はじめての魔法体験(後編)
「んじゃーハイッ!!」
気分としては、ザシュッと、刀で切られた効果音を脳内で流しつつ、スッと切りつける。
キレイに切ったから、すぐに出血せず、傷口をつまんで圧迫すると、ようやくプクッと血が出てきた。二人も何も言わずに指先を見てる。
「うーん、あんまり痛くないけど、とりあえずいってみよう!」
これで、ホントに準備完了!
なんか既定路線すぎて誰も何も言わないが、ちょっとくらい「大丈夫?」とか言ってくれないものなのだろうか。いつもなら鈴花は言ってくれそうだけど、それだけ魔法に気をとられてるのかな。
「うん、じゃあやるね。…………『ヒール』!!」
俺の指に上空から光が差し込むようなエフェクトが一瞬発生したかと思ったら、すぐに光は収まってしまった。
実際の傷口は? と、見てみたら、確かに切り傷がなくなっている。ただ、血はプクッと出たままだ。
「おぉーー。回復ーー。すげー治ってるーけど……血は戻らないのな?」
「えっとそうみたい……だね」
俺のストレートな物言いに、鈴花が若干申し訳なさそうにこたえる。
「もう、傷が治ったんだからいいでしょ! 十分じゃん! 何ゼイタク言ってんの」
「うん、文句なんてないよ。うん、全然。コレッぽっちもね。ただ、すげー重傷とかだと、パッと傷治っても、血を流し過ぎたらフラッとして立てないかもなぁ~って……」
うん、思ったことは言っておいてよいはずだ。言わないと気づけない事もあるだろうし、知らないでいるよりイイはずだ。これが衆人監視の中だと申し訳ないから、言わないって判断も俺はできるよ! ちゃんとTPOはわきまえてるっての。そういう時は、後でコッソリ言えるんだからね。
「ひどい言いようだよね。もう、こんなヤツ回復しなくていいからね、鈴花」
なのに、こいつはひどい言いようだ。まぁ、俺もストレートすぎたかもか? んじゃお互い様ってことで……。って、香里奈の中じゃ、俺だけひどいやつみたいになってそうだな。
「ま、まぁ、そこまで言わなくても…………。それに、そういうものなんだって気づけたし、わざわざ傷作ってくれたんだし……」
おっ、やっぱり気付けて悪い事はないんじゃ……。
「いやいや、傷は、作ってくれってこっちがお願いしたわけじゃないんだし。まぁ鈴花がイイっていうなら、わたしはこれ以上文句言わないけど……」
「けど」なんだよ。
って、それにしても鈴花本人に気遣わせちゃってるし、とりあえず、言い方がよくなかった気はするから、鈴花には謝っておくか。香里奈は知らん!!
「ちょっと言い方悪かったか? ごめんごめん」
「いや、別にイイよ」
うん、もう鈴花はホントに気にしてないって感じなのに、香里奈は、まだ言い足りなさそうな雰囲気だ。
とりあえず話題を変えるか。
「んで、どれくらいMP減ったの?」
「え? えーと、『ステータスウィンドウオープン』……回復で、1減ってるね。あっ!!」
「ん? どうかした?」
「レベルが上がって2になってる!!」
「「マジで!!!」」
俺と香里奈でハモッてしまった。香里奈がイヤそうにこっちを見て、「んん゛っ」っと咳払いして再度質問する。
「それで、やっぱり能力値とか増えてるの?」
「うん、だいたい元の数値から1~4くらい上がってるみたい。あがってないのもあるけど、MPも最大値が増えてるから1減っているように見えただけで、実は5減ってたのかも。最大値が4増えてるから」
「なるほどなぁ、もう一度やってみないとわからないけど、切り傷を回復するだけでこんなに減るって、戦闘とかで回復しようとしたら、すぐMP切れそうだな。――――これって、威力と消費MPの関係ってどんな感じなのかな? 毎回固定値で減るのか、威力とか範囲とかに比例して変わるのかな?」
今回は5減って、傷口が酷いと10減った。とかいうことになるのかな?
「それは……どうなんだろうね。まだ今日初めてだから、鈴花も比較するほど回数できてないよね?」
香里奈が鈴花の方を向くと、鈴花も無言で頷いて肯定を示す。
「そういえば、お昼食べて休憩している時に、少しMP回復したみたいって鈴花が言ってたけど、どれくらいでどの程度MP回復するのかとか、0になったらどうなるのかとかも気になるよね」
「うーん、定番だと0になると、気を失う。もしくは、鼻血が出たり、頭痛がしたりとか、ひどい場合は代わりにHPを消費するとかかな? 休憩で回復したみたいって言ってたけど、0になった時のリスクを考えると、簡単に試してみたりできないよな。まぁ、いざって時のために知っておきたいだろうけど、今のところ、いざって時なんてなさそうだしな」
若干神妙な顔になって鈴花が同意する。
「そうだね。今のところは、使う前より少し気疲れしてる気はするけど、フラフラしたり眠くなったりとかはないんだよね。――でも、もしHPが代わりに消費されるってパターンなら、使いすぎると最後は死んじゃうってことだろうし、どうなるのか試すのは怖いかな」
「んじゃ、とりあえず0になりそうな時は使わないって事にしといたら? 半分以上残っている時だけ使うとか」
「うん、無理はしないようにするよ!!」
そんな感じで俺の部屋での魔法検証が終わると、昨日一緒にカラオケに行ったもう一人の友達の村雨斗真が病院に行くって話してたのを思い出した。
きっとアイツは、ステータスの事とかまだ知らないだろうしな! 魔法も含めてちょっと自慢しようぜ! って事で、斗真に会いに行くことにした。このまま家でゲームとかするより、誰か友達に話したい気分になっちゃってるしな!!
ちなみに、斗真は高校から知り合ったから、もう一年ちょっと付き合いのある男友達だ。
ルックスは、黙ってマジメにしてればそれなりにイイんだけどな。2枚目ぶらないところが、野郎友達も多い理由だろうな。いつもニコニコと人当たりがよく、誰とでも話せる感じ。特に女子には優しく紳士的だ。運動神経も良いはずなんだが、いつも手を抜いてる感じであいつの必死な姿はあまり見たことない。
ただ、手を抜いた感じでも不真面目だと嫌われたりすることがない程度に人付き合いは幅広い。そんなやつだが、遊び相手にはよく俺を誘ってくる。まぁ、いわゆる悪友な感じ。ノリもいいし、よく一緒に遊びに行くな。
それで、今から会いに行くのが病院なんだけど、なんで病院に行くかというと、斗真の両親が市民病院で働いていて、ちょっと着替えを持ってきて欲しいと頼まれているらしい。斗真は結構なんでもできるが、両親は割りとズボラなところもあるみたいで、よく家事とかやってあげてるみたいだ。
両親は、急患のために昨日から泊まり込んでいるらしく、今日の日中は仮眠して寝てるはずなんだと。それで、今日の放課後の時間に、着替えを持って来てと言われていると、昨日カラオケで言っていた。今日は休校だったわけだけど、ちょうど時間的には、今頃病院に行ってるだろうということで、会いに行くことにした。ウチから斗真の家に行くより、病院の方が近かったしな。
いつもならメールで所在確認くらいはするけど、携帯圏外だしな。すれ違って会えなくてもイイから、散歩する感覚で出かけてみようかということにした。それで、3人で病院に行くことを母さんに伝えて、市民病院に向かった。




