つ人が来るのだろうか。
「俺を捨て石にするならもっと魔物が出会うあたりまで待つんじゃないですか?」
「いえ、勇者候補だった者とは別で権力に目のくらんだ連中が剣を狙って追ってきているらしいのですよ。こんなところで狙っても意味はないって分からないんでしょうかねぇ。」
クスクスと口元に手を当ててレオーネが嘲笑う。
「…第三王子にしろ誰にしろもうこの剣を渡してしまった方がいいんじゃないですか?」
英雄となることに憧れはあるが、現状は甘くない。あくまでも自分は農民であり、特別な練習を積んでいるわけではない。
それなら幼い頃から勇者修行をしてきたという第三王子こそふさわしいのではないか。
「偶然にしろ何にしろあなたはもう勇者になっちゃったんですよ。というより、渡したあとの事考えてますか?」
「…普通に故郷に帰る」
「出来るわけ無いでしょう。王の名の元に勇者に任命されたという事実を変えることは簡単ではないんですよ?
話の辻褄合わせのために、邪魔なルイ様は勇者の名を騙り聖剣を奪いとった極悪人として処刑されますよ。あとルイ様のご家族にも何かしらの処罰が下りますね。」
「全力で戦わせていただきます。」
「その調子ですよぉ。まぁここで戦うわけではないんですけどね。ただ通り抜けるだけですよ。ルイ様は私の言うことに従ってくださいね。まずはぁ……」
「はて…なんの話かのう…おばあさん、お客さんがレンコンを食べたいそうじゃよ。今夜の夕飯にレンコンはあったかの。」
「おじいさん、夕飯はまだですよ。それにレンコンが食べれるのはまだ先でしょうよ。」
「いやだからレンコンじゃなくて検問だと…!!というかなんでこんなに年老いた人だけで平気で馬車に乗れているんだ…!」
「おやおや、最近の言葉は難しくって困ってしまいますねぇ。」
「そんなことよりも急がなければ。お兄さん、通してくれないかね。」
「〜〜〜っ!!」
しばらくレオーネに言われたとおりのやり取りを繰り返せば周りの人はボケた老人だと信じきったらしい。俺達へのマークが薄くなってきた。…好都合ではあるが余りにも警備が緩すぎるのではないか。
話が通じない老夫婦をしばらく相手し続けた若い検問官はへろへろである。
(そろそろですよぉ!あとひと押し!)
検問官の目を盗んでレオーネが合図を送る。
「…もう、わかりました。あなた方がただの体が健康な老夫婦だと信じましょう。通行を許可しましょう。お気をつけて…」
疲れきった検問官が前をどく。
「そうかの。ところで夕飯はまだかの?」