1話 異世界アーク
なんとなく書いていますので更新は不定期となっておりますが、自分の書いている話の中では一番設定がしっかりしていると思いますので、更新速度に不満がなければ、お楽しみください。
女神は言った、邪神がこの世界で復活し、こちらの世界にこのゲームを通じてやってきて世界は滅びるのだと。
あるものは滅びた世界を思い泣き、嘆き、怒る。
あるものは失われた家族を思い、泣き、嘆き、怒る。
そうもう二度と戻ることはない――――みんなそう思っていた。
「落ち着いてください、まだ、助かる道はあります、この世界は、先ほど皆さんが居た時より五年ほど前です、私は世界の崩壊する前の時間に貴方達を召喚いたしました、資格のあり、世界に干渉している者のみでしたが、皆さんにはこれより、五年後に起こる邪神復活を阻止していただき、この世界と、貴方達の世界の両方を救っていただきたいのです」
まだ終わっていない――――俺はそう聞かされて、決意した。
「一つ聞きたい、この世界を救えば、俺たちの世界は救われて、さらに言えばゲームのサービス終了もなくなるってことで良いんだよな?」
俺はこんな時に何を言っているのか、周りの奴らも奇異な目で俺を見る。
「そのとおりです、本来はサービスを終了させることで、こちらとそちらの縁を切り、邪神を行かせないつもりでしたが、予想よりも早く邪神が復活してしまったため、このようなことになりました」
サービス終了は俺たちの世界を助けるためだったというのか、しかし、間に合わなかったと……。
「ふざけるなよ」
誰かが言った。
「帰せよ、元の世界に帰せよ!今すぐに!」
男は言った、家族に合わせろと。
女は言った、恋人に会いたいと。
わからなくはない、今は五年前、まだ世界は滅びていないはずだ――――。
「そうですね、そういう方もいらっしゃると思いました、ので、元の世界、元の時代に返して差し上げても良いです」
俺、いや恐らく俺たちの脳内に選択肢が思い浮かんだ――――なんだ、これ、脳に直接――――。
選択肢は二つだけYESかNOだ。
『貴方は世界を救いますか?』
そんなの俺は決まっている、YESだ。
それに、元の時代の元の世界は既に滅びているはずだ、そんな場所に帰されてどうすると言うんだ?
みんなが押し終わったのだろう、女神がそっと告げる。
「分かりました、ではNOを押した方には、ご帰還していただきます」
そういうと天に穴が空いた、穴には煌々と燃える赤い星が見える、まるで太陽のようだ――――しかし燃えているのは一部、大陸だけで、海は燃えていない様に見える。
地球は燃えていた。
「な、なんだ!?」
周りの人々が宙に浮く、どうやら浮いている人はNOを選んだらしい、今からあの炎の海の中に投げ出されるらしい。
「あ、あ、ああ、助けて――――」
たくさんの断末魔が聞こえる。
「安心してください、残った皆様が邪神の復活さえ阻止すれば、皆さん生きてますから」
詭弁だな、確かに俺たちが世界を救えば、未来は変わってみんな助かるのだろう、けど、あの人たちは一度死ぬ、他の資格を持っていなかった人たちのようにだ。
非協力的な奴らが残ったって仕方がないとも思うのだがしかし、これはあんまりじゃないか?
しかしそれは口にしない、もう起こってしまった事は覆らないし、もしそれを口にしたところで俺がこの世界に必要のない人間だと判断されれば、俺もああなる。
俺は怖かった、自分が死んでしまうことよりもこの世界から拒絶されることが、俺にとってはこのゲームが生き甲斐だったんだ、もしそれを失わずに済むというのならば、俺はなんだってする。
「ではこれから残った皆さんには特典を授けましょう」
特典――――なんだろう、レアアバター配布とかか?というか俺たちはどういう状態なのか、見た目はリアルの姿なのだが、アバターカードは使えるのか?
