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彼らの受難

下ネタを含みますゆえ、苦手な方はお戻りください。

「瀬尾嬢ちゃん、まーた派手にやってくれたなぁ」


 くたびれた背広を着た男が不精ヒゲの具合を確かめるように撫でながら呟く。咥え煙草の煙は海から吹く強風のせいで真横へ一直線に伸びていた。


「どうやったら巨大水族館が跡形も無く吹っ飛ぶんだ」

「馬鹿を言え。これをやったのはさっき搬送された赤髪の女じゃい。信じられんことにあの女、中性子ビームを撃とうとしおった。私はそれを止めただけじゃ」

「中性子ビームっていわれても俺にはよくわからんけどもね、発動を防いだ上でこの有様とはな。一体どんなスキルを使えばそうなるんだ」

「まあ、詳しく調べてみることじゃな。シェイラ・ドナンスタッグ、お主も聞き覚えがない名前ではなかろう」

「はぁーあ!? ドナンスタッグだって!? かぁっ! 本当なら大事だなおい」

「徳捜では手に負えぬかもな。まあ、どうせじーさまが判断を下すじゃろうて」

「最終的にはそうなるだろうな。はぁ、報告書の山がひとつ増えるぜこれは。まーた休暇返上ですかってかみさんに白い目で見られるんだろうなあ」


 男の名前は樫木かしぎ次郎、33歳。日照にっしょう国、転生管理局トクポン捜査課の課長である。日照国とは浄土の極東に位置し、現世の日本に酷似した文化を持つ国の名前である。日照国はひろしや律の出身国でもある。樫木が属しているのは日本におけるトクポンがらみの事件を担当する「日課」であり、事件が起これば現世に光臨し、現世の警察内部に極秘の特務機関として存在する「徳警」捜査員の指揮をとるのが仕事である。


「まあそうぼやくな。さて、私は疲れたからもう帰るぞ。取調べがひと段落したらそのうち面会にいくとしよう。私もヤツに聞きたいことが色々とあるのでな」

「あいよ。協力感謝、また頼むぜ」


 男は不恰好な敬礼をしてから捜査員の群れの中へと混じっていった。


「話はすんだのか、律」


 少し離れて様子を伺っていたひろしがすかさず駆け寄ってくる。安立は律に変わって状況説明をすべく現場へ戻っている。


「なあ、シェラはこれからどうなるんだ?」


 瓦礫の山と化した水族館に群がるパトカーの光と騒音を背に浴びながらひろしが不安げに問いかける。


「さあのぅ。知っての通り、トクポンに関する法律は厳しいからの」


 現世において罪を犯せばその分自動的にトクポンが減る。故に荒神といえども現世では無茶ができない。一方で浄土においては善行悪行に対してトクポンは増減しない。ともなればトクポンによって得られる特殊な能力が犯罪に使われる可能性が当然高くなるため、浄土の法は非常に厳格に作られており、少なくとも人を一人殺めているシェイラが無罪放免という可能性はまず無い。良くて懲役10年以上、悪ければ二度と監獄から出ることは出来ないだろう、と律は目算していた。


「そうか。そうだよな、罪は償わなくちゃだよな……」


 ひろしは神妙な顔つきでじっと地面を眺めていた。


「まあ、今すぐどうこうなるわけでもない。貴様も今日はもう帰って休め。明日には地獄の苦しみが待っていることだしの」

「ん、どういう意味だ?」

「まあそれは朝になってからのお楽しみじゃよ」


 律は意地悪そうに笑うと、足元に発生させた魔法陣にさっさと飛びこんで消えてしまった。




 薄っすらとストライプの入ったスーツに実用性重視の大き目のショルダーバッグ。出勤準備中の正美は腕時計をちらちらと睨みながら、薄っすらと口紅を引いていた。朝方に帰ってきた息子は自分の部屋にもどったきり、文字通り音沙汰ひとつない。心配なので出勤前に少しだけ部屋を覗いてみようかと階段の上がり口で悩んでいた時だった。バッグに放り込んであった携帯電話からリズミカルな振動が肩へと伝わってきていた。正美は発信者の名前を見て、少し首を傾げてから通話ボタンを押した。


