表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/39

とある島の漁師の異世界人との邂逅②

 調査を始めておよそ2時間。

 今、島の沿岸部から10カイリ強――およそ20km――ほど北に離れた位置を調査している。2隻で前後に並ぶようにして航行し、何かあった時には足回りの早い後ろの船が救助ができるように考えている。サイアク、後ろだけでも逃げてくれれば良い。そういう思いもあって、俺の船が前、倉田の船が後ろだ。倉田も納得したかはわからないが、船長をしているだけあって、こちらの言う事を受け入れてくれた。


「船長! 今までの島の周りとは全然違うけど、風も強くないし、波も比較的穏やかで、航行する分には問題ないですね」


 船の中で年長者である山さんこと山久(やまひさ)真二(しんじ)さんが声をかけてくる。親父が船長の頃から、この船で親子で働いてくれていて、今も息子の武尊(たける)と一緒に甲板で海上を監視してくれていたところだ。


「そうだな、きっとこのあたり独特の海流なんかもあるだろうし、今までどおりにはいかないだろうな。ここで漁をやるなら一から手さぐりになりそうだ」


 言った通り、今までの沿海と異なって、海底までの深さや水温なんかも違っているようだ。全く知らない外国の海に行って、レーダーや探知機もなしに漁に出たような感覚だ。とてもではないが、すぐに魚が捕れるとは思えない。まぁ、俺たちが食える魚介がいるかもわからんが。


「船長! まっすぐ前方に漂流物があります。おそらく木造船だと思います!」


 武尊が、甲板で声を上げる。

 双眼鏡を持って、目視で主に前方を見ていたはずだ。


「まっすぐ前なんだな?」


「まっすぐです!!」


 俺も、甲板に出て目視でも確認したあと、後ろをついてきている倉田の船に無線を入れる。確かにあれは船だ。それに、どうやら人が乗っているみたいだ。第一異世界人発見! だな。

 倉田には、いつでも動けるようにサポートをお願いして、こちらの様子がわかる範囲である程度距離をとって監視するように伝える。海賊のように、いきなり襲ってくる可能性もあるからな。何かあったり、乗組員が海に落ちたりしたら、救助を要請するかもしれないということを伝えて、俺たちは速度をおとして木造船にゆっくり近づいていく。


 肉眼でハッキリわかる距離に近づいたところで、剣を抜いたそこそこの身なりの1人の男と、かなりみすぼらしい服装をしている日焼けをした男たちが他に4人ほど、(もり)のようなものを持ってこちらをうかがっている。こちらには敵意が無いことを伝えるため、マイクで呼びかける。


「こちらは、日本国広川漁協所属の第八弁天丸だ。俺は船長の竹下だ。このあたりは、わが国領海となるが、そちらの目的は何か? もし救助が必要ならば、港まで誘導するが、いかがか?」


 万一異世界人と会うことがあったら友好的に接してほしい。

 しかし、海賊などの脅威となりそうなら、逃げてくるように。

 最悪攻撃も止む無しと、指示を受けている。


 まぁ、口調は丁寧にできないけど、とりあえず救助が必要かと聞いたりしてみた。あきらかに漂流しているように見えるが、必要ならば誘導すると伝えて向こうの返答を待つ。


 剣を持っていた男が剣をおさめて、他の男たちに銛を下げて戦闘態勢を解くように伝えているようだ。あっちのヤツらの心境を憶測するに、得体の知れない金属でできた船が迫ってきたが、言葉が通じて、質問されている状況であるから、少なくとも、即座に戦闘となるわけでないと理解したってとこだろう。


「我々は、アストロメリア王国のイベリスの港に所属する船で、現在クライン商会に雇われている。私の名前は、ディータ・メルクラスト。この船の副船長をしている。雇い主は現在体調を崩しており、可能ならば陸で休ませていただきたいが、いかがだろうか?」


 苗字もち? 異世界だと貴族とかなのだろうか?

 副船長といったが、船長はどうしたのか? それに、見た感じ30歳前に見えるが、若いのに副船長なのか?

 普通なら雇い主の名前までは出さないと思うのだが、もうちょっと事情も聴いてからでないと、陸に上げてよいかわからんな。


「こちらとしては、そちらの目的や事情を詳しく説明いただかないと、領土内に向かい入れて良いのか判断がつかない。どなたかこちらの船に来ていただいて、わが領海に至った事情を説明して欲しいが可能だろうか?」


 副船長のディータは、少し考えていたようだが、数秒とおかず決断したようだ。


「わかった! 私がそちらに行く。申し訳ないが、船を近づけていただけないだろうか?」


「承知した。こちらから小型のボートを出すのでそれに乗ってきてほしい。準備するから少々待ってくれ」


「承知した」


 マイクを切り、後ろを振り返って山さんに確認する。


「武尊にゴムボートで行ってもらって良いか?」


「えぇ、伝えてきます」


 もし、彼らが海賊なら、最初にやられるのは迎えに行く武尊になる。そんなことは理解しているようだが、指示どおり動いてくれて、ありがたい。

 無線で港に連絡して、「異世界人の漂流者を救助するかもしれない。これから代表者と面会して、事情を聴いた後に港に連れて行くかもしれないので、救急車や休憩できる場所などの手配を頼む」と伝えた。

 また、倉田の船にも無線で連絡して、「異世界人の漂流者の代表者と面会するが、最悪海賊行為や戦闘行為が発生したら、逃げるか助けるか判断は任せる」と伝えておいた。


 港からは、予想された結果の一つなのか、事務的に了解したと返事をもらう。

 倉田からは、「危険は無いのか? 何か他にできることはあるか?」と聞かれたが、今の段階では判断できないので、近くの海域にいる船にも一応連絡するようにお願いしておいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