自宅にて(前編)
俺と香里奈で自宅周辺まで帰ってきた。
「うーーん。やっぱ圏外だな?」
「そだね。圏外だね」
この辺は、いつもなら携帯がつながる地域なんだけど、つながらないみたいだ。やっぱり異世界っぽいな。
帰り道は閑散とした山道とは言え、ところどころに街灯もついてるし、時々車が通ったりもしてた。なんか、普通に地元の夜って感じだけど、もう、異世界転移したことは疑っていなかった。何と言っても、ステータス出たしね。
でもうちの家族とかは、未だに怪奇現象って感じはしても、ファンタジーな世界に転移したとかわかんないだろうしなぁ。
すれ違う人とか、民家の中に見える人影とか、街の人もみんな普通に転移しているっぽいし、どこまでの範囲が転移してるんだろう?
少なくとも、島はまるごと転移してるって思っているけど、実は日本中とか、世界まるごととか……。それなら、生活はあんまり変わらないのかな?
まあ、今2人で考えてもわかんねーや。
「ねぇ、ステータス見れる事とか家族にも教えるよね?」
「あぁ、まぁ俺らだけ知っているって優越感はあるけど、知らずに何か面倒な事になっても困るし、情報はあるだけイイだろ。だからとりあえず家族には伝えるかな? それ以外の人にも聞かれたら教えるけど、宣伝しまくる必要はないんじゃないかな? そーいうのは、大人に任せた方が良さそうな気がするし?」
「うーん、じゃあ、とりあえず家族とか友達くらいに教えておくね」
「あぁ、それで良いと思うよ。教えても、損しないだろうし。それに俺らみたいな学生とか、ゲームとか好きな若い奴らがそのうち自力で気づくんじゃねぇ?」
携帯の電波を確認した後は、しばらくそんな話をしながら香里奈の家まで送っていった。
一人になったらさっきまでよりちょっとだけ「もしもモンスターが出てきたら……」と不安な気持ちが強まって、若干小走りで帰っていった。
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「ただいまぁ~っと」
………バタバタバタバタッ!
「千歳っ!! 帰ったの? ………大丈夫? 何ともない?」
玄関に出迎えにきた母親の美香39歳が、取り乱した様子で俺に詰めよってくる。
うちの母さんは、父さんにはもったいないくらいの美人なんだけど……、頼りないというか、父さんがしっかりしてる分、どこか幼い雰囲気がある。心配事があると、よくオタオタしてる感じ。
父さんは、和成といって、46歳。見た感じ腰の低い、冴えないサラリーマンなんだけど、会社じゃ部長をしてるらしい。家でも優しく丁寧で威張り散らしたところもなく、礼儀とかにはキチッとした人だ。
今の時間帯、父さんはまだ会社から帰ってないだろうから心細かったのかな?
「大丈夫だよ? どうしたのスゴい顔して」
両親とも、一人っ子の俺には基本甘々である。けど、普段は結構、放任主義なんだが……。
夫婦仲はラブラブで、思春期の息子としては、イイ歳なんだから、そろそろ落ち着いた感じになっても……とは思うけど、夫婦仲悪いよりマシかな?
