1-5 冒険者になる
ボーンに辿り着いた。既に夕暮れ時のため、大通りを真っ直ぐ行ったところにある冒険者ギルドでギルドカードを発行してもらい、宿を取る予定だ。
大通り沿いにはさまざまなお店や露店が立ち並ぶ。コンクリートの高層ビルなんてものは当然なく、石造りやレンガが中心で、たまに拘りで木造があるように見える。高くても3階建くらいで殆どが平屋だ。
冒険者ギルドの少し手前には大きな広場があり、たくさんの屋台で賑わっている。住民の憩いの場となっているようだ。
軽食が食べられる屋台が豊富だし、今晩はここで食べて素泊まりでも良いだろう。肉の串焼きは銅貨10枚前後、エール(お酒)も一杯銅貨10枚。お酒は比較的安めで、その他商品を見た感じでは、銅貨1枚が10円くらいのように感じた。
また途中でビッグボアの肉を売り捌き、路銀を得た。初めて自分で稼いだお金は、銀貨2枚と銅貨少し。銀貨1枚は銅貨100枚、銅板10枚なので、2000円くらいになる。自分である程度稼ぐことができ、露頭に迷うことはないなと一安心だ。
もっと他の部位も持って帰れば数倍は稼げたのだろうが、移動も大変であり、戦力にならない荷物持ちを雇う冒険者も多くいると聞いたのは納得できた。
「ここが冒険者ギルド…!これから僕の新しい生活が始まるんだ!」
そして、目的地の冒険者ギルド ボーン支部に辿り着いた。一際大きなレンガの建物で、3階建くらいはある。
中に入ると、カフェスペースのようなものがあり、冒険者で賑わっている。とは言えアルコールは出していないようで、落ち着いた雰囲気である。この時間は今日の狩りや依頼を終えて、反省会をしているパーティがほとんどのようだ。
他には依頼者が貼り付けられている掲示板、パーティ募集の掲示板、受付カウンターなどがある。
「冒険者カードを発行しないとね。受付に行こう。」
警戒していた、ありがちな新人少年に絡んで来るおっさん襲来!のようなイベントは特に起きず、受付まで到達する。
今日はもう終わりの時間に近づいているためか、受付に人はまばらで並ぶ必要は無さそうだ。
そして、やはり受付嬢は、美人揃いなようだ…。
「いらっしゃいませ。はじめての方ですね。冒険者カードの発行でしょうか?」
「はい、カードを発行に来ました。」
「承知致しました。こちらの用紙に記入をお願いします。文字の読み書きは問題ないですか?」
「はい、大丈夫です。」
この世界の識字率は低い。農村に住む人たちは村長や商人など以外は全く必要としないし、孤児も多い為、読み書きが出来ない大人も少なくない。
ちなみに何故か日本語なので、僕は問題なくできる。
用紙には名前と出身、登録した理由しか書くところはない。
名前には、ケントとだけ記入した。苗字は貴族や一部の人しかないため、名乗らないほうがいいとハーゲンに教わった。
出身も記入は任意だ。孤児は書けないことも多いし、秘密にしたい人も多い。僕ももちろん空欄だ。
登録理由は選択式だが、僕は迷わずダンジョン探索を選ぶ。
「ケント様ですね。冒険者ランクはFからスタートします。依頼をこなしたり、他者からの推薦など、実績を積むとランクアップします。ダンジョン探索はDランクからになりますので、それまでは主に採集や討伐依頼をこなして頂ければ良いかと思います。宿については、広場を3時の方向に行ってすぐにある「ナナカマド亭」を初心者にはオススメしています。ちなみにここはギルドの南部支部ですが、北部にも支部がございます。
ボーン南部の方が魔物や魔人が弱いため、Eランクまでの冒険者が主に活動しております。北部にはダンジョンが2つあり、Dランクになった冒険者のダンジョン攻略の拠点にされることが多いです」
「ご丁寧にありがとうございます。これからよろしくお願いします!」
「はい、何でも困ったことがあれば相談して下さいね♪」
(笑うと更に可愛いなぁ…)
「どうされましたか?」
「い、いえ!ありがとうございました!」
営業スマイル?にやられかけた健人だが、目的の冒険者カードを発行できた。
(これから新しい生活が始まることを考えると、日本の家に帰れない不安よりも、ワクワクの方が大きくなってきた!)
そんな想いを持ちつつ、夕食を買って異世界生活を楽しもうと、広場の喧騒に消えて行った。
◇
「ビッグボアの串焼き!今なら銅貨10枚だ!3本買うなら20枚にまけるぞ!」
「エールとソーセージセットが銅貨30枚!」
「今朝取れた魚介類の炭火焼詰め合わせが銀貨1枚!なかなか味わえない魚が銀貨1枚はお得だよー!」
ギルド前の広場では、たくさんの露天店主が声を張り上げていた。冒険者が1日の疲れを癒すこれからの時間帯は稼ぎ時で、人でごった返している。
またギルド前だけではなく、ボーン各所にこういった屋台がたくさんある場所があるという。
「まるで台湾の夜市みたいだな」
日本のお祭りというよりは、過去に一度訪れた台北を思い出すような光景。健人はこの世界の情報収集をするため、適当に串焼きを買い、気配遮断をしつつ冒険者らしき人物の会話を盗み聞きしながら歩いていく。
「今日はしんどかったなあ、ゴブリンジェネラルと下っ端7匹程度って聞いてたのに、20匹はいたからな…。」
「幸い死人も出なかったし、報酬金額は上乗せされたけど、溜まったもんじゃ無い!…まあ今回は、みんな怪我もなく生きて帰れたことに」
「「「乾杯!」」」
(ゴブリンはRPGでは最弱の魔物扱いされることが多いけど、ここではあくまで魔人種の最弱らしいし、階級もあるみたいだし、気を付けないとね)
この世界のゴブリン界は厳格な上下関係がある。最下位のゴブリンでも武器を扱っていることが多く油断は出来ない。
さらに上位のゴブリンは非常に強く、Cランク冒険者でもソロ討伐は難しい。そもそもゴブリンは集団行動しているため、上位ゴブリンがある場合は護衛に数十人単位でいるので、複数パーティに討伐依頼が出ることがある。
その他魔人種では、オークやオーガなどお馴染みの奴らがいるらしい。こちらもソロで立ち向かうのは無謀だと言われている。
(ハーゲンのモンスター図鑑に書いてあった情報は、しっかり頭に叩き込んで来た。1人なら勝てると思うけど、すぐに離脱しないと大軍に襲われるかもしれないから、まだまだゴブリン討伐依頼は早そうだね)
その他冒険者も、今日の討伐依頼で、自分たちの勇姿を語り合っていた。ボーンでの夕方から夜にかけての日常だ。
(ここに明日から僕も仲間入りするんだ。…お酒は飲めないし仲間もいないけど)
そう決意して、串焼きを頬張りつつ紹介してもらったナナカマド亭に向かっていった。
長嶺 健人
【ステータス】
レベル:11 年齢:16 種族:ヒューマン
【所持スキル】
[SP:6]
【DEX】
隠密行動 3
生命探知 1
魔力探知 1
障害物探知 2
気配遮断 3
【INT】
魔力 2