クランにて
遅筆で申し訳ございません。
-3日前 冒険者ギルドシングルクラン フェスタ本部-
「すみませんお姉さん、このクランに入りたいんですけど。」
金髪の7~8歳位の少年が突然私に話しかけてきた。
「僕ちゃん、なぜ私に聞くの、このクランに入りたかったら、あそこの受付で聞いてくれるかな。受付で並んでいる人達がいるでしょう。」
私は、受付の列を指して少年を追い払おうとした。
「お姉さん、受付の隣に書いてあるよ、『この受付に並んでもクランには入れません。クランに入りたかったら、酒場にいる団員に聞いて下さい。』ってね。」
少年は、小さな声で私に答えた。少年の言うとおり、受付の隣に看板が立っており、少年の言うとおり書いてある。但し、書いてあるのは古代エルフ文字で、研究者以外では読める者が少ない文字だ。普通は、何度か断られた後に、気づいた者が文字を写し、図書館等で何日も掛けて調べてからくるもので、注意力や、知性、探求力、根気等を試す為のものだ、決して少年が読める様な文字ではない。
「僕ちゃん、ちょ~っと来てくれるかな~。」
私は、少年を連れて、会議室の1つに向かっていった。少年は、私の後を素直についてきた、歩き方は騎士の訓練を受けてきたものに近く、身のこなしもスマート。だが、見た目はあどけない少年でしかないく、顔や体に傷跡は見えない、貴族の坊ちゃんか?
携えている武器は、鞘の形から刀という珍しい片刃の剣、扱いはとても難しいと聞く、少年が使える様な代物ではないだろう。
会議室の扉を開けて、少年を中に入れた。少年は入るなり私に話しかけてきた。
「トラップが7つ仕掛けてあるのですが、解除した方がよろしいですか。魔法トラップが1つあるので、私が解除すると問題になるかもしれないですが。もしよろしければ、トラップが発動しない様に、隣の席に座らせてもらっても良いですか。あそこに古代ドワーフ語で書いてある指示によれば、真ん中の席に座らないといけないようですか・・。」
少年の言うとおりこの会議室には、7つのトラップがしかけてある。この会議室は入会希望者面接用の会議室で、冒険者ギルドでDランクレベルの能力が無いと発見し防ぐのが難しいレベルのトラップが6つと、古代ドワーフ語での指示が1つあり、入会希望者の能力を試す為に使われている。古代エルフ語と違って、古代ドワーフ語は、古代遺跡では頻繁に使われており、クランに入って仕事をしていくには理解していないといけない言語である。
「良いわよ。好きな席に座って。」
少年は、器用にトラップを避けつつ窓側の席に着いた。私は、トラップを避け、反対側の席に座った。
「今から面接を初めさせてもらいます。僕、名前を教えて貰えるかな?」
私は面接を始めた。とりあえず、入会希望者の対応マニュアルに従って、対応し様子を見ることにした。
「僕の名前は、ラインハルトです。漆黒の焔剣士ライザさん。」
私は、無意識に身構えた。この子は私の事を知っている。今までの身のこなし、トラップを見つける警戒力、言語知識何れも少年が身に付けるものではない。
部屋中に緊張感が張り巡らされたころ、ラインハルトという少年は、話し始めた。
「そんなに警戒しないでください。僕は、ライザさんだけでなくこのクランのほとんどの人の通り名と、大体の特徴を知っていますから。」
「どういうこと?公表されてないはずよ。」
私は怒鳴りがちに少年に答えた。
「先月のクランのほとんどのメンバーで、ジャイアントファイヤードラゴンの討伐に参加されましたよね。僕も兄と討伐に参加していたんですよ。僕は、眷属のサラマンダー退治をしながら、クランの方々を見ていましたから。」
少年の言うとおり、私はクランの依頼でジャイアントファイヤードラゴンの討伐に参加した。伊集院公爵様からの依頼であり、伊集院公爵傘下の貴族、騎士も多数参加しており、総勢300人程度だった。
「僕ちゃんの言うとおり、討伐に参加したけど、僕ちゃんの様な子供は、居なかったはずよ。少なくとも私達の戦闘が見れる前線には。」
「ライザさん。僕は、小さいから見えなかったんじゃないかな?一応、公爵様から拝領した参戦章と、討伐勲章がありますよ。」
