婚約破棄されたので、とりあえずざまあしてやりました。
注!乙女ゲーム要素はほとんどありません。設定だけです。
ざまあ系の話となります。もしかしたら、シリーズ物になるかもしれません。
「クリスタル・ルーベイン伯爵令嬢!今、ジェネティボ王国、王太子のストゥルム・オウルム・ジェネティボがここにお前との婚約破棄を宣言する!そして、私はルーナ・ダナトリア男爵令嬢との婚約を宣言する!」
その言葉により、夜会を楽しんでいた者たちの視線はクリスタル・ルーベイン伯爵令嬢に集まった。
「何故、でございましょうか……ストゥルム王太子殿下。」
私は声を震わせながら、王太子に訊く。
「お前は、罪人だ。」
王太子から出たその言葉が信じられなかった。
罪、人?
私は、何も、していない。
「お前はここにいる、ルーナを虐め、更に殺害しようとまでした。そんな罪人を俺の婚約者にはしておけない。」
はあ?私がルーナ・ダナトリア男爵令嬢を虐めた?
そもそも、虐めるも何もクラスが違うし、そんな猫っかぶりには興味はない。
ビキッ……
ーー私の中に、亀裂が生まれた。
「お前たち、この罪人を拘束しろ!」
王太子が言うと、夜会の警備に当たっていた兵達が私を取り囲んだ。
「手を上げろ!」
兵達が言う。本来、この兵達は私に命令できるほどの立場にはいない。けれど、この状況もあり、私は素直に手をあげた。
1人の屈強そうな兵が私の後ろに回り、私の手首を掴み拘束する。
そして、王太子は私の前に立った。
「お前は、処刑される。大罪を犯したからな。」
ほう、無実の罪で処刑されると。
ビキビキッ……
亀裂がまた、広がる。
「そんな、処刑だなんて!きっと、彼女も悪意があってやったことじゃないのよ!」
と、目を潤ませる金髪に桃色の目の少女。彼女は王太子の腕にしがみつきながら、そういっていた。
しかし、彼女の口角が微かに歪んだのを私はみた。
ああ、彼女が噂のルーナ・ダナトリア男爵令嬢か。最近よく見るな、と思っていたら、ルーナ・ダナトリア男爵令嬢だったのか。
「ああ、愛しいルーナ。コイツはお前を虐めたのだから、当然の処罰なのさ。」
王太子が彼女の頭を愛おしそうに撫でながらいう。
「もしかして、彼女が私を?ああ、あの時のことを思い出すと、涙が……」
彼女はローズクウォーツのような目から、大粒の涙を流す。
ーーーどうせ、嘘泣きなのだが。
それを真に受けた王太子が声を荒げた。
「ルーナ……お前達、その罪人を連れて行け!」
その声を聞いた兵達が私を引きずって行く。
私は、王太子に最後に訊きたいことがあった。
「ストゥルム王太子殿下……最後に一つだけ訊きたいことがございます。発言を、お許しいただけますか?」
王太子はふんと鼻を鳴らしながらも、了承した。
「ああ、いいぞ。何だ、懺悔か?罪人。」
王太子が了承すると、兵達は私を引きずるのをやめた。
何を懺悔しろと言うのだろう。何もしていないのに。それはいいとして、訊いておこう。
「ストゥルム王太子殿下。国王陛下は、婚約破棄を、お許しになりましたか?」
「懺悔もしないのか。罪人。自分の愚かさが分からないのだな。父上にはまだこの件について話していない。けれど、すぐに了承するだろう。所詮、お前との婚約だしな。おい、さっさとコイツを連れていけ!」
なるほど。国王陛下は了承していない、と。今回は王太子の独断なのね。
ていうか、自分の愚かさが分からないのはそちらでは?と、私は引きずられ、ドアまできたところで思った。
私は足を地につけ、踏ん張った。ハイヒールでは些かバランスが取りにくいが、まあいい。
兵達は踏ん張る私を頑張って引きずろうとしているが私はビクとも動かない。
当然だ。私は常日頃から筋トレをしてきた。コルセットを着るんだったら、筋肉をつけ、体を引き締めた方がいいと、トレーニングをしてきたのだ。
その上、私は今、身体強化魔法までかけている。
私自身、魔法は得意なほうだと思っている。だから、私が身体強化魔法をかければ、筋トレを始める前の私でも、盗賊の一味ぐらいは壊滅させられる。ていうか、現にしたことあるけど。
で、私は筋肉をつけたあとは、身体強化魔法をかけずに同じようなことができる。
つまり、今の私は凄腕の冒険者の二人分の力を持っているのだ。
連れて行くのは無理だろう。
兵達がしつこいんだけど?5人がかりで、私を引っ張ろうしている。
私は右足に魔力を大量に集める。そして、その右足を思いっきり地面に叩きつけた。
ビキビキビキビキ!
