第六話 塩を奪われました。それなら、戦いますが何か異論は?
塩は偉大である。と、俺は思う。
そもそも、何かの本で読んだが人間は水と塩があれば頑張ればそれなりの期間を生きていけるらしい。水は最重要でつぎに塩である。
ただの草や安い肉、魚でも塩を振りかけて焼くだけで美味い。
塩は偉大である。
「美味しいです」
と、サリアも目を輝かせて野菜の塩焼きを食べている。
塩のおかげで野菜の持つ天然の甘みが引き立ち、口に広がる。考えて見れば、無人島でも水と食料を探していたが、無人島では大抵は海がある。
海で塩をどうにかしていたに違いない!
塩よ。お前は、調味料の王様だ。と、俺は塩を賛美する。
甘味は野菜から感じられるので我慢が聞く。
胡椒などは、まあ……ぎりぎり我慢しよう。
俺はそろそろ、保存していた塩が無くなってきたので取りに行く。塩は保存にもきくので、普段より多目だったりした魚や肉などを塩漬けにしたりもしている。
とは言え、滅多に生肉や生魚を手に入れられない。それでも、わずかに保存して塩漬けしたりしているし、野菜なども塩漬けにしている。
味は濃いし、鮮度はないがそれでも保存は大切だ。
俺は、また海水を組みに向かった。
塩はわりと、高値で売れることも手伝い、俺はたまに塩を売ってもいる。塩を売って、かわりに大きな鍋や保存食、まともな服などを購入したり貯金したりしている。
サリアにも服を渡している。一応、場所を借りているのでだ。貯金は、今後のためだ。俺はまだ、サリアのために世界と戦う覚悟はない。
と、言うか別にこの世界がどうなろうと関係無い。
そんな思いがあるのだ。
だが、出来れば長生きして欲しい。と、思う。……いっそ、元の世界に戻る方法を見つけたらサリアをこちらの世界につれて行くのも手段かも知れない。
塩と運が良ければ、魚の干物も良い。頑張れば、他の調味料とかも手に入れたい。胡椒は高価かもしれないが、塩だけではなく砂糖も欲しい。
果物でも良い。
野菜の甘味も良いが、やはりもっと甘いものが欲しい。
そう思っていると、
「なんじゃこりゃぁあああああ」
俺の絶叫が響いた。
海が閉鎖されていたのだ。
「なんでだ? どうしてだ? 海を閉鎖?
マジか?」
俺は海沿いを歩く。これが、砂浜ならまだ解る。だが、海岸と言うか海沿いを延々と、補強しており近づけるのは猟師などのわずかな人間であり、彼らも鋭い積荷検査をされている。
「おいおい。この前までは、こんな事は無かったじゃねえか」
塩が取れない。と、俺が思っていると、
「あ、旅人さん。こっち!」
と、俺を引っ張る手。そちらを見ると、そこにはイリアがいた。
「イリア」
俺が驚く中で物陰へと案内される。
「どうしたんだよ? 海岸が全部、閉鎖なんて」
「領主の命令だよ」
「はあ?」
出て来た言葉に俺は驚く。
「今まで、塩は領主おかかえの岩塩発掘者が最も塩を集めていた。領主は、それを高値で取引をしていた。ところがさ。
あんたのおかげで、みんな自力で塩を作る事を覚えた」
たしかに、イリアを初めとして俺は塩の作り方を教えた。
その事から、この町ではかなり優遇される立場となった。
俺は、ただ旅人としか名乗らないのだがそれでもかまわない。と、言っており今では塩をつくって居る中で、無料でいろんなものをプレゼントしてくれている。
塩がこの町の特産品になる。と、喜ばれていた。
「で、領主が収入が減ったと言ってさ。
怒って海に人を近づけなくしたの?」
「はあ? 塩が手に入るとなれば、人口も経済も潤う。そうすれば、領主だって長期的に見ればお金が入るはずだぞ。バカなのか?」
「領主様にしてみたら、あたし達は死んでも良いのよ。
魔物に襲われてもなにもしない。だから、あたし達がお金を持つのは迷惑なんですって」
「誰が言っているんだよ。そんなこと」
「領主当人」
「……正直な奴」
あまりにも正直な言葉に俺はぎゃくに尊敬してしまいそうだ。
「……この世界にたいしてお前は、どう思うんだ?」
「苦しいわよ。頻繁に、魔物と人間は戦う。
けれど、王族や貴族はぎゃくにそれを利用して富を稼いでいるみたい。ここは、得に戦前地だから、そう言うのがよくわかるのよ。中心部の裕福な人たちは、知らないみたいだけれどね。王族は本気で魔王をどうにかするつもりはないみたい。
勇者も魔王を倒した後に、帰ってくる事はない。
勇者も実際にはあたしたちを救ってくれないのよ」
そりゃ、そうだ。勇者と魔王は相打ちになるのが目的なのだ。人を救うのが目的ではないのだ。つまり、偉い人たちの望みは世界を救う事でもなければ、世界を変える事でもない。ただの現状維持なのだ。
勇者も王族も誰も世界を救ってくれない。……世界を救えるのは俺か……。
と、ノワールとブランの言葉を思い出す。
よく知らない相手を助けよう。と、思えるような|白鳥(勇者)のような人間では無い。 ブランは、国を信じて居る。と、言っていたがとっくに国に対して諦めている。だが、国を諦めたところで戦う力もないと言う事だ。
戦うための金も力も体力すらない。
「で、あたし達に塩を創り出す術を教えた旅人を殺すと言うお触れをだしていたわ」
「ぶっ!」
俺は、この世界では死相が出ているのか?
死ね。と、言われるのがこの世界に来てから二度目だ。
……二度ある事は三度あると言う言葉がある。
そして、三度目の正直と言う言葉もある。
……つまり、まだ三回目の死刑宣告があると言う分けだ。……いや、それはそれで嫌だな。うん。と、今さらながらに思う。
「で、イリア。俺を突き出すのか?」
「まさか」
俺の質問にイリアは否定する。
「あたし達に塩を作る術を教えてくれた。
この町はおかげで死にかけていたのが息を吹き返し始めたのよ。
あなたを助けたところで、どうせ結末は終わりよ。
なら、恩知らずになるつもりはないわ」
そのことばに俺は考えて、
「ありがとうな」
と、言うと立ち去る。
「どこに行くの?」
「安心しろ。お前らにとって、俺が恩人であると同じように……。俺にとってもお前らは恩人だ」
と、俺は言うと決意した。
俺は好きになった人間や気に入った人間は守りたい。助けたいと思う。今まで、助けたいと思えるような人間は、せいぜい三人。多く考えたら三人と二匹だ。
そいつらだけなら、俺の世界につれて行く事も可能かもしれなかった。
だが、今の俺は違う。
今は、この村の連中も助けたいと思ったのだ。
俺に美味しい料理を分けてくれたり、もう塩は簡単に手に入るのに俺の塩を買ってくれた。食料や魚、保存食なども分けてくれていた。
微々たるものだが、彼らにとっても生活は苦しかった。
今、俺は決意した。
この世界を救ってやろう。と、……。誰のためでもない。俺が守りたいと思った連中のためだ。