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作者: 湊音

その日はすごく気持ちの良い朝だった。


私は目が覚め、んーと伸びをする。

ベッドの上に置いている目覚まし時計は午前7時。歳を取ると早起きになるものなのだ。


そこで。ふと違和感に気づいた。

何かが違う感じがするのだ。


そして、私は眠っていた布団に目をやった。

そこには、いつもはついているはずの右腕が置き去りにされていた。


これはなんだと掴んでみると、見慣れた自分の右腕であった。

誰かのいたずらだろうか?

そんな事を考えながら、私は恐る恐る自分の右腕を確認する。

やはり右腕はついていなかった。


私はなんとかこの腕をくっつけようと心見たが上手くいかなかった。

出血もしてないし、体に異常はない(腕がもげている時点で正常ではないのだが)


仕方がないので、

右腕を布に包んで病院に行って調べてもらう事にした。



小さな町医者しかいないので精密検査なんて出来るわけも無く

白髪まじりの老医者はカルテと何か本を取り出して、話し始めた。


「希有な病気ですね。体の一部が少しずつもげていくみたいです。治る薬はありません」

とたんたんと告げるのだ。


「精密検査の出来る病院を紹介しましょうか?治りませんが」


そんな話しを聞いても

私は別に驚きもしなかったし、悲しくもならなかった。


病気ならば仕方ないし、諦めるしかないだろう。

それに別に痛くないし(これ重要)そんなことを考えながら、日々を過ごすことにした。


「本当にいいんですか?」

と老医者は言ったが、断った。


私はもう歳だし。死が恐いわけでもない。

年金が貰えるから生活にも苦労しないし。


家族もいない。

誰も悲しんだりしないのだ。


だから

これも天命だろうと、捥げた右腕を持ってきた時と同様に布に包み持って帰った。


小さな一軒家に帰ると庭に穴を掘った。

庭には妻が生前に植えた色とりどりの花が咲いている。

私の日課はその花の世話なのだ。


邪魔にならない場所に掘った穴に右腕を埋める。


優しく土をかけて小高い丘を作る。

そして小さな十字架をたて祈りをささげた。



左腕しかない生活は以外と不便だった。

まず料理が上手く出来ないのだ。

そして着替えも困る。利き腕を失うとはこういう事なんだなと痛感した。



それでも生活はできたからまぁいいか。

暢気に思うのは性格かもしれない。


一緒に住んでいる黒猫の「リリー」が心配そうに僕の足に擦り寄ってきてくれた。

柔らかな肢体を僕に絡ませ、かわいい声を上げる。


左手でリリーの頭を撫でた。




それから数ヶ月後の朝。

やはりその日は気持ちの良い朝だった。


目が覚めると次は左足がもげていた。

足がもげては歩けないと、昔の友人の細工師に義足を作ってもらった。


いつか右足ももげるだろうからと、その細工師は右足も作ってくれた。

細工師はこんな体を見ても何も言わない。


道行く人は哀れみで接してくるのに。

歳を取った友人というモノは大切だなと気づかされた。


細工師には晩御飯をご馳走した。

片腕しか無かったがこの数ヶ月で格段に料理の腕は戻っていたから。

十分に食べれるものが出来た。

細工師は「うまい」といってくれた。




友人が帰ってから

庭に出て左足を右腕の隣に埋めた。



十字架をたて祈りをささげる。


リリーも近くに来てくれた。





それから、月日が流れるごとに私の体の一部はもげていった。


左足の次は右足。

右足は作ってもらった義足でなんとかなった。



その日は酷い天気で、鬱々としていた中の事だった。


右足の次にもげたのは性器だった。


これにはなかなか気づかなくて、朝トイレに入った瞬間

この病気になって初めて叫んでいた。


しかし

もう使う予定もないので、そんなにショックではなかった。

雨が降りしきる中、何も考える事も無く、その日は妻の事を思って眠りについた。



性器の次はついに左腕がもげてしまった。

これにはかなり不便な生活をしいられたが、なんとか大丈夫だった。


人間、両腕、両足なんか無くても生きていけるのだ。



そして右目が取れた。


そして左耳ももげた。


時間が経てば経つほど

庭の隅にはたくさんの十字架がたてられていく。


花も手入れが出来ず枯れてしまった。私はそれが酷く悲しかった。




そして、ついに体から首がもげてしまった。



首だけで体を動かすことはできなかった。


首だけで動くこともできなかった。


意思はどちらにもあるが、どうにも出来なかった。

声も出せなかった。


床に転がり、腐り行く自分の体を眺めながら。



何故だろう。



涙が溢れてきた。



リリーがそんな僕を眺めている。



ごめんね


もう君を抱きしめられない。





End




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