まー、今は非日常な出来事が起きてるわけだから、普通に親として心配してくれてるんだろう。
母さんはジロジロと俺の顔を見てたけど、特に変わった様子もないことから、少しホッとした風になる。
「どうしたのじゃないでしょ? 外がいきなり真っ暗になるし、テレビ見れなくなるし、電話もインターネットも繋がらなくて、携帯も圏外だし」
「そうなんだ?」
携帯が圏外なのはわかってたけど、家の電話やインターネットもやっぱりつながらないのか。電波系当は全滅なんだろうか……。
「そうなんだ……って、なんでそんなに落ち着いてるのよ!? テレビやインターネットは、電話会社で施設の故障とか起きたのかもしれないけど、でも、外がいきなり真っ暗になるなんてこと普通はないでしょう?」
母さんはそこまで一気にまくし立てた。
「何が起きたのかわかんないし、すっごく心配してたのよ!? なのに家の電話も携帯も通じないし! 逆に、なんで千歳はそんなにいつも通りなのよ!」
おおぅ。思った以上に心配してたというか心細かったみたいだな。
「まぁ、確かに俺も驚いたけどさ。帰りに香里奈と話しながら戻ってきたから、それで落ち着いただけだよ。それに、原因はたぶんわかったし!」
ちょっと思わせぶりな感じのドヤ顔で言うと、案の定くいついてきて――。
「ほんと!? 原因ってなに? 暗いのウチの周りだけじゃないでしょ?」
「うん、えーっと、たぶんだけど、異世界に転移したんだと思うんだ!」
「………………はっ?」
間の抜けたような顔で「……転移?」と、小さく呟いた後、バカなこと言ってるコイツとでも言いたげな顔をして、こっちを見だした。
「だって、今、空に月が3つあるじゃん?」
と、開けたままだった玄関から空を指差す。
「えっ? なに言ってるの?」
理解が追い付かないのか怪訝な顔をしていたが、俺が冗談で言っているわけではないと気付いたとたん、俺が差した月を凝視しだした。
「ほらっ。ここからでも2つは見えるでしょ?」
「へ!? …………ええぇぇっ?」
玄関から外を見た母さんは、開いた口が塞がらない、といった様子でしばらく空を見上げていた。
「ね? 月あるでしょ?」
「…………う、うん……。でも、どうして……?」
「外にいたから、島を覆うくらいのでっかい魔方陣みたいな光が空に現れたのを見たんだ。これは香里奈も一緒に見たから間違いない。で、その後急に暗くなったから、それが原因だと思うんだ。……っても、さすがに何でかまではわかんないけど」
母さんは、まだ信じられないという感じだけど、だからといって他に説明のしようもないようで、月から俺に視線をもどす。
「アレは、さすがに地球から見える風景とは思えないけど。でも異世界って、ファンタジーの世界とかって言う意味なんでしょ? ゴブリンとかオークとか出てくるアレでしょ? それは、流石にないんじゃない?」
まぁ、地球から見える世界でないからって、ファンタジーの世界だっていうのは、いきなりだし信じられないのもわかる。
でもモンスターかよ。
普通ファンタジーって言ったら、「剣と魔法」っていうキーワードにならないか? なのに、「ゴブリンとオーク」っていうイメージは、ちょっと特殊だな。父さんは、どんなイメージ持ってるかな? 後で教えてあげるのが、ちょっと楽しみだ。
「じゃあ他に、あの月みたいなのをどう説明するのさ?」
「えぇっ? え~っと……、天変地異的な?」
「的なって……」
「う~ん、月みたいな天体? が急にできたとか、近付いてきたとか? 急に暗くなったのも、その天体のせいで日蝕みたいなアレで……」
「いや~、宇宙開発とか言ってるこの時代に、いきなり現れるってことはないんじゃない? 何かしら予兆はあるだろうし、だったらものすごいニュースになるっしょ!?」
「……あっ! だったら、あの月みたいなのの方が転移してきたんじゃない?」
いいこと思いついたと言わんばかりに、顔をパアッと輝かせる。
異世界は信じないけど、転移は信じるのか?
「だったら俺が見た、島を覆う魔方陣みたいなのは?」
「えっと、えぇぇっと………そうだ! プロジェクションマッピングってやつよ!!」
何か意固地になってないか? 何が何でも、ファンタジー世界に転移ってのがありえないって言って、なんかドや顔で言い切ったとこ悪いけど――。
「いや、さすがに何もない空に綺麗に映すのは無理だから。ああいうのはスクリーンになるものがないと」
「もう。じゃあ、千歳は異世界に転移したっていう証拠でもあるの?」
若干悔しそうに言ってくる。
俺もアレがなければ、母さんとあーだこーだと理由を探していたんだろうけどな。
「フッフッフッ。信じられないかもしれないけど、俺には確信があるんだ! まー、とりあえず、中入ろう?」
ちょっと思わせぶりな雰囲気を出しつつドや顔をし返す。そして、玄関でずーっと突っ立っているのもどうかと思って、とりあえず家の中に入っていった。
母さんも自分の説は諦めたのか、俺に続いてダイニングに入ってくる。聞こえるかどうかくらいの声で「確信って何よ~?」とか、呟いていたけど。