そう言うと、少年は、参戦章と、討伐勲章のカードを出した。私も貰った参戦章と同じものであり、討伐勲章は、サラマンダー絵がある。参戦章も、討伐勲章も拝領者が触った時のみほのかに光る細工が施してあり、少年の持つ2枚のカードは、間違えなく光っていた。
「これで信用していただけましたか?自己紹介をさせて頂きます。僕は、ラインハルト・フォン・ベルヘルム。7歳で、ベルヘルム辺境士爵家の六男です。」
私は、少年が参戦章と討伐勲章を持っていることにただただ驚愕していた。私が7歳の時には、模造剣を握り始めたばかりだったはず、雑魚相手にでもまともに戦える様になったのは13歳位か・・・。それをこの坊ちゃんは7歳で一線級の冒険者のみが参加が許される戦いに参加し、実績を上げている。私には理解のできない世界の人間だ・・・。そもそも本当に人間なのか・・・。私は、冷静さを取り戻す為に、マニュアルを思い出し、少年に定型の質問をした。
「そもそも、クランってどんなところかわかっていますか?」
「冒険者ギルドの難易度の高い依頼を効率的に処理する為に作られたエリート組織で、トップクランを頂点に、トリプルクラン、ダブルクラン、シングルクランとランクわけされています。」
「このクランがどういうところか分かっていますか。」
「このクランは、学都アーガイルに本部を持つトップクラン『セラフ』傘下のシングルクランで、遺跡や、迷宮の探索を中心に受けている。本部はここ伊集院公爵領公都フスにあり、上位クランは、同じくフスにあるダブルクラン『バイロン』、トリプルクラン『ベーダ』。クランリーダーは、元『セラフ』メンバーでSSランクの幻影使いセルさん。正規メンバーは33名、非正規メンバー121名が所属している。それで良いですよね、・・・セルさん。」
少年が話しかけた瞬間、私はセルさんの圧倒的なオーラを感じ取った。少年が話しかけるまで私はセルさんがいることにすら気づかなかった。
----------------------------
-幻影使いセル-トップクラン『セラフ』の元メンバーで、我がクランのリーダー。O-からSSSクラスまで33段階ある冒険者クラスの上から2番目SSクラスを持つ伝説的冒険者。冒険者としては引退し、後進の指導の為にクランリーダーをやっている。年令は40代半ばで、伊集院公爵家の主席魔道士を務めている。幻影使いとの二つ名通り、幻覚系魔術の第一人者であり、姿や気配を消し、ターゲットを確実にしとめていくタイプの魔法戦士。因みにSSクラス以上は現在30名程度であり、半数は引退している。
----------------------------
「ベルヘルムの小僧か・・・。一つだけ聞こう。なぜうちなんだ・・・。」
セルは、ドスの効いた声で、少年に話しかけた・・。
「セルさん。それは、私が六男であることと、貴族の端くれだからですよ。それ以上でも以下でもありません。」
少年が、素直にセルに答えると、セルは一瞬考えたあと、私が信じられないことを言い始めた。
「良いだろう。フェスタの正規メンバーとして歓迎しよう。但し、形式的にテストを受けて貰わないといけない。・・・そうだな・・・、ザレフ伯爵領 ザレフ迷宮で、5階のボスを倒して来い。ついでに、魔石を30個以上持ってくること。そうしたら、我がクランに入れてやろう。期日は3日後8時入り口集合でスタートでいいか?」
「迷宮に入ったことありませんが分かりました。」
「それではよろしくな・・・。」
そこですかさず私が話しに入ってしまった・・。後で死ぬほど公開したが・・。
「ちょーっと待って下さい。どういうことですか、3日後でザレフ迷宮って・・・。300キロ位距離がありますよ・・・。」
「何の問題も無いって・・・。試験官の手配が問題か・・・。ライザお前が行ってこい・・。距離があるから今日中に出るとして、後でリーダー室に寄っていく様に・・・。ではまたな。」
そう言って、セルさんは部屋を出て行った・・。私が唖然としていると
「ライザさん、3日後によろしくお願いいたします。では」
少年もすぐに出て行った・・・。なぜ私が・・・。私は5分ほど経ってやっと、心を立て直し、リーダー室に向かった。
お読み頂き有難うございます。