ステータス
「いけ!!!『ファイヤ』ーーーー!!!!!」
……………。
香里奈が何も見なかったかのように、無言で歩き出す。
「ちょっと待てーーー。何か言ってから行けーー! いや、むしろ何も言うな。もう一回、今度はウォーターだ!!」
名誉挽回をかけて、そう言ったら、心底嫌そうな顔した香里奈が文句言い出した。
「えーーーっ。早く帰ろうよ。仮に魔法使える世界に転移したとしても、今は使えなかったって事でイイじゃん。夜っていってもこの季節暑いし、さっさと帰ろ~」
ノリ悪い。
まぁ、自分でもう一回と言いつつ、止めてもらえるだろうから言ったセリフだし、むしろ止めてくれてナイスなんだけど。……やっぱ魔法は無理か。
頭上の月を見ながら、まぁ、こんなものだよなっと冷静に考えつつ、あまり時間のかからない確認だけやってみようと再度粘ってみる。
「んじゃ、ステータスとアイテムボックスだけ確認させて。すぐだから」
「んもぉー、早くしてよね! それ終わったら帰るからね」
「わかったわかった!!」
トイレ待っててくらいの軽いやりとりで、他の気になっている事もとりあえず確認することにする。まぁ、軽くなら香里奈もこういうバカなノリは嫌いじゃないから付き合っててくれるんだろうけどな。クドいと、ちょっとムッとしだすけど。
ということで、「自分のステータスを見る」ということと、「アイテムボックス」を確認するイメージをそれぞれ試すけど、イメージでは何も起こらなかった。次は、声を出してみるか。
「んじゃ、『アイテムボックス』…って何も出ないか。じゃあ、『アイテム』……『いでよ!!アイテムボックス』……『無限収納』……」
「はい、アイテムボックスもムリー」
もちろん、たぶん何も起こらないと思っていたが、「ムリー」のとこが地味に腹立つ。絶対成功させてやるんだ!!っていう気持ちで次に挑む。
「じゃあ、『メニュー』………『ステータス』………『ステータス表示』………『ステータスオープン』……」
「ハーイ、それじゃ帰……」
「『ステータスウィンドウオープン』…っ!!!?」
ステータスの方もダメかと思いきや、香里奈の声を遮って最後に言った『ステータスウィンドウオープン』で、目の前にゲームなんかで見覚えのある半透明な四角い枠が表れた!!!
「えっ?」
どうやら、香里奈からは見えていないみたいだけど、俺の視線が俺の前にあるウィンドウを追って驚いてる様子を見て、マジで成功したの? って感じの顔をこちらに向けている。
マジだぜマジ!
俺の目の前にはゲームでよく見る、自分の能力値を数値や文字であらわすステータスウィンドウが表示されていた。
俺のステータスウィンドウは以下のようになっていた。
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【名前】楠 千歳
【年齢】17歳 【性別】男 【種族】人族
【階級】平民 【レベル】1
【称号】異世界人
【HP】 18/ 18
【MP】 3/ 3
【筋力】 10
【耐久】 11(+2)
【精神】 3
【敏捷】 11(+1)
【器用】 10
【知力】 9
【幸運】 8
【スキル】
異世界言語認識
【魔法】
なし
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「か、香里奈……。でちゃった! でちゃったよ?」
お漏らしでもしたようなセリフを口走った後、お互いポカーンとしたした顔をしながら、しばらく見つめあっていた。
「マジなの?」
「マジマジ! 俺、……レベル1らしいぜ!!」
「それって、……雑魚じゃん!」
「あぁ、思いっきり雑魚だなぁ~。でも! ヤッベー? っあ~テンションあがる!!」
「……プッ。フフッ、フフフ…………」
「……フハッ。アハッ、アハハハハハッ…………」
「フフフッ、それにしても、フフッ、さすが千歳ね! 異世界来たのにレベル1なんて。フフッ、ホント雑魚!!」
「ッフハ、なんだとぅ? オレサマのサクセスストーリーの第一歩を! ………クッ、フハハハ…」
やばい、ニヤける顔が元に戻らん。
2人でしばらく、バカップルみたいに見つめあったままニヤニヤくすくす笑いあった。
「……ーッフゥー。んで何て言ったらできたんだっけ?」
「…ッウン。あー、『ステータスウィンドウオープン』だな」
「そっかぁ、んじゃ私もやってみよう。……『ステータスウィンドウオープン』!!」
香里奈がそう言ったら、視線が目の前の空間にとどまる。わかっていても、驚きと喜びがあるのか、香里奈の口角があがっている。
「んで、どうだった?」
「……うん、んーとね。レベルは1だけど、職業が聖女らしいよ!!」
「えっ!! マジで? っていうか、職業とかあった?」
あれ? 俺のステータスと違うの?
