2話 離脱
『勇敢なるファギロ』・種族人間、性別は男、職業は戦士、武器は片手剣、戦法はそれによる剣術、コスト四十、中級クラスの一般アバターで使い勝手もよく誰もが大体使っているアバター。
今、俺はこのアバターを着用している、いや俺のみならず周りにいるソロプレイヤーはみんなこの姿だ。
何故俺がこんなアバターでいるのかというと、ギルド所属のプレイヤーは集合したらしいのだが、ソロである俺たちは、ただ広場の真ん中で立ち尽くしていた。
そして複数のギルドに取り囲まれた形になる、彼らの目的は無論、俺『アバターメーカー』だ、今の状態でより強いアバターを手に入れるには俺が作るしかないのだから、俺を仲間に入れようと思っている連中は多いはずだ、ゲームである頃は断りきれたし、しつこい様であればログアウトもできた。
しかし、今現在はログアウトもできない、逃げ出そうにも、下手に動けば攻撃されて自由を奪われるだろう。
マッハアークの神速スキルで一気に駆け抜けるという手もあるが、この世界が現実となった今、街中でのすり抜けはできないし、それに他のアバターの神速持ちに追いつかれる可能性もあった。
何より、どこへ逃げればいいか分からないこの状況では、よほどの距離を逃げなければすぐに追いつかれる可能性もある。
俺はなるべく挙動不審にならないように辺りを探る、ここで妙な動きは取れないが、俺はバレないようにメニューを開きバッグスペースからアイテムカードを取り出し、いつでも使えるようにする。
と、そこで――――
「メーカー、居るなら出てきなさいよ!ソロだからマズイ事になるって思ってるんなら私のとこに来なさい!」
ミィだ、『アイアンレギオン』のメンバーを引き連れいる、確かにあそこなら信用はできるが、他が黙っちゃいないだろう。
「おいおい、待てよミィ!メーカーはウチが預かるぜ?ウチなら他に手出しはさせねぇからよ!」
ヨシだ、『ネイチャーファング』のメンバーを引き連れている、他のメンバーは雄叫びをあげて周りを威嚇している。
他のギルドの連中は少し後ずさった、しかし何人かのギルマスには効いていないようだ。
「そういうことなら私のところがいいだろう、我々は常に平等を心がけている!」
ギルド『ホーリーナイツ』のギルマス『聖剣騎士レオンハルト』使いの『Leo7081』通称レオだ、俺のフレンドでもある。
確かにあいつなら二人よりもそういった方向では潔白だけど。
「はいはい、騎士様とか獣王様とかましてや、機巧姫様とかの出番じゃないから、私のとこに来ようよメーカー君!ウチでならちゃんといいもの作れて、他所に流通もさせられるし!」
ギルド『ポンポコ商店』のギルマス『狸店主ポン子』使いの『tanutanu808』通称タヌ子が手を振っている、彼女のギルドは商業ギルドで、生産から販売までこなすやり手だ。
彼女は信用はできるが信頼はそこまでない、彼女のリアルを俺は一方的にだが知っている、その彼女の性格からしたら今ここで彼女につくのはマズイと思う。
どうしたものかと、再び考えていたら――――。
「そんなことお前たちが決めることじゃないだろ!」
マッハアークを使っている一人のプレイヤーが出てきた、今はプレイヤーネームが表示されないため、誰だか分からない、ちなみにタヌ子やレオに関してはあれが俺のオリジナルで、連中しか持ってないこの世に一つしか存在しない物だから断言できる。
しかしマッハアークに関してはこの世に俺のを含め四つある、一つはもちろん俺のオリジナル、もう一つはミィの持つ女性型マッハアーク、残り二つは飛行可能なジェットアークと重火力型のバーストアークだ。
つまりアレはバーストか、ジェットのどちらかである、しかしこのマッハアークは見た目は一緒、性能が違うというだけでしかもジェットとかバーストとかは俺が勝手にそう呼んでるだけでアバター名称は『英雄機神マッハアーク』だ。
「俺はお前たちの思い通りにはならない!」
そういうとマッハアークは空へ舞い上がった――――ジェットか、つまりあいつは、『hanzo8106』通称ハンゾー、通常は『神速忍者ハットリ』を使う『風来忍軍』のギルマスだ。
何故あいつはあんな事を――――まさか俺を逃がしてくれるつもりか!?
他の連中はジェットアークを知らない、俺のは飛べないのだが、それは単に見せたことがなかったとも取れるのでみんな空を見上げ、ある者は魔法、ある者は弓矢で迎撃しようとしている。
チャンスだ――――今なら……俺はすかさず手にしていたアイテムカードを解放し、使用した。
使用したアイテムは『経験値カード』その名の通り経験値を得るカードでレベルカンスト者だけがNPCから購入できるカードで、カンスト者はこのカードに経験値を蓄えることで、レベルキャップ開放時にすぐにレベルを上げることができる。
俺が光に包まれる、レベルアップエフェクトだ――――俺のレベルは百から十九も上がった。
そしてエフェクトが消える前にアバターチェンジを行う、レベルが上がったことによって今俺が使えるコストは百十から三百に跳ね上がっている。
俺を包む光が消える――――そこには、漆黒の鱗を持つ巨大な龍神が居た『黒神星竜B・M・D』だ
俺が今迄作ったアバターで最強のアバター、コストが二百五十で、ゲーム時代はただの観賞用のお飾りとして持っていたが、まさかこんなところでお披露目することになるなんて。
全長三十五メートル、種族・星竜、性別・オス、武器・黒鞭尾ブラックウイップテイル、戦法・野生、能力・飛翔・超神速・超装甲・獄炎息吹・強風翼、技能テイルクラッシャー、ブレスオブダンス、ウイングスラッシャー、メテオダイブ、ドラゴンズラース。
これだけ詰め込んだらコストが物凄いことになったわけだ。
材料にしたアバターカードも数知れず、その数およそ二百枚だ。
流石のギルマス達もこの姿には驚いたらしく、俺はその隙に飛翔し、空へと逃げた、飛び上がると同時に落ちてくるハンゾー、スクラップも同然のその体に俺は――――。
「ありがとう、この借りは必ず返す」
とだけ言って、広場から飛び去った。