「もしもし~? 美方ですが~」

「いや、こっちも美方なんですけどね……」


 発信者の名前は美方ひろし。部屋でお休み中のはずの息子からだった。


「部屋にいるんじゃないの?」

「いるよ。母さん、す、すまないけどちょっと部屋にきてくれないかな」


 ひろしはなにやら苦しそうにそういって電話を切ってしまった。正美はその場にバッグを放り出して急いで階段を駆け上がる。勢いよく部屋のドアを開け放つと、息子はベッドに横になったまま苦笑いを浮かべていた。


「なんというかその……、動けないんだ」


 正美が頭にクエスチョンマークを浮かべていると、ひろしが続けた。


「起きてみたら体中が筋肉痛でさ。関節なんかも痛すぎで、動けなくなってたんだよ」


 ひろしは手に持っていた携帯電話の重みにすら耐えかねて、床へと自由落下させた。


「昨晩は律ちゃんのところでお仕事してたのよね? そんなに重労働だったの?」

「あー、えっと。うん、そう」

「あらあら、困ったわね、立ち上がれそうにない?」

「ちょっと無理かな」


 ひろしは少しだけ試してみようとしたが、痛みに耐えれたとしても、そもそも力が入らないことに気づいてすぐに諦めた。


「困ったわねぇ。今日は母さん外せない授業が朝からあるし……」


 正美の仕事は私立大学の準教授。研究よりも学生への授業のほうがメインとなる。一時間後には授業が始まる。今更休講の連絡が行き渡るわけもなく、なにより忌引き休暇の直後ということもあり、どうにも休みを取るのは得策ではなかった。一方でひろしは筋肉痛とはいえ、立ち上がることすらままならない様子。しばらく考えこんでいた正美だったが、一つのひらめきが揺れ続ける天秤を丸ごといずこかへと放り投げてしまった。


「そうだわ! 律ちゃんかレイちゃんに来てもらえばいいのよ!」


 両手をパンッと打ち鳴らしながら眩いばかりの瞳をひろしに近づける正美。単に正美が彼女たちと関わりたいだけではないかと邪推していたひろしだったが、自分の中でもその発想は片隅にあったため、まずは安立に連絡を取ってくれと頼んだ。本当は彼女に迷惑をかけたくなかったが、母がすぐにでも仕事に行かなければならないことはよく分かっていた。安立も事後処理で色々と忙しいであろうことは予想できていたが、もしかしたら彼女なら原因と打開策を知っているかもしれないという期待がわずかに勝った。正美はひろしの携帯から安立の番号を見つけると、嬉々として通話ボタンをプッシュした。


「あ、もしもし~、ひろしの母ですが~」

「あら、美方さんのお母様でしたか。おはようございますっ」

「はい、おはようございます~」


 受話器に向かっておっとりとお辞儀をする正美。恐らく足立も元気一杯に頭を下げていることだろうとひろしは容易に想像がついた。


「この前のご飯おいしかったですっ。また今度お邪魔してもよろしいですか?」

「大歓迎よ。むしろそのまま家にずっと住んでくれても――――」


 ひろしは渾身の力を込めて携帯電話を奪うと、枕元に落として耳をあてがった。正美は残念そうに指を加えた後で、同じくスピーカーに耳を近づけた。


「も、もしもし、ひろしですけど」

「あら、美方さんおはようございますっ」

「あ、おはようございます」


 悠長に挨拶をしている場合でもなかったが、安立の元気一杯なその声には有無をいわさぬ力があった。


「えっとですね、朝起きたら体が動かなくなってたんですけど、これって原因とかわかりますか?」

「あっ、やっぱりそうなりましたかっ」

「やっぱり?」

「ええ。身体能力強化スキルの反動ですね~」

「なるほど。そ、それってどうにか治せたりしないものですかね?」

「うーん。私は戦闘系のスキルの副作用についてはあまり詳しくないので……。あ、律様なら治し方もご存知かもしれませんよっ」

「律ですか……」

「律様は今日はご予定が無いはずなので、ご連絡してみてはいかがでしょう?」

「え、でもあいつも相当疲れてるんじゃ……」

「そのはずなんですが、ここだけの話ですよ? 実は律様からついさっき連絡があったんです。『ヒロシンから泣き言交じりの連絡があったら、それとなく私に繋げ』って。すごく楽しそうでしたよ」