それに聖女って。なんか、香里奈ってチートな感じ?
「……フッフッフッ!! ウッソ~。ほんとは、職業とかないし、聖女なんてないよ」
「ハッ? おまえなぁ……、ウソってのは、ほんとか? まぁ、個人情報覗くみたいな感じだから、全部ホントの事言う必要もないけどさ~」
なんだ、ウソか。マジで驚いたじゃん。
「ゴメンゴメン。ちょっとしたデキゴコロってやつよ」
「なーーにが、デキゴコロだよ。まぁ、細かい内容は言わなくていいけど、どういう項目があるか、上から読んでいくから同じかどうかだけ教えて」
「うん」
「えーと、上から【名前】、【年齢】、………………、【スキル】、【魔法】であってるか?」
「…………えーーうん、同じみたいだよ!!」
そうか、まぁ、表示される内容は同じっぽいってことか。ステータスウィンドウも『消えろ』って思えば消えてくれる。見るのは声に出す必要があるけど、まぁ、そのくらいはしょうがないかな。んで、相手に見せる事や相手のを見ることはできないっぽい。
それにしても、ステータスが見えるってことは、やっぱり異世界転移っぽいよなぁ。これからの展開としては、魔法陣で召喚されたっポイ気がするから、誰かが説明に来たりするのかな?
スゲー魔法使いとか? あ、神様だったりして?
でも、島ごと全部って事は、資源とかの略奪目的で呼び出されたとかいうこともあるかも?
だったらヤベーな。
それにやっぱり、モンスターとか異種族とかもいるんだろうか?
ステータス見ても、戦闘力の低いザコだったからなぁ、フツーにその辺の害獣……というか、イノシシとかにも勝てる気がしないけど。まぁ、武器をそろえれば、最低限なんとかなる……かな?
つーか、日本だと刃物とか持ったら銃刀法違反じゃね? 警察も島にいるから、捕まったりするのかな?
「なぁ、やっぱりモンスターとか出んのかな?」
「――そーだね。出ないとは言えないよね。でも、今歩いてる道は山道だけど、あんまり高い木もないし、見晴しは悪くないから、気を付けてたら逃げるくらいできるんじゃない? オオカミとか出たらヤバイかもだけど」
「おぉ、オオカミね。仮にゴブリンとか出てきても、何とか逃げれそうなイメージだったけど、たしかにそんなの出たらやばいな。走ってもすぐ追い付かれそうだし。気を付けながら、さっさと帰った方が良さそうだな。――――とりあえず家の中にいれば、すぐ問題になったりはしないだろ?」
「そーだね。異世界はちょっとウキウキするけど、モンスターはドキドキというかビクビクだね」
「でも、MPとかあるんだからやっぱ魔法もあるんだろうし、ウキウキする要素もあるよなっ!!」
「千歳は魔法使えないかもだけどね! プフフッ…」
「イヤイヤイヤ、さっきはダメだったけど、きっとなんかちゃんとした呪文とかあるんだって! やり方判ればできるって!!」
「どうかな~」
「っつーか、MPって普通は、マジックポイントの略だよな?」
「うん、そうだと思うよ」
「いくつある?」
「えっと、8かな?」
「……実はマゾ・ポテンシャルとかだったりして。俺の倍以上だな! さすが香里奈さん!!」
「はぁ? んなわけないでしょ? 私、痛いのキライだし!」
「だから、ポテンシャル。潜在的なものがあるんじゃね?」
「何言ってんだか。というか、ステータスが日本語になっている以上、自分たちの理解している言葉で表す内容だろうからマジックポイントでしょ! だいたいそんな変なステータス、何の役に立つのよ?」
「まぁ、そこはそりゃあ……。ごめんなさい。やっぱマジックポイントですよね」
そんないつものバカ話をしながら、若干いつもより周りに気を付けつつ、二人で自宅周辺まで帰ってきた。