大きな音がして、地面に亀裂が走る。
そして、私は自分の手を掴んでいる兵の胸ぐらを掴み、地面に叩きつけた。要するに、背負い投げ的なのをやったのだ。
会場に沈黙が広がる。
捕まえようとしてくる兵達を睨みつけた。
「さあて、と。」
私は手をはらいながら、お母様とお父様の方へと、歩いていく。
「お、おい!コイツを捕らえろ!」
そう、王太子が喚くが、兵達は動かない。かなり強めの威圧をしておいたから、しばらく動かないだろう。
王太子がうるさいけど、無視して、私は今世の両親の前に立った。
「お父様、お母様。この愚かな娘を勘当してくださいませんか?」
私は、そう申し出た。両親は少し、驚いた顔をしたが、
「ああ、勘当しよう。たった今より、お前はルーベイン伯爵家の者ではなくなった。」
了承した。
私はルーベイン伯爵家の者ではなくなった。
これで、全ての駒が揃った。
私は王太子へ向き直る。
「ねえ、ストゥルム王太子殿下?」
私がそう言うと、彼は肩を震わせた。
「なんだ!この罪人!」
彼は身体を震わせながらも、強気だ。
「何故、最高位の公爵家より、2格も劣る、ルーベイン伯爵家の私が王太子の貴方と婚約できたのだと思う?」
私は王太子に問いかける。が、彼はこちらをルーナ・ダナトリア男爵令嬢と一緒に睨みつけるばかりで、何も答えない。
「ルーベイン伯爵家は国内で影響力を特別持っているわけでもないし、伯爵家にしては財力が豊富な訳でもない。至って普通の伯爵家。それなのに何故かというと、私が力をもっているから。」
私はここで、一旦話を切り、自分の作ったヒビを見つめる。
「まあ、この通りでして。私は、魔法が得意なんですよ。そう、例えばこんなふうに。『天罰』」
これは、光魔法でも最上級の魔法だ。
本当は無詠唱でもできるのだけど、見せつけるために、短い詠唱をする。
ドゴォォォォォン
すると、突如、光の柱がけたたましい音と共に、会場の真ん中に現れ、消えた。
その光の柱があったところには、なにもなかった。
そう、なにもなかったのだ。
そこにはさっきまでシャンデリアや、様々な食べ物がテーブルの上に置いてあったはずなのに。
テーブルにはポッカリ穴が空いていて、シャンデリアは跡形も無かった。文字通り。そして、深い深い穴があった。
実際は2メートルぐらいだけど。
「よく、分かったでしょう?ストゥルム王太子殿下、と、ルーナ・ダナトリア男爵令嬢?」
私は2人の方を見た。2人とも身体が震えまくっている。顔も青く、ストゥルム王太子なんかは失神寸前だ。会場を見渡せば、何人かの貴族令嬢や子息は倒れていたり、泡を吹いている者もいた。まあ、甘やかされて育っただけあって、メンタルがあまり強くなかったのだろう。
「あ、そうそう。」
私は手を軽く打った。
「私が貴方の婚約者になったもう一つの理由をご存知?それは、私の母方の祖母がウィンズランド皇国の第2皇女でしたの。で、私はその血を引いていて、第5位皇位継承権を持っている、といえば分かるかしら?」
第5位の皇位継承権はそんなに重要とされる物ではないが、今ウィンズランド皇国には皇太子のセドリック皇太子、第2皇子のアーサー皇子、第3皇子のジェレミー皇子、第1皇女のスザンナ皇女と素顔が不明の第2皇女のクリスタル皇女。
次代の王位を受け継ぐ可能性があるのはこの5人しかいない。というか、この5人しかこの世代にはいない。第6位以降の人は王、女王になるには幼過ぎたりする。
第5位の皇位継承権といえば、クリスタル皇女しかいない。そう、私はクリスタル皇女であるから婚約をさせられた、というのもある。ちなみに皇国ではクリスタル皇女が婚約していることは知られていない。
まあ、伯爵令嬢のクリスタルとクリスタル皇女は別人として主に扱われているのだ。今度の婚姻の儀が済んだら、公表するつもりだったが、この王太子殿下が見事に台無しにしてくれた。
それが、意味するのはストゥルム王太子は国家間の婚約を台無しにしたのだ。あと、私についていた婚約という枷を外してしまったし。
遂に、王太子は泡を吹いて失神した。ああ、メンタルが耐えられなかったか。
それにしても、すこし震えているだけで平気そうにしているルーナ・ダナトリア男爵令嬢は余程図太く、性格が悪いのだろう。
まあ、王太子が失神したら、このあとを語ってもつまらない。
私は会場に背中を向け、優雅にドアの方へ歩いた。私はドアに手をかけて、振り向く。
「ああ、そうです。後日、ルーナ嬢が突き落とされたという事件が起こった階段の側についていた記録魔道具のデータの複製を差し上げますわ。後は、ルーナ嬢が嫌がらせを受けた場所などについていた記録魔道具のデータの複製も提出いたしますわ。だって、1人の生徒が他の生徒にされた虐めの証拠は提出すべきですものね?」
今まで、表情を取り繕っていたルーナ嬢の顔が一気に青くなる。そりゃあ、自作自演の虐めだったんだから、仕掛けをしているところがバレたら大変だものね?
