プロローグ
四月二十一日、この日俺の世界は終わりを告げた。
俺、島崎正作は今日という日を黒っぽい服で過ごす、所謂喪服のつもりだ、まあパーカーとジャージだけどな。
今日一つのゲームが終わりを告げようとしていた。
『Noah's Ark Online』世界中で大人気だったこのVRMMOは今日終わる。
システムが異常なバグに侵され、修復は不可能、運営側はサービスの終了を決めた。
このゲームは所謂ソーシャルゲーム、スマートフォン向けに作られたゲームの派生作品で、カードを集め、それを自分の仮想肉体として使い、異世界アークを駆け回ることができるゲームだ。
カードには種族、職業、性別、技能、能力があり、これらはカード同士を合成させることで変化させることができ、カードの合成の仕方によって目も目、髪、肌から耳など様々見た目も変更することができ、それが一番の売りだった。
俺はこのゲームで『アバターメイカー』というあだ名で親しまれていた、全ての種類のカードをコンプリートし、様々なアバターを細かく合成し、一つの完成された全く違うキャラクターを生み出す者という意味だ。
キャラクターを生み出すと言えば『クリエイター』というのもいるが彼らは運営側の人間で、プレイヤーからの依頼によって様々なオリジナルカードを生み出すプロだった。
俺も将来はその仕事に就きたいと思い、イラストレーターを育成する学校にも通っていた。
俺はVRマシンをPCに接続して、ゲームにログインした。
『英雄機神マッハアーク』それが俺の今の標準アバターだ、新幹線型の変形ロボというコンセプトで俺が作り出した、最強アバター。
そのアバターネームの下にユーザーネームで『maker』と書かれている、これは正作と製作者をかけた俺の固定ハンドルネームだ。
ログイン早々、メールが届いた、二百四十五通か、フレンドリストの全員がログインしているらしい、みんな、今迄ありがとうという内容のメールを送ってきている。
どうやらみんなで一箇所に集まるらしい、場所は始まりの街チュートだ。
俺はマッハアークの能力『変形』と技能『神速特急』を使いチュートへと向かった。
移動中はオートランなので目を閉じておく、目まぐるしく過ぎていく景色を視認していたら酔ってしまうからだ。
二分三十秒――――新記録だ、まあ始まりの街へはマッハアークで来るのは初めてだから当たり前だが。
俺は『変形』でロボ形態に戻ると、フレンドが集まっているところまで歩いた。
今日は人が多い、というかログインしている人みんないるんじゃないか?
何人かの人とすれ違っていくが、ぶつかりはしない、このゲームでは大人数で集会をするなどよくあることだったため、プレイヤーの要望により、街中の道はプレイヤー同士接触無効地帯となっている。
そのためぶつかる事もなく、みんなすり抜けていく、初めのうちは皆おっかなびっくりだったけど、すぐになれたし、この機能を利用して街中でレースを行ったりしていた。
目的地に到着した、広場は人でごった返していた、どうやら最後の集会をするらしい、俺は、人をすり抜けながら、フレンドアイコンが表示されているのところまで歩いた。
そしてようやくたどり着くいた。
「遅れてすまん」
「やっと来たかーなーんて嘘嘘、早かったじゃん?メーカーのホームからここまで徒歩なら十分ぐらいかかるはずなのにさ、やっぱマッハアークは早いねぇ」
そう言って出迎えてくれたのは、ギルド『アイアンレギオン』のギルマス『鋼貴姫スチルレイン』使いの『mii0240』こと、ミィだ、彼女のギルドはマシン系ギルドで俺にとってはお得意さんだ、スチルレインも俺のオリジナルだし。
「早いってモンじゃないだろう、あーあー俺もギルドさえなければマシン系欲しいんだけどな、いっそこんなギルド潰してやろうか」
物騒なことを言っているこいつはギルド『ネイチャーファング』のギルマス『獣牙王レオグリード』使いの『yosi195』こと、ヨシで彼のギルドは獣人系アバター使いしか入れず、それ以外を所持した場合、破門というギルドなのだが、俺と知り合ってからはマシン系が欲しくなったと嘆いている、ちなみにレオグリードも俺のオリジナルだ、俺は何系とか関係なく作るからな。
最近遊ぶときは大体この三人で遊ぶのだが、最後の日ぐらい、ギルメンと一緒にいればいいのに、物好きなやつらだ。
「おっといけねぇ、もう始まるっぽいな、そろそろ静かにしとこうぜ」
獣人特有の耳の良さで、広場中央にあるステージに司会者が来たことを察知したヨシが気をきかせて教えてくれた。
始まる前に静かになるんだけどその時私語なんてしてると目立ってすごく恥ずかしいからな……俺は経験済みだ。
ステージには一人の女アバターがいる、『妖精姫セレスティーナ』俺が依頼されて作ったアバターで彼女はネットアイドルをやっている『sakura0390』、サクラだ。
よく大集会では司会を務めている。
「テス……ス」
マイクの調子が悪いらしい、ステージ上でメニュー画面を操作して運営に問い合わせしているようだ。
まさか、サービス終わるからって音響システムを止められたのか?
会場がどよめき出した。
そして、視界が真っ暗になる――――システムが本格的にやられたか?
さらに、突如大きな揺れを感じた――――揺れ?おかしい、VRには揺れを感じる機能は搭載されていないはずなのに。
まさか、現実の地震――――?
そして体を投げ出される感覚、一瞬の浮遊感に襲われ、手足をばつかせる。
地面がある――――そっと目を開く、先ほどと同じ広場に俺は居た。
他にも人間がいる――――人間族、いや日本人じゃ――――なんだこれ……俺の姿がリアルの俺になっている。
わけも分からずに周囲を見渡した、さっきまでサクラがいたステージもちゃんとある――――そこには見覚えのある人物を見つける。
あれは姉さんじゃないか?ステージ場にいたのは俺の実の姉島崎作良だった。
まさか姉さんがネットアイドル!?――――おいおい、マジかよ、あの人もう少ししたら三十路だろうに――――匿名覆面アイドルとは恐ろしいものである。
他には――――俺の近くに二人顔見知りが居た、高校時代の女子クラスメイト九嶋美伊奈と吉岡霧亜だ。
二人共このゲームやってたのか。
他にも知り合いはいないかと見渡したが、この付近には居ないようだ、確か弟と妹もこのゲームをやっているはずなんだが。
キョロキョロとしているうちに九嶋と吉岡が気がつく。
「あれ、ここは――――?え……島崎君!?それに霧ちゃんも!」
「あ?美伊奈か?それに島崎……なんでここにいるんだ?」
それはこっちが聞きたい。
「えーと久しぶり、高校以来だからもう二年ぐらいなるかな?二人共あまり変わらないね、少し大人っぽくなったけど雰囲気とかさ」
こういう場合変わらないと言ったら、大人になったとか言って怒るんだよなー、前にこのゲームのオフイベントで別のクラスメイトの女子と会った時に経験済みだ。
彼女もここに居るのだろうか?
そんな事を考えていた矢先、ステージの上……上というか空中に一人の女性が浮かんでいた。
『女神リアストリア』このゲームの舞台となる異世界アークの女神だ。
「みなさん、落ち着いて聞いてください、先ほど貴方達の世界は滅亡しました……どうか、この世界をお救いください……」
そして俺たちの世界の存亡をかけた五年にも及ぶ戦いが今始まろうとしていたのであった。