月夜の魔法
feather village。此処は、どんなに詳しく書かれた地図にも載っていない、本当にあるのかどうかもわからない、謎の村として有名である。
ただ、この村から市場へ荷物が届くのだ。中には果物や野菜が入っている。どれもとても美味しく、形も色も香りも良いのだ。それらと共に古封筒が入っている。虹色に輝く羽根と、手紙。
『この中に、どうか花の種を入れて下さい。一緒にお送りしました羽根は、種を入れてくださった方のお家の窓の所に飾ってください。』
書かれていた通りに花の種を入れると、封筒は消えてしまう。
羽根を飾ると、その翌日、綺麗な宝石が1つ置かれている。
この事から、人々はこの村の事を「feather village(羽根の村)」と呼ぶようになった。
そんなことが続いたから、たくさんの冒険者達が、この村を探した。しかし、誰一人見つけることが出来なかった。あいかわらず、荷物と羽根だけが届くのだ。
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ある満月の夜。1人の貧しい若者が、窓から外を眺めていた。
とても静かだ。
彼には頼れる人が誰もいなかった。1人で野菜を作って売って、なんとか暮らしていた。
この日は、彼はとても疲れていたようで、そのままうとうと眠ってしまった。
不意に、彼の目の前で、小さな明かりが灯った。
(何だろう、この光は?)
しかし、それはとても温かく、美しく、彼はしばらく動くことが出来なかった。
光がゆっくりと消えてゆく。と、同時に、窓には大きな箱が置いてあった。
ゆっくりとその箱を開けると、中にはたくさんの果物と、古封筒。
(まさか、feather village!?)
封筒を慌てて開ける。中には噂通りの羽根と手紙。
『いつも頑張っているあなたに。 この果物がきちんと届いたかどうか確認したいので、どうか花の種を入れて下さい。そして、この羽根は、貴方が持っていてください。お気に入りの服でも帽子でも、辛いことがあったら羽根をさして、街を歩いてみてください。きっといいことがありますよ。 feather village こと fairy village より。』
「fairy village…。」
中に入っていた羽根をそっと手のひらの上に乗せた。月の光にかざして、そっと目を閉じる。
目の前には1人のfairy(妖精)。人差し指を口の前に持ってきて、「秘密ですよ。」と笑っていた。
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それ以来、彼は羽根を持って散歩するのが日課になった。気分が落ち着き、今まで見落としていた美しい景色を眺める余裕が出来た。
仕事も順調に進み、街でも評判の百姓になった。
あの日の妖精は、もう現れなかったけれど、見守られているようで、1人ぼっちの寂しさを、感じることもなくなった。
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fairy village。彼だけが知っている、村の本当の名前。そんな彼でさえ、いまだどこにあるのか、わからないのだった。