「まずは『アバターメーカー』貴方はには『クリエイター』の資格を授けましょう、それとカード図鑑に複製効果とオリジナルの記録機能を追加しておきました」
『アバターメーカー』とは俺のことだ、だけど今はリアルの姿、誰も俺だとは気づいていない、まあオフとかイベントしか参加したことないしな、自分がそうであるとは誰にも言っていない。
女神もそんなところは考慮してくれているのか、俺の方に視線を向けないようにしている、俺も必死に冷静を保っていた。
内心は狂喜しているが、俺が『クリエイター』憧れのアレになったのだ、それにカード図鑑の複製効果とか、恐らく、既存のカードを複製する機能だろう、オリジナルの記録というのも、通常カード合成によって自分で生み出した、例えばさっきまで使っていたマッハアークなどがだが、これは図鑑には登録されない、これを登録できるようにしたと言っているのだ、しかも複製も可能だということだ。
これは物凄いことだ、今迄オリジナルを増やすには同じ工程を何度も繰り返すしかなかった。
これには凄い、経費と労力を要するのだが、これからはその必要がない、まあ何故複製が必要なのかと言えば同一カードによる合成『強化』のためなんだけども。
今にも小躍りしたいのを堪えて、女神の話に集中する、じゃなきゃ周りにバレて大変なことになりそうだった。
みんな目が血走っている、どうやら俺を探しているらしい、まあ要するにレアカードメーカーにもなったわけだしな、確保したい気持ちはあるんだろう。
俺のカード図鑑がコンプリートされている事だけは周知だからな。
オリジナル以外でも俺しか所持していないカードなんてものもある、七つの苦行とまで言われるクエストをクリアしたやつだけが持つアバターだ。
まあアレはみんな挫折するんだよな、俺は挫けなかったが、難しいわけじゃない、ただ苦痛なだけだ。
「では次に、上限突破についてです、今迄貴方達の言うレベル上限を百だったのを一万まで解放致します、更に百以上からのコストの上昇率を一度に十と致しましょう」
ば、馬鹿な――――レベル一万とか、誰がそんなに上げるんだ?それにコスト……コストとは、アバターカードによって決められているそのアバターを使用するのに必要な、数値で自分のコストより高いコストのアバターカードは使用できない。
初期コストは十、それからレベルごとに一ずつ上昇する、だから一人の最大コストは百十。
それを上げるということはつまり、レベル百一で百二十になるということだ、そして一万では――――なんとも中途半端な数字になるが?
「コストの方は半端な数値になるかと思いますが私達の計算ではそのコスト以上を持つアバターは生まれないと判断しておりますので」
「ちなみに今は貴方達が使っている現実の映し身に関しましては合成しても姿の変更はされませんが、その代わり強くなってもコストは上昇しません」
なんと、今の姿もアバターだという、それに強化してもコストが上がらないだと?
それはどんなレアアバターより高性能だ、俺はメニュー画面を開いて確認しようとするが、開けない。
「メニューを開く際はなどは手で操作するのではなく、頭にイメージすれば開きます、その後の操作は今迄通りで結構です、それと干渉をやめるは基本的に出来ませんのでご了承ください」
ある意味デス・ゲームってやつか?
「しかし皆さんはその現実の映し身を破壊されない限り死ぬことはありませんので、通常はアバターの着用をお願いいたします」
この姿をやられたら終わりってことか、強化できると言った手前これはなぁ……
このゲームにおける死の概念は肉体欠損による行動不能だ、血はでないが、肉体を切断されたり砕かれるというのはリアルに再現されている、だからこのゲームにはHPだとかMPの概念は存在しない。
死力を尽くして戦えるわけだ、そしてもし肉体を完全破壊されても、アバターはカードに戻り、時間経過で再生する、その間他のアバターカードをデッキと呼ばれる、次にどのカードを使うかセットして置ける機能でアバターチェンジを行えばすぐに復帰可能だ。
さて、これからどうしたものか、俺は今すぐに立ち去りたい気分なのだが今動けば、俺がメーカーだとバレる。
今はまだリアルアバター同士だが、それでも数人に飛びかかられたら、身動きがとれなくなってしまう、そんなことになれば俺は――――。
「では、私はここで失礼いたします、またいずれお会い致しましょう、一先ずは皆さんはギルドごとに集合してみてはいかがでしょうか、そのほうが今後動きやすいと思いますよ」
などと言って、消えていった、正直あの女神への好感度は底辺まで落ちた。
周りのみんなはギルドごとに集まるつもりらしい、アバターを通常のものに切り替えている、俺は、どうしたらいいんだろう……ソロプレイヤーの俺は一体――――。