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「・・あと数分で目的地よ」
「はは、はいっ!」
敵対国侵入に対して日本国の【EWA】所持者の三人である空灼・亜昂・櫂は、緊急警報を聞き目的地に急行している最中であった。
「・・・」
車内ではいつも無言の空灼。それもそうだ、いつだって「平和」を望んでいる青年が今向かっているのは戦場なのだから。
こういう時、空灼の頭には様々な考えが思い浮かぶ。そして主によく頭を過るのが、―また誰かが命を落とすかもしれないこと―
戦場だ。あって不思議ではないこと。
反面思い浮かぶ事。―もしかしたら今日、奇跡というものが起きるかもしれない―
そんな事を考えながら目的地へと向かう。これがいつもの事。
「・・見えてきたわ」
櫂の言葉に現実に戻される。特殊車両が停車し、三人は車両から降りる。
「・・敵はまだ視認できない」
「わ、私達が先に到着したみたい、ですかね?」
辺りは静けさを放ち、荒れた土地が広がっている。ここには元々建物だって無かったようで、ほんの少しだが緑がある。
「・・・こんな世界でも、まだ緑だってある・・」
――だからこそ――
空灼の言葉に耳を傾けていた櫂と亜昂―――と、瞬間、
ダダダダダッッ! ダンッ! ダンッ! ダダダッ! ダダダダッ―――――
「ッ!?狙撃!?」
櫂の言葉と聞こえた銃声で、敵がすぐそこまで来ている事に気づく一同。
「わわ、わ!」
幸い誰にも当たりはしていないようだ。
「・・【EWA】でのものではないわね。・・第一部隊!第二部隊は応戦して!第三部隊はここに待機!後方から援護!」
櫂が後ろにいる部隊員達に指示を出す。皆、指示通りに動く。
「・・空灼はここに待機、亜昂は私と前へ出るわよ」
「ひゃ、はい!」
基本、空灼は待機を命じられる。戦場に駆り出されてはいるが、空灼は櫂や亜昂のように部隊には所属していない。【EWA】所持者として陽照に同行を命じられているだけだ。
「無理はするなよ二人共。いざとなったら俺も行く」
戦いたくない空灼にとって待機命令は「戦場にいる者達を後方から眺めている」事であり、「平和」とはまたかけ離れたこと事である。
「・・ええ。わかっているわ」
「は、はい。空灼さん!」
ただ、いざというときは自分もあの場に立たなければならない事を、空灼は痛いほどわかっている。
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――――――
――――
「・・いくわよ亜昂」
「は、はい櫂さん!」
二人の手には【EWA】メモリが握られ、櫂はかけていた眼鏡を外し、亜昂は肌身離さず持ち歩いている本を取り出す。
そして櫂は握っている空色のメモリの、亜昂は灰茶色のメモリの横のボタンを押す。
≪Electriceel・Ability≫ ≪Buffalo・Ability≫
高音の機械音が鳴り響き、櫂は眼鏡の縁に、亜昂は本の背に其々メモリを挿す。
≪TransferEvolution≫
「「Armament!!」」
瞬間、【EWA】が起動、戦闘スーツが全身を包み、鎧装が武装される。
櫂の【EWA】は電気ウナギを模した、空色の鎧装をし、両腕には電流の流れる鞭が装備されている【EWA】。水中戦には有効だ。
亜昂の【EWA】はバッファローを模した、灰茶色の鎧装をし、両肩には30cmほどの角があり両手にはナックルグローブが装備されている【EWA】。かなりの硬度を誇る。
「本当・・・無茶すんなよ、二人共・・」
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少しずつ敵との距離を詰めていく櫂、亜昂、部隊員達。その間も銃声は引っ切り無しに聞こえる。そして、敵が視認できる距離まで近づいた時、
「・・銃声が消えた、、」
先程までの銃声が消え、辺りは静けさを取り戻す。
「どうしちゃったん、でしょうか?」
「・・もしかしたら、何か罠かもしれない。慎重に行くわよ」
疑念を抱きつつも慎重に歩みを進める。と、前方から二つの人影がこちらに向かって歩いてくる。
部隊員達は銃を向ける。だがそれを櫂が制止する。
「・・待って、丸腰よ。それにあれは・・」
近づいてきたのは二人の女性。それが意味するものは――
「・・第一、第二部隊、後方へ下がって。第三部隊の所へ」
「あれって・・まさか」
こんな戦場にまだ若い女性が二人、敵対国に侵入してくる。自ずと答えが導き出される。
「・・えぇ。【EWA】所持者よ」