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7 治療院へ

2013/08/04 全面的に手入れ 話の大筋は変わっていません


お気に入り登録や評価、ありがとうございます。とても励みになってます。

 建物の中に戻って行った先生に放置され、どーしたもんかと考え込んでいると足をつんつんと突付かれた。

 そちらに目をやると、さっきの子供達がこちらを見上げている。


 なにか言いたそうだったので、そのまましゃがんで子供達に視線を合わせると、足を突付いた子が話し掛けてきた。


「ねーちゃん、アールのことありがとうな」

「ありがとうー」

「おねえちゃん、ありがとー」


 きちんとお礼を言ってくれるのね。可愛らしいなー。


「どういたしまして。でももう無理して走らせたらダメだぞ」

「わかってるよ、もうしないって。おれ、ダリタって言うんだ。ねーちゃんは?」

「ぼくはノルジュ」

「あたしミリー」


 元気いっぱいに名前を教えてくれる子供達。なんだか癒される気がする。


「私はハルナって言うの。ダリタ君にノルジュ君にミリーちゃん? よろしくね」

「よろしく、ハルナねーちゃん」

「よろしくおねがいします」

「よろしくー」


 自己紹介が終わったとこで再び話し掛けてきたのはダリタ君だ。この子がリーダーなのだろうか。


「セニア先生、そそっかしいとこがあるからなぁ……。ハルナねーちゃん放って引っ込んじまうし。こっちこいよ、座って休めるとこまで案内するぜ」


 セニアって言うんだ、あの先生。


「あはは……。それじゃお願いするね」

「おう、まかせとけ」


 ダリタ君に案内されて正面玄関から建物の中へと入る。

 入ってすぐのところにある小さな部屋を横手に抜けると、そこは細長い廊下になっていた。廊下の所々に扉が並ぶその様は、どこか学校の廊下を連想させる。


「こっちこっち」


 ダリタ君に案内されるがままに廊下を歩き、少し進んだところにある扉の前で立ち止まったかと思うと、そこから中へと入っていった。

 中はちょっとした教室ぐらいの広さがある部屋になっていた。周りを見回すと椅子だの机だのボールなどが散乱してたりする。


「ここは……?」

「みんな『なんでも部屋』って呼んでるぜ。そこら辺にある椅子使っていいから、テキトーに座ってくれよ」

「ふーん。お邪魔するね」


 言われた通りにその辺りの椅子を持ってきて腰掛ける。

 そう言えばこの建物って一体なんだろうか。聞いてみようかな。


「ねえ、ダリタ君。ここって何なの?」

「ここはルーブジュ孤児院だけど……。ハルナねーちゃん知らずに来たのか?」


 孤児院だったのか、ここ。


「私って昨日この町に来たばっかりでさ、この辺りの事全然分かんないんだ。それで適当に町を歩き回ってたら、偶然ここに着いたってわけ」

「そうなんだ。じゃ今度この町案内してやるよ」


 むぅ。それは嬉しいけど、さすがに勝手に連れ出すわけにはいかないしなぁ……。


「おー、頼もしい。でも今日は治療院行かないとダメだから、またいつかお願いするね」

「おぅ、任せとけ」


 曖昧に答えてごまかすことにした。


 そのまま話はこの孤児院の話になった。

 今日はこんな事をして遊んだとか、先生がこんな失敗をしたとか、先生が童話を聞かせてくれたとか。聞いた話の半分ぐらいはセニア先生絡みの話だ。

 みんなニコニコと楽しそうに話しているので、セニア先生はきっとみんなから好かれてるんだろう。


「お、先生の準備が終わったみたいだ。こっち向かってきてるぜ。足音が聞こえる」

「そーなの? 私にはなにも聞こえないけど……」

「あの足音は間違いないって」


 ダリタ君達に連れられて部屋の外へ出ると、ちょうどそこにアール君を連れたセニア先生がぱたぱた走ってきた。


 ダリタ君凄い、大当たりだ。


「あああああ、すみません。中へと案内するのを忘れてましたっ」

「大丈夫ですよ、代わりにこの子達が案内してくれましたので。

 しっかりしたいい子達ですね」

「先生、お客放ってくなよ……」


 ダリタ君が呆れてる。さっき話で聞いた通り、面白い先生のようである。


「えっと……、準備の方はもうよろしいんですか?」

「はい、お待たせしました。治療院の方に行きましょう」

「分かりました。

 ダリタ君、ノルジュ君、ミリーちゃん、またねー」


 手を振って子供達に別れを告げると、セニア先生と一緒に孤児院を出発した。






 孤児院を出てから軽く自己紹介を済ませた私達は、3人並んで歩きながら治療院を目指して歩いていた。


「治療院ってここから遠いんですか? 私、昨日この町に着いたばかりなのでよく分からないんですけど」

「そうだったんですか。

 ……そうですね、そう遠くはないと思いますよ。市場のすぐ近くですし」

「市場ってあっちの方向にある?」

「ええ、それです」


 今日来るときに通った市場の方を指差して聞いてみると、うなづいて返してくれるセニア先生。


 結構距離あった気がするんだけどなー。それとも地元の人の感覚だとそんなもんなのか?