 安立は一ミリも似ていない律の声マネをしながらひそひそとそう呟いた。


「なんか嫌な予感しかしないんですけど……」

「大丈夫ですよ、律様、きっと心配してらしたんですよ。あ、律様の電話番号はご存知でしたか?」

「いえ、いつもパソコンで連絡をとっていたので」

「じゃあすぐにメールでお知らせしますね。あ、ごめんなさいひろしさん。徳捜の方がいらしたのでこれで失礼しますねっ。どうぞご自愛ください」


 あっという間に電話は切れた。そしてすぐにメールが届く。


「かけないの? ひろし」


 正美がせかす一方で、「楽しそうに」この一言が頭の中で絶賛リピート再生中のひろしはその気にはなれず、第三のプランを一生懸命に考えていた。が、しびれを切らした正美は携帯電話を拾い上げるとそれこそ楽しそうにボタンを押した。


「あ、もしもし律ちゃん? おはよぅ~」

「ちょっ、母さん!」

「うん、うん。そう。ちょっとひろしに代わるわね」


 そっと携帯を枕元にもどすと、正美はにこにこと微笑みながらベッドに両肘をついた。


「も、もしもし。律か?」


 ひろしが恐る恐る声を出すと、とたんに大音量の律の笑い声が返ってきて、思わず耳を遠ざけた。


「はっはっは、どうじゃ! 動けまいて!」

「なんでそんなに嬉しそうなんだよ……。ああ、そうだよ、見事に動けねーよ」

「まあ無理もなかろう。あれほど全力で暴れ回っておったのじゃからのぅ。身体能力の強化は諸刃の剣じゃ。体にありえないくらい負荷がかかるからのぅ」

「こうなるのが分かってたなら先に教えておいてくれよ」

「いやあ、これは皆が通る道じゃからのぅ。教えないのが礼儀みたいなものでな。ククク……」

「良い性格してるな……」

「よく言われる」

「んで、これどうやったら治るんだ?」

「まあ丸一日寝てれば直るじゃろ」

「いや、今日は家に独りになるんだよ。そうなると色々とやばい」

「ふぅむ、まあすぐに治す方法が無くもないが……」

「おおっ! もったいぶるなよ、早く言ってくれ」

「あまりお勧めできんが、良いか?」

「ああ、かまわん、頼む」


 律は少し黙った後で、意を決したかのように口を開いた。


「よかろう。では今から言うとおりにするんじゃぞ……」

「お、おう。分かった」


 律の真剣な声に気圧されて、ひろしの喉がごくりと鳴る。


「まず指を広げた右手をゆっくりと前に突き出す」


 ひろしは苦痛に顔を歪めながらも言われた通りになんとか右腕を持ち上げる。


「で、できたぞ」

「では次に左手も同じように突き出して小掌の部分を合わせる」

「くぅっ! はぁはぁ、なんとかできたぞ、は、早く次の指示を」


 ひろしは顔を真っ赤に染めながら震える両腕を懸命に支えていた。


「よし、そこで気を溜めろ!」

「気!?」

「そうじゃ! 全身のエネルギーを掌に集めるイメージじゃ!」

「わ、わかった。いくぞ……はぁあああああああ」

「よし、いいぞ! 掌が熱くなってきたじゃろう!?」

「そ、そんな気がしないでもない! で、どうする!?」

「今じゃ! 叫べぃ! 両腕に集めたエネルギーを一気に解き放つイメージで、思いのままに!」

