はじめての魔法体験(前編)
異世界に来た翌日。
朝、島内放送があったが、俺はまだ寝てなかった。というか、ワクワク感で寝付けなかったんだ。
それに、夕方一眠りしちゃったし、普段から夜型な生活してたんだから、しょうがない。島内放送があったのも、時計じゃ日付変わった1時頃だったし、そろそろ寝ようと思ってた頃合いだ。
臨時休校で、自宅待機に、時差が発生!
まぁ、これから寝ようと思ってたので、正直休校は助かる。
つーか、異世界転移っぽいのに、臨時休校ってことは、普通に学校生活は続くんだな……。
将来の目標は、サラリーマンか? 冒険者か?
とまぁそんな感じで、島内放送で起きてきた母さんにも、昼まで寝るからと伝えて寝てた。
それで昼ごろに起きて、遅めの昼飯が終わってマッタリしてたところに、香里奈が鈴花と一緒に、うちに遊びにきた。
鈴花は、昨日一緒にカラオケに行っていた友達の一人で、神代鈴花、同級生だ。中学からの香里奈の友達で、二人でよく遊んでるらしい。昨日みたいに、俺もたまに一緒になって遊ぶことがある。
鈴花の自宅は神社で、神事とか祭りとかのイベント事では、バイトで巫女姿をすることもある。運動神経は香里奈とどっこいだけど、頭は結構いい方で、俺と香里奈は夏休みの宿題とかで世話になってる。性格は、前に出るタイプじゃないけど、かといって後ろに隠れるタイプでもない。家柄なのか礼儀正しく、自分の芯は持ってるけど、控え目な子って感じかな。普段着は、フリフリとかいわゆる女の子っていうタイプの服装をしてることが多い。今日も涼しげな、レースが入ったワンピースを着ている。
それにしても、香里奈だけならたまにあるが、二人でうちにくるのは珍しいな。つーか、自宅待機ってなってるのに不良だなこいつら。……父さんは悲しいよ。
まぁ、台風で休校になっても遊びに行くやつは行くし、何も変化が無いのに自宅待機だもんな。テレビも見れないし、しょうがないのかな?
とりあえず、俺の部屋に通してちょっと駄弁ることに……。
「それで、二人してくるなんて珍しいけど……、ソワソワしてどうしたんだ? 特に鈴花?」
「あぅ。あ、あのね。今日の朝……といっても昼前くらいだったけど、香里奈のウチに遊びに行って、ステータスの話聞いたの」
「あぁ、なるほどー! それでか? でも鈴花はまだしも、なんで香里奈までソワソワしてんだ?」
そうなんだよ。
香里奈が今にも何か言いたそうに、こっち見てソワソワしてるんだ。それも鈴花と同じくらい。
「だって、あのね! あっ、私から言ってもいいかな?」
「あ、うんいいよ!」
「鈴花のステータスが、驚きなのよ! 何とあったのよ!」
「何が?」
「魔法よ、ま・ほ・う! それも三種類も!」
「へ~、魔法ね~。……? って、マジで!?」
黙って頷く2人。そして、2人そろって、イイ笑顔でこちらを見てる。
「何それスゲーじゃん!! 三種類ってなに? なに?」
「えっと、水と風と光だったっけ?」
「うん、そうだよ!」
「えぇ~スゲーな!」
水魔法と風魔法と光魔法か。ほんと、フツーに魔法使えるやつが出てくるんだな!
「それって今使えるの?」
「あ、えぇっとー。『ステータスウィンドウオープン』……うん、使えるみたい!」
ん? 何か確認しないといけないのか? ま、使えるならイイか。
「んじゃ、どれでもいいから使ってみてよ!」
「うん、じゃあ、『ウィンド』!!」
鈴花が魔法名を口にすると、そよ風が俺に向かってふいてくる。そのまま、俺の後ろの机の上にあったプリントが、2・3枚床に飛んでいく。
「おぉ~~!! すげーー!!!」
「でしょでしょ? しかも三種類だよ!! もう、誰かに伝えたくて、思わず千歳の家まできちゃった!!!」
なんで、香里奈の方がテンション高いのかわからんが、鈴花もまんざらでもなさそうな感じだ。
「それで? 水と光は試してみたのか?」
「うん、水と光は試したよ! 水はね、コップ一杯分くらいの量が手からこぼれ出てきたの。で、光もロウソクくらいの光が数分程度光ってたんだ。でね、光って実は、回復魔法も使えるみたいなんだけど、回復はまだ試せてないんだ~。怪我人に会ってないし、そのためにわざわざ自分でケガなんてしないでしょ?」
「そうか! でも、そうだよなー」
確かに、ケガになしに、回復魔法は使えないよなー。
「……つっても回復も試してみたくね? 俺ちょっとカッターで指切って見ようか?」
「いやいや、必ず治るってわけでもないのに、何言ってんのよ」
やっぱアホだねと言いそうな香里奈だが、二人とも見てみたいという気持ちはあるみたいで、あまり強くひきとめない。「それならわたしが……」とか、○チョウ倶楽部のノリが始まってもおかしくない雰囲気さえただよってくる。って、それなら、結局俺がやるんじゃん!!
うーーん。まぁ、指を切るのはちょっと嫌だけど、薄くカッターで切るくらいなら、傷も軽くすむだろうし、自分でやれば加減もできるしな。何より、この魔法という未知との遭遇を、是非是非もっと体験したい。日本人で初めて回復魔法をかけられるという栄誉(?)をゲットしたい!!
などと、脳内会議が終了したところで、スッと立ち上がって机からカッターを取り出した。指先にあてて準備した状態でニヤリとして話しかける。
「とりあえず、MPとか大丈夫なのか?」
これでやったはいいけど、「もうMPないです」じゃ困る。そこまで後先考えてないわけじゃない。切ろうかと思って、一瞬躊躇したときに思い出したというわけでは決してない。
「たぶん、大丈夫だと思う。私のMPって最大18あるんだよね。それで、さっきステータスオープンした時にまだ12残ってたから、さっきのウィンドであとちょうど10残ってるはずだよ!! 初めてだから、回復魔法でどのくらい減るかわかんないけど、足りると思うし、0にもならないと思うよ!!」
そっか、前もって試していたらしいし、一回あたり2とか3程度減るくらいなのかな?
とりあえず大丈夫そうだし、二人ともヤメナよ!! とも言ってくれなくなったし、とっとと切るか。薄皮を……。
「んじゃーハイッ!!」




