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8 気になるにおいの正体は

2011/10/23 誤字修正

2013/08/04 全面的に手入れ 話の大筋は変わってません

 アール君が入っていった扉をぼーっと眺めてると、中から1人の男性が出てきた。

 先に治療を受けに来た患者さんだろうか?


 胸の辺りに黒っぽい物がうっすらと見えるので、きっと治り切ってはいないのだろう。

 この男性の病気が重いのか治癒魔法の効果が低いのかまでは分からないけど。


 パッと見、私が手を出せば治せる気はするのだが、さすがにここで出しゃばるつもりはない。治療院で勝手に治するなんて面倒事になるのは目に見えているし、なによりさっきもっと慎重にやろうと決めたばかりだ。


 それにしても、なぜこんなモノが見えるようになったのか疑問に思う。今まで大勢病気で死んだ人を見てきたが、こんな変な物を見た記憶はない。


 なんかこっちの世界に来てから変なことばっかり起こるなぁ……。


「おや、ハルナ君?」


 呼ばれた方に目を向けると、奥に続く扉の前にセルデスさんが立っていた。


「あれ、セルデスさん? どうしてここに?」

「今朝言った通り、ここで検査を受けに来てね。

 それよりハルナ君こそどうしてここへ? どこか具合でも悪いのかね」


 そういえばそんなこと言ってたっけ。


「違います違います。町を散策してたら孤児院の前を通りかかったんですけど、そこの子がなんか発作を起こして倒れちゃいまして。

 で、それを私が助けたんですけど、念のためその孤児院の先生と一緒にここに来る事になったんです」

「なるほどな……」


 なにか考え込んでる? まいいや、こっちも気になってる事を聞いてしまおう。


「それより、セルデスさんの方こそどうだったんですか?」

「ああ、その話なら屋敷に戻ってから話そう。ここではちょっとな……」


 それもそっか。


「ところで、その子はどこに居るのかね?」

「さっき、先生と一緒に奥の扉へと入っていきましたが……」


 その時、奥の扉が開いてアール君とセニア先生、それからもう1人、セルデスさんと同年代と思われる白衣をまとった白髪の男性が出てきた。


 もう終わったんだろうか。早いなぁ。


「早かったですね、もう終わったんですか?」

「失礼、アナタがこの子の病を治されたのかな?」


 セニア先生に声を掛けたところで、白髪の男性に割り込まれた。


「えっと、あなたは……?」

「失礼した。ワシはこの治療院の院長を任されておる、ルーウィンという者だ」

「院長先生でしたか。院長先生が私になにか?」

「アナタがその子の病気を治したと聞かされたのでな、もう少し詳しい話を伺いたいと思い、こうして出張らせてもらった」

「え、ひょっとして治ってませんでしたか……?」

「いや、そういう話ではない。治療は完璧だ。もう2度と発作が起こる事もなかろう」


 おー、よかったじゃん。


「ワシが伺いたいというのは、その子を治した方法についてだ。

 その子の患っていた病は、ワシらでも最低10回は治療せねば完治させる事はかなわんと思っておった病だ」


 えーと……、この展開ってひょっとして。


「それを1回の治療、しかもごく短い時間で治したと聞いてな。

 出来ればその方法について、詳しい話を奥で聞かせてもらいたいのだよ」


 うわ、やっぱり。参ったなぁ、どうしよう。


「うーん……」

「院長、少しいいだろうか?」


 困ってるとセルデスさんが割って入ってくれた。


「セルデスか。改まってどうした?」


 おおぅ、呼び捨て。知り合いか?


「彼女は我が家に逗留中の客人でね。詳しい事は話せないが、少々訳ありで彼女に対する詮索はしないという約束を交わしているのだよ。

 院長には関係のない話かもしれんが、私は彼女に恩があってね。こうして居合わせてしまったからには、一旦この場を預からせてもらえんかね?

