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タッタッタッタッタッ――
二つの人影。まだ小さな子供のようだ。男の子と女の子。
強く手をつなぎ合って、決してはぐれないように。
二人で森を駆けてゆく、何かから逃げている。
―いたか?― ―いや、こっちにはいないみたいだ―
そんな会話が聞こえる。大人の声。
木の裏に隠れる。声を殺す。声が離れていくと、また駆ける。
どのくらい経ったか、ふと女の子が言った。
―あった―
女の子の視線の先に大きな物体がある。が、真っ暗で男の子にはよく見えない。
―ありがとう―
女の子がそう言った。安堵の表情を浮かべている。
男の子は頷き、踵を返して元来た方向へと駆けてゆく。
その背中を女の子はいつまでも見つめていた。見えなくなるまで、、、ずっと。
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――――――
―――-
目の前には火の海、だと言うのにそんな昔のことを思い出している青年がいる。
「なんで今思い出すかなぁ」
ポツリと呟く。最近よくある事、ふと思い出す。あの時のことを。
あの子は今平和に暮らしているだろうか――。
「平和、、ね」
目の前の惨状を見て思えることではない。
「最近おかしいな、俺」
そんな独り言に反応する人物が一人。
「ど、どうかしましたか空灼さん、、」
青年のことを空灼と呼んだ、こんな場には不釣り合いな感じのオドオドとした女の子。たれ目で、艶のある黒髪を胸の前で一本の三つ編みにしている。
「いや、なんでもないよ。悪いな柴禅」
青年は女の子――柴禅という女の子にそう言って歩き始める。
進んでも進んでも、周りに見えるのは瓦礫の山や燃え盛る炎。
そんな光景が目に映るたび空灼という青年の心がズキッと痛む。
慣れてしまいそうな痛み。だが決して慣れてはいけないこの痛み。
だから空灼はいつも思う。同時に願う。この―――
「この大戦を――終わらせたい―」
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遥か昔、木々がお生い茂り草花が咲きあふれ、動物たちが野山・海・空などに生息し、そして人間が共存し合っていた惑星――地球。
だが今では、その片鱗すらも見て取れない荒れた惑星。
今この惑星では独占国家を主張しあう国の長達が幾人も現れ、大戦が勃発。
さらには国だけでなく、大陸、果てにはこの惑星そのものの主導権を握ろうとしているありないはずの大戦へと発展。
この惑星は戦うことでしか主張できないようになっていた――。
「ふざけた話だ、本当」
日本国某所。青年、[緋鐘 空灼]は呟いた。
年齢17歳、さっぱりとした短髪の黒髪に丸目、見た感じ普通の青年。
それが彼、[緋鐘 空灼]。
豪勢な部屋の一室、一歩外へと踏み出せばあんなにも荒れている光景を見た後だと、この部屋には違和感しか覚えない。
「ふざけ話では無く、それが今の世界の在り方よ。いい加減貴方も気づきなさい空灼」
目の前の椅子に座る女性が空灼にそう言う。
[緋鐘 陽照]空灼の実の母であり、現アジア大陸側の殆どを牛耳る日本国の長である。
「貴方はいつまでそうやって戦いから目を背けるつもりなの?」
「・・・背けてなんかいない」
そう、目を背けずにきた。だからこそ戦いなんてないそんな平和な世界にしようと・・・
「貴方が願う「平和」なんて物は夢物語に過ぎないわ。戦って主導権を握る。今の世界にはそれしかないのよ」
「俺はッ!・・・戦いなんてしたくないんだ・・」
呆れ顔の母。噛みしめる息子。これが今の世界の在り方。
「ホントいつまで経っても力の持ち腐れねアンタは」
ソファに座っている女性、空灼の一つ違いの姉[緋鐘 月満]。
彼女の言葉に耳だけ傾ける。
「男でありながら唯一【EWA】を使えるっていうのに、戦いたくないなんて」
「・・・」
―Earht・Weapon・Armed―通称【EWA】。
未来科学技術により実現した戦闘用のアイテム。メモリ型のアイテムで、個々により様々な能力がこのメモリに凝縮されており、【Receptionアイテム】というアイテムにメモリを挿す事でアーマーを武装することができる。
ただしこれには条件があり、使用可能な”数値”というものがある。
0~50だと使用できず51~100であれば使用することができる。
誰にでも扱えるわけでは無い。
そして、本来このアイテムは女性にしか扱えないはずだが、、、
「すごいよね~お兄ちゃん!”数値”が測定不能だなんて!」
反対側のソファに座る女の子、空灼の一つ違いの妹[緋鐘 星輝]。
「私達は”数値”が以下だったのにね~」
「そうね。私達が扱えたら直ぐにでも敵対国を落としに行くわね」
姉妹揃って言いたい放題。だがこれも慣れた事。反論なんてないし、しない。
陽照が言う。
「それで、報告のほうは?空灼」
「・・・俺と柴禅が目的地に到着した時には誰もいなかった。ただ周りが火の海だった。」
「そう。いいわ下がりなさい」
『火の海って言われても何とも思わないかよ。』
そう、心の中で呟く。
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あの部屋には常にと言っていいほどあの三人がいるから、できることなら行きたくはない。が、報告やら何やらでほぼ毎日顔をださなければならない。
「まぁでも、慣れたっていえばそうかもな」
あんな空気慣れたくはないけど、、、。
部屋を出て一人歩いていると、
「あ、あの、空灼さん」
振り返ると二人の女の子。
「あぁ、柴禅に禹无原」
[柴禅 亜昂]年齢16歳、いつもオドオドしているがこう見えても日本特殊戦闘部隊特攻隊長を務めるすごい子なのだ。日本国で【EWA】を扱える者の一人でもある。
「・・また何か言われたの?」
[禹无原 櫂]年齢17歳、臀部まであるロングストレートな黒髪につり目、縁の少し太い眼鏡をかけている。いつも物静かなクールな奴だ。彼女もまた、日本特殊戦闘部隊隊長であり、日本国で【EWA】を扱える者の一人だ。
「いいや、何にも」
「・・嘘が下手ね」
「・・・まぁ、いつもの事さ」
ちなみにこの三人が日本国で唯一【EWA】を扱える人間だ。
故にこの三人は常に戦いの場に赴かなければならない。今までだってそうだった。
「だ、大丈夫ですか?空灼さん。さっき帰ったばかりで、、、」
「いったろ、いつものことさ。ありがとう柴禅」
「いい、いえそんな///」
真っ赤になって照れる柴禅。そんな二人のやりとりを見ていた禹无原は、、、
「私だって、、、」
「ん?なんだ禹无原」
「別に、、何でもない」
そっぽを向く彼女に空灼は頭にはてなしか浮かばない。
『私だって心配よ。幼馴染で、それに、、、』
そんな感情を上手く伝えられないのをもどかしく思う櫂だった。
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――〈日本国内に敵対国が侵入。市民は非難を、戦闘部隊は至急目的地に向かって下さい〉――
亜昂と櫂との会話の最中に流れる緊急警報を耳にし、三人はすぐに目的地へと向かっている。
「・・さっきの今なんて勘弁してほしいわね」
「そそ、そうですね」
特殊車両車内。空灼・亜昂・櫂、【EWA】所持者の三人は勿論の事、部隊というからには他にも隊員はいるが敵も【EWA】を所持している可能性があるため、基本的にはこの三人での形成になる。
「・・・」
こうやって戦場に赴くのは今までも、そしてこれからもあるだろが、この時間ほど窮屈で心苦しいものはない。戦いたくなんかない。けれど戦わなければ失うばかり。――不の板挟み――
これから向かうは―――戦場