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冒険者生活の初日。
早朝、健人は冒険者ギルドに着いて、初級者向けの依頼書を眺めながらこれからについて思案している。
(やっぱり討伐依頼は金策効率がいいな。レベル上げにもなるし、ステータスは命だから、討伐依頼を中心にこなして行くのは確定として…
・効率的に稼げる、メインの適正な討伐依頼を受ける
・近辺で採取出来そうな採取依頼、及び討伐依頼を同時進行
こんな方針だね。メインクエストを進めつつ通り道のサブクエストを消化するネトゲみたいだけど、これが一番だ)
健人の中で、今後の方針が確定する。
実際にどの依頼を受けるべきか悩んでいると、昨日の受付嬢が話しかけて来た。
「おはようございます。昨日冒険者になられた健人様ですね。どの依頼を受けようか悩んでいるのでしたら、おすすめの依頼を紹介しましょうか?」
「ありがとうございます、一人でも達成可能な討伐依頼を中心に教えて頂けると助かります。あとは、付近の魔物や採取依頼に必要な知識が手に入る書物などはないでしょうか?」
「承知いたしました。討伐依頼とのことですが、魔物や魔人のソロ討伐経験はどの程度ございますか?」
(探知出来ない魔物であれば、隠密によって割と苦労せず狩れる。どこまで言うべきか迷うけど、ある程度正直に言おう)
「はい、以前冒険者の方に弟子入りしていたので、フォレストウルフ数匹やビッグボア程度でしたら苦労せずに倒すことは出来ます。魔人の討伐経験はありません」
「すばらしいですね、それならすぐにランクも上がって行くと思います。ビッグボアは食用としても需要がある魔物ですので、定期的に依頼が出ております。ただし食用のため各部位を切り分けて持ち帰る必要があり大変ですので、他の依頼と同時進行は中々難しいですが、たまに運び屋付きで依頼が出ていますので、その際は割りの良い依頼です。
その他魔物ですと…」
フォレストウルフの群れを始めとした一部の魔物は、繁殖期などをキッカケに村を襲い始める。その間は間引かれる対象となり単価が高くなるらしい。
日本と同じくイノシシやサル系の魔物の被害も多い。
ゴブリンやオークは年中繁殖期で、爆発的に増えることもあるため、常に討伐依頼が出ており、これを安定して狩れると生活も安定する。オークはゴブリンでしっかり慣れて、パワーに対抗できるようになったら挑戦してみては、とのこと。
魔物と魔人種の大きな違いは、装備をしていることと、対集団戦の難易度の違いである。
魔物の群れと違い、それぞれが役割を持って襲ってくることが多い。下っ端は上司を守りつつ襲ってくる。後ろから弓矢を引いてくる。厄介な魔法使いがいることもある。重装備で味方の盾になるものもいる。
そのため魔人最弱のゴブリンと言っても、その強さは一言では表せない。見た目の装備である程度強さは分かるものの、侮った先にあるのは死である。
また稀に魔人種が大量発生し、大軍が街を襲うこともあり、その際は冒険者が招集される緊急依頼が発令される。金額も高く武具の支給はあるが、危険度も高いが、「ここで逃げたら男が廃る!」と冒険者の多くが、街の為に挑むのだとか。
「また、書物については冒険者ギルドの図書室にございます。持ち出しは厳禁ですので、必要があれば書き写していただくことになります」
「そうなんですね、では案内して頂けますか?」
「はい、よろしいのですが、本日は依頼は受けないのですか?」
「情報が命だと考えていますので。ソロですしね」
「良いお考えだと思います。冒険者になれたてで浮かれてしまい、命を散らせる若者も多いですので。慎重過ぎるくらいが良いかもしれませんね。では、こちらになります」
今後、魔物よりも魔人を中心に狩りをして行くつもりのため、まずは本を読み込むことにした。頭で対ゴブリン戦のイメージは出来ているが、しっかりと種の特徴や、先輩の記した経験談を読み込んで、万全を期すつもりだ。
ちなみに健人はゲームをする時、初見の場合は必ず、クリアするまではゲーム外の事前情報を一切仕入れず、ゲーム内の情報だけをみて挑戦するタイプである。その結果初見殺しにあっても、僅差で敗れても、その初見から初クリアまでの経験は一回きりのものなので、それを全力で楽しむプレイヤーであった。
その後はすべての情報を仕入れ、効率よく敵を倒すための研究し考え抜いた、完全なる効率プレイにシフトする。
ちなみに好きなジャンルの「ハクスラ」は、ダンジョンなどに繰り返し挑み、ひたすら敵を倒し、装備を入手してキャラを強くし、またダンジョン…とひたすらキャラ育成と装備強化に励むジャンルだ。
まさにそれを実施しようとしているのだが、ここは異世界。死んだら再チャレンジなど出来ない。腕や足、目など致命傷を負えば、死なずとも一生治ることのない障害が残る。遊びではない。
だからこそ、初見だからこそ、手に入る全ての情報を元に慎重に行動する。
「こちらの部屋全ての本が読み放題です。室内での飲食はご遠慮下さい。また奥のカギがかかっている部屋については、Bランク以上の方のみに開放しております。
