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70 真夜中の話し合い

お待たせした割に短いです、申し訳ありません。


今回は前回の半分程度、約6,500文字です。

 さて、何者かと問われても答えに困るわけなんだけど……。


「…………」

「…………」


 ウィリィとの無言の見つめ合いが続く。

私が答えるまで絶対に離す気はないと、その目が物語っている。


 うーん、困った。どうしたもんか。

ただの一般人……はまぁないとして。人間? 死神? 御使い様?

どう答えても厄介な展開になる未来さきしか思い浮かばない。


 拘束の方は……うん、多分なんとかなる。肘から先は動かせる。これなら糸をズラす事も千切る事も出来るだろう。


 と言っても、今ここでこの拘束をどうにかしても、現状はどうしようもないわけで。


 さて、どう答えたもんか。……いかん、思考がループしてるな。


「…………」

「…………」


 このまま睨み合ってても、らちが明かない。とりあえず適当になにか答えてみるかと口を開こうとしたところで、唐突に扉がコンコンとノックされた。


「ウィリィ、いるー?」


 聞こえてきたのはスフィルの声だ。


 ひとまず睨み合いを中断したウィリィは、小さな魔方陣を描きあげ指をそこに突っ込み、指先に鋭いナイフのような物をくっつけた。魔力で作られたと思われるそれを私に向けると(黙ってろって事か?)、スフィルに返事をし始める。


「いますヨ。なにかありましたカ?」

「ハルナ、どうしてるかと思って。

 ウィリィ、疲れてるみたいだから様子見てくるって出てったでしょ。アタシも気になっちゃって」

「そうでしたカ。

 でも残念ながら、彼女はまだ寝てるようですのデ、少し静かにしてもらえますカ?

 ワタシはもう少し様子を見てから戻ることにしマス」


 変な様子は見せずに、普通に会話を続けるウィリィとスフィル。


 ここは声を上げるべきだろうか。一声叫べばスフィルがすっ飛んでくる気はするが……。


「ふーん……。

 ……嘘ね」


 大声を上げる間もなく聞こえたスフィルの言葉と同時に、どんっと音を立てて部屋の扉が内側に向けて吹き飛んだ。

その向こうから現れたのは、当然ながらスフィルの姿。


 彼女は部屋の中にいた私とウィリィの姿を見て一瞬固まるも、すぐに気を取り直してゆっくりと歩み寄ってきた。


「スフィル……。どうしテ?」

「あのねぇ、アタシ、アンタと何年付き合いあると思ってんのよ。アンタの嘘ぐらいすぐに分かるっての。

 んでハルナ、そっちは大丈夫なの?」

「えっと、一応大丈夫かな。なにもなかったとは言い難いけど。ちょっと縛られたぐらいかな。

 でもよく分かったね?」

「んー、まぁ、ウィリィとは付き合い長いからね。それに、この子が教えてくれたって事もあるし」


 その言葉に応じてか、スフィル背中からひょいっと顔を覗かせるモコちゃん。


 い、いつの間に……?