「うぉおおおおおーー!! フォウ!」

「……くっ、ううう」


 急に携帯電話の向こうで律の苦しそうな声が聞こえてくる。


「お、おい、どうした律!?」


 ひょっとしたら律にこの痛みが移ってしまい、引き受けた痛みのせいで苦しんでいるのではないかとひろしは心配した。


「くっ……ぶっ……! も、もうだめ。絶えられない。ひーっ、貴様は私を笑い死にさせる気か……フォウ!って、あっはは」

「…………おい。騙したな」

「ちょっと律ちゃん、ひろしは真剣だったのに酷いじゃない」


 正美が頬を膨らませて律に抗議をする。


「だ、だが、フォウ!って……くふふっ」

「…………ぶっ、ご、ごめんひろし。母さんもダメみたい」


 結局、正美も一緒になって腹を抱え始めたのだった。




 二人が存分に笑い終わるまで、ひろしはひたすら屈辱に耐えていた。

 やっと顔を上げた正美が時計を見て、仰天した様子で立ち上がった。


「あっ、いけない。それじゃあひろし、母さん行ってくるからね。律ちゃん、あとよろしくね~」


 携帯に顔を近づけてそう言い放つと、正美はあっというまに部屋をでていってしまった。

 律は電話の向こうで飽きずに笑っていたが、正美の声に反応して慌てた様子で叫んだ。


「ま、まて! 行くな!」

「もういっちまったぞ。俺だって嫌だけど仕方ない。悪いけど律、家にきてくれるか?」

「い、いや、それは……」

「さっき散々笑いものにしたんだ。助けてくれてもいいだろう」

「えっとね、ヒロシン君」

「何だよ」

「実は私も動けない」

「…………」






「取り合えず昼になればレイが駆けつけるそうじゃ。それまで耐えよ」

「はぁ、腹減ったなぁ。律、朝飯くったか?」

「朝飯どころか、帰ってから何も食べずに寝ておったからな」

「同じく」


 朝9時30分。カーテンが開いたままになっていたひろしの部屋には、朝日が惜しみなく差し込んでいた。美方家の愛猫ファンデルは、ひろしの腹の上で毛づくろいに夢中になっている。

 ひろしは少し動いただけでも体中を駆け巡る痛みのせいで、首元にある携帯電話を切るのもおっくうになっており、そのまま律と電話を繋いだままにしていた。 


「なあ、なんでシェラを助けてくれたんだ」

「今回の仕事の報酬じゃが、薬の売り子の拿捕が1000万トクポン。密売組織の壊滅が3000万トクポン。もしあやつが元締めであるならば報酬はほぼ満額支払われるじゃろうが、そうでなければ情報を聞き出す必要があったというだけよ」

「なるほどね」


 ひろしは少し心配していた。もし自分達に同情して助けたということであれば、また律に返しきれないほどの借りができてしまったのだろうと。


「ドナンスタッグ」


 律は急にそう呟いた。


「貴様はやつと旧知の仲のようじゃったが、知っておったのか? あやつが没落した神族の子じゃと」

「いや、知らなかった。ドナンスタッグって苗字も初めて聞いたかも。あいつは何にも自分の生い立ちを話さなかったからな。ていうか、コジカンじゃお互いに過去を詮索しないってのが唯一のルールだったし」

