I believe ……
[Re:]の世界軸の物語の中では、始まりに位置する話となります。
夜明けは近い――。
Episode0:[I believe……]
鬱蒼とした都会の喧騒を逃れるべく、丁度このビルのエントランスに潜り込んだ時だった。一人寂しげに座る女性の姿を見かけたのは。
俺はその女性に対して特に何かをするわけでもなく、何かの意図を持ってしたわけでもなく、彼女の正面に座った。そして、お気に入りのロックバンドの音楽をイヤフォンから垂れ流した。
正面に座った女性は相変わらずの絶望的な表情をしていた。だが俺と目があった瞬間、その表情は1000本のバラのごとき輝きになった。
「君、丁度いいわ……」
女性は何の前触れもなく席を立ち、俺の横に座り、了承もなく俺の耳からイヤフォンを抜いた。
「何か、面白い話をしてちょうだい」
彼女はそういうと、まだ話すとも言っていないのに聞く体制になった。俺はそれを無視して音楽に没頭しようとしたが、彼女はイヤフォンをつけることを許してはくれなかった。
「やれやれ……」
彼女の要求からして、俺の素情は知られているようだった。
重たい腰を持ち上げ、俺は彼女に、俺の知っている古い古い昔話をしてやることにした。
そう、それは昔、遠い昔の
忘れられた、物語――。