 院長の言いたいことは分かるが、彼女には彼女の事情がある。少し考える時間を置き、彼女が話してもいいというようなら、改めて話をさせてもらうという事でどうかな?」

「……分かった。少々性急すぎたな。この場は一旦セルデスに預けるとしよう。

 こちらの事情だけで呼び止めてすまんかったな、嬢ちゃん」

「ご希望に添えずすみません……」

「では院長、私はこれで失礼するとしよう。話はまた後日」

「ああ、達者でな」


 はふ、助かったー。セルデスさん、ありがとうございます。


 治療院を出たところで、初対面だったセルデスさんとセニア先生を軽く紹介し、そこで解散する事になった。


 セルデスさんを紹介した時のセニア先生の慌てっぷりがちょっと面白かったのは内緒だ。

 アール君はもう走り回っても平気と聞いて、すごく喜んでいた。


 これからどうするのかとセルデスさんに聞いてみたところ、ここで迎えの馬車を待つと言っていた。さすがに歩いて帰るという事はないようである。


 ……っと、さっきのお礼を言っとかないと。


「セルデスさん、さっきは助かりました」

「気にすることはない。なにやら悩んでるようだったからね、時間を置いた方がいいと判断し、ああいう形にさせてもらっただけだよ。

 しかしあの院長が直接出てくるとは、また凄いことをやったものだな。また例の道具とやらを使ったのかね?」

「いえ、使ってません。ただ、今回やった事も多分私にしか出来ない事だと思います」

「ほう、理由を尋ねても?」

「私はちょっと訳あって、人には見えない物が見えるようなんですよ。

 今回やったのは、その人には見えない物に関する事ですので、教えてどうこうするってのは難しいと思います」

「君にしか見えない物、か。

 つまり、君がやった事は、君しか出来る人は居らず、教える事も不可能と?」

「ええ、そういう事になります」


 まあ、私と同じ死神ならやれるかもしんないけど。

 でもまさか、死んで死神になってこいなんて言えるはずないしなー。


「なんともまた厄介な話のようだな。

 分かった、治療院への対応は私がしておこう。あとは私に任せておいてくれ」

「なんだかすみません」

「君が気にする事はない。君がやった事は間違ってはいないのだからな」

「それは……。

 そうですね、ありがとうございます」


 うん、セルデスさんに本当に感謝。


 そのまましばらくすると、迎えの馬車が来たようだった。それに乗り込むセルデスさん。ちなみに御者はグリックさんだ。


「君も乗っていくかね?」

「いえ、私はもう少し町を見てからにします」

「そうか、あまり遅くならないようにな」

「はい」


 今の時刻はお昼過ぎ。セルデスさんの誘いに乗って一旦出直してもよかったのだが、ちょっぴり気になる事があった。

 今日市場を通りかかった際に見掛けた、とてもいい匂いを漂わせていた出店だ。

 幸いにも、出掛けにセルデスさんからお小遣いを頂いてる。その好意に甘えて、お昼はそこで済ませるつもりだ。


 さあ、あの店に向けて出発だ。






 ほふぅ、満足満足。


 気になっていた出店でお昼を済ませた私は、気分よく市場を歩いていた。


 いや、匂いを裏切ることなく美味しかったわー。特にあの串焼きが絶品で、食べだしたら止まらなくて……。なんの肉だったんだろ、あれ。


 お土産に何本か包んでもらえばよかったかなーと考えながら、違う場所を探索するべく孤児院とは別の方向に向かって歩いていると、途中でふと覚えのあるにおいを感じて足を止める。


 これってなんだっけ? セルデスさんの時に感じたにおい、その甘ったるさだけを更に際立たせたような感じなんだけど……。


 思い出そうと頭をひねるも、いくら頑張っても記憶を引っ張り出す事は叶わなかった。

 覚えのある感覚にだけに、どうにもこうにももどかしい。


 方向は……、あっちか。そこそこ距離はありそうだけど……。

 ……よし決めた。気になるし見に行こう。


 においの元を探して歩き続けること約30分。鉄の柵に囲まれただだっ広い空き地に、ひと抱えもある石が等間隔に並んでる場所に辿りついた。空き地の中心には孤児院でも見た十字架のでっかいバージョンがシンボルのようにそびえ立っている。