私は会場を後にしようと、足を一歩踏み出す。そこで、面白いことを思いついた。私は背を向けたままいった。
「こういう時はなんと言うんでしたっけ?ああ、そうですわ。」
私はルーナ嬢の方へと視線を向ける。
「……ざまあみろ。」
それを言った私の口は最高に歪んでいたことだろう。すると、ルーナ嬢は顔を真っ赤にして憤慨した。
「あんた……転生者だったのね!」
彼女はそう喚く。
ご名答。私はこの世界と異なる世界から転生してきた。けど、悪役令嬢を全うする気もなかったし、死亡フラグを必死に回避する気もなかった。
私はただ単に遊びたかったのだ。その為に私は前世の記憶を利用した。その結果、結構楽しいことが出来たが。
ーーールーナ嬢がなにやら騒がしいが、私はそれを無視して、会場の外に出た。
私はルーベイン伯爵家から勘当された。本来は何処にも帰る場所がない筈だけど、私はウィンズランド皇国の第2皇女。
けれど、私はルーベイン伯爵家から勘当されただけ。ウィンズランド皇国とはなんの関係もないのだ。
会場の外で待っていた馬車に乗り、私はウィンズランド皇国へと向かった。
揺れる馬車の中で私は考えた。この国、ジェネティボ王国は他の国々と、あまり友好的な関係を築けておらず、輸入や輸出ができず、国内が貧困化していた。
なので、ジェネティボはウィンズランド皇国と血縁関係がある、ルーベイン伯爵家と婚約を結んだ。この婚約はジェネティボの血と涙の結晶と言っても過言ではないほど、大変な婚約だったのだ。
しかし、その婚約を王太子が破棄した。つまり、ジェネティボはウィンズランド皇国の厚意を無下にしたのだ。しかも、私に冤罪をきせて。
これは、開戦の理由にもなる。王太子は知っているのだろうか、自分が開戦の幕を開けたのを。
まあ、これも計画通り。ここまで上手くいくとはね。ちょっとしたお遊びのつもりだったのに。
けど、まだ劇は終わっていない。始まったばかり。
ーーーさあ、盤上の駒達はどんな面白いものを見せてくれるのかな?
後に、ジェネティボ王国という国は、ウィンズランド皇国との戦により、滅び、ウィンズランド皇国と統合された。
戦は、ウィンズランド皇国の第2皇女様とジェネティボ王国の王太子の婚約破棄から始まった。しかも、その王太子は第2皇女様に冤罪をきせたらしいのだ。
ジェネティボ王国の行いからウィンズランド皇国は宣戦布告をし、戦が始まった。
もともと、ジェネティボ王国内が悲惨なことになっていたらしく、戦はほとんど犠牲を出さずに終わった。
そこから、ジェネティボ王国はウィンズランド皇国と統合され、以前より大分いいところになったらしい。
ジェネティボ王国の元王族達は捕虜になり、優秀な者は引き抜かれたが、裏で悪事に手を出していた者は処刑されたり、幽閉されたりしたそうだ。
領土拡大をはかったことで、ウィンズランド皇国ーーこの国はもっと豊かになったそうだ。
今も国民から多く尊敬される第2皇女のクリスタル様は革新的な政策を生みだし、国を支え、後にスミスランド公爵とご結婚なされた。
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