目的の魔物図鑑などは全て開放されておりますので、安心してください。それ以外にも、魔術入門書や、剣術などの指南書が人気となっております。入門以外の魔術書は全てBランク以上からになりますので、読みたい場合は街の本屋でご購入頂いた方が早いかと思います」
(魔術入門書が読めるのは嬉しい誤算だ!スキルは魔力にしか振っていない。体を巡る魔力は感じることが出来る。この状態で魔術の基礎を学べば、魔術は使えるのか?スキルの考察が進むぞ)
今日の予定に、魔術入門書の読み込みも追加された。
まだ早い時間だからか図書室には誰もおらず、ゆっくり読めそうだ。図鑑形式のものから、ダンジョン探検記など様々な本があり、悩んだ結果、たくさんのゴブリン戦の記録した本と、魔術入門書を手に取った。
明日以降は、ゴブリンの生息地に赴き、下級装備の弱そうなゴブリンのみを狙うつもりである。
「まずは魔術入門書か…どれどれ。
魔術の属性は、誰でも扱える無属性と、火、水、風、土の基本の4属性、光、闇のレアな2属性がある。それ以外には、音、金属などの特定の家系に受け継がれている特殊な属性があるが、普段の生活ではお目にかかることもないだろう。
また魔力を宿している場合でも、属性に対する適正が無い場合は、その属性の魔術は扱うことが出来ない。基本4属性(今後は四元属性と故障)のうち、1属性に適正がある人は、およそ10人に1人と考えられる。2属性持ちは1000人に1人、3属性は100万人に1人。光、闇については四元属性持ちの1%程度と考えられる。
適正検査は、簡単だ。次のページ以降の文章を理解出来れば、その属性の適正持ちだ。
…なるほど、生まれ持った才能なわけか。しかし、僕の場合はスキルボードだし、どうなっているのかな」
【所持スキル】
[SP:6]
【INT】
魔力 2
魔術 0
観察眼 0
(魔術を振ると、属性魔術が解放されるんだろうか)
恐る恐るページをめくると…
「敵を燃やし尽くす業火の炎。人々を照らす篝火。…………これを理解できる貴方は、火属性への適性があります」
火属性に対する色々なイメージ?薀蓄?が書かれていたが、それを理解することが出来た。
(火属性のスキルは振っていないが、振れば使えるから適性ありということか?)
それに続いて、水、風、土の四元属性全てに適性があることが判明した。しかし…
「光と闇は、何が書いてあるのかサッパリ読めない。これは、どちらもスキルを振れないということか?それとも振れば読めるようになる?分からないことだらけだ…。それに現時点では、魔力は2、魔術は0、各属性も当然0。魔術を1振れば、四元属性は出てくるけど、光と闇は出てこない?それとも魔術1で四元属性が使えるということになる?…魔術、振るべき?」
魔術関連のスキルボードについて思考を巡らすが、いこんせん情報が足りなさすぎて答えが出ない。
魔術に振るかどうかも含めて暫く考えたのち、
(ひとまず今のところは保留にしよう。四元属性の魔術の特徴とか、そこら辺も書かれているし、生活用魔術みたいのもあるし、続きを読んでからゆっくり考えよう)
後回しにすることにし、続きを読むことにした。
◇
2時間ほど読み続け、一区切りつけるとお腹も空いてきた。既にお昼時になっていたようだ。
(なかなか楽しかった。こちらの世界の人には勉強なんだろうけど、地球人からすると完全にこの本もファンタジーだ。飽きない。そして、簡単にまとめると…
火属性…破壊力は四元属性で断トツトップ。野営で火を起こしたり、調理にも欠かせない人気ナンバーワン。魔術師として軍に所属するためには、火属性が有利らしい。
水属性…遠征時に水を出せる、それだけで貴重な人気ナンバーツー。攻撃力は低いものの、生活必需品の水を持たずに行動出来るのは高得点。
風属性…扱い辛い属性で、人気は最下位。威力も低く、火属性のサポート扱いになることも。但し上位になると不可視の攻撃も可能になるため、極めると厄介。
土属性…攻撃力は火には劣るものの、火属性に比べ殺さずに確実にダメージを与えられる点は利点にもなる。地形にも干渉でき、使い方次第では非常に強力。
戦闘魔術…対魔物、対人などで相手に攻撃するための魔術。初級から最上級まであり、詠唱を行い、発動させる。熟練度が上がれば詠唱破棄や無詠唱でも発動出来るが、威力が下がったり魔力消費が上がることが多い。
生活魔術…日常生活での火起こしや飲料水を出したりするための魔術。戦闘魔術に比べて非常に小規模なため、魔力消費も少なく、才能があれば大多数の人が使う事が出来る。
ゲームアニメだと火は水に弱いのが定番だけど、普通に火力に押されて水は蒸発して高温の水蒸気になって、大惨事か。軍隊の魔術師はほぼ火属性の攻撃魔術を使うとも書いてるね…。僕はどの方向に進むべきなのかな…。使い勝手はやっぱり、読むより見たり使わないと分からない)
とりあえずはスキルを振る前に、各属性の基礎的な魔術の詠唱を暗記し、後日使ってみることにした。
その日の午後は魔物や魔人に関する本をひたすら読み続け、夜に屋台を食べ歩き、就寝した。
…記念すべき冒険者生活初日は、読書だけで終わった。