「驚いたわよ、この子がいきなりあっちの部屋の鏡から飛び出してきた時は。

で、主の元へって伝えてくるから、てっきりハルナが呼んでるのかと思って来てみたんだけど……。あと途中からウィリィの様子が変だったのも、なんとなく気になってたしね。

 ……まぁ、あれ見た瞬間に、大方の事情は掴めたんだけどさ」


 スフィルがスッと視線を上にあげる。それの辿り着く先はウィリィの背中だ。


「ア……」


 今、私に認識させるためか、翼に掛けられていた『阻害』の魔法は解かれたままだ。

それに気が付いたのか、身をよじって翼を隠そうとするウィリィ。その声にはどこか恐れを含んでいるように思われる。


「ウィリィ、あんた、天人族……よね?」


 問い掛けの形は取っているものの、スフィルには確信があるのだろう。その言葉には淀みがない。


「……エエ、その通りですヨ」


 力なく答えるウィリィ。


「そう……。

 ま、とりあえず……そうね、アンタの部屋に場所を移して、話を聞きましょうか。ここの扉は吹っ飛ばしちゃったし。

 ハルナもいつまで寝てるつもり? ほら、起きて起きて」

「いや、寝てるってか縛られてるんだけど。見えないと思うけどさ。

 ……まあ、ちょっと待ってて」


 もぞもぞと腕を動かし手近な糸を手繰り寄せると、ぷちんと糸を引き千切る。

元々1本の糸だったのか、それで全体が緩んだので、そのままむくりと体を起こした。


「ほい、お待たせ」

「エ……?」


 ウィリィが妙な声を上げたので見てみると、驚きを顔に浮かべてこちらを見つめていた。


 う、千切ったのはマズかったかな……。


 まあ、やっちゃったもんはしょうがない。今のは見なかったことにして、スフィルと一緒にウィリィの部屋まで移動することにした。






 天人族とは───


 大きくて白い翼を背中に持つ、男女ともに美形が多いという羨ましい種族で、かなり高い魔力を誇るらしい。また、その背中にある羽根はある秘薬の材料になると言われており、1枚からでもかなりとんでもない値段で取引されるとのこと。


 そんな事情のためか、今ではもう滅多に人前に姿を現すことはなく、既に全滅したのではないかと言われる程の、エルフ以上に希少な存在であるらしい。今ではこの世界のどこかにある、天人族の里と言われる場所で、ひっそりと生活するのみなのだとか。


 なんでそんなのがここに居るのかという疑問はさておき、これがスフィルから聞いた一般的な天人族についての認識である。ウィリィ本人も、これについては特になにも言わないため、おおむね間違ってはいないのだろう。


「あー……うん。なるほどね。

 なんでこんな事をしたかは、大体事情が分かったわ……」


 説明を聞いて納得した。一言でまとめると、天人族というのは、言い方は悪いがある種の絶滅危惧種のような扱いを受けてるようである。


 つまり、そんな立場の人が要求することと言えば───。


「要するに、口止めがしたかったってことだよね?」

「……マァ、間違ってはいませんネ。ワタシの事を口外しないように"お願い"するつもりでいましたカラ。

 あと、付け加えるのでしたラ、なぜワタシの『阻害』が通用しなかなったのかを、聞き出すつもりではいましたケド」


 お願いという単語が文字通りに聞こえなかったのは気のせいだろうか。

なんていうか、脅迫と書いてお願いと読む、みたいな?


 まあ、彼女が神経質になるのも分かる気はする。事が大っぴらにされたら、冗談ではなく本気で命の危険があるのだろう。


 それにウィリィからすれば、命綱だった『阻害』の魔法が効かなかったということは、この先も同じことがないとは言い切れないはずだ。原因を突き止めない限りはこの先、ゆっくり休むことも出来はしないだろう。


 さて、どうしたもんか……と思ったところで、スフィルが口を挟んできた。


「まぁ、その辺は大体予想通りだから、今はどうでもいいわ。

 アタシが聞きたいのはウィリィ、あんたがこれからどうするつもりなのかって事。まさか黙って姿を消すつもりだ、なんて言わないでしょうね?」

「そうですネ。少し予想外の展開になってしまいましたのデ、まだ考えがまとまらないのですガ……。とりあえず、スフィルにも知られてしまいましたかラ、そちらにも口止めをお願いしたいところですネ。