 と、そうそう。一応聞いとかないと。


「さっきダリタ君達と話してた時に、この町を案内してもらうって約束しちゃったんですけど大丈夫ですか?」

「そうですねー、わたしか他の先生のうちの誰かがつくとは思いますが、大丈夫だと思いますよ」

「よかった、助かります。これで約束を破らずに済みそうです」

「ふふ、よかったですね」


 ついでに治療院についても聞いてしまおう。


「そういえば、ここの治療院ってどんなところなんですか?」

「ひと言で言うなら素晴らしいところですね。なんといっても治癒魔法を使える人が3人もおられますから」


 あ、あれ? そーゆー事を聞きたかったわけじゃないんだけど……。

 それに3人って言われても、多いのか少ないのかよく分かんないよ。言い方からすると、多分多い方なんだろうけどさ。


「3人も、ですか」

「ええ。普通の治療院だと居ても精々1人ぐらいじゃないですか。

 治癒魔法の使い手は貴重ですから仕方がないんですけど、その点ここは恵まれてると思います。領主様のお陰ですね」


 領主様ってーとセルデスさん……、じゃなくて今はその息子さんだっけ。頑張ってるんだなー。


「やっぱり1人だとどうしても残りの魔力とかが気になって、出し渋ったりしちゃいますからね。途中で自分が倒れてしまったらどうしようもないのは分かりますけど、受ける側からすれば、普通の治療より格段に効果が高い魔法による治療を受けたいと思いますし」


 そりゃ受ける側からすればそうだろうね。今苦しいをどうにかしてほしくて治療院まで来るんだろうし。


 ただ、治す側からしてみれば、今ここで力尽きるとそのあとに来る人が……って考えてしまうと、どうしても出し惜しみをしたくなってしまう。

 治したいのに治せない板挟み状態、いわゆるジレンマだ。

 でもこの問題は、治せる人の数が増える事でかなりの部分が解決する。そう考えると治癒魔法が使える人が3人ってのは凄い事なのかもしれない。


「それに、治療院は神殿よりも良い治療が受けられる分、治療費が高いって印象があると思いますけど、ここの治療費は他の領地と比べても格段に安いんです。領主様が補助金を出して下さってるんですよ。

 ここだけの話になりますけど、領主様のお父上がかなりの難病を患われてるとかで……。

 それでこういった施設に力を入れておられてるようなんです」


 セルデスさんの話がこんなところでっ!?

 なんか思わぬ繋がりを見たなぁ……。


 セニア先生の話をうなづきながら聞いていると、少し大き目の家の前で立ち止まった。先生達の様子を見るに、どうやらここが治療院らしい。

 見た感じ普通の一軒家だが、入り口の近くに文字だけの看板が立て掛けられている。きっとこれが治療院の印なんだろう。


 セニア先生を先頭にして中へと入ると、中は待合室のようになっていた。

 正面に受付らしきカウンターがあり、その手前には横長タイプの椅子がいくつか置いてある。中では椅子に座って待つ患者らしき人が数人見えるが、多いか少ないかまでは分からなかった。


「検査と治療の申し込みをしてきますね。ハルナさんは適当に座って待ってて下さい」


 セニア先生はそう言ってアール君を連れて行ってしまった。

 言われた通り空いている席を探して座り、ついでに隣を2つほど確保しておく。


 先程から気になっているのだが、周りの椅子に座ってる人達で、付き添いと思われる人を除く全員に黒っぽいもやっとした物がくっついている。

 ある人はお腹に、ある人は腰に、またある人は喉に───。


 これって多分、体の悪い部分が見えているんだと思う。

 そして恐らくこれは、他の人には見えてはいない。あんな目立つ物を付けたまま放置する人なんてそうそう居やしないだろう。


 死神の私にだけ見えるもやもや。つまりこれは魂のナニカ。

 見た感じのまま言うなら、魂に付いた汚れってとこだろうか。


 魂に異物が付いた所為でその部分が悪くなるのか、悪い部分が影響して魂がああなったのかまでは分からないが、きっとそういう事なんだと思う。


 ……ってあれ、ちょっとマテ。

 その理屈でいくと、私がアール君にやったことって魂に直接手を触れて汚れをふき取ったってことで……。


 うっわ、怖っ、危なっ。下手したら治すどころじゃなかったじゃないの。


 やりすぎによる弊害があるかどうかは分からないが、さすがにそれを試す勇気はない。


 もしまたやる事があったとしても、もっと慎重にやらないと……。


「お待たせしました。席、ありがとうございます」


 っと、セニア先生が戻ってきた。


「なにやら難しい顔をされてましたが、考え事ですか?」

「ええ。ちょっとさっきアール君を治した時の事を思い出してまして」

「確か、治癒魔法で治して頂いたんですよね。本当に助かりました」

「治癒魔法、ですか?」

「あれ、違いました? 子供達からそう聞いたんですが……」

「いえまあ、そんなようなモンですけど」


 多分、魔法よりもっと危ない方法です……。


「それでなにか、不審な点でも?」

「いえ、特になにも。

 ただあの時は慌てていたので、もっと慎重にやるべきだったなーと思いまして」

「そうだったんですか……」

「焦って失敗して、悪化させたらたまらないですからね」

「あら? 治癒魔法は失敗しても発動しないだけと聞いていますが?」

「私の使った方法は、効果が強力な代わりに失敗するとちょっとマズイ事になる可能性がありまして……」


 マズイで済むかどうかは分かんないけどね。なんせ魂に直接手を突っ込んでますし。

 ……うん、もっと気をつければよかったよ。


「それは……、怖いですね」

「私にはこの方法しか使えませんから。反省してたとこです」


 そうしているとアール君の順番が来たようだ。奥の部屋から顔を出したお姉さんが、アール君を呼んでいる。


「アール君とその付き添いの方、奥の部屋へどうぞー」

「あ、すみません。行ってきますね」

「はい、ここで待ってますね。アール君、いってらっしゃいー」


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