「そうか……。私の父とやつの父親、オージ・ドナンスタッグは無二の親友だったそうでな。どのみち死なれてはなにかと後味が悪かったわけじゃよ」

「そっか」


 ひろしは少し嬉しそうにそう答えると、ゆっくり瞼を閉じた。律が「だから気にしなくても良い」と気を使ってくれているようにも思えて、可笑しかった。


「そういえば、ジェイドは元気にしてたか?」

「いや。貴様が死んで、ゲームにインしなくなってから、見ていないな」

「そうか。あいつも何かと人付き合いが下手なやつだったからな。一人だとパーティーを組めなかったのかもな」


 ジェイド。二ヶ月ほど前、律とひろしがネットゲーム内で知り合ったキャラクターの名前である。そのとき二人はダンジョンの入り口でパーティー募集が埋まるのを待っていた。しかし、律ことGODのネームバリューは半端ではなく、全滅必至のパーティーに入ろうなどという物好きなプレイヤーはほとんどいなかった。律はネットゲームにかける情熱こそ生半可ではなかったが、それに反比例して致命的にゲームが下手だった。律の操る魔法使いのキャラクターであるGODは、ダンジョンに罠があればことごとく引っかかり、敵に狙われればすぐに地面を舐めた。一方でひろしの操るナイトのキャラクターであるヒロシンは他者の信頼を集めるに足りる腕前であり、最も困難なダンジョンを制覇した数少ないプレイヤーの一人として名を馳せていた。いつしか一緒に行動することが多くなったこの二人のことを、他のプレイヤーたちは「神雷コンビ」と呼ぶようになった。「神」とは神懸かった腕前を持つヒロシンを指し、「雷」とは最悪の地雷プレイヤーであるGODのことを指していた。ともあれ、そんないびつなコンビと一緒にダンジョンへいってくれるのはヒロシンの腕前を高く買っているプレイヤーか、面白半分の者だけだった。

 ジェイドはというと、実に無口な格闘キャラクターであったが、そのとき以来、募集があれば必ずといっていいほど参加し、それなりに力を貸してくれていたのだった。


「まあ、ネットの付き合いってのは水物だからなぁ。でも、また3人一緒に遊べるといいな、律」

「ふん、まあ、また戻ってきたらダンジョンに連れて行ってやらんでもない」

(どっちかというと律のほうが連れて行ってもらってる感が半端なかったけどな……)


 ひろしは言葉を飲み込むと、愛想笑いだけをしておいた。


「あ、それとな。えっと、なんというか……」 

「なんじゃ、申してみよ」

「シェラが死に掛けてたときさ、その、八つ当たりしてごめんな」

「さあ、何のことかのぅ」

「シェラが隙をみて俺をまた殺そうとするかもしれないから、もしものときはあのでっかいドラゴンみたいなやつで俺を守ろうとしてくれてたんだろう?」

「……わかっておるならよい」

「ありがとな」

「……」


 しばらく、なにやら気恥ずかしい雰囲気のまま沈黙が続いた。ひろしは久々に他人と分かり合えたような気がして、なつかしい嬉しさが胸の内に込み上げていた。


「の、のうヒロシン。私からも一ついいか?」

「なんだよ、改まって」

「その、実に言いにくいのじゃが……私は」

「うん?」

「ものすごく……トイレに行きたい」

「ああ、そうだな。俺も結構我慢してる」


 台無しだった。


「やばいよなこれ。マジで動けないし」

「うむ。超やばい。お、お主はあれか? 小の方か?」

「そうだよ。もうね、安立さんが来るまで耐えるのは無理だろうなって思い始めてる」

「そうか。いいな」

「いいなって。もしかして……」

「うむ……」

「……」

「貴様は小ならまだどうにかなるじゃろう。ペットボトルとかでほら」

「いや、最近掃除したばっかりでペットボトルすらないんだよ。よしんば有ったとしても、こぼれるだろう、どうやっても。それよりお前どうすんだよ。そっちはなおさらペットボトルじゃ無理だろう」

「やはり無理かのぅ。差し込めばどうにかなるかもしれないと覚悟を決めておったのじゃが」

「差し込むとか、想像しただけで痛いからやめてくれ」

「ではどうしろと」

「なにか受け止められそうな物ないのか? もっとこう、大きな洗面器みたいなやつ」

「ふぅむ……。あっ! カップ麺の容器があった!」

「それだ」

「しかしなヒロシン。一つだけ問題がある」

「むしろ一つしか問題がないのかよ……。まあ言ってみろよ」

「味噌ラーメンのカップじゃこれ……」

「…………きついな。気分的に」


 

 その後まもなく、気を利かせて早めに登場した安立の手によって、二人はなんとか事なきを得たのだった。

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