「ここって墓地……、だよね?」


 人気がなく墓石のみがぽつぽつと並ぶこの地を見ていると、墓地独特の雰囲気で溢れているように感じられる。

 今は昼間だからそれほどでもないが、夜になればかなりの雰囲気が出るに違いない。


「さって、この辺のハズなんだけど……」


 独り言を呟きつつにおいの元を探し───そして発見。


「あー……、アレっか。

 なるほどなるほど。やっと思い出したよ」


 私が見つけたのは墓石の間をふらふらと漂う1つの魂、いわゆる浮遊霊というやつである。


 元の世界だとこんなの全然見なかったからなー、すっかり忘れてたわ。


 こんなのが漂ってるって事は、この人の所に死神は来なかったのだろうか。見た感じ相当放置されてるように思える。私から見てもかなりの存在感が感じられるので、ここまで来ると普通の人に見えても不思議ではないだろう。


 しかしこうして思い出してみると、気になってくるのがセルデスさんから感じたにおいだ。

 あの時私は、確かにこれと似たようなにおいを感じている。つまりセルデスさんの不調の原因に、浮遊霊に似たモノが関係してるという事になる。

 そうなると、セルデスさんの病気の原因は、霊障に近いものがあるんじゃないかという推測が成り立つんだけど……。


 考え事をしながら眺めていると、いつの間にかうろつくのをやめていた浮遊霊と目が合った。


 うん、今考える事じゃないね。ぼーっと眺めてる場合じゃないか。


 死神としてもここで浮遊霊を放って置くわけにもいかないので、さっくりと送ることにする。この霊の場合、既に死者からは切り離されているので、あとは唄うだけで事足りるはずだ。


「♪~~~~~……」


 こうやって唄うのもなんだか久しぶりな気がする。実際は1日置いただけなんだけど、この2日間、かなり濃かったからなぁ。


 そんなことを思っていると、唄うにつれて順調に(?)その存在を薄れさせていた浮遊霊が右手を振り上げた。


 ……? なにをしてるんだろうか?


 疑問に思う私の目の前で、浮遊霊の右手に火が灯る。

 そしてその手が振り下ろされると同時に、人の頭ぐらいの大きさをした炎の塊がこちらに向かって飛んで来た。


「~……っっ!?」


 慌てて唄を中断し、転がるようにして横へと身をかわす。炎は私のすぐ横を通り過ぎ別の墓石に命中。バシッっと炎が弾ける音と共に小さな火の粉が辺りに舞った。


 ちょ、ななな、なにこれーっ!?


 浮遊霊の方を見ると今度は左手を振り上げ、そこに火を灯していた。


 待て待て待てーっ。ちょっとタンマっ。


 そんな願いもむなしく、再び飛来する炎の塊。

 そのまま横へ飛び出して避けようとしたところで、足元でずるりと滑る感覚。それと同時にべちりという情けない音。


「うぎゅっ」


 痛ったー、顔からいったよ今っ。ってそれどころじゃない。


 がばりと体を起こし浮遊霊の方を見ると、また右手を振り上げその手に火を灯している。

 再び振り下ろされる手。そして飛来する炎の塊。


 マズイってヤバイって、この体勢だと避けれない。せめてなんか盾ーっ!?


 ダメ元で大鎌を引っ張り出し、飛んでくる炎の塊に向けてかざして盾にした。


 それと同時にかつんと軽い衝撃が手元に響く。

 目に見えたのは、大鎌に当たってぽてんと落ちる炎の塊だった。


 ……あれ? なにこれ見掛け倒し?


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