きらきら
7月31日(日) 晴れ
昨日、チューリッヒに着いた。
家までは、空港から車で30分くらいだ。
夕方の西日が、とても眩しくて、眠さもあって、
目がずっとショボショボだった。
でもやけに気分が高揚していて、たかしと夜通し飲んでいた。
途中ちょっと、スキンシップ。
それなりに、ね。
たかしは、ワインが好きだ。
こちらに転勤になり、
とりあえずは美味しいワインが飲めるだろうと、喜んでいたくらいに。
ウンチクは決して語らず、いつもゆっくり味わって飲んでいる。
私もたかしといるときは、よくワインを飲む。
夜通し飲んでも、お昼まで寝ていても、
急に出かけることになっても、出かけて帰ってきても、
もう私たちは、出発地点も帰る家も同じ。
いつのまにか眠りこけて、そろそろ起きようかと起き上がり、
さあ、行こうかと家を出て、
そろそろ帰ろうかと、帰路につく。
なんか結婚っていいな。
なんか安心だ。
今まではお互いだけを見つめ合って、向き合って立っていた2人が、
今は同じ方向を向いて同じものを見つめて、一緒に歩んでる感じがする。
真意を探り合うこともない。
たかしへの気持ちには、一点の曇りもないと、
私は自信を持って言える。
だから、ここまで来たんだ。
これからも、ずっとこのままの気持ちでいたい。
たかしとは、とにかくどんな些細なことでも、
何でも話すことを約束した。
生活の出来事も、自分の気持ちも、
良いことも悪いことも。
全部受け止めるからと、たかしは言ってくれた。
駐妻生活は、ストレスが溜まる。
自分でも気が付かないうちに。
家族や親戚や友人と離れ、言葉も文化も違う国に住む。
それは一時の旅行ではなく、自分のための留学でもなく、自分の仕事のためでもない。
会社に勤めている夫はまだ、そこで日本語を話すこともあるし、
仕事のストレスはあっても、人との交流がある。
駐妻は、何気ない人との交流がなかなかできず、気持ちも吐露できる相手も見つからず、
家にこもりがちになり、いつのまにか、心を病んでしまうこともあるのだ。
特に冬のヨーロッパは、暗く日照時間も少ないし、寒い!
ここチューリッヒは、スイスの中ではまだマシな方だけど、
真冬には、昼でも噴水が凍りついているそうだ。
晶子さんは、今度おうちにご招待してくれるみたい。
たかしと二人で、お邪魔することになった。
会社の奥様たちともお食事会を開いて、
私を招待してくれるという。
嬉しいな。
長崎ファミリーには、たかしも感謝している。
お昼頃起きて、二人で散歩に出かけた。
近所のスーパーを下見して、買い物の練習をした。
たかしは、スーパーでひたすら地元の買い物客を観察して、
体得したらしい。怪しい人(笑)。
トラムの乗り場をチェックして、切符の買い方を復習する。
そして、チューリッヒ湖に向かった。
チューリッヒ湖までは、家から歩いて3分だ。
湖沿いはずっと、美しい公園になっていて、みな思い思いにくつろいでいる。
寝転んで本を読む人、語らう人、サッカーをしたり、ジョギングしたり、散歩する人。
水着や上半身ハダカの人がやけに多いのが、日本と違う。
遊歩道に、芝生の広場に、船着場。
ソーセージやアイスクリームの屋台も、オシャレなカフェもある。
遊泳場もあって、そこでは水着で泳いでいる人も。
海のないスイスでは、湖で泳ぐ。
白鳥やカモくんも、近くで泳いでる。
それもなんか自然な感じだ。
遊覧船が通ると、波が打ち寄せて海のよう。
どこをとっても絵になるねぇ。思わず呟く。
とにかく美しいところだ、チューリッヒは。
「薫は、ホント一番いい時に来たよ〜。今が最高の時期だから。俺なんか2月だぜ。寒いし暗いし。食事の時間過ぎると、レストラン閉まっちゃうんだよね。最初はお店とかよく知らなかったから、探しても開いてるのはマックぐらいで。でもなんか高いし。マックのセット、一番安くても日本円で千円超えてるんだぜ。物価は高いよなぁ。ホント時間外すと、食べられる店もなかったりで、食いっぱぐれるんだよね、この国は。その辺が東京と大きく違うよな。あと、自動販売機はめったにない!」
たかしは初めの1ヶ月、下痢が続いたらしい。
ストレス性のものみたい。
たかしは海外旅行が趣味で、バックパッカーだったこともある。
今ではもう危険すぎて入国できない国へも、一人旅に行ったこともあったそう。
精神力もかなり強い人だと思うのだけど、
それでもいっぱいいっぱいだったのだろう。
チューリッヒと東京、離れていた時には、
笑い話しになる程度の愚痴ぐらいで、何も言っていなかったし、
全てが順調そうだった。
でも、たかしが自分自身で順調にしてきたんだ。
仕事のプレッシャーを抱えつつ、慣れない土地で生活を整え、
たかし自身が順調な状態を作ってきていたんだと、思った。
たかしの為に、私は何ができるだろうと思う。
とりあえずは、ご飯かな。やっぱり和食。
食べたいものを聞いて、どんどん作ってあげよ〜ぅ!
帰り道、家が見えてきた。
5階建のアパートの3階のワンフロアーが、私たちの部屋だ。
古い石造りのアパート。
所々に彫刻が施してある。
各階のバルコニーは半円形に迫り出していて、曲線がきれいだ。
部屋は、窓がいっぱいの明るい部屋で、私は大満足。
たかしの物件選びは素晴らしい。
先に赴任していたたかしにお任せして、大正解。
ホントにありがとう、たかし!
ただいまぁ。おかえりぃ。
と、全部自分たちで言う。
小腹がすいているけれど、
ご飯の前に、ちょっとだけスキンシップ。
はて?何度目だ?
西日がリビングを燦々と照らしている。
近所のメキシカンレストランのテラス席から、陽気な音楽とおしゃべり、
食器のカチャカチャする音が聞こえてくる。
今度食べに行きたいな、とっても楽しげだ。
たかしは明日は、仕事だ。
私はどこへ行こう?
気ままにフラフラしてみようかな。
まずは買い出しだ。
たかしが、美味いとうなるご飯を作りたい。
ムフフ。
たかし!こうご期待!!