4話 二人の素性
俺は始まりの街まで戻ってきた、どうやら騒ぎや混乱は収まったようだが、多くのプレイヤーは今後に不安を抱えてままのようだった。
俺は目立たないように歩いてただったんだけど。
「あれ?島崎君!?」
この声は――――『鋼姫スチールレイ』系統の声優の声だ、ちなみにアバターごとに声優が決まっていてこれも素材であり合成によって声優を変更できる、まあボイスチェンジ機能のようなものだ。
そして俺を呼んだのはミィだった、何故――――俺の名前を?
「島崎じゃん、なんでお前リアルアバターのままなんだ?」
そう話しかけてきたのはレオグリード、ヨシだ、なんで……なんでこいつらが俺のリアルネームを!?
「え、ヨシ?島崎君を知ってるの?」
「ミィもか、もしかして知り合いか?俺は、まあ高校の時クラスが同じだったんだよ」
「え?ヨシも?」
「どうでもいいけど、リアルアバター晒してくれないと誰が誰なのか、わからないんだけどさ」
「あ、そうだったね、ごめん……」
「待った――――こんなとこで晒すバカが居るか……仕方ない、俺のホームに来い、そこでならゆっくり話せるだろう」
俺達はヨシの提案に乗った、まあ確かに有名ギルドのギルマス二人の素性はみんな気になるんだろう、既に多くの視線を集めていた俺達は、ヨシのホームに向かった。
ヨシのホームはこの始まりの街に設置されているらしい、俺はミィのホームになら行ったことはあるが、ヨシのホームは俺どころか、ミィも行ったことはなかった。
ヨシのホームは……なんというか俺達の予想を遥か斜め上を行く女の子らしい部屋だった。
「え?ヨシってこういう趣味があるの?」
「なんか意外だな、ネイチャーファングのギルマスがこんな部屋を使うってのは」
俺は念のため『ヨシ』とは呼ばない、メーカーとバレるのを避けるためだ、確かに二人は信用しているが、リアルを知っているとなると話はまた別だ。
「じゃあ、俺から脱ぐぞ――――」
ヨシはレオグリードのアバターを外し、リアルアバターを付ける――――な、なんだって……?
「え、嘘、霧ちゃん?」
ミィが驚いている。
「女だったのも驚きだが、それ以前に吉岡だったとはな」
「んで、ミィはやっぱ美伊奈なのか?私を霧ちゃんとかいう『み』の付くやつは他にいないんだけど」
「そうだよー」
ミィもあっさりとリアルアバターに変えた、さっきの吉岡に対する反応で俺も、もしかしたらとは思っていた、それに、あの時、最初に二人が居た位置にはゲームだった時はミィとヨシが居た訳だしな、あの時に気づくべきだった、というかこれだとあのネットアイドルがガチで俺の姉さんってことになる。
「この流れだと――――島崎、お前がメーカーなのか?」
吉岡は真っ直ぐに俺を見ている、俺はつい、目を逸らしてしまった、答えはそれだけで充分だったらしい。
「そう、なの?島崎君がメーカーなの?」
九嶋はまだ信じられないような目をしているが、ここまで来たらもう隠し通せない、それに、まあこの二人だったらいいかとも思ってしまっている。
「そうだ、俺が『アバターメーカー』だ、さっきは悪かった、急に逃げ出してしまって、ごめん」
俺は深々と頭を下げた、二人のことは信頼に当たる存在だと思ってたのに俺はあの場で二人に背を向けた。
「い、いいよ!仕方ないよあんな場面じゃ、ハンゾー君が動いてくれなかったらあの場でみんなで戦いになってたかもしれないし」
「ハンゾーのやつはどうなった?」
「あいつなら自分のギルドの連中に介抱されてたはずだ」
「そうか……それは良かった、後で様子を見にくべきか?」
「やめとけ、今お前がこの街にいるってバレるとまた大混乱になる」
そうだよな……だけどこのままじゃダメだ。
「そういえば、二人ともギルドはどうした?」
今は確か、ギルドごとに分かれて行動をするってことになっていたはずだ。
「私のとこは解散したわ、こんな状況になって、それにあの『選別』でだいぶ減っちゃって、大勢残ってるとこに全員持って行かれちゃったし」
女神による、YES/NOの二択は今では『選別』と呼ばれているらしい。
「私のとこもそうだな、どうにかミィのとこに入れてもらおうかと思ってたけどミィのとこもそうだったってんならどうしようもない」
二人共ギルドを失っていた、こんな状況でギルドを保つのは困難らしい……けどそれなら、俺の考えていた手が使える。
「そうか、ミィもヨシもギルドはなくなったんだな――――じゃあ俺がもしギルドを作るって言ったら入ってくれるか?」
「メーカーがギルマス?」
「そうだな、メーカーの仲間なら今、ソロをやるはよりマシだしな、作るって言うなら入るけど」
素性が明らかになったが、俺たちはお互いをリアルで呼ぶことはしなかった――――それはリアルの関係よりもこっちの方が好ましいってことだ。
「そうか、良かった――――じゃあ後三人ほど、誘いたいんだけど、ここに呼んでもいいか?ヨシ」
「ん?ああ、構わねぇけど、どこのどいつなんだ?」
「ああ、それは俺のリアルの家族さ」
そう、俺がこの街に戻ってきた真の理由は姉さんとそれから居るかどうかよくわからないけど、弟と妹を誘うつもりで戻ってきたんだ、勿論俺であると分かるようにわざわざリアルアバターでだ。
俺は、フレンドリストを操作し、メールでこのホームのアドレスを送った、俺が島崎正作であると告げる文面を添えて。