自宅にて(後編)
いつものように、テレビの前にあるテーブルの自分の席に座る。母さんも向かいの席に座って、聞く体制になる。
「ちょっとやってもらいたい事があるんだけど?」
「やってもらいたいこと? 何?」
「自分の能力を見るんだというイメージをして、『ステータスウィンドウオープン』って言ってみて!」
「えーー。何で?」
大の大人に何を中二的な台詞言わせるんだって態度がありありだ。けど実際やった方が納得できるはずだ!
映画やゲームで普通にファンタジーものもやってるから、さすがに母さんも意味はわかってるんだろう。まあ、息子の目の前でそんなこと言わされると、ちょっと恥ずかしいものなのかな?
「いいから、いいから。やってみればわかるって!」
「うーん、しょうがない、わかったわよ。んじゃ、『ステータスウィンドウオープン』っ!!」
…………。
今、母さんの前にはおそらく、自分のステータスウインドウが出ているんだろう。一瞬驚きの表情を見せた後、今度は若干口元を緩ませた。
俺はその様子を、しばらく黙ってニヤニヤしながら眺めていたが、母さんは俺の視線に気付くと、慌ててすました顔を作った。
「確かに、こんなのが出るなら異世界とかゲームの世界って感じがするわね」
「だろ?」
「でも……、年齢までバッチリ出るのはいただけないわね」
「…………。とりあえず今のところ、他の人のステータスは見れないっぽいから、気にしなくてもいんじゃない?」
「あら、そうなの? じゃあ、今見えてるコレは千歳には見えてないのね」
母さんは何もない空間を指差しながら確認してくる。
「『ステータスウインドウオープン』……ほら、今この辺に俺のステータス出てるけど、母さんには見えないだろ?」
これも実際やって見せた方が確実だと思い、自分のステータスウインドウを開いて見せた。
「そうね。何も見えないわね」
母さんはうなずきながら言う。少しホッとしているようだ。
「まあ、どうにかして見る方法はあるのかもしれないけどね。ラノベとかだと人のステータスとか物の名前とか見られる『鑑定』ってスキルとかよく出てくるし」
「そんなのプライバシーの侵害だわ!」
母さんは嫌そうに言う。そんなに年齢を知られるのって嫌なのかな?
少し話題を逸らすか。
「ちなみに、母さんのステータスってどんな感じ? 俺はレベルが1でHPが18。香里奈もレベル1だったけど、ね……大人と未成年で差があったりするのかな?」
『年齢』と言いかけて慌てて『大人』と言い変えた。アブナイ。話題を逸らした意味がなくなる。まあ、母さんは年より若く見えるし美人だし、気にする必要ないと思うけど。
「私もレベルは1よ。そこに差はないみたいね。HPは……15ね。HPって、要は体力ってことでしょ? 千歳と私の体力を比べたら、やっぱり千歳の方が少し高いのね~」
「あ~、なるほど。確かにそうなるよね。じゃあ、MPはどう?地球じゃ関係ない部分はどうなってんだろ?」
「MPは10あるわ」
「え~! 母さん俺の3倍以上かよ!? いいな~。俺は3しかないのに――」
「そうなの? へぇ、ここは結構差があるのね。なぜかしらね」
母さんは口に手をあてて考える素振りを見せる。俺もしばし考えて、さっきの香里奈との会話を思い出した。
「あっ! そういえば、香里奈も8だって言ってたな。女の人の方が高いとかかな?」
「そっかぁ。MPって、魔力とかってことよね。じゃあ私、魔女になれるかしら?」
「ん~、どうかな? 母さんたまにヌケてるから、火を出そうとして火事になったりして……」
俺だけMPが低いことの悔しさもあって、ちょっと意地悪くニヤリとして言った。
「もう、意地悪ね! あ、火といえばコンロはちゃんと使えるかしら? ご飯の用意しなくちゃね」
母さんはそう言って、リビングの隣にあるキッチンへと向かう。時計を見ると、もうすぐ18時になろうとしていた。俺は特にすることもないので、ソファーに移動して横になり、今後のことに思いを巡らせた。
----------
色々考えているうちに、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。気が付いたら父さんが帰ってきていた。
父さんも、この異常事態で俺達の事を心配していたみたいだけど、俺も母さんも落ち着いてたので、すぐに安心したようだ。時間も時間なので、家族揃って夕食を食べつつ、魔方陣やステータスのこと、そして異世界転移について話した。
やっぱり最初は「何言ってんだ? 中二病か?」という顔をされたが、最早俺にダメージなどない。きっと『冷たい目線への耐性』みたいなスキルをゲットし……てなかった。まぁそんな変なスキルいらんけどね! ガッカリなんかしてないんだからね!!
いきなり『ステータスウインドウオープン』とか言ったため、父さんは更に怪訝な顔を向けてきたが、母さんが嬉々として『ステータスウインドウオープン』と追随して言ったら、一瞬驚いた後すぐに同じ呪文(?)を続けた。……解せぬ。
ま、とりあえず納得してもらえたようなので良しとしよう。その後父さんは情報を伝えるために、親友で市議会議員の柊のおじさんのところへ出掛けていった。
ちなみに、父さんのMPも俺と同じく低かった。やっぱり男は低めなのかもな~。そして、父さんのファンタジーな異世界のイメージを聞くと……『公爵令嬢と妖精』だった。乙女かっ!!
――それにしても『剣と魔法』は一般的なイメージじゃないのかな……?
その日父さんが帰った後で、ダメ元で両親にステータスの数値を聞いてみたら、あっさり教えてくれた。
以下のような感じだったみたいだ。
------------------------------------------------------------
【名前】楠 美香
【年齢】39歳 【性別】女 【種族】人族
【階級】平民 【レベル】1
【称号】異世界人
【HP】 15/ 15
【MP】 10/ 10
【筋力】 7
【耐久】 9(+2)
【精神】 9
【敏捷】 10
【器用】 3
【知力】 10
【幸運】 12
【スキル】
異世界言語認識
【魔法】
なし
------------------------------------------------------------
------------------------------------------------------------
【名前】楠 和成
【年齢】46歳 【性別】男 【種族】人族
【階級】平民 【レベル】1
【称号】異世界人
【HP】 19/ 19
【MP】 4/ 4
【筋力】 11
【耐久】 10(+2)
【精神】 4
【敏捷】 9
【器用】 12
【知力】 11
【幸運】 13
【スキル】
異世界言語認識
【魔法】
なし
------------------------------------------------------------