 逆に、スフィルはワタシをどうしたいですカ?」

「どう、って……。別にどうもしないわよ。騒ぎ立てるつもりもないし。

 まあ、羽根の1枚ぐらいは欲しいかな? 幸運のお守りって言われてるぐらいだし」

「その程度でしたら構いませんヨ。口止め料として渡しておきまショウ」

「ちょっ、そんなつもりじゃ……」

「冗談ですヨ。

 まあ、スフィルの方はこれでいいんですガ、問題はこちらの方デス」


 そう言って私の方を見るウィリィ。


「え、私? 私も別にどうこうするつもりはないんだけど……」

「はっきりと言ってしまえば、ワタシはまだアナタを信用しきれないんですヨ。スフィルのように、長年付き合いがあるわけではないですからネ」


 まぁ、それはそうだろう。

事は彼女の命に関わる問題だ、そう簡単に信用してくれはしないだろう。


「それ、アタシが保障してもダメ?」

「スフィルが、ですカ? それならワタシとしては問題ありませんガ……。

 あ、いや、やっぱりダメですネ。

 スフィルの事もありますから、それ信用して差しあげたいところなのですガ、最悪の場合、ワタシ1人だけではなく、我々全体にまで迷惑が及ぶことになってしまいマス。

 ですかラ、ワタシ自身が認めない限りは、そう簡単に信用するわけにはいかないんですヨ」


 そう来るかー。まぁ、分からなくはないんだけどさ。


「もし、このままだったらどうなるわけ?」

「そうですネ……。このままですと、ワタシが姿を消すか、アナタを排除するしか方法はありませんネ。

 ただその場合、確実にスフィルはアナタの側に付くでしょうカラ、ワタシには黙って姿を消すといった選択しか残らないでショウ」

「そんな……」


 あーもう、なんつー厄介な。


「…………」

「…………」


 沈黙が続く中、しばらく黙って考え込んでいたスフィルだったが、唐突になにかを思いついたように顔を上げた。


「……ねぇ、ハルナ。ちょっとお願いがあるんだけど」

「ん? なに?」

「鎌、出してくれる?」

「え? でも……」


 ここにはウィリィもいるのに、と彼女に目を向ける。


「いいから、お願い」

「……分かったわよ」


 構わず言葉を続けるスフィル。なにを思ってるまでは分からないが、なにか考えがあっての事なのだろう。


 とりあえずスフィルを信じてみようと、左手に向けて意識を集中する。

たちまちのうちに具現化される人の背丈ほどもある大鎌。


「これでいい?」

「それをウィリィに渡して。持たせてあげて」

「へ?」

「お願い」

「……ったく、あとでちゃんと説明しなさいよ」


 なにやら目を見開き固まっているウィリィにそれを差し出すと、のろのろと手を動かして受け取った。


「コレ……」


 信じられない、と言った表情のまま呟くウィリィ。

そして唐突にその場に屈み込んで丁寧に大鎌を床に置いたかと思うと、片膝を立てて座り込み、両手を胸の前で交差させて頭を垂れた。


「……あのさ、そろそろ説明が欲しいんだけど」


 唐突に鎌を出せと言われたり、それを手渡せと言われたり、挙句の果てにはいきなり目前で祈るような格好で頭を垂れるウィリィである。いい加減意味が分からない。


「えーっと……、天人族は昔、御使い様に仕えてたっていう話があってさ。

 それが本当なら、この上ない信用の証になるんじゃないかって思ったんだけど……」


 つまりウィリィには、私の事が分かったって事……?


「ちょ、なにその設定、聞いてないんだけどっ。

 それに"話があった"って、なんの確証なしに私の事バラすようなマネしたわけ?」

「設定ってナニよ。さすがに怪しい話だったからさっき言わなかっただけで、嘘は言ってないって。

 それにもし違っても、秘密の交換って事でいいかなーって……」

「あ、あのねー……」

「ゴメン。他に釣り合いそうな秘密って思い浮かばなくってさ」

「確かにそうだけどさ……。はぁ、まぁいいわ。

 んで、どーすんのよ、この状況」


 目の前にはひざまずきっぱなしのウィリィ。さっきからずっとこの体制である。

とりあえずその格好を止めさせるべきか? と考えたところで、ウィリィから声が上がった。


「あ、あノ! 知らぬ事とはいえハルナ様においてはとんだご無礼を……」


 ……また来たよ、ハルナ様。

いや、なんとなくそうなるんじゃないかなーとは思ってたけどさ。


「あー、いいからいいから。とりあえず普通にして。そうやってかしこまられると、やりにくいからさ」

「ですガ、ワタシはハルナ様を脅すようなマネを……」

「事情はなんとなく分かったし、あれはしょうがなかったんでしょ?

 それに、よくよく考えてみたら、本気で傷つけるつもりはなかったみたいだし……」


 なんせいつかのネコの時より拘束が緩かったぐらいだ。あれで本気だったとは思えない。


「イエ、ですガ……」

「私は気にしないから、ウィリィも気にしない。これでいいでしょ?

 あとそれから、様付けはヤメテ。割と本気で」

「ハ、そう仰られるのでしたラ」

「だから普通に話してってば。今日、ギルドの人達に普通に喋ってるの見られてるんだからさ。急にそんな話し方にすると、なにかあったって言ってるようなもんだよ?」

「……分かりましタ、ハルナさん」


 とりあえずは、今ので納得してくれたようでなにより。

あんな話し方をされるのは慣れてないのだ、色々とむず痒くて仕方がない。


 え、神殿長? あれはもう色々と諦めてました……。


「ねぇウィリィ、ちょっといい?

 ハルナの信用の方はこれでいいんだよね?」

「エエ、全く問題ありまセン。むしろ里まで来て頂きたいぐらいですガ……」

「う、それは勘弁してほしいかな……」

「てゆか、里って本当にあったんだ。単なる言い伝えだと思ってたけど」


 どこに感心してるんだスフィルは。それとも、そこまで怪しいモンなのか? 天人族関連の話って。


「そうですカ、残念ですネ……。

 マァ、来て頂けないのは残念ですガ、この事を里まで報告させてほしいのですガ」

「んー、なるべくややこしい事に関わりたくないんだけど……」

「ハルナさんのその希望も合わせて伝えますのデ、そうそう変な事にはならないと思いますヨ? 我々はアナタ様の意思を尊重致しますゆエ」

「だからそれヤメテってば。

 まぁ、それなら構わない、かな?」

「フフ、冗談ですヨ。ありがとうございマス。

 それでハルナさんは、なぜこのような場所ニ? 確か200年と少し前を最後に、記録が途絶えていたはずですガ」

「え? あー、えっと。

 そのウィリィの言ってる人と別人だよ、私は。それとは全然関係ないから」


 ウィリィが言ってるのは、恐らくシア先輩のお師匠様の事だろう。確かシア先輩としばらく過ごしてから行方不明になったはずだし。


「エ、そうなんですカ? それでは、ハルナさんは……」

「なんで私がここでこうしてるかってのは、自分でもよく分かんないんだよね。

 ふと気付いたらこうなってました、ってのが一番正しいんだけど……」

「なんだかよく分かりませんガ、色々事情がありそうですネ」

「うーん、事情というかなんというか。説明が難しいってのは確かだけど」


 事情が説明出来るほど、自分で分かってるワケでもないし。逆に私が教えて欲しいぐらいだ。ホントどうしてこうなったのやら。


 と、ここでスフィルが大きな欠伸をひとつ。


「ぁふぁ……。

 あ、ごめん。気が抜けたらなんか眠くなってきちゃって」

「そう言えば、今はまだ真夜中だっけ」

「そうでしたネ」

「続きはまた明日って事でいいかな。このまま続けるのはアタシ、ちょっと厳しいみたいだし……」

「構いませんガ、あまり時間は取れませんヨ? 明日、早速里に向けて出発する予定ですのデ」

「え、もう行っちゃうわけ? アンタ今日帰ってきたばかりじゃない」

「こういった事は、早い方がいいですからネ。早速明日、ここを発とうと思ってマス」

「頑張るわねー……、まぁ了解。分かったわ。

 それじゃアタシはお先にという事で、ウィリィ、お休み。また明日ー」

「ハイ、お休みなさイ」


 スフィルが部屋から出て行こうとしたところで、ふと私達の部屋の惨状が頭をよぎった。


「ねぇ、私らの部屋って、扉、スフィルが壊しちゃった気がするんだけど。

 さすがに寝れなくない?」

「あっ……」


 3人で顔を見合わせ、再び緊急会議開始。

その結果、今夜は全員ウィリィの部屋に泊まることになった。


 明日はまず、女将さんに謝らないとなぁ……。


忠誠によって信用をひっくり返しました。


これでようやく進める……シリアスしかないって辛すぎる。オチはどこー。


とりあえずこれで準備はおっけー。次回はウィリィを見送るところより開始予定となっています。

そして、次からはまた続き物となります。



以下没ネタ


スフィルがハルナの縛られてるとこに突入後、慌てて弁明するウィリィに向けて放った一言。



「ったく、アンタが普通の人間じゃないってことぐらい、とっくに気付いてるっての。

 毎回毎回おかしな物を持ってきてはアタシに食べさせるんだから……。アレで普通の人の味覚だってんなら、自分の舌を疑うわよ!」


 ってちょっと待てぃっ、そーゆー理由かっ!?


「あ、あのちょっとスフィルサン?」



人ではない故に人の好みが分からないウィリィの事情と絡めたネタ。

空気ぶち壊しすぎてどーにも話が続